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戦国異伝供書

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第九話 天守その一

               第九話  天守
 信長は松永の信貴山城に招かれた、その話を聞いて平手は即座に彼に言った。
「殿、行かれてはなりませぬ」
「やはり爺が最初にそう言ったのう」
「こう言うのも当然です」
 平手は信長に怒った顔で返した。
「若し城に行けば」
「そこでか」
「お命を狙われるに決まっております」
「それがしもそう思いまする」
 佐々も剣呑な顔で言ってきた。
「あの御仁といえばです」
「主家に公方様とじゃな」
「謀反を行ってきました、ですから」
「わしにもじゃな」
「はい、それこそです」
「何があるかわからぬというのじゃな」
「平手殿の言われる通りです」
 織田家筆頭家老にしてご意見番である彼のというのだ。
「若しあの城に行かれれば」
「わしが討たれるか」
「何を仕込んであるかわかりませぬぞ」
「吹き矢か落とし穴か茶や飯に毒か」
 今度は滝川が言ってきた。
「はたまた吊り天井か上からの岩か」
「何でもあるというのじゃな」
「秘かに葬ろうとすれば」 
 こう信長に言うのだった。
「手は幾らでもあります」
「弾正が仕掛けてくるか」
「もう既に用意していましょう」 
 滝川の読みではそうだった。
「ですから殿を招かれたのです」
「殿、これは謀反の意ありかと」
 池田は信長に本気でこう言った。
「ですから」
「これを口実としてか」
「はい、攻めてです」
 そうしてというのだ。
「滅ぼしてしまいましょう」
「これを機としてか」
「興福寺や奈良の地侍達からも言われておりますし」
 池田自身もだ、織田家の重臣として彼等からそうした声を受けているのだ。これは他の者達も同じだ。
「ですから」
「兵を向けてか」
「あの城を攻め落とし」
 信長が招かれて入るどころかというのだ。
「そうしてです」
「憂いを取り除くべきか」
「そうしておきましょうぞ」
「兵は五万もあれがいいかと」
 竹中も松永は警戒していて信長に進言した。
「そしてあの城を一気に囲み」
「攻め落としてか」
「あの御仁を討ちましょう」
「殿、先陣はそれがしが務めまする」
 前田は勇んで自ら申し出た。
「そしてこの槍にあ奴の首を刺して参上します」
「お主がか」
「ですから今すぐです」
 出陣、それを命じて欲しいというのだ。
「そうして当家の憂いを取り除いてみせます」
「待て、先陣はわしじゃ」
 その前田に川尻が言った。
「わしが先陣を務めてじゃ」
「あ奴の首を取るのか」
「そうじゃ、天下の大罪人の首をな」
「鎮吉、お主前に先陣を務めておったであろうが」
 その川尻に坂井が言った。
「ならば次はじゃ」
「お主だというのか」
「そうじゃ、わしが務めてじゃ」
 そうしてというのだ。
「あ奴の首を取るのじゃ」
「いやいや、ここは大和の者のそれがしが」
 筒井はこの立場から名乗り出た。 
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