虹にのらなかった男
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P11
「さてクラウン上等兵。質問に答えてもらおう」
「答えられる事ならば、いくらでも話そう」
WBの尋問室。
ドロドロに融けたザクの前面装甲をレーザーカッターでこじ開け、外に連れ出されたクラウンは尋問室に連行されていた。
この場に居るのは黒いパイロットスーツを着たままのアベルとライフルを持った数名の下士官、そしてクラウンだ。
「まず一つ目。先の戦闘の目的は?」
「木馬の侵入コースをずらすこと。
可能なら、沈めること。
白いMSと灰色の大型戦闘機の鹵獲」
「それだけ?」
「俺が聞かされていた限りは…」
ふむ、とアベルが頷いて見せる。
「では次。君はサイド7襲撃の時からムサイに乗っていたか?それともパプアの補給人員か?」
「後者だ」
アベルはメモ帳にサラサラと書き込む。
「マゼランをやったのはやっぱりシャア?」
「大佐と、歩兵隊」
「君はその時何してた?」
「ザクの中で待機していた」
「なるほどねぇ…」
それからアベルは幾つかの質問をした。
シャアの今後の進路、ジオンの内情…
以外にもクラウンは素直に尋問に応じた。
尋問官が子供だった、というのもあるだろう。
尋問室ではカリカリというペンの音だけが聞こえる。
「えーと…じゃぁさ」
と前置きをしたアベルが尋ねた。
「大気圏に突っ込んだ時怖かった?」
「…………ああ」
クラウンが重々しく頷く。
「じゃぁ、最後の質問」
アベルがクラウンの正面に立った。
「シャアの事、どう思う?」
「くく…『くたばれ、さっさと燃え尽きろ』か」
アベルはクラウンの尋問を終え、独房に放り込んだ後、アブルホールとガンダムの整備をしていた。
「どうしたんすか副所長?」
「ザクのパイロットの尋問でさ、『シャアの事どう思う』かって聞いたんだよ」
「はぁ」
「そしたらあのクラウンってジオン兵すげぇ顔で言ったのさ『くたばれ、さっさと燃え尽きろ』ってな」
「ああ…彗星だから」
「そ、なかなかユーモアあるよね。
更に言えば、大気圏突入で燃え付きそうになった自分を助けなかったシャアへの当て付け、かな」
クスクスと笑いながら、アブルホールのパーツ交換を済ませるアベル。
赤いザクへの突進や大気圏突入など、普通の宇宙戦闘機なら何度塵と化していることか。
「はぁ、本当ならオーバーホールしたいけど、いつジオンが攻めて来るかわからないもんな…」
「そっすね…」
それは技術士官全員の意見でもあった。
「まー…一応異常無いから戦えはするんだろうけど…」
「中身はバラさないとわからない事も多いっすからねぇ…」
「取り敢えずビームキャノンだけでもオーバーホールしといて。
あれは予備があるから大丈夫でしょ」
「つってもビームキャノンも組上がってるの二基しか無いっすよ?」
「片方ありゃ十分だろ。俺はミサイルでいいしな」
「やっぱりビームキャノンをロザミィちゃんに譲る気なんすね」
「当たり前だろう。ビームキャノンならアウトレンジから撃てる上重量もミサイルコンテナより軽い。
撃ち尽くす事が基本無いからデッドウェイトにもなりにくいしな」
ビームキャノンのコンテナにはジェネレータが内蔵されている。
パワーダウンがあるものの、ガンダムのビームライフルとは違い基本弾切しない。
「副所長」
隣で作業していたアオが、アベルの小さな体を後ろから抱き締めた。
「副所長がロザミィちゃんの事を一番に考えるのは、別にいいんです。
でも、もしそれで副所長に何かあったら、ロザミィちゃんが一番かなしむんです。
そこら辺、わかっていますか?」
アオが何時もの後輩口調をやめ、アベルに語りかける。
「なんだよいきなりセンチだな」
「副所長、大気圏突入の後、ロザミィちゃんに会いました?」
「まだ。クラウン上等兵の護送が合ったから部屋に戻らせて出ないよう言ってあるが…」
「ロザミィちゃん、めちゃくちゃ心配してたんですよ」
「そうか…。早く行ってやらねぇとな…」
アベルがぼそりと呟いた。
「副所長…私も…いえ、私達も心配してたんですよ?」
アオの声は、震えていた。
「おいおい、そこはお前達の整備した機体を信じてやれよ」
アオが、いっそうつよくアベルを抱く。
「もし…もし整備不良があったらって…!
