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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第九話  空の使徒

 
前書き
使徒サハクィエル編。

某国の基地が破壊されてしまいます。某国とは全く関係ありません。 

 
 衛星軌道に巨大な物体が突如出現した。
 地球防衛軍の衛星や天体観測施設での解析で、出現したこの物体が使徒であることがすぐに分かった。
 使徒マトリエルを殲滅してからそれほど時間が経ってない、立て続けの使徒の襲来であった。
 観測され、衛星写真で撮られたこの使徒の姿と全長に観測者達は恐怖で絶望したという。

 地球防衛軍本部の会議室では、浅間山でのサンダルフォン殲滅作戦以来久しぶりに緊急会議が開かれることとなった。
「ザトウムシによく似た使徒の殲滅後、この使徒は出現しました。今から映像を映像をスクリーンに映します。」
 そして巨大スクリーンに、観測された衛星軌道上に出現した使徒の姿が映された。
 その姿は、まさに美術品のような、カラフルなアメーバというか…、もしくは古代文明の遺跡にありそうな壁画とかオカルト系の書物に描かれるような模様に目玉がついているようなそんな異様な姿だった。目玉がなければ、これが生物だと判断できないような奇怪な形だ。
「全長はおおよそ20キロメートルから40キロメートル。発見されてから、現在まで動きは見られない状態です。この途方もなく巨大な使徒の攻撃手段やそれ以外の性質は、まだ解析できていません。」
「40キロメートルっ…!? なんなんだその大きさは! そんなものが今、地球の空から地上を見おろしているというのか!?」
「やはり、突然現れたのですか?」
「ええ。何の前触れもなく突然出現しました。衛星と天体観測施設の記録が必要ですか?」
 マトリエルの後に続けざまに出現した使徒は、怪獣との戦いの経験者達ですら経験したことがない途方もなく巨大であった。
 それも地球の衛星軌道上を漂っており、今のところ大きな動きはないが、宇宙空間に出現したことと、その巨大さだけで、もう不安と恐怖で多くの者達は顔が青くなっていた。
 机に肘をついていたゴードンも、巨大すぎる使徒が映されたスクリーンを睨みつけ口元を歪めていた。
 宇宙から来た怪獣や宇宙人はいたが、まさかなんの前兆もなく数十キロメートル級の使徒が現れるなど誰が考えた。さすがのベテラン勢も嫌な汗が伝う。
「スペースゴジラやミレニアムとはわけが違うぞ!? どう立ち向かえというんだ!?」
「地球防衛軍の兵器で地球衛星軌道上の物体を狙えるような兵器がそもそもあるのか!?」
「単発式だが威力を重視しすぎたプロトタイプのメーサー砲なら格納庫で埃被ってるがな。」
「ならそれを引っ張りだすべきだ!」
「待て、あれ(プロトタイプのメーサー砲)で40キロメートルもあるあの化け物を仕留められる保証はない! それにあれは爆発の恐れが高いから実戦に投入されなかったんだ!」
「仮に爆発しなかったとしても衛星軌道にいる奴まで攻撃が届くとは限らない!」
「なら轟天号をロケットエンジンで宇宙に飛ばすのは!?」
「だめだ、時間がかかり過ぎる! 地球防衛軍の技術開発部が総力をあげても数十時間は必要だ!」
「くそ! 宇宙空間にいる化け物退治など前代未聞だぞ! ゴジラといえど、あんな場所にいる使徒をどうやって仕留め…っ…、ちょっと待ってください、あれだけ巨大な使徒のことをゴジラはもう気付いている…はず…ですよな?」
 ふと我に返った上官の一人が、巨大使徒の存在についてゴジラが気付いている可能性について言った。
 今まで80メートルくらいか、あるいはそれより少し大きいぐらいの色んな形をしていた使徒であるが、宇宙空間に出現した使徒はとにかく巨大である。今まで出てきた使徒をほぼ漏らさず(イスラフェルの時のみエヴァ四号機を破壊しにアメリカに上陸したが)見つけて襲ってきたゴジラが宇宙空間にいるとはいえ、巨大使徒を発見できていないというのはおかしい。
「そーいえば、ゴジラの野郎の熱線は宇宙まで飛距離はあったな…。」
 ゴードンがそう呟いた。
 ちなみにこの宇宙まで届くというゴジラの熱線は、セカンドインパクト前のゴジラの熱線である。
 つまりセカンドインパクト後でやたらパワーアップしている今のゴジラならば…。
「馬鹿みてぇにでかいあの使徒も簡単に燃えカスにできそうだ。」
 ゴードンの言葉に、混乱して大騒ぎしていた議会場内の者達が静まった。
 使徒を仕留めることに躍起になっていたが、今考えてみれば最初の内はゴジラが使徒を仕留めてからゴジラと戦うという流れであった。急な使徒よりエヴァ破壊を優先したことや使徒がいた場所が悪かったことや、ミュータント兵士が白兵戦で仕留めたのを抜けばほとんどの使徒はゴジラに殲滅されている。
 騒然となっていた場が、それでなんとか落ち着き始めていた時。
 彼らの予想を裏切る最悪の事態が起こった。

