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汝(なれ)の名は。(君の名は。)

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12製鉄実験

 加賀の国、アマテラス私室

 リーディングをしていた状態から戻り、目を覚まして薬物の効果も薄れたアマテラスが起き上がった。
「奴らは鬼じゃ、人間ではない。向こうにいる巫女も、何かに憑かれておるのだろう。荒ぶる神で悪鬼羅刹に……」
姫巫女(ひみこ)様は予言で、出雲の残党は痘瘡を撒くとおっしゃられました。そのような恐ろしいことが可能なのでしょうか? コロリもチクソも撒くなど、自殺行為なのでは?」
 侍従で巫女の一人が、解毒剤でもある飲み物を渡して、目覚めている状態のアマテラスからも細かい事情を聴く。
 才能によるものだが、薬物で神憑り状態だった時の記憶も残っている姫巫女。
「出雲勢は、何らかの手段で痘瘡を患わぬ手段を見付けたようじゃ、我らにはその(まじない)いが無い。もし加賀の国で撒かれでもすれば、何千人も死ぬことになるだろう」
 古代なので、全日本の人口を合わせても60万人に届くかどうか? 今の地方都市より人口が少ない。
 その中から半数が死ねば、国家としての働き手の数も維持できない。
 ルネッサンス時代のように、ペストで全ヨーロッパ3分の2の人口が死滅すれば、教会の教えも前例主義もすべて無視して、自由闊達な考えも行えたが、当時の中世ヨーロッパにはもっと人間がいた。
 鬼界カルデラの噴火後と同じく、都市の大半が滅亡して、国家から唯の集落単位の村社会に成り下がる。
 朝鮮半島の白頭山噴火以降の中国北方三省と朝鮮半島のように、日本全土がが歴史から消える。

 現代では人口密度が高すぎて、上下水道のインフラと電気、道路が遮断されると一瞬でスラム化して、ハイチ程度の人口密度とインフラでも、地震で寸断されれば伝染病の温床になる。
 山の中の寒村ならいざ知らず、富山、金沢の様な平地の人口密集地帯、京都、奈良の様な首都機能がある場所、出雲、大阪、名古屋でパンデミックすると、食料供給も止まり、孤児や浮浪者も溢れて無政府状態になる。
 邪馬台国派遣軍も破滅して、人間の帰巣本能で死ぬ前に故郷に帰ろうとすると、大和、邪馬台国、淡路(おのころ)通過地点が全て汚染され、糞尿をした場所で赤痢が流行り、コレラから生き残れた者も、隔離機関を置かないと便からO1(コレラ)を垂れ流す。
 街道、都市内部で死ぬと、死体処理、病人追放の間にも感染する。

 もし天然痘に感染したものが集落に入ろうとすれば、外見で判明するほど重篤化が進んで、赤鬼の様な体色と顔をしていると、ゾンビが侵入するのを防ぐレベルで即座に殺されて、死体も焼かれる。
 ゾンビを殺害した所で、目や口の中に返り血を浴びた者がいれば感染して、集落ごと終わる。
 潜伏期間の発熱段階で、天然痘ウィルスが顕在化していない感染者が逗留すると、井戸水、便所、酒場、あらゆる場所で感染爆発して、感染後も症状が出ないスーパースプレッダが発生して、患者が邪馬台国まで到達すると西日本全てが壊滅する。

「恐ろしい、我らの支配地域には好き放題痘瘡を撒いても奴らは感染せぬのじゃ、もしこれ以上進めば、故郷の邪馬台まで滅ぼされる、もう一歩たりとも進んではならぬ」
 しかし、侍従の巫女は有り得ない答えを返した。
「軍議では、諏訪まで進んで出雲の残党を討つと決められました。敵の思う壺でございます」
「なんだとっ? 我の予言を信じぬとはっ、何のためのアマテラスじゃっ!」
 亀の甲羅を焼いて、その割れ方だとか、予言者でシャーマンが言った寝言など、誰も信じなくなってきた時代。
 元は法治国家から来た渡来人の末裔なので、シャーマニズムなど冗談でしかないが、預言的中率を信じて、軍隊までがその指示を受けて行動している。
 台風や洪水を言い当てるのは別の巫女や、故郷に残っている月読がする。
 それでも農業に直接関係しない、軍事侵攻中で連戦連勝しているイケイケの派遣軍に、シャーマンの予言など不要だった。
「奴らは鉄の武具も持てるようになる。さらに恐ろしい物も見た、無数の石を火で飛ばす筒じゃ、盾も鎧も通す強い弓矢、その上痘瘡を撒かれれば邪馬台まで滅ぶぞっ」
「建御雷と弟君をお呼びしております、お話になって下さい」
「うむ、建御雷っ、須佐之男っ、これに参れっ」
 アマテラスの権限で、自らの騎士で護衛を選び、派遣軍の指揮権限を持つ者と、弟を護衛で近衛兵の職に就かせているアマテラスで今代の卑弥呼。
 軍議を超える命令をアマテラスが出せなければ、ヨツハによって撒かれた天然痘ウィルスとコレラと赤痢で、邪馬台国派遣軍を加賀の国、石川県、富山県ごと壊滅させられる。
 勢いがあれば出雲まで攻め戻し、周囲の豪族にも恭順を命じ、可能なら九州征伐を行って、邪馬台国の渡来人をも屈服させ、できなければ「海に返す」。

