永遠の謎
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104部分:第七話 聖堂への行進その十一
第七話 聖堂への行進その十一
「ですから。それで」
「そうですね。それは私もです」
「貴女もなのですね」
「はい、そうです」
その通りだとだ。皇后も言った。
「その通りです。旅を続けていますので」
「貴女の舞踏は見事なものですが」
「それは貴方もですね」
「しかし。お互いにですね」
「ええ。踊ることなく」
「その二人が今こうして共に踊る」
「不思議なものですね」
こう話をしてだった。そうして。
皇后の方からだ。手を差し出したのだった。そのうえでまた王に声をかけた。
「どうぞ」
「それでは」
二人は微笑みをそのままに手を取り合う。ここで演奏がはじまった。
そうして二人でだ。場の中心で踊りはじめる。美麗かつ長身の二人の舞いはだ。周囲をして目を瞠らせ驚嘆させるに充分であった。
「踊ると余計に」
「しかもお二人だと」
「何と絵になる」
「この世のものではない」
こう言ってだ。誰もが息を呑んでいた。
「やはりあれが血か」
「ヴィッテルスバッハの血」
「美麗の血」
それ故だというのである。
「その美麗が二人になればさらに」
「あれだけのものを魅せるのか」
「ただ見事なだけではない」
二人の舞いそのものも非常に素晴しいものだった。踊りというものを心得ている。そのことまでもよくわかる、そうした舞いであった。
そしてその舞いにはだ。さらに別のものも加わっていたのだ。誰もがそれを見てだ。息を呑み言葉を漏らす、そうなっていたのである。
「魅力に満ちている」
「バイエルン王とオーストリア皇后のそれぞれの魅力がさらにだ」
「素晴しいものを引き出し合っている」
「やはりあの二人は」
「違う」
こうまで言われるのだった。
「二人だけが違う世界にいるような」
「そうしたものがある」
「二人だけが。何か」
「別の世界に」
「そうなのだ」
彼等の話を聞きながらだ。皇帝は呟いた。
「エリザベートはだ」
「皇后様は」
「どうだというのですか」
「この世にある者ではないのだ」
皇帝もだ。今は遠くのものを見る目になっていた。
「別の世界の。そう」
「そう?」
「そうといいますと」
「バイエルン王はワーグナーを愛していたな」
皇帝もだ。このことを知っていた。
「そうだったな」
「はい、あの音楽家です」
「ライプチヒ生まれの」
「あの音楽家の音楽は私も聴いたことがある」
ウィーンは音楽の都だ。彼はその中で常に様々な音楽を聴いている。その中でだ。ワーグナーの音楽も聴いているのである。
だからこそだ。彼は今こう言うのであった。
「森と城。そして英雄か」
「その三つがあるのですか」
「彼の音楽の中には」
「そうだ。森と城」
皇帝はまずはこの二つに言及した。
「エリザベートも王も双方を愛しているな」
「確かに。皇后様は」
「あの方は」
皇后のことはだ。彼等もよく知っていた。
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