「緊急事態発生の信号あり!」

 波川の隣にいた秘書が耳にかけたヘッドフォンを手で押さえて波川に知らせた。
「地球防衛軍の天体観測施設からです! 軌道衛星上にいる使徒に動きがありました!」
「ライブ映像を!」
「了解!」
 巨大スクリーンの映像が衛星からのライブ映像に切り替わった。
 そこに映されたのは、横長?縦長?な体の両端をジリジリと引きちぎるように切り離していく奇妙な動きをする巨大使徒だった。体をちぎっていく様は、分裂していく単細胞生物のように見えなくもない。
「なんだ、何をする気だ?」
「……っ、波川!」
 動きを出した使徒の様子を見守っていた議会場の人間達の中でゴードンが突然立ち上がり叫んだ。
「奴の…使徒の現在位置はどこだ!?」
「どこにいるのか分かる?」
 波川は秘書に映像の情報を教えるよう促した。
「現在使徒は、ユーラシア大陸、…ロシアの上空を飛行中です。」
「ああ! 使徒が分離したぞ!」
「落下していく! まさか自分の一部を地上に落下させるのがこの使徒の…!?」
「落下予定位置を割りだせ! 急げ!」
「ゴードン大佐? なにをそこまで…。」
「馬鹿かおまえらは! あんなでかい奴の一部が落ちてきたら、どうなるか自分の頭で考えられないのか!」
「そ、そんな…、いくらなんでも大気圏で燃え尽き…。」
「科学部からの報告です! 切り離された使徒の一部から強力なATフィールドを確認! 更に削れながら落下位置を修正しています! 落下予定地は……、地球防衛軍・ロシア基地!!」
 ゴードン以外のこの場にいた者達全員が目を見開いた。
 ライブモニターに映された、体の真ん中を残して両サイドの体の部分を切り離した使徒の本体と、地球の重力に引かれるまま落下して凄まじい高熱を纏い落下速度を増していく使徒の一部。
 落下していく使徒の一部を追ったカメラが映し出したのは、ロシアだった。
「ロシア基地に緊急避難指示を!」
「りょうか…、っ、科学部研究部からの解析結果の緊急報告! エネルギー測定によると、落下すれば基地だけじゃなく、地下及び周囲およそ数キロメートルに、落下による衝撃が広がる可能性が…! 間に合いません!」
「うわああああああああああああ!」
 ロシア人の上官の一人が頭を抱えて絶望の悲鳴を上げた。
 そして数分後、衛生のライブモニターで、ロシアの基地があるはずの場所に大きな炎が膨れ上がった。
 皆言葉がなかった。出せなかった。僅かな間だった。大国ロシアにあった地球防衛軍の基地の一つが広範囲を巻き込んで地図上から消え去ったこの瞬間を、ライブ(生中継)で見てしまったことに。
「……ロシア基地は…?」
 波川が体を小刻みに震わせながら、なんとか冷静に保とうとしている声で指示した。
「……ロシア基地に…、通信は……、つ、繋がりません…。」
 秘書が震える声でそう伝えた。
 それを聞いて、先ほど絶望の悲鳴を上げたロシア人の上官が席から崩れ落ち床で声を上げて泣いた。
「そんな、馬鹿な…、使徒は第三新東京を狙うはずでは?」
「まさか…、今まで邪魔をしてきた我々に標的を変えた? なぜ、今なんだ? なぜなんだ!?」
「使徒の動きは!? 今、どこを飛んでる!?」
 ロシアの基地が一瞬で消滅させられたという衝撃に、ほとんどの者達がパニックになる中、ゴードンが憤怒の表情を浮かべて波川の部下に確認を急がせた。
「使徒は、今、アラビアとヨーロッパ諸国の間ぐらいの位置に…。波川司令、モニターの使徒が…!」
「ええ。もう再生を始めているわ。つまりこの使徒は、真ん中を抜いて両サイドの体の一部を爆弾として地上に落下させて攻撃するということです。この様子だと弱点のコアは、真ん中の目玉にあるのでしょう。次に使徒が狙うのは…、アラビアか、ヨーロッパ諸国の基地! 使徒がまだ落下攻撃に移る前に緊急避難を完了させなさい!」
「了解!」
「他の基地も忘れんな! もちろんここ(日本)もだ! 奴がいつ落ちてきてもいいように遺書でも用意しとけよ!」
「書いた遺書も吹っ飛びますって!」
「ハハハハハ! それもそうだな。」
「冗談言ってる場合かー!」
「こういう時だからこそ緊張を解きほぐすだ。そうすりゃ大どんでん返しだってできるさ!」
「ちくしょー! 普通なら阿呆が気狂いしてほざいた言葉だって激怒するか無視するとこだが、ゴードンが言ったら必勝フラグに聞こえるー!」
 ゴードンは、上層部の一部やキャリア系の指揮官達からは嫌われているが、彼らの内心ではゴードンはある種の必勝確定みたいな認識が無意識のうちに広まっていたりしていた。嫌っていながら、結局無意識のうちにゴードンに信頼しているのである。

