エアツェルング・フォン・ザイン
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そのさんじゅうなな
各々が持ち寄った酒を注ぎ始める。
「フラン、先にこれ飲んどけ」
「なにこれ?」
「ただの酔い覚ましだ」
そう言ってフランに抗毒ポーションを渡す。
「まだ酔ってないよ?」
「酔っ払ったら『この後』参加できなくなるぞ?」
「ん。わかった」
フランがきゅぽん、と瓶をあけて、煽る。
「なにこれぇ…へんなあじ…」
「ほれ、口直しだ」
フランのグラスに注いだのは『フリーリア』。
ケットシー領名産の果実酒だ。
「これは?」
「甘めの酒だ」
フランがフリーリアの入ったグラスを傾け…
「あ、おいしい」
気に入ったようだな。
「お前らも飲むか?」
と紅魔組に果実酒の瓶を見せる。
「ザイン、さっきの、フランに飲ませた薬はなんだ?」
「抗毒ポーション。普通は毒に対抗するための薬だけど、前もって飲めば酒に強くなる」
「私達にもくれないか?」
「いいぜ」
レミィ、咲夜、居眠り門番にポーションを渡す。
パチェ? 留守番だよ。
三人がポーションを飲んで顔をしかめた。
「……何とも言えん味だな」
「美味くも不味くもないだろ?
口直しは何がいい?果実酒?シャンパン?」
「シャンパンをもらおう。咲夜と美鈴は?」
「同じものを」
「咲夜さんに同じく」
ストレージから『スイルベーン』を取りだし、咲夜に手渡す。
時間を止めたのか、瞬時にグラスがシャンパンで充たされた。
「旨いな。このスッと抜ける爽やかさがいいな」
そのコメントにクスッと笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「いや、昔の知り合いも同じようなコメントをしていたと思ってな」
さてと…
ストレージから多量の酒を取り出す。
「ツマミもこんだけあるし、飲もうぜ」
肴になりそうな物でいっぱいのテーブル。
さらに各テーブルに二つ、鍋とカセットコンロが置かれており、中ですき焼きがグツグツと煮えている。
このカセットコンロも突っ込み所の一つだ。
おおかた紫が持ち込んだのだろう。
「えーと…咲夜。煮えてそうなのからフランとレミィによそってあげて」
「かしこまりました」
「じゃぁ俺は少し行ってくるよ」
「もう『始める』の?」
「いや、酒を振る舞うって約束しててな」
という訳でバカルテットの所へ来た。
「お前ら、約束の酒だぞ」
「わはー!」
とりあえずルベライト・ワインを初めとしたパワーアップアイテムを一通りと各種族名産の酒を一本ずつ渡す。
「すんすん…ザイン。これ匂いしないけど」
とリグルに言われた。
「匂いを漏らさない魔法の瓶さ」
ルーミアは知ってるが他は知らないのだろう。
あ、ルーミアと言えば。
「ルーミア、お前が酔うのはまずいからこれ飲め」
「なに?」
「酔い止め」
「まぁ、いいわ」
瓶をあおり微妙な顔をするルーミアに手近な酒を渡す。
「………あま過ぎないこれ?」
渡した瓶のラベルにはオニキス・ミードと書いてあった。
「蜂蜜酒だし。つっても言うほど…あぁ、うん。甘いね」
メティとサンディが好んで呑んでいた酒だ。
ゲーム内アイテムなので『蜂蜜』のイメージ通り結構甘い。
ダイシーカフェで本物のミードを飲ませて貰ってたし、オニキス・ミードの味を忘れていた。
というか角屋州荘に引っ越してからはビールばっかりだったしな…。
え?未成年者飲酒禁止法? 刑事とか公安のエージェントが目ぇ瞑ってるんだからセーフセーフ。
「んじゃ、俺は適当にしてるから。
酒が尽きたら来ていいぞ」
さて、紅魔組の所に戻るか、それとも…
「ザインさーん!」
ん?
