戦国異伝供書
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第九話 天守その九
「続いていく」
「そうなりますな」
「それはよいことじゃ」
「徳川殿にそのことを文でも伝えられたと聞いていますが」
「その様じゃな」
「そして徳川殿も喜ばれているとか」
「徳川殿にとってもな」
羽柴は家康の立場に立っても話した。
「四位殿にして頂いたことはよき思い出」
「だからこそ」
「うむ、それでじゃ」
「このことを喜ばれていますな」
「よいことじゃ、四位殿は野心もないし」
城主、万石取りに戻れて満足しているというのだ。
「唆される様な方でもない」
「暗愚でもないので」
「和歌や蹴鞠、剣術はお好きじゃが」
こちらのことでも知られているのだ。
「しかしな」
「酒色にも溺れることもなく」
「穏やかに過ごされるであろう」
「ご正室の方と同じく」
「だからな」
「もうですな」
「今川殿のことは済んだ、よいことじゃ」
信長のよい政だというのだ。
「流石は殿じゃ」
「まさにですな」
「いつも細かいことを先の先まで考えておられる」
「実に」
「それで我等もじゃ」
「天下統一にですな」
「その仕事に励めるぞ、それでじゃが」
ここまで話してだ、羽柴は秀長に笑ってこうも言った。
「お主今日も飲むか」
「酒ですか」
「うむ、どうするか」
「それはこの近江の酒ですか」
「そうじゃが嫌いか」
「いえ、近江の酒も好きですが」
それでもとだ、秀長は兄に笑って述べた。
「実は尾張の酒を持ってきました」
「何と、ここにか」
「はい」
まさにと言うのだった。
「そうしてきたのですが」
「そして尾張の酒をか」
「飲まれますか」
「うむ、久し振りに飲みたくなった」
秀長の言葉を聞いてとだ、羽柴は彼に笑って応えた。
「ではな」
「これよりですな」
「その酒を飲むか、肴はじゃ」
羽柴はこちらの話もした。
「丁度蕎麦がきを出すつもりであった」
「では」
「それとじゃ、味噌の残りもある」
「では」
「この二つでな」
「楽しみますか」
「そうしようぞ、しかし味噌もな」
これのことも話した羽柴だった。
「近頃よく食う様になったな」
「そうなりましたな」
「それはわしも万石取りになってな」
「その味噌もですな」
「普通に買える様になったからか」
「いえ、それに加えて」
秀長はさらに言った。
「近頃味噌が多くなりました」
「市場にじゃな」
「よく出る様になっています」
「増えておるのじゃな」
「味噌がよく作られる様になり」
それでというのだ。
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