「ネオGフォースは、これより軌道衛星上にいるこの巨大使徒を殲滅する兵器開発チームを作りなさい。そして使徒の攻撃を迎撃して落下を阻止する防衛陣を敷き警戒に当たりなさい! 科学研究部は観測施設と衛星でこの使徒を監視、変化が少しでもあれば即報告、使徒の解析を行うこと。以上!」

 こうして、空の使徒、サハクィエルとの戦いの火ぶたが切って落とされた。




***




 地球防衛軍のロシア基地が地図上から消されて約三十分後。
「強い優秀な人を妬んじゃうってもう本能だよね。本能だからあがらいようがないよね。どう頑張って改善しようとしても歴史は、繰り返す。簡単に治せるもんならゴジラさんみたいに苦労しないのに。そうじゃなきゃそもそもゴジラさんが生まれてくることもなかったから、ちょっと複雑。」
「独り言を言ってる暇が合ったら集中せんかい。」
「けち~。」
「おい、G細胞完全適応者! すっとぼけてる場合じゃないんだぞ!」
「分かってるよ、空にいる使徒に基地一個消し飛ばされたんでしょ? あんな大爆発あったら海の向こうでもすぐ分かるって」
「分かってるならしっかりDNAコンピュータを安定させろ!」
「もう、どケチ。」
 技術者達に怒られながらツムグは、マイペースさを保ちつつ目を閉じるなどしてDNAコンピュータとのシンクロに集中した。
 現在、倉庫の奥で埃被っていた試作品の怪獣兵器を引っ張り出し、急ピッチで使えない部分を取っ払って宇宙にいる使徒を迎撃するための兵器にするために技術開発部が総力を挙げて頑張っているところだ。
 その武器の中心となるのが機龍フィアなわけで、機龍フィアが臨時で兵器の核となり、エネルギープラントから直接エネルギーを充填できるよう大量の管を接続したり外したり、大忙しである。
 こうしている間にも宇宙にいる特大級の使徒がまた体の一部を爆弾として落としてくるかもしれないので現場のピリピリは最高潮だ。
 40キロメートルの巨体が地球衛星軌道という地上から遠い場所にいること、そしてATフィールドを纏っていること、そして兵器の耐久力から膨大な計算を行い正確に使徒を狙撃しないといけないため兵器の核となる機龍フィアのDNAコンピュータの正常な稼働が不可欠となる。なので現在DNAコンピュータとの近親性からDNAコンピュータを想定以上の能力を引き出せるツムグが機龍フィアに乗ってる状態でシンクロし兵器を完成させるための各種データと機龍フィアが纏うことになる巨大砲塔との接続、正常に稼働するか試すことが繰り返して使徒を狙撃する兵器の完成させようとしていた。
 シンクロと言っても脳と接続してDNAコンピュータを活性化させるだけなので、正直ツムグは暇だった。
 マトリエルの時の吐血の原因になった高出力の熱線の使用による内臓の血管のダメージは、すでに治っている。新たに監視用のナノマシンと機器を埋め込まれるなどしたが、ツムグはいたって元気だった。
「ゴジラさん、なにしてるかな~?」
 外で技術者達が走り回ってたり、指示を飛ばしていたり、材料を運んでたり、様々な機器を操って使徒を狙撃する兵器の完成のために動き回っているのを見ながら、ツムグは暇そうに足を組んだ。
 ゴジラは、日本近海にはいない。ツムグが探知できる範囲は日本全土ぐらいなのでその範囲にいないということは、少なくとも国外にいるのは間違いない。
 会議室で軍の上官らが考えたようにゴジラは巨大使徒の存在にはすでに気付いているはずだとツムグも考えているが、共感できる範囲に来ないとゴジラの気持ちを感じ取ることができないので、ゴジラが何を思って行動しているのかは、今は分からない。
 ツムグがDNAコンピュータから算出した予想では、少なくともあと数時間ぐらいで狙撃する兵器は完成するはずである。ただしこれであの空にいる使徒、サハクィエルを倒せるかは別問題だ。
「そういえば、轟天号を宇宙へ飛ばす計画も一応やってるんだっけ? まあ、念には念だよね。準備しておくに越したことはないよね。それにしても、なんで使徒は急に地球防衛軍の基地を狙いだしたんだろ? 第三新東京を無視してさ…。フフ…、って誰も聞いちゃいないか。やれやれ独り言多いって言われても仕方ないよね。俺なんかと進んで仲良くなろうなんて奴、そうそういないし。」

