永遠の謎
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106部分:第七話 聖堂への行進その十三
第七話 聖堂への行進その十三
「だからこそ。私もエリザベートとあの王が共にいてもだ」
「何も動じられないと」
「そう仰いますか」
「私は元々嫉妬深い男ではない」
皇帝の美徳の一つであった。彼は非常に生真面目で皇帝の職務に忠実である。その中で嫉妬という感情がないことは彼に非常にいい影響を与えていたのだ。
そしてだ。皇后もなのだった。
「エリザベートも。私以外の男性を近付けないかtらな」
「一人だけですね」
「陛下だけ」
「そしてあの王だけだ」
二人であった。しかし同時にであった。
「しかしあの王はだ」
「女性ですか」
「その本質は」
「そう思える。ではだ」
「はい、それでは」
「お二人は」
「あのままでいいのだ」
二人で舞を舞っていてだ。いいというのである。
「私は一向に構わない」
「わかりました。それでは」
「我々もこうして」
「お二人を見守ります」
「そうしていきます」
「見ていないと。あの二人は何処かに飛び立ってしまうだろう」
皇帝は今度はこんなことを言った。
「その背にある翼でな」
「翼ですか」
「それで」
「そうだ、翼でだ」
舞い続ける二人を見てだ。こうも話したのである。
「何処かにな」
「それはできないと思いますが」
「流石に」
皇帝の周りの者達はこのことは否定したのだった。
「いや」
「いや、と言われますと」
「違うというのですか」
「それは」
「そうだ。だからこそエリザベートは旅をしているのだ」
宮廷から離れだ。彼女は流浪の皇后とまで呼ばれるようになっているのだ。
「篭の中の鳥ではいたくないのだ」
「そしてあの王も」
「そうだというのですね」
「エリザベートは束縛されるべきではないのだ」
わかっていてもだ。それはできないことだった。ハプスブルク家の宮廷においてはだ。それはどうしてもできないことであるのだ。
「そしてミュンヘンもだ」
「あの王をですか」
「決して」
「ワーグナーがあるのなら彼をだ」
そのワーグナーをというのである。
「あの王から引き離すべきではないな」
「バイエルン王の為に」
「そうなのですね」
「そうだ。若し引き離せば」
どうなるか。皇帝もそれは見えていた。
「あの王にとって。よくないことになる」
「左様ですか」
「あの方にとって」
「話は聞いている」
皇帝はさらに言った。
「ワーグナーのこともな」
「そうですね。ミュンヘンでも途方もない浪費をしているとか」
「それも際限なく」
「音楽にも個人の生活にも」
「それではやがて」
「恐ろしいことになるのでは」
こうだ。ウィーンの者達も言うのだった。
「王にとって」
「それでは」
「そうだろうな」
これはだ。皇帝も察していた。
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