真田十勇士
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巻ノ百五十一 決していく戦その一
巻ノ百五十一 決していく戦
長曾我部は槍を手に柳生との一騎打ちを続けていた、それは近間では激しい打ち合いになり遠間になるとお互いに気を放って攻め合っていた。
その攻めの中でだ、柳生は長曾我部に言った。
「手合わせすればする程わかります」
「わしの腕がか」
「はい、これだけの槍の腕は」
まさにというのだ。
「他には後藤殿でしょうか」
「後藤殿か」
「あの方位でしょう」
「ふん、しかしじゃ」
長曾我部は己を誉める後藤に自嘲して返した。
「わしは大名に戻れなかった」
「もうそのことは」
「諦めた」
こう言うのだった。
「最早な」
「そしてですか」
「大坂で敗れた」
だからだというのだ。
「もうそれではな」
「戦の世が終わったからですな」
「そうじゃ、それではじゃ」
最早というのだ。
「戦は起こらぬ、ではな」
「大名に返り咲いてですな」
「土佐に戻ることもなくなった」
「だからですか」
「もうよい、むしろ今生きておること」
そして柳生と一騎打ちを行っていることがというのだ。
「このことは何故かと考えておる」
「そのことですか」
「一体何故かとな」
「おそらくですが」
柳生は長曾我部と近間で激しい打ち合いを行いつつ言った。
「長曾我部殿はご自身を何だと思われていますか」
「わし自身をか」
「はい、何だと」
「知れたこと。武士じゃ」
長曾我部は柳生に即座に答えた、それも淀みなく。
「それ以外の何か」
「武士だと言われますか」
「そうじゃ、わしは武士じゃ」
まさにというのだ。
「それ以外の何でもないからな」
「だからでござるか」
「わしは今こう答えた」
武士、それだというのだ。
「まさにな」
「だからですか」
「そうじゃ」
また言った長曾我部だった。
「わしは武士、槍を手に戦う者じゃ」
「それです、長曾我部殿は大名であるよりもです」
「武士か」
「そうであられます」
「では武士として生きる」
「その為にです」
まさにというのだ。
「生きておられるのです」
「今もか」
「そうです、武芸者として」
「そうか、わしは武芸をする武士としてか」
「生きられるべきなのでしょう」
「だからわしは死ななかったか」
大坂での戦でというのだ。
「逃げ延びることが出来たか」
「その時危うい時もありましたな」
「その都度家臣達に助けてもらった」
「そしてその家臣の方は」
「一人だけになったがな」
薩摩まで供だったのはというのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「助けられた」
家臣にというのだ。
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