 ---ゥ。

「ん?」
 ヘルメットから何か音を拾ったのかと思いヘルメットの耳のあたりを触ったりして確かめた。
「気のせいか…?」

 -----ェル。

「……気のせいじゃないか。キミは、誰? って、なーんて、今更誰って聞くのもおかしい話か。だって“オマエ”は、一緒に戦ってくれてたんだからさ。分からないわけない。ねえ? 聞こえてる? ……まだお喋りは得意じゃないか。少しずつ慣れていこう。そしたらもっと喋ろうね。世界で唯一の俺の同胞、機龍フィアちゃん。」
 機龍フィアに起こりつつある嬉しい変化に、ツムグは、愛おしそうに座席に横向きに寝て、甘えるように体を摺り寄せた。

『……? 椎堂ツムグ、一体何をやった? DNAコンピュータの波長に妙な値が出たぞ?』
「その内分かるよ。」
 DNAコンピュータの僅かな変化に困惑した顔をする技術者の一人の問いに、ツムグはそう答えた。
『…そうか。まあ別にこの程度なら問題はないが…。おかしな真似はするなよ?』
 短いツムグの返答に納得ができない様子ではあったが、最後に釘を刺して技術者は作業に戻った。
 ツムグは、やれやれと肩を竦め、暇だからもう寝てしまおうかと目を閉じようとした時、ふいに止まった。
「使徒ちゃんには、こっち(地球防衛軍)を狙ったことをたっぷり後悔するといい。まったく、神の使いの名前の癖にいい迷惑だ。」
 などと文句を垂れながら、ツムグは後頭部に両手を置いた。

 数分後、ヨーロッパの地球防衛軍基地に向けて落とされたサハクィエルの一部がGフォースの轟天号を筆頭とした空中戦艦と戦闘機の陣に撃ち落され、地上に落下する前に粉々にして燃え尽きさせるのに成功した報せが入る。
 対使徒のために改良された新しい対怪獣兵器の実戦投入はどうやら成功をおさめたようだ。




***




 一方そのころ、ネルフでは。
「あらまあ…、この短期間でATフィールドを攻略する兵器をもう完成させたなんて、さすが地球防衛軍と言ったところかしら。」
 MAGIを通じて空の使徒サハクィエルと地球防衛軍の戦いを見物していたリツコが頬に両手置いてほうっと息をつきながら感心していた。
「どんだけデタラメ集団なのよ? あの防衛軍って感じじゃん。」
「あんた怪我して入院してたんじゃなかたっけ?」
 リツコからやや離れたところで下品に机に脚を置いて椅子に座っているミサトに、リツコが言った。
「じょーだんじゃないわよ。病院なんて大っ嫌いなんだから。ご飯マズイし。」
「ご飯がマズイってあんたが言うことじゃない。そーいう問題ななくて…、もういいわ。もう一々ツッコまないわよ、用無しのあんたがここにいても。」
「やだ、リツコ、そんな言い方しなくってもいいじゃないの。」
「本当のことよ、馬鹿ね。」
「ひどーい! それでも友達!?」
「ちょっと、五月蠅い、黙ってて。」
 MAGIに繋いでいるパソコンに映された映像と新たな動きを伝える通達にリツコがミサトを手で制して液晶画面を食い入るように見つめた。

 衛星軌道にいるサハクィエルが先ほど千切った部分を再生させながら、太平洋に向けて移動していた。
 そしてサハクィエルを観測していた地球防衛軍の衛星と天体観測施設が、サハクィエルを追跡し、移動予定地点を割り出そうとデータの照合をしていた時、予定地点付近に超高濃度の放射線物資の塊を検知した。
 それがゴジラだと分かるのにそう時間はかからなかった。




