勇者のメイド
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教育
僕は勇者付きのメイドとして教育を受ける事になった。
勇者はしばらく剣と魔法の訓練を受けるという。
まあ、主任なら一瞬で全てを理解するだろう。
『一を聞いて十を知る』と言うのは主任のためにある言葉だと思う。
いや、主任なら一を聞いて一万くらい学んでいるんじゃないか?
僕はと言うと、メイド長について『メイドとは何ぞや』というものと、メイドの仕事の一日の流れを学ぶ事になった。
メイド長と言うとハイジに出てくるメイドのばあやのロッテンマイヤーさんを想像したが、歳は意外に若く主任と同い年だと言う。
国王付きのメイドとの事で、その美貌はメイド随一だったが、勇者の女性時代を全く思い出さないのはタイプの違い・・・プロポーションが良い、胸が大きいからだろう。
「私はロッテ、メイド長をしているわ」
見た目も歳もロッテンマイヤーさんとはかけはなれていたが名前だけは似ていた。
「僕は戸村薫です。
勇者付きのメイドをする事になりました。
よろしくお願いします」僕はペコリと頭を下げた。
「わかったわ。
カオルって呼ばせてもらうわね。
カオルは異世界から来たのよね?
この世界の常識がなくてもしょうがないのよね?
今後、今みたいな挨拶はしたらダメよ?
ヘタしたら『不敬罪』で処刑されても文句は言えないわよ?」
「え?どのへんが今の挨拶で不敬にあたるんですか?」
「カオルは『勇者様』を『勇者』って言ったでしょ?
これからは『勇者様』もしくは『ご主人様』って呼んでね。
『勇者様』は『国王様』と同等もしくはそれ以上の地位なの。
当たり前よね、『勇者様』がいないと人類に未来はないんだから。
カオルは国王様以上の存在を呼び捨てにしたのよ。
そうでなくとも、メイドが雇い主を呼び捨てにするなんて事はあり得ない事だわ」
「申し訳ありません!
これからは『勇者様』と呼ばさせて頂きます!」
送別会の次の日から新婚生活が始まったはずなのだ。
今まで『主任』と呼んで当たり前に敬語で話していたのだが、自分の配偶者に敬語を使うのはおかしいだろう。
主任に敬語を使うのも敬意を払うのもそれほど難しい事ではない。
何せ僕は最大級の敬意を主任に払っていて、憧れていたのだ。
呼び方に多少の堅苦しさは感じるが、それだけだ。
「それと一人称は『私(わたくし)』と『自分』を使い分けて下さい。
ここは王宮で友達と遊ぶ場ではありません。
『僕』など問題外です。
あなたは勇者様や国王様の前でも『僕』と言うのですか?」ロッテさんは言った。
ロッテさんはこの世界の常識を教えてくれている。
だがそれはこの世界だけの常識ではない。
以前主任に言われた。
「相手になめられたくなかったら先ずは『僕』と言うのをやめなさい。
社会人で自分の事を『私』と言う男の人は珍しくないわよ?
いきなりなめられないようにはなれないけど、なめられている原因を一つずつ消していく事は出来るわ」
女になったのと関係なく「『僕』と言うな、『私』と言え」と何回も言われて来た。
良い機会だ、一人称を『私』にしよう。
「はい、わかりました。
私はこの世界、女として、メイドとしての常識を全く知りません。
ロッテさん、これからも色々ご指導ご鞭撻のほどお願いします!」僕、いや私は深々と頭を下げた。
「じゃあまずはメイドとしての最も多い仕事、掃除と洗濯ね」ロッテは笑いながら言った。
常識的にあり得ない。
「何だ、こんなモンか」と思われないように、キツい絶対にこなせない仕事を与えたつもりだ。
「掃除ならびに洗濯、言われた分終わりました。
次の仕事の指示、よろしくお願いします!」カオルは涼しい顔でロッテに指示を仰いだ。
「そ、そうね。
じゃあもう一階下の掃除と洗濯を任せてもいいかしら?」ロッテは指示を出したが、二階の掃除と洗濯を一人でやらせるなどというのは本来イジメで、出来る訳がない行為だ。
「かしこまりました」カオルはなに食わぬ顔をして作業にとりかかった。
「楽しい」そうカオルは感じていた。
仕事を楽しいと感じる事はカオルにとって初めてだった。
カオルの元々の趣味は家事全般だった。
カオルは「もしかしたらメイドって天職かも」と思っていた。
しかしこの恰好だけは違和感がある。
まあメイド喫茶のメイドと違ってミニスカートではないし、露出度は低い。
スカートにはまだ慣れないけれど、この恰好には慣れるしかない。
しかしわからない事もある。
「ロッテさん、一つ質問があります」私は言った。
「疑問を疑問のまま置いておいてはいけません。
ましてやカオルは勇者様付きのメイド・・・勇者様付きのメイドの無知は時に勇者様に不快感を与えます。
何なりと質問して下さい」ロッテさんは言った。
「何故ロッテさんのメイド服と私のメイド服は違うのですか?
このメイド服はメイドの正装、メイドは皆私と同じ恰好ではないのですか?」と私。
「私の恰好を決めたのは国王様です。
私は国王様付きのメイドです。
私の行動、恰好、生殺与奪を決めるのは国王様です。
カオル、あなたは勇者様付きのメイドです。
カオルの行動、恰好、生殺与奪を決めるのは勇者様です。
大袈裟な事を言うと『カオルは裸で過ごすべきだ』と勇者様が言ったとしたらカオル、あなたは裸で過ごさなくてはなりません。
今のカオルの恰好は勇者様に指示されるまでの仮の恰好です」
「裸で過ごす・・・ですか」
「脅してしまってごめんなさい。
勇者様はもとは女性との事。
そんな無茶な恰好はさせないでしょう。
王族の中にはお付のメイドを裸で過ごさせる好色な方も確かにいらっしゃいます。
ただそんな方は間違えても勇者様にはなれないでしょう。
カオルはそんな事は心配しなくても良いでしょう」ロッテさんは笑いながら言った。
勇者様が「この恰好のほうが絶対可愛い!」とノリノリで私にミニスカートをはかせる事になるがそれは別の話。
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