永遠の謎
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115部分:第八話 心の闇その五
第八話 心の闇その五
「その二つの愛を」
「そして男性的なものと女性的なものですか」
「男であっても女性的なものは必ず持ち」
「女であっても男性的なものを」
「それぞれ持っている」
ワーグナーはビューローに話していく。
「そして陛下はだ」
「その女性的なものがとりわけなのですか」
「何故ローエングリンに憧れるか」
ワーグナーだけがわかることだった。それが何故かもだ。
「心の中の女性的なものが彼に憧れを抱かせるのだ」
「あくまで男性的な彼に対して」
「ローエングリンにしろ女性的なものは持っているがな」
彼にしてもなのだった。その白銀の騎士にしてもだというのだ。
ワーグナーだけがわかることだった。その騎士を生み出した者だからだ。
「その騎士に。憧れ」
「彼になりきりたいとするのも」
「憧れ故だ」
「そして陛下は特に」
「女性的なのだ。むしろ」
言葉を言い換えた。その言葉だ。
「御心は。女性そのものなのかもな」
「だからこそローエングリンに憧れ続ける」
「ヘルデンテノールの様でヘルデンテノールではない」
また言ったのであった。
「若しかするとな」
「その女性的なものはいいのでしょうか」
ビューローは怪訝な顔になって師に問うた。
「陛下にとっては」
「さてな」
弟子のその問いにはだ。彼は難しい顔になって返した。
「それはわからない」
「わかりませんか」
「陛下はあまりにも繊細だ」
ここで王の一つの要素が述べられた。
「あまりにもな」
「確かに。あそこまで繊細な方はそうはおられません」
「その繊細さは一歩間違えば危うい結果をもたらす」
「そうなりますか」
「それが気になるのだ」
ワーグナーにしてもだ。王を気にせずにはいられないのだった。
それでだ。彼はその王についてさらに話すのだった。
「他人を避けるようにならなければいいが」
「傷つきですね」
「そういうことだ。あの方は非常に傷つきやすい」
王のその性質をわかっているからこそ言うワーグナーであった。
「どうなるか」
「それが不安ですね」
「その通りだ」
こう話すのだった。そしてその王がだ。遂にミュンヘンに戻ってきたのであった。
専用の車両から降りだ。彼はまずこう言うのだった。
「まずは王宮に戻りだ」
「はい」
「職務をですね」
「それを」
「そうだ。そしてだ」
王は後ろにいる者達に話していく。駅を歩きながら。
「会議だな」
「はい、それもです」
「外交について」
「やはりオーストリアとプロイセンの対決は避けられない」
王はだ。このことを見極めていた。彼の中ではそれは絶対であった。
「決してだ」
「外交についてはです」
「既に会議が決まっています」
「戦いのことか」
自分でこの言葉を出してだ。王はその顔を曇らせた。
美麗な顔に曇りを宿らせて。彼はさらに話した。
「私はだ」
「はい、陛下はです」
「司令官になられるでしょう」
彼等はすぐに述べてきた。
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