***




 サハクィエルは、空気もない宇宙空間から地球を見おろしていた。
 サハクィエルにとって宇宙空間にいることが強みであり、体の大きさ、そしてATフィールドを持つ己を、地球防衛軍が殲滅するのは容易なことではないと分かっていた。
 サハクィエルは、怒っていた。先に死んでいった同胞達の魂を引き継ぎ記憶を共有して、自分がこの世界に姿を現した瞬間に湧きあがった最初の衝動(※感情かどうかは理解してない)であった。
 アダムとの融合を邪魔してくる最大の敵である地球防衛軍を滅ぼしてやる。そのつもりで第三新東京を後回しにし、世界各地にある地球防衛軍の基地を破壊しようとしたのだ。その基地の一つを消滅させるのに成功し、彼らに絶対的な恐怖を植え付けるのに成功した……はずだった。
 サハクィエルは、人間を見誤っていた。それもセカンドインパクト前に怪獣との戦いを繰り広げてきた意地と根性の人類の代表格みたいな地球防衛軍の底力というか、諦めの悪さを。
 二度目に落とした自分の一部があっさり撃ち落され、燃え尽きて消えてしまった。
 アダムの系統として生まれ落ちた使徒の一柱である己の中のアダムの記憶が訴える。
 リリスの子孫であるリリン(人間)の知恵の恐ろしさを。
 知恵の実で進化したリリスの系統を侮ってしまった。だが今更遅いが喧嘩を売ってしまったからには、後には引けない。
 二度目の攻撃は防がれてしまったが、そう何度も防げるはずがない。知恵を武器とする人間でも空の彼方にいる己に届く武器を作るには時間がかかるであろうし、圧倒的物量と生命の実による無限の生命の前にいつか屈するだろう。
 サハクィエルは、じっくりと腰を据えて地球防衛軍を根絶やしにしてやろうと地球を見おろしていた。
 しかし落ち着いて行動していたサハクィエルは、アダムの記憶にある恐ろしい殺意に気付いた。いや、それどころか先に死んでいったほとんどの使徒が殺される瞬間に最後に目にしたあの世界を焼き滅ぼしそうなほどの怒りに燃えるあの目が自分に向けられていることに気付いてしまった。
 地球防衛軍にばかり意識を向けていてすっかり忘れてしまっていた、あのリリン(人間)の罪から生まれた、この星の理から外れた最悪の存在を。
 自分より先に死んでいった同胞達(イスラフェルとマトリエルは別)を殺した相手のことを。バラバラに砕ける前の白い月の中にいたアダムが南極で眠っていた頃、氷の中で封じられていた時も失せることのなかった世界を焼き滅ぼすほど怒りの炎を感じ取って、白い月の中にいたアダムが怯えていたのに。
 奴が自分を見ている。空の彼方にいる自分を真っ直ぐ見ている。自分を殺すために見ている。
 サハクィエルは、殺意が発生している地点へ向けて移動した。
 そしてサハクィエルが見たのは、セカンドインパクトによる海底の隆起によってできた小さな小島の上に立つ、黒い怪獣王が空の彼方にいる自分を睨みつけている姿であった。
 怪獣王ゴジラをしっかりと認識したサハクィエルは、疑問を持つ。

 ナゼ我々(使徒)ヲ滅ボソウトスル?

 自分達は、アダムへ還りたいだけなのに、なぜあの黒い破壊者は自分達を殺すのか。
 おまえの存在意義はリリン(人間)に復讐することじゃなかったのか。
 サハクィエルの問いかけに、ゴジラは何も答えはしなかった。
 その代りのように、サハクィエルが見おろすゴジラの背びれが青白く発光した。
 それを見たサハクィエルは、両端にある自分の体を即座に千切り、ゴジラに向けて落下させた。




