麺打ちの極意
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第二章
「風味を効かせるのもいい」
「それもいいか」
「じゃあゴマも用意して」
「メンマを作っておいて」
「それも」
「メンマは味を濃くだ」
これは欠かせないというのだ。
「ラーメンの味を引き立てる為にな」
「よし、じゃあな」
「葱ともやしも用意して」
「メンマもだな」
「そっちは味を濃くして」
皆麦の言う通りに動いていた、そうして順調に進んでいたが麺は皆手打ちの方が食材は問屋で安く仕入れることが出来るという麦の言葉を受けてだった。手打ちになった。
それで皆麦が作った麺を打つことにしたが。
皆の打ち方、手のたどたどしいそれを見て彼は言った。
「いい打ち方がある」
「麺のか」
「それがあるの」
「こうするんだ」
こう言ってだ、麺をビニール袋に包んでだった。そうして。
床に置いて素足で踏んでみせた、そのうえで言うのだった。
「こうするんだ」
「足か」
「手で打つんじゃなくて」
「足で打つのか」
「そうすればいいの」
「こうしたらしっかりとしたコシが出る」
足でしっかりと踏んで打てばというのだ。
「だから手で打つのに慣れていないならな」
「足か」
「足を使うといいの」
「そうだ、後で切り方も教える」
そちらもと言ってだ、実際にだった。
麦は足で踏んで打った麺の切り方ラーメンのそれも教えた、皆そうしてちゃんとしたラーメンを作って文化祭に出した。
するとクラスのラーメン屋は好評だった、皆文化祭の打ち上げの時に麦に笑顔で言った。
「御前のお陰だよ」
「何から何まで教えてくれたから」
「スープの作り方も麺の打ち方も」
「全部教えてくれて自分も動いてくれたから」
「ここまで出来たよ」
「麺のことなら出来ることをする」
麦はクールだが確かな声でクラスメイト達に答えた。
「それだけだ」
「だからか」
「別にいいの、お礼は」
「美味い麺、今回はラーメンを作って売れて好評だった」
そのクールな口調で返した。
「それで充分だ、だからな」
「それでか」
「それでいいの」
「そうだ、これからも麺のことならだ」
自分が絶対の生きがいを見出しているこれのことならというのだ。
「遠慮なく言ってくれ、出来る限りのことをする」
「それじゃあな」
「また麺のことがあれば宜しくね」
「そうさせてもらう」
最後まで淡々とした調子の麦だった、だが打ち上げでだ。たまたま夜食に買っておいたインスタントラーメンが出ると麦はすぐに動いて言った。
「インスタントラーメンも作り方次第でだ」
「美味しくなるのか」
「そうなの」
「こうすれば」
残った食材を見て早速だった、皆に手早くアレンジをしてインスタントラーメンを出した。するとそのラーメンの味も実に美味くそれで皆は麦の麺への情熱がインスタントであろうがそれが麺であれば本物であることも知った、彼が本物の麺好きであることもまた。
麺打ちの極意 完
2018・8・26
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