戦国異伝供書
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第九話 天守その二
「憂いを取り除いてみせましょうぞ」
「待て、落ち着け」
信長は逸る家臣達にこう告げて抑えた。
「皆の者、そこまで言うのならな」
「はい、それでは」
「すぐに兵を動かしますか」
「そして先陣は誰が」
「誰が務めるのでしょうか」
「皆わしと共に来るのじゃ」
これが信長の返事だった。
「そうせよ」
「では殿ご自身がですな」
「出陣されてですか」
「我等と共に」
「あ奴を討たれますか」
「いや、応じる」
信長はこうも返事した。
「宴にな」
「我等と共に」
「そうしてですか」
「楽しまれる」
「そうされるのですか」
「そうじゃ、攻めずにな」
そうしてというのだ。
「楽しませてもらおう」
「それではですな」
羽柴がこの場ではじめて口を開いた。
「松永殿が開かれる宴を」
「皆で思う存分楽しもうぞ」
「わかり申した、それでは」
「さて、大和の酒も美味いですしな」
今度は慶次が言ってきた。
「しこたま飲みまするか」
「慶次、お主は飲み過ぎるでないぞ」
信長はその慶次に笑って告げた。
「お主は酒が過ぎるからのう」
「だからですか」
「そうじゃ、飲んでいいが過ぎるでないぞ」
「ううむ、辛いですか」
「そこはしっかりせよ」
「では殿」
「殿は我等がお護りします」
信長の護衛役として常に傍にいる毛利と服部が言ってきた。
「普段以上に気を張りです」
「お護りします」
「ですからご安心を」
「何もさせませぬ」
「やれやれ、皆心配性じゃな」
信長は二人の必死の言葉にも鷹揚に笑って応えた。
「弾正を全く信じておらんのう」
「若し何かあれば」
「その素振りさえ見せれば」
二人は羽柴と慶次以外の織田家の家臣達皆が言うことを代弁して述べた。
「あ奴を討ちます」
「そう致します」
「今の弾正はその様なことはせぬ」
信長は自身に満ちた声で言うだけだった。
「だからじゃ」
「行かれても心配無用」
「そう言われますか」
「そうじゃ、しかし皆がそこまで言うからな」
それでと言うのだった。
「皆でわしを守ってくれるか」
「信貴山の城において」
「そうせよと言われますか」
「そうじゃ、そうしてくれるか」
こう彼等に言うのだった。
「ならばな」
「殿が行かれるなら」
それならとだ、柴田も言ってきた。織田家随一の武断派にして忠義者として知られる彼がそうしてきた。
「無論我等も」
「わしを守る為にか」
「お供致します」
「わしもです」
「わしもそうしますぞ」
「無論わしも」
そこにいる者が皆言ってきた、だが。
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