***




 雲よりも高い遠い空でオレンジ色の熱線と、二つの巨大な高熱の塊がぶつかり光の粒となって空に飛散した。
「ようやく動き出したか、ゴジラめ。派手な花火だな。」
 飛行する轟天号内でゴードンが愉快そうに笑って言った。
「宇宙からの飛来物を正確に、それも一撃で撃ち落とすなんて…! くっ、相変わらず出鱈目だ!」
「デタラメだからこそ奴らしいじゃねーかよ。こうでなきゃ戦いがいがない。」
「艦長もたいがいデタラメですがね!」
 波川の命令とはいえ、普通の人間なのに、身一つで、刀で使徒マトリエルの足を二本切り落としたからだ。副艦長の言葉に他の船員達も心の中で同意した。
「観測施設からの伝令! 使徒は再生する速度を速め、再度ゴジラ目がけて体の一部を落下させる動きを見せているとのことです!」
「そんな、今まで本気じゃなかったというのか!?」
 オペレータの言葉を聞いた副艦長が目を見開いた。あの巨体で体を千切るという荒業を武器にしているのに第一攻撃から第二攻撃までの合間が短くなっているのだ。
 アートな見かけに完全に騙された、大火力の荷電粒子砲をほぼ休みなく発射し続けていた使徒ラミエルのこともあるので、使徒の再生力や攻撃のためのエネルギーの生産量は科学の粋を越えているのかもしれない。
「使徒が再び落下攻撃を開始したとの報告! 落下速度、ATフィールドのエネルギー量が倍になっているとの報告が!」
「ゴジラの熱線が発射されました!」
 サハクィエルの落下攻撃は、更に強力なものになり、ゴジラを目指してサハクィエルの一部が二つ落下していく。
 それと同時にゴジラが再び熱線を吐いた。さっき吐いた熱線よりも色が赤く、太い。
 熱線は、二つの強力な爆弾を貫通し粉砕しただけじゃなく、大気圏を突破してサハクィエル目がけて真っ直ぐ飛んでいった。
 サハクィエルは、さすがに危険を感じたか、器用に体を後ろにグネッと捻らせて熱線を回避した。しかし空気がない宇宙空間なためか、空気などの邪魔な物質がない分、熱線の破壊エネルギーを遮るものがなかったために、サハクィエルの横を通り過ぎた熱線の余波でサハクィエルのコアがある真ん中の体の四分の一が焼けて削れてしまった。横を通り過ぎただけでこれだ。これでもし体にかすってたらコアまでやられていたかもしれない。
 ゴジラの熱線で粉砕された二つの爆弾は無数の大きな粒となってゴジラとその周囲に落下した。
 その幾つかがゴジラに被弾したものの、ゴジラの黒い皮膚を傷つけるまでには至らなかった。



「あの使徒の野郎は、ただデカいだけで、ゴジラにゃ脅威にすらならないか…。」
「あんなスピードで落ちてくる飛来物を正確に熱線で撃ち落とせるゴジラの目は一体どうなってるんでしょう?」
 轟天号内では、もう使徒の負けが決まったなというムードになっていた。

『まだだよ。』

「通信に割り込み! これは…。」
「なんだ、ツムグか。どうした?」
 急に轟天号の通信網に割り込んできたものに驚くオペレータだったが、通信に割り込んできた相手のIDを見て目を丸くし、ゴードンは、声だけで相手が椎堂ツムグだと分かったので落ち着いて対応した。
『まずいよ、ゴードン大佐。ゴジラさんに向かって行く潜水艦がいるよ。それも数隻も。』
「なんだと?」
『ゴジラさんを邪魔する気だよ。急いで…。アイツらを逃がさないで。』
「おい! ツムグ! おい! チッ、毎回おかしなこと言いやがって! ゴジラを目指して全速前進しろ!」
「し…、しかし艦長!」
「ツムグの預言は外れたためしがねぇ! ゴジラに近づいてる正体不明の連中を生かしたまま捕まえる!」
「りょ、了解!」
 ツグムからの通信によって、轟天号は突然艦隊から離れ、ゴジラに向けて最高速度で向かって行った。
『ダグラス=ゴードン! どういうつもりだ!』
「うるせぇ! 時間がねぇんだ、説明は後だ!」
 艦隊と作戦本部からの通信を強引に切った。

 轟天号が全速力で向かう最中、空を見上げて使徒を睨みつけているゴジラの背後に、海中から数隻の潜水艦が迫っていた。



「エネルギー充填65パーセント!」
「くそっ、思ったより貯まらない! エネルギープラントの出力をもっと上げろ!」
「……う、冷却が間に合わない! 一発目が撃てるか撃てないかだぞ、これは…。」
「その前に砲塔が爆発するかも…。」
「悪い方に物を考えるな!」
 ついに完成した宇宙にいるサハクィエル狙撃用のその場限りの兵器が完成し、発射体制に入ろうとしていた。
 しかしもともと欠陥がある試作の兵器を無理やり改造したものなので問題ばかりである。
 ツムグは、兵器に包まれたような形になっている機龍フィアの中で、目をつぶり、長く息を吐いた。
 ゴードンに言ってはいないが、ツムグには、ゴジラを邪魔しようとしている潜水艦の正体を知っている。
 こんな時にゴジラを邪魔する奴など、あの“老人達”ぐらいしかいない。
「ゴジラさんを邪魔すればどうなるか…、分からないほどボケちゃった?」
 ツムグは、ニヤッと笑って、ザ・命知らずな老人達を嘲った。