 冬守、製鉄実験場

 まず、焼レンガを手積みして、そこに砂鉄を入れて熱を上げ、木炭程度の燃料で鉄のインゴットを取り出すのは可能である。
 レンガ式の600度~800度程度の、たたら製鉄炉でも、ほんの数キロの鉄を焼結できれば、また過熱して、ハンマーで叩いて鍛造し、刃物や工具に加工することもできる。
「これに風を送り込まねばならない、猪の親を狩った皮と、鹿の皮、これらで(ふいご)を作らねばならぬ」
「仰せのままに」
 燃料が薪から炭焼きに進化し始め、窯の外形も日干し煉瓦から焼レンガに進化し始めた。
 建設中の登り窯も、傾斜地の溝で煙突部分が、熱風が通過する内側だけでも石と煉瓦になり、熱で乾燥崩落しない構造に改良されて行った。
 朝から昼に至る時間だけで数々の物品が伝来して、千年以上の文明進化が起こり、時計の針が無理矢理進められて行く。
 近隣の村からも見学者や労働力が追加され、山から燃料の伐採が続けられる。

「まだ銑鉄は作れぬが、焼き固めただけのインゴットならできる。取れる量が少ないがな」
 通常の薪で焼いた窯など、精々千度になれば効率が良い方で、レンガ作成窯で800度、素焼きの陶器作成用の窯で1100度出せれば良い方で、とても鉄の融点1500度には達しない。
 それでは何故古代に鉄器が作られたかというと、溶かすまではいかないでも、長時間の過熱により焼き固めたり、(ふいご)(たたら)で1400度程度の融解点には達して鉄のインゴットを作成できたからである。
 数時間焼き固めて、ほんの数キロ程度の鉄。それには登り窯の温度でも不足して、空気の供給、ふいごによる酸素供給も不可欠であった。
 1世紀から3世紀頃に伝来した(たたら)製鉄の始まりであった。

「火を入れろっ、鉄を取り出すのじゃ」
「へいっ」
 砂鉄、磁鉄鉱をテルミット反応させて、脱酸素してFe結晶を作成する。
 テルミット反応させるにはアルミニウムが必要だが、木炭で代用して脱酸素する。
 塊を作る事までは可能なので、再加熱させて炭化、焼き入れ、鍛造の工程で工具と鉄器、鉄剣が作成できる。
 (のこぎり)(やすり)が無ければ金属加工は出来ないし、青銅器では硬度や重量、融点が違う。
 アルミニウム作成には電気分解や大電力が必要なので、この時代にはまず不可能。
 他で記したように、A1以上の恒星の核融合で、最終的にできるのが鉄原子である。
 これ以上の核融合反応は不可能で、超新星爆発した時や、ブラックホールやクエーサーから発射される、特殊なジェットの中でなければ鉄以上の原子は出来ない。
 逆に鉄までの核融合は可能なので、比較的入手しやすい金属も鉄である。

「燃やせ、燃やすのだっ、高天原の渡来人も、この炎で焼き尽くしてやれっ」
 既に悪鬼羅刹と化したヨツハ様。
 この里を重金属で満たし、川の下流も重金属で汚染して中毒で死なせる事になっても、全く気にしていない。
 過去に金アマルガム抽出方で、奈良の大仏に貼る金箔が作られた時も、下流住民は水銀中毒で死んだ。
 青銅を抽出するためにも、あらゆる重金属が垂れ流されて汚染され、下流住民が鉛中毒、重金属中毒から来る数々の難病奇病で苦しめられ、果ては死亡した。
 一切衆生を救うはずの大仏が住民を苦しめて、命まで奪ったのは冗談でしかないが、ある意味苦しいだけのこの世界から、大仏が天上の世界に地域住民を導いたのかも知れない。

「鉄砲で、尾栓がある後装式スプリングフィールド銃で、ライフリングがあるミニエ銃で、お前たちをこの世から消し去って滅亡させてやるっ」
 高炉も銑鉄も無い、戦国時代程度の文明で火縄銃が作れたのも、鉄板をを金属棒に巻き付け、パイプを製作して片方の端を潰し、火薬の膨張力に耐えられる物を作れたからである。
 鋳型に流し込んでから鍛造したのではなく、刀を作る要領で丸め、ハンマーで鍛造した先込め銃が作成できた。
 敵側、邪馬台国には阿蘇山に大量の酸化第二鉄があり、硫黄を混ぜた燃料で焼く程度で大量の鉄を入手できる。
 砂鉄から多数の手順を踏まないでも済むが、飛騨もまた火山と造山の名残がある場所であり、硫黄などの入手も容易い。

 鉄と硫黄の反応過程では、猛毒の硫化水素が発生する。
 血液のヘモグロビンが硫化へモグロビンに変化して、体が緑色になって死亡する。
 大量に発生させるのは難しく、運搬精製も困難ではあるが、味方の危険を何一つとして考えなかったり、加賀の国で放火して使用すると、閉鎖空間ではないが多少の効果もある。
 火事の見物に来た野次馬を全員緑色にして死なせ、謎の奇病で殺せる程度だが、相手の恐怖心(テロ)をあおるためだけでも、やって置くに越したことはない。
 硫黄でマスタードガスを発生させる方が運用も楽で毒性もましで、これも猛毒であるが死亡率が低く、運搬したり着火させるのも多少簡単なので、テロ効果を狙って、今後生物兵器以外にも、化学兵器も使用される。
 
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