少年の籠
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第一章
少年の籠
インドネシア東部スラウェシ島のトラジャ族の話である。
島のある漁村にアナ=イルという少年がいた、両親は早くに死んで孤児となっていた。
それで父の兄である叔父に養われていたが叔父は猟師だったがいつもアナ=イルが捕まえてくる多くの魚達を見て眉を顰めさせていた。
「わしは猟師をやってかなり経つのにだ」
「それでもっていうの」
「そうだ、それで何で猟師になったばかりのあいつの方が沢山獲るんだ」
こう妻に言うのだった、二人の間には子供がおらずアナ=イルが子供の様なものだった。
「それはどうしてなんだ」
「そう言ってもね」
妻は夫に返した。
「あの子の方がいつも沢山獲ってるのは確かで」
「その魚でか」
「うちはいつも食べるものに困らないし」
彼が獲ったその魚達をだ。
「売って儲けることも出来てるじゃないか」
「だからいいっていうのは」
「何か悪いのかい?」
逆にこう問い返す妻だった。
「あの子が魚を多く獲って」
「わしの立場はどうなるんだ」
長く猟師をしていて親になっている自分がというのだ。
「獲れない時もあるのにあいつだけはだ」
「いつも沢山獲ってるね」
「それでどうしてなんだ」
「あの子の網に何かあるんじゃないかい?」
妻は口を尖らせて言う夫にあっさりと返した。
「それでじゃないかい?」
「あいつの網に秘密があるのか」
「あの子男前だろ」
「ああ」
実はアナ=イルはかなりの美形だ、美少年と言っていい。褐色の日に焼けた顔に整った目鼻立ちで目の光は眩しく澄んでいる。黒髪も奇麗に整っている。
「かなりな」
「それで空から来た女の子と付き合っているみたいだよ」
「空からっていうと」
「そう、天女とね」
「それじゃああの魚獲りの網は」
「天女から貰った魔法の網みたいだよ」
「それでいつもあんなに魚が獲れるのか」
叔父は目を丸くさせて言った。
「そうだったのか」
「そうだと思うよ」
「これでわかった、それならだ」
叔父は自分の妻の話を聞いて言った。
「わしがあいつの網を使えばだ」
「魚をいつも沢山獲れる様になるっていうんだね」
「そうだ、ここはだ」
まさにと言う叔父だった。
「あいつの網を使うぞ」
「そうしてお魚を沢山獲るんだね」
「そうする」
こう言ってだ、そのうえでだった。
叔父はアナ=イルの網を使って魚を多く獲れる様になろうとした、しかし。
自分で使おうとしても手に取ることしか出来ない、それで歯噛みしている叔父にアナ=イルは言った。
「叔父さん、天女の娘に言われたんだけれど」
「何とだ?」
「その網は僕しか使えないんだ」
「何っ、そうなのか」
「うん、そう言われているんだ」
「では魚がいつも沢山獲れるのは御前だけか」
「そうなんだ」
こう叔父に話した。
「悪いけれどね」
「くそっ、じゃあわしはどうすればいいんだ」
「どうすればって言われても」
アナ=イルは叔父に困った顔になって答えた。
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