ずっと気が気じゃなくて…!」
「えー…泣かれても対応にこまる…」
泣き出したアオにアベルは戸惑う。
「泣く事ないじゃないか…。現に俺は生きてる訳だしな」
アベルがまわされた手を握る。
「俺は生きてる。お前達が整備してくれたコイツのおかげでさ」
そこで、けたたましいアラームが鳴り響いた。
「敵襲…ですか」
「ああ、中で待機する」
アオが抱擁をとく。
「ありがとう。アオ。俺みたいな奴の事、心配してくれて」
「当然っすよ…だって……いえ…何でもないっす」
「そうか」
アベルはパイロットルーム(更衣室兼控え室)へ向かった。
ホワイトベースのブリッジでは、ブライトとリードが言い争っていた。
内容は、ガンダムを出撃させるかどうかだ。
「ですから! ガンダムを出撃させてこの包囲網を突破しない限りはジャブローに着くこともできんのです!」
「ガンファイターを出せばいい!
どうせ航空機主体のガウ編隊だ!
あの双子ならやってくれる!」
「彼等は子供です! たとえルセーブル技術中尉が軍人でも、かれは技術士官です!」
「好都合じゃないか!彼等が死んでも私や君の責任ではない!」
そこで痺れを切らした男が一人。
その男はリードにツカツカと歩み寄る。
そうして、大きく振り上げた拳を、リードの頬に叩き込んだ。
「ぐあぁっ!?」
「いい加減にしてください!」
「なっ……アムロ!?」
ブライトが驚きの声をあげた。
殴ったのは、白いパイロットスーツを纏ったアムロだ。
「なっ…何をするか小僧っ! 銃殺されたいかっ!」
「銃殺だろうがなんだろうがお好きにどうぞ!貴方にそれができるなら!」
「な、なにぃ…!」
「さっきから聞いていれば、アベル中尉達が死んでもとか、守って貰っていてその言い方は無いんじゃないんですか!」
「黙れ小僧!」
「貴方はいいですね、そうやって守られながら喚き散らしていればいいんですから」
アムロは、リードを見下していた。
「あの双子がホワイトベースを守るのは当たり前だ!
この艦がおちれば!あの双子とて帰る場所はないのだからな!」
立ち上がったリードが、アムロに拳を振るう。
だが怪我人の拳なぞ、アムロでも避けられた。
その上足を引っかけられ、リードはもんどり打って転んだ。
「……そんなだから…貴方達大人がそんなだから! 大人が不甲斐ないからアベル中尉みたいな子供が戦ってるってわからないんですか!」
「ノア中尉! この子供を独房に入れろ!」
「できません」
「貴様まで逆らうのか!」
「貴方にホワイトベースの指揮権はありませんし、アムロ君は軍人ではありません。
彼を独房に入れる事は、できませんよリード大尉」
「私は大尉だぞ!」
「ワッケイン指令は貴方にホワイトベースの指揮を命じたのですか?」
「ぐっ…!」
倒れたリードを放って、アムロはエレベーターへ向かう。
「アムロ君、どこへ行く」
「ガンダムで待機します。いいですかブライトさん」
「ああ、構わない。
誰か!リード大尉を医務室へ!」
「お兄ちゃん!」
パイロットルームに入ったアベルを待っていたのはローザだった。
アベルの予備パイロットスーツを着ている。
唐突に抱き付かれたアベルはバランスを崩しかけたが、なんとか踏み止まる。
「心配、かけたみたいだな」
「本当に、心配、したんだよ?」
「すまない。だが、俺は必ず帰ってくる。
こんな戦争なんかで死にはせん」
アベルがローザの頭を撫でる。
「信じていいんだね? お兄ちゃん」
「ああ、信じろ。必ず生きて戻って来よう。
お前も、絶対に死ぬな。
逃げることは恥じゃない。生きていれば『次』があるんだから」
「ん。私も、絶対死なない。約束する」
血の繋がらない兄妹は誓いを交わす。
『パイロット各員に通達。MSで待機してください』
セイラが艦内放送で呼び掛ける。
「さぁ、先ずは目の前の敵だ」
「そうだね」
抱擁が解ける。
「勝つぞ」
「うん!」
後書き
殴られるアムロから殴るアムロへ。
もしかしたら居るかもしれないリード大尉のファンの方にはさーせん。
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