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白詰襟の苦悩

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第一章

               白詰襟の苦悩
 山本七八はニッポン国の海上防衛隊員である、階級は海尉でありその為着ている制服も冬は黒と金、夏は白と金の士官のものとなっている。
 この夏の制服には略装と礼装がある、略装は半袖で開襟のラフなものだが問題は礼装だ。
 海軍自体からの白い詰襟でありボタンは金色で両肩に階級を表す金色の肩章がある。そしてズボンか膝まで覆ったタイトスカートだ。靴は白だ。
 七八は今その夏の礼装に身を包んでいる、下はズボンであるがズボンもよく似合っていて実に凛々しいものだ。
 部下達はその七八を観て彼等の中でひそひそと話をした。
「山本一尉似合ってるな」
「ああ、冬の制服も似合ってるけれどな」
 黒と金色のそれもというのだ。
「夏の礼装が一番似合ってるよな」
「如何にも海軍士官って感じで」
「防衛隊だけれどな、今は」
「詰襟似合ってるな」
「誰よりもな」
 こう話していた、それは兵士や下士官達だけでなくだ。
 彼の部下である二尉や三尉の階級にある士官達も同じだった、彼等もまた今の七八を観て話していた。
 だが彼等が言うことは下士官や兵士達のそれとは違っていた。
「この制服難儀なんだよな」
「ああ、江田島の時からな」
 海上防衛隊幹部候補生学校、ニッポン国の海上防衛隊幹部を育てるそこにいた時のことからだというのだ。
「一回着たら即クリーニングだからな」
「出さないといけないんだよな」
「白だから」
「そうそう、この色だからな」
 眩しい位の純白、それ故にというのだ。
「ちょっとした汚れが目立つ」
「それが問題なんだよ」
「これでカレーなんか食おうものなら」
「危険物扱う感じになってな」
 カレールーが飛んで間違っても制服を汚さない様にだ。
「そうなるからな」
「どれだけ危険か」
「慎重になるか」
「今だってそうだしな」
「下士官や兵士はな」
「礼装着てもそこまで言われないけれど」
「俺達は違うからな」
 士官である彼等はというのだ。
「着たらすぐだからな」
「一回着ただけでクリーニングだよ」
 それに出させられるのだ。
「しかも着ている間汚すな、だしな」
「靴だってな」
 靴は白エナメルだ、海上防衛隊士官独特の靴だ。
「これだって汚れたらな」
「本当に駄目だしな」
「何から何まで大変だよ」
「略装だと言われないのにな」
 夏に普段着ているこの服はというのだ。
「それなのにな」
「礼装は五月蠅いからな」
「俺達だって今からこの礼装脱がないといけないしな」
 そしてすぐにクリーニングに出さないといけないというのだ。
「恰好いいけれど厄介な服だよ」
「全くだよ」
 七八が着ているその礼装自体の話をしていた、自分達が着ていることもあって。
 だが七八の立ち居振る舞いは毅然としていて無駄がなくだ、汚れなぞ全く付かない感じだった。だがそれでもだ。
 彼女はある日同期の同じ女性隊員にだ、こんなことを言った。
「礼装は実はな」
「好きでないのね」
「デザインは好きだが」
 しかしとだ、彼女と二人だけになっているので言った。 
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