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厚生委員長の秘密

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第三章

「栗子ちゃんになんなこと言ったら」
「髪の毛、額のことなんてね」
「ああなるに決まってるわよ」
「本人凄く気にしてるのに」
「言ったら怒って裏の顔出るのに」
「羅将モードが」
 それが栗子の裏の顔なのだ、修羅の国の頂点に立つ様な。
「いやあ、今日の試合は勝ったけれど」
「止めるのが怖かったわ」
「先輩力強いし動きも速いから」
「危なかったですよ」
「本当の裏の顔が出たら」
 まさにというのだ。
「気が気でないわ」
「本当にね」
「いやあ、試合には勝ったけれど」
「相手の心ない野次も怖いわね」
「全くよ」
 こんな話もするのだった、栗子の髪の毛のことについては。しかし。
 栗子の髪の毛、額のことは校内では有名なので誰も言わなかった。そしてこのことさえ言わないと彼女は至って平和だった。
 厚生委員会でもだ、彼女はまさに名厚生委員長で作業の時もいつもこう言っていた。
「いい?安全第一よ」
「無理はしないで、ですね」
「怪我に注意してですね」
「そう、そうしてね」
 監督だけでなく自分も動きつつ話す。
「だから慎重に。ゆっくりでいいの」
「ゆっくりですか」
「急がなくてもいいんですか」
「急いでやって怪我したら元も子もないから」
 だからと言う栗子だった。
「怪我をしない様にね」
「慎重にですか
「そうしていくんですね」
「そう、安全第一よ」 
 何といってもという口調だった。
「急げとかいう先生いたら私に言って」
「委員長にですか」
「言えばいいですか」
「そう、言ってね」
 また言う栗子だった。
「そうしたら先生には私がお話するから」
「わかりました」
「じゃあゆっくりとやっていきます」
「安全に気を使いながら」
「そうしていきます」
「そうしてね」
 絶対にと言う栗子だった、委員会の仕事も自分から動きかつ後輩隊にも親切に教えて気遣いも見せていた。
 だがそれでもだ、彼女へのブラックワードは変わっていなかった。
「幾らいい人でも」
「髪の毛、おでこのこと言うと怒るとかな」
「やっぱり怖いわよ」
「地雷だよな」
「そうよね」
 特に後輩達は栗子のそうしたところを恐れていた、このことがとかく栗子の評判を妙なものにしていた。
「何でもこの禿って言った一緒に飲んでた人にアイアンクローかけたとか」
「カラオケの時だよな」
「もう頭がミシミシいって」
「相当に痛かったとか」
「マジで握力強くて」
 林檎を握り潰せる話は実話だった。
「アイアンクローかけられたら本当に痛いらしいし」
「両手でそれぞれ片手指立て伏せ出来るのよね」
「それ普通の女の人じゃないから」
「野球と厚生委員会の仕事の賜物ね」
「とにかく坪木先輩に髪の毛の話はしない」
「おでこの話は」
「そうしないと凄くいい人だから」
 それも何の問題もない、だがある日だ。
 栗子が放課後のクラスで一人額に毛生え薬を塗ってるのを見てだ、ある一年の男子生徒が思わず指差して爆笑してしまった。彼はたまたま三年のクラスに自分の所属している部活の先輩を呼びに行っていたのだ。 
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