***




 サハクィエルは、ゴジラに勝てないと判断した。
 だが自信を突き動かす怒りという衝動をどこへぶつければいい?
 サハクィエルは、ラミエルの記憶からその答えを導き出した。
 答えを出したサハクィエルの体が、再生を始めていた全長40キロメートルの途方もない巨体が大気圏に途中し、高熱を纏った。
 目指すは、ゴジラ。
 己ができる最大の攻撃にして最後の武器をゴジラにぶつけてやる。
 アダムがバラバラになった時のあの大破壊の震源地で生き延びた奴を殺すのは無理だろうが、S2機関を全開にして生きた爆弾と化した40キロメートルの落下物の破壊をノーダメージでやり過ごせるはずがない。
 使徒サハクィエルが、アダムとの融合のために第三新東京へ行くことを放棄した瞬間だった。




***




 降下を始めたサハクィエルそのものをゴジラは睨みつけ背びれを激しく発光させ、エネルギーを溜めていた時、ふとゴジラは、気付いた。
 己の背後に自分と“同族特有の匂い”がすることに。
 咄嗟に後ろを振り返った時、ゴジラが知らない間に浮上していた複数の潜水艦からゴジラの無防備な顔面に向けて砲撃が飛んだ。
 それは爆弾でもなければ薬品でもない。いわゆるトリモチ的な粘着質な物質である。それも怪獣用の。
 いきなりのことにゴジラは、背びれを輝かせるのを辞めて、口と両目を覆ってしまったネバネタのものを剥がそうと両手を使い、身をよじった。
 続けて潜水艦がゴジラの両腕に砲撃した。これもトリモチ系で、一時的であるがゴジラの両手の自由を奪った。
 ゴジラが呻き声を上げながら身をよじる状態にした数隻の潜水艦は、役目は終わったとばかりにそれ以上の動きはなかった。
 サハクィエルの最後の攻撃となるサハクィエル自身の落下が迫る。
 一時的なこの妨害攻撃による僅かな時間が、ゴジラの圧勝か、サハクィエルの最後の悪あがきによる痛手を受けるかの分かれ道となる。
 トリモチみたいなものは、ゴジラの体表温度でどんどん粘着度がなくなり、拘束する力を失っていく。この怪獣用兵器は、核エネルギーを全身に行き渡らせているため体温が高く、しかも体内熱線という必殺技を持つゴジラには不向きでゴジラ以外の温度の低い怪獣の足止めなどに利用されていたものだ。
 ただ怪獣用の粘着物とあって後始末が大変なことから、今回潜水艦が発射したように使うのではなくトラップとして使うのが主な、場所を選ぶ代物である。
 ゴジラ封印後、セカンドインパクトの影響で他の怪獣が消えてから生産がストップしていた地球防衛軍の対怪獣用兵器の一つである。それを複数の潜水艦が武装として積んでいたのは、セカンドインパクトに乗じて闇の市場に流れた物が彼らの上の者達の手に渡ったのである。
 潜水艦の乗員達が忠誠を誓う秘密結社は、ゴジラに僅かでも今まで邪魔された恨みを晴らすためにこんなことをしたのだ。
 潜水艦も乗務員もサハクィエルの落下による破壊で消滅し証拠は残らない。
 しかし、秘密結社は、……老人達は、最初から失敗していた。
 地球防衛軍には、すでに老人達を見つけて、現在進行形で様子を見ている、ある意味ゴジラより厄介なイレギュラーがいて、この場所に最強の戦艦を呼び寄せていたことに。
 老人達は内容こそ分からなくても失敗したのだと理解する。先端に巨大なドリルを持つ地球防衛軍最強の万能戦艦・轟天号がその大きさからは予想もできない速度で飛んできて潜水艦の真上を通り過ぎ、通り過ぎる直後にゴジラに向けて数発のミサイルを発射していた。
 ミサイルの着弾による爆発と熱により、ゴジラの体温で溶けかけていたトリモチみたいなものはあっという間に剥がれ、目を怒りで血走らせたゴジラがあと数百メートルぐらい迫っていたサハクィエルを睨みつけた。その直後、遥か遠くからとんでもなくでかい高エネルギーの弾丸がサハクィエルに直撃し、恐らく咄嗟だったのだろうが、コアを守ろうとして動いたためにサハクィエルの落下速度が少しだけ減速した。
 その少しだけ稼いだ時間だけで、十分であった。ゴジラにとっては。
 ゴジラの口が大きく開かれ、青白い光を越えて、赤々とした光を纏った背びれを輝かせたゴジラは、極太の熱線を吐きだした。
 サハクィエルの巨大な体の中心、つまり目玉部分が熱線で貫通され、コアが燃え尽きるとともにサハクィエルの巨体は、失速して燃えカスのようにボロボロに崩れて風にあおられて空へ舞い上がり、その燃えカスもどんどん小さくなって消滅した。
 空を司る神の使いの名を持つ使徒は、その名の通り空へと還されたのだった。
 轟天号の登場と、ゴジラが轟天号のミサイルで拘束が解けたのと、地上に落下する数秒前というぐうらい迫っていたサハクィエルに向かってとんでもない弾丸みたいなエネルギーが飛んできてそれでサハクィエルの落下速度が少しだけ遅くなり、その隙に力を貯めたゴジラが熱線でサハクィエルの中心を貫いてサハクィエルが殲滅されたという、怒涛の流れに、数隻の潜水艦の乗り組む員達はまず思考が停止していた。

