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勇者のメイド

作者:海星
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プロローグ

 「この世界、20億人の人間の運命があなたの奥さんにかかっているんです。

 ハッキリ言います。

 あなた一人の都合がこの世界の運命より優先される事はありません」

 それはそうだろう。

 昔、生贄や人柱にされた人々で自分から進んで犠牲になった人も少しはいるだろうけど基本的には「一人の犠牲で周りのみんなが助かるなら・・・」という考え方だと思う。

 異世界から勇者を召喚してその勇者の配偶者が「自分の嫁だからイヤだ」と言って「はいそうですか」と召喚した者達は言わないだろう。

 勝手な理由でない召喚などありえない。

 地球での生活を捨てさせて異世界に召喚するのだ。

 でもこんなに強く僕が渋っているのには訳がある。

 「確かにあなたの妻を私達は勇者として召喚しました。

 勇者様が異世界に配偶者を残してきて魔族討伐に集中出来ないといけないので勇者様と一緒にあなたを召喚しました」

 そうなのである。

 僕が異世界に召喚された理由はほとんどない。

 僕の召喚は勇者のオマケなのだ。

だがなぜ嫁さんがイケメンの勇者なのだろうか?

そしてなんで僕が少女なのだろうか?

「スキルは一つもしくは持っていないのが普通です。

しかし勇者様はスキルを四つも持っています。

『天下無双』と『闇属性絶対耐性』と『精神攻撃無効』と『成長速度8倍』です。

勇者様の子孫は勇者様の遺伝子を受け継いでいます。

勇者様の子種をこの世界の女性達に残して欲しい・・・そう思って王国に伝わる秘術を使い勇者様を男として召喚したのです。

そして勇者様と性を取り替える対象として、勇者様の配偶者が選ばれたのです」

無茶苦茶な理屈だ。

つまり僕の嫁さんは異世界の女性達に子種を分け与えるために男として召喚された、という事らしい。

わからない。

以前嫁さんが他の男に抱かれるなんて言うのは本気でイヤだったが、嫁さんが男になって他の女を抱く・・・その事に関する嫌悪感がない。

実感がわかなすぎてイヤとも感じないのだ。

これ以上ゴネても、僕の意見は一切通らないだろう。

 下手したら処刑されてしまうかも知れない。

勇者である嫁さんの意見ならある程度は通るようだ。

嫁さんは僕と同じ部屋割りにしてもらうように希望した。

「驚いた。

あなたは勇者様を召喚した時についでに一緒に召喚しただけです。

なのにあなたも四つスキルを持っているんですね。

あなたは『家事万能』と『内助の功』と『安産型』と『あげまん』の四つのスキルを持っています。

あなたは勇者様専属のメイドになって、勇者様を支えたらどうでしょうか?」

僕の奥さん・・・奥さんと言うんだろうか?

はたから見たら僕が「奥さん」に見えるだろう。

これから奥さんの事は「勇者」と呼ぶ事にする。

僕が勇者と一緒にいるためには僕が勇者のメイドになるしかないようだ。

こうして勇者付きのメイドが誕生した。 
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