普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【魔法先生ネギま!】編
244 吸血鬼との交渉
SIDE OTHER
――パチン
タカミチに連れられ、春原 真が麻帆良に来てから一週間ほど。【麻帆良学園女子中等部】の学園長室で、小気味の良い音が響く。
腰まで届きそうなほどの金を溶かした様な艶のある長髪に蒼穹を映したかの様な双眸と云う、まるでフランス人形みたいな美貌を持つ10歳かそこらの少女が、後頭部がまるで妖怪の〝ぬらりひょん〟みたいに伸びている珍妙な頭の老人が将棋盤を境に相対していた。
〝金髪碧眼〟を地でいく美少女である。前時代的な観念だが──〝将棋〟と云う遊戯にあまり似つかわしくない容貌の少女が妖怪の様な老人との対局だ。一見すると〝すわ、虐めか?〟とも思われたが、しかし…
――パチッ
「ぬぐぅっ」
「待ったはなしだぞ」
「待った──ぬぅ、もうちょい老体を労ってくれんかの?」
「ほざけ、ジジィ」
……しかし、実際は寧ろその逆。
盤面をよくよく見れば少女が優勢で、逆に老人が劣勢であった。少女が強いのか老人が弱すぎるのかは判らないが、少なくとも目の前の老人に対する時は少女の辞書から[慈悲]の二文字は消えていそうである。
「……無いの」
「ふん」
老人は少女へ投了の意を示し、少女の傲岸不遜な態度に目くじらを立てるでもなく盤を片すと最早冷めかけたお茶に口を付けてから、かねてより少女へしようと思っていた〝お願い〟を口にする。
「……で、〝お願い〟があるんじゃが…」
「面倒臭い、断る」
「儂まだ何も言ってないよね!? ……しかし、お主くらいにしか頼めぬ仕儀なのじゃ」
「……どうやら〝込み入った話〟な様だな。良いだろう、聞くだけ聞いてやる」
口にしようとしたが、少女の取り付く島も無い態度に口に出来なかった。しかし老人は引き下がらず、少女もまたそんな老人の態度に思うところがあったのか、目を細めると老人へ〝お願い〟とやらの続きを促す。
「恩に着る。……してエヴァよ、お主はナギの故郷の村が襲われたのは知っているじゃろうか?」
「大まかな内容だけだがな──ちょっと待て、ジジィ。まさか私にナギの息子の面倒を見ろと言うんじゃないだろうな?」
「いや、違う。かの少年は今もウェールズで暮らしているとタカミチ君から報告を受けておる。……とは云え、要請の概要からはそう逸れてもおらん」
「どういう事だ…?」
老人から〝エヴァ〟と呼ばれた少女は、どこか要領を得ない老人の言葉に謀られている様な気がしてきて眉を顰める。老人は恐らくは無意識で──一番の〝爆弾〟を投下する。
「〝ネギ・スプリングフィールド〟のクローンが発見された」
「何ぃっ!? それは本当かジジィ!」
「うむ。タカミチ君が〝麻帆良〟に連れて来てくれておる」
少女が驚愕の声を上げる。少女からしたら〝ネギ・スプリングフィールド〟とは初恋の相手であるナギ・スプリングフィールドの忘れ形見の片割れであるので、十分に驚くべきことだった。
……しかし…
「……だが、それがどうした」
確かに驚くべきことではあるが──それだけだ。少女が恋したのはナギ・スプリングフィールドなのだ。その息子のクローンがどこで何をしていようと少女からしたら関係無いことだった。
「その子は生まれはもちろんの事ながら、色々と〝訳有り〟での…」
――コンコンコン
老人の言葉を遮る様に学園長室にノックの音が響く。
――「タカミチです。真君を連れて来ました」
「ジジィ、どういうつもりだ」
「何、儂にも少々説明が難しい。故にいっそエヴァにも会ってもらおうかと思っての──入っておくれ」
少女の「どうなっても知らんぞ」と云う呟きを消すように扉が開かれる。
「失礼します」「失礼します」
そんな決まり文句を異口同音に口にしながら入って来たのは5歳かそこら赤髪の少年と、間違いなく三十路は回っていると思われるだろう男性であった。
SIDE END
SIDE 春原 真
――「入っておくれ」
「失礼します」「失礼します」
ノックの回数を間違えず、扉の向こうから聞こえた許可の声に従い、そんな風にタカミチとハモりながら入室した【麻帆良学園女子中等部】の学園長室。
〝麻帆良〟に来てから一週間はタカミチの家で厄介になっていた。
しかし、無為に時間を浪費していた訳ではもちろん無く、タカミチから接続方法を教えてもらった〝まほネット〟で情報収集したりと俺が出来そうな事を色々とやっていた。
とりもなおさず云えばネットサーフィンなのだが、色々と〝〝識って〟いてもおかしくない情報〟を集めることが出来た。
「学園長、一週間振りですね。……俺がここに呼ばれたと云うことは…」
「そうじゃ、そして彼女がお主の出した〝条件〟に合致した」
「……ふん」
(……エヴァンジェリン・A(アタナシア)・K(キティ)・マクダウェル…)
ぬらりひょん頭の老人──この【麻帆良学園都市】が長である近衛 近右衛門に示唆された先には俺を一瞥した後、俺から興味を失ったらしい〝金髪碧眼〟を地でいく美少女──エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが不機嫌さを隠さずに鼻を鳴らしていた。