『国籍不明の艦に告ぐ! 大人しく投降せよ!』

 彼らの思考が動くきっかけとなったのは、轟天号からの投降を呼びかける音声だった。
 作戦の失敗とサハクィエルの落下による自分達の死が回避されてしまったため、彼らが取った行動は、潜水艦もろとも自爆することだった。
 しかし自爆スイッチを押しても引いても、うんともすんともいわず、彼らは混乱する。
 なんとか理性を保てた者が、逃亡を指示した時、ゴジラの影が彼らが乗る数隻の潜水艦を覆った。
 トリモチみたいな対怪獣用兵器で邪魔されたことにゴジラが怒り、熱線を吐こうとした。
 そこに轟天号のレーザー砲が飛び、肩を攻撃されたゴジラは、轟天号を睨みつけ、今日一番の雄叫びを上げた。
 今がチャンスだと潜水艦が逃げようとしたが、今度は動力が止まって潜水することすらできなくなった。
 次から次に逃げ道を奪われる状況に得体のしれない恐怖に駆られた彼らは先ほどより混乱した。
 すると、通信機が勝手に作動し、ノイズに交じって若い男の声が、すべての潜水艦に響いた。

『……逃がさないよ…。もうすぐ、そっち行くからね…。』

 妙に落ち着いた(マイペース)、けれどノイズが混じってて、メリーさんみたいな恐怖しかなかったと後々語られることになるその声に、老人達の秘密結社に忠誠を誓っていた彼らは、初めて忠誠を誓う相手を心の底から恨んだ。
 混乱と恐怖で、自力で死ぬという方法すら思いつかないほどに。


 一方、潜水艦の近くでは、ゴジラと轟天号の戦いが勃発していた。
 ゴジラは、小さな小島から海へ進み出た。ちなみに潜水艦がある方向は逆反対だ。轟天号が反対側を向くよう、うまく誘導したからだ。ゴジラは南極で自分を氷漬けにした相手(※厳密にはゴジラを封印したのは轟天号の旧型)を前にして35年前の闘志を刺激されずにいられなかった。
 ガキエルとの三つ巴(?)の戦いの時、使徒より轟天号を撃墜したくて海中から熱線を撃ちまくったぐらいだ。ある意味ゴジラは轟天号に執着しているようだ。もっともあの時は、ゴードンがガキエルを振り切るために海底火山で炙ってダメージを与え、耐えられなくなったガキエルが轟天号から離れたため、使徒を殺すのが本来の目的だったことを思いだしたゴジラが仕方なく轟天号を諦めて逃走したガキエルを追いかけて仕留めることになったため、ゴジラ的に大変不満の残る戦いであった。
 その時の不満を思い出したのか、ゴジラは、使徒という邪魔無しでやれる轟天号との戦いに闘志を燃やし、雄叫びを上げた。




 更にもう一方で、急ごしらえの対サハクィエルのための兵器が一発撃っただけで破損し火花と煙を吹かした。コードの先にある変換装置などが爆発したりと大変だ。
 慌てる技術者達や地球防衛軍の軍人達を尻目に、兵器を纏っていた機龍フィアが機体を振って破損した兵器を機体から剥がしていった。100メートル級の機龍フィアを包んで余りある巨大な兵器はいとも簡単にバラバラになり、地面に崩れて落ちていった。その様は、まるで脱皮のようだったと、現場にいた者達は語ることになる。
 兵器を剥がし終えた機龍フィアは、中にいるツムグと同じ動きでやれやれというふうに首を動かし。
「さて…、ゴジラさんのところに行こうか。」

 -----ok。

「んじゃ、行ってくるね!」
 ツムグが周りの者達にそう声をかけた後、機龍フィアが飛んだ。
 あっという間にレベルにまで加速したため、残された技術者達や軍人達は、機龍フィアが飛び立っていった空を口を開けて見上げていることしかできなかった。 
 

 
後書き
サハクィエルを倒そうとしたゴジラを邪魔したのは…、あの老人達です。
椎堂ツムグの機転により、ゴジラへのサハクィエルの最後の攻撃は防がれました。

あと、機龍フィアのDNAコンピュータに異変。自我が芽生える前兆です。

次回は、轟天号対ゴジラ。 
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