レーヴァティン
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第七十一話 南の港町その十一
「親戚の姉ちゃんも癌で亡くなってるんだよ」
「そうでしたか」
「まだ子供二人小さかったのにな」
それでもとだ、久志は苦さに満ちた顔で話した。
「それがな」
「癌で、ですか」
「そうなったの見てきてな」
それでというのだ。
「俺は病気が嫌いになったんだよ」
「脳梗塞や癌が」
「あと糖尿病や痛風もな」
こうした病気もというのだ。
「怖いな、特に癌がな」
「その病気がですか」
「一番怖いな、人間人が病気で死んだら何の病気で死んだかって聞く時あるよな」
「ありますね、実際に」
「その時に聞く病気はな」
それはというと。
「そいつが一番怖い病気を聞くんだよ」
「そうしたものですか」
「ちょっとある人が死んだ時何で死んだか聞いた時あってな」
久志はその時のことも思い出した、これもまた彼にとっては苦い思い出だ。それもこれ以上はないまでに。
「俺その時に癌を出したんだよ、それでな」
「その時にですね」
「わかったんだよ」
「人は死因を尋ねる時自分が最も恐れている病気を出す」
「怖いと思っているからな」
それだけにというのだ。
「口に出るんだよ」
「成程」
「嫌なものだぜ」
久志は苦い顔で話した。
「癌ってのはな」
「本当に恐れておられるのですね」
「ああ、癌はな」
この病気はとだ、久志はさらに話した。
「あんな怖いものはないだろうな」
「病気がそんなに怖いのか」
正は語る久志に意外といった顔で述べた。
「それはまたな」
「変わってるか?」
「人間誰もが怖いものってあるけれどな」
「俺は病気なんだよ、それでそれがか」
「ああ、案外変わってるな」
「病気が怖いって奴は少ないか」
「怖いっていえば怖いさ」
正もこのことは否定しなかった。
「実際な、けれど俺はそこまで怖がってないからな」
「俺みたいにはか」
「病気はな」
「若くして死んだからな、親戚の姉ちゃん」
久志は正にもこう話した。
「それで見舞いに行ったけれどな」
「そこで見たものがあったんだな」
「姉ちゃんの親御さんから黒いオーラが見えたんだよ」
「黒いオーラかよ」
「ああ、ブラックホールみたいだったよ」
その黒いオーラについてもだった、久志は話した。
「吸い込む様に見えて実は出されていてな、しかも姉ちゃんの見舞いに行ったら死ぬ寸前で匂いもしたしな」
「匂い?」
「死ぬ人のな、もう意識失う寸前でご主人やお兄さんに支えられていてな」
「また凄い時に見舞いに行ったんだな」
正もその話を聞いて驚いた、久志が観たものを想像もして。
「じゃあお亡くなりになる寸前だったのか」
「俺が見舞いに行って四時間位後でだよ」
「そうか、そんな状況だったんだな」
「ふと会えるうちにって思ったらその日にだったよ」
「それで観てか」
「ああ、それ以来癌が怖くなってな」
「他の病気も怖くなったか」
正も理解した顔になって述べた。
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