……〝〝エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはナギ・スプリングフィールドに退治された〟と云う情報〟と〝〝麻帆良〟に居ると云う結果〟──それらを併せた内容から察するに、どうやら彼女は過去に〝ナギ・スプリングフィールド以外の誰かさん〟に助けられたとかは無いらしい。
「≪闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)≫…」
「ほう、私の二つ名を知っているとは中々見込みのあるガキじゃないか」
「〝まほネット〟でちょくちょくと調べていたからな」
「〝生まれて〟まだそんなに経ってないだろうによく調べている──っ」
エヴァンジェリンの二つ名の中の最も有名であろうモノを口にしてみれば、彼女は若干面白そうな表情で俺をまじまじと観察しはじめ──一転タカミチを見遣る。……彼女自身が口にした言葉に違和感を持った様だ。
「おい、タカミチ」
「どうしたんだい、エヴァ?」
「こいつを保護したのはいつだ?」
「……もう保護してから十日ほどになるね」
「入れ知恵をしたのはお前か?」
「いや。彼は最初から〝現状把握〟に努めていたよ」
エヴァンジェリンはタカミチの言葉で得心がいったのか、「ふむ…」と鷹揚に頷くと、今度は俺に視線を向けた。
(……これは気付いたとみるべきか…)
だとしても、大して驚くべきことでもないだろう。エヴァンジェリンは──〝エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル〟は、見た目こそ10歳かそこらの少女であるが、その実質は5世紀を越える年月を生きてきた吸血鬼なのだから。
「貴様、確か春原 真と云ったな。……端的に訊く──貴様、〝憑依者〟だな?」
「ああ」
「しかも〝中身〟は日本人で、それなりに年齢を重ねているな」
「実質的には500は行ってるか」
エヴァンジェリンが単刀直入に訊いてきた質問に肯定すると──寧ろ驚いたのは学園長とタカミチだった。
「何っ!?」
「……本当かい?」
「そういや、実年齢は言ってなかったか…。……まぁ、殊更申告するべきことだとも思わなかったしな」
「……それはどうしてだろうか?」
「タカミチはそれで俺への態度を変えたか?」
「く、くく…」
そうタカミチに質問を返してみると、何故かエヴァンジェリンが喉を鳴らす様に笑い始めた。
「よく観察されているなタカミチ?」
「エヴァ?」
「義侠心でタカミチ自身を縛る──嫌いなやり方ではない。……気に入ったぞ、ガキ」
「? どうも…?」
別にタカミチを謀ろうとかは無かったつもりなのだが、敢えてスルー。
「ジジィ、気が変わったぞ」
「儂としても嬉しいが、良かったのかの?」
「興が乗った。……それにこのガキ──否、春原 真が私に何かを望むのならこいつ自身から〝対価〟として某かを戴けば良いだけだしな」
エヴァンジェリンにお願いがある俺からしたら、彼女へ〝対価〟を差し出すのは道理である。
「……ってことは、とりあえず話は聞いてくれるんだな?」
「ああ、貴様が示す〝対価〟次第だがな。……春原 真、望みを言ってみろ」
「俺がタカミチを通して学園長に頼んだのは〝西洋魔術への造詣が深く、なおかつ“ダイオラマ魔法球”を持っている者への橋渡し〟だ」
「……確かに、その二項に麻帆良で引っ掛かるのは私くらいだな。……だとすればお前の〝要請〟とやらは、〝私への師事〟と〝〝別荘〟の利用許可〟か」
「大体そんなところだが、前者は〝蔵書の閲覧の許可〟でも構わない」
「くくく、〝指導の是非〟は私に投げると云うわけか」
俺は「さてね」と惚けてみせてからエヴァンジェリンに訊いてみる。
「……ところで≪闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)≫、貴女の持っている〝魔法球〟の倍率は?」
「24倍だ」
「……なら200日ほどか」
そう口にすると、俺とエヴァンジェリンのやり取りに置いてきぼりになっていたタカミチと学園長が噛みついてきた。
「真君!」
「……正気かの?」
「学園長、〝今回の件の対価〟として俺が提示したのは〝有事の際一回だけ無料で仕事を受ける〟だったよな? そして学園長もそれに承諾した」
「確かに…」
「それなら、逆に考えれば〝ずっと早く〝手札〟が出来る〟とも考えられないか?」
「……しかし、200日じゃぞ?」
「13年強でしかないさ」
「……むぅ、意思は固いようじゃの」
唸る学園長。学園長は二次創作とかでよくある老獪な悪役では無いのは、エヴァンジェリンへの紹介で俺が示した対価すら受け取らなかったことからも伺えた。
学園長から〝要請〟を聞くと云うのも、俺が提示したのは3回であったが、これでも値切られたのだ。
「僕としとは小中高と学校に通ってもらいたかったけどね」
タカミチも苦笑いが浮かんでいるあたり、〝それ〟が難しいのは何となくわかっていたらしい。
そして話は〝対価〟について移ろい──俺が示した、【ハリー・ポッター】な世界線で創った“賢者の石”を〝〝エヴァンジェリンにとって〟の10年の間貸与する〟と云う条件ににエヴァンジェリンは満足がいったのか、エヴァンジェリンから〝〝別荘〟の利用許可〟と〝蔵書の閲覧の許可〟を貰えた。
それも、〝エヴァンジェリンが暇な時〟と云う前提条件があるが〝エヴァンジェリンの〝指導〟アリ〟と云うオマケ付きで…。
SIDE END
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