呼ばれた方を向くと射命丸が手を振っていたのでそちらへ行く。
「どうした射命丸?」
「文でいいですよ。今日はザインさんに部下を紹介しようかと」
「こんばんは。私は文さんの部下の犬走椛です」
文の隣には白い毛並みのケモミミっ娘。
なるほど、こいつが犬走椛か。
「ザインだ。姓はない。種族は妖精兼戦神だ。
寺子屋で講師をしている」
「ご丁寧にどうも」
「あーもう!堅苦しいですね!
ザインさんも椛ももっと気楽にいきましょうよ!」
つってもなぁ…
「んー…じゃまぁ、宜しくな椛」
握手をしようと手を出すと、椛が困ったように文へ視線を送る。
文は戸惑っている椛へため息をつきつつ言った。
「椛、ここは山じゃないの。
本当に無礼講なのよ。断るのは失礼よ」
「は、はい!」
妖怪の山って大変そうだな…
そして椛が手をだしたので…
握る振りをしてから頭を撫でる。
俺の体は子供だが、椛が座っていて俺が立っているなら問題ない。
「よーしよし!うりうりうりうり!
ここか?ここがええのんか?」
「あっ、ちょっ…やめてくださっ…やめっ!」
「お、おぉ…なんというもふもふ感…
これはこれでなかなか…」
わしゃわしゃと撫でるけど、髪がまったくひっかからない。
「も、椛が大人しく撫でられてるなんて…
私だったら手をはねのけられるというのに…」
つぎに耳をふにふにしてみる。
「ふみゅぅ~」
「お、気持ち良さそう。もう少し触らせて」
ふにふに…ふにふに…
時折ピクって耳が動く。
「わふぅ……」
椛の少し目がトロンとしてきた。
「眠いの?」
「いや、違うと思いますよザインさん」
何が?
「あと、そろそろヤバイのでそこら辺でやめといてください」
「えー…もうちょっと…」
「ダメです」
文に腕を掴まれて止められた。
「わかったよ…まぁ、確かにこのまま椛が寝ちゃったら連れて帰るの文だもんな」
「もうそういう事でいいです…」
あ、そうだ。
「文」
「なんですか?」
「文の翼もふもふしていい?」
「……………………はぁ!?」
そんなに驚く事かな…?
「えと、だめ?」
「可愛く首を傾げないでください。
貴方240でしょ? 精神が幼くなってるんですか?」
ムカつくなー…こいつ…
「うんぼくおさないからあやおねーちゃんのつばささわりたいなー(棒)」
「うざい………。まぁ、私の負けですかね…
いいですよ。存分にもふってください」
文が翼を折り畳んだ状態で顕現させた。
どうやら変化で隠していたらしい。
「けっこう大きいな…。
翼長……3…いや3.5メートルって所か…
あ、いや…文自身の肩幅も加算すればほぼ4メートル…」
「あのー?ザインさん?」
「おぅ、すまんな。性分でね」
文の翼に触れる。
羽毛でフワッとした感触がした。
「なるほど…これが鳥系ワービーストの羽か…」
「天狗ですよ天狗」
「あやしゃまぁ…言ってもむられすよぉ…」
「ちょっ!?なんて顔してんですか椛!?」
「文、うるさい」
羽の一枚一枚もとても艶やかで美しい。
「すげぇ…もふもふだ…」
羽毛の生える方向に沿って撫でると、極上の毛布をさわっている気分だ。
もふもふもふもふ…
「ひぅっ!? なんでそんな的確に…!?」
「えへへ…。てん…文しゃまもきもちよさそーれす…」
「ちょっ!? 椛!?」
そんな風に文の翼をもふったり翼に抱きついたりしていると……
「御主人のうわきものー!!!」
ゴッという音と共に、意識が狩り取られた。
side out
時は少々さかのぼる。
騒がしい宴の一角。
そこでは霊夢、魔理沙、アリス、玉藻ともう一人…
「なんでアンタが居るのよ…魅魔」
「いいじゃない。弟子の様子を見に来たのよ」
「まぁ、暴れなければそれでいいわ」
悪霊であり、魔理沙の師である魅魔も宴会に参加していた。
「ところでアレは?」
魅魔が指差したのはザインだ。
「あれはザイン。一年くらい前に幻想入りした妖精よ」
「妖精?アレが?」
「曰く別世界から転生してきたそうよ」
「なるほど面白い。で、この狐は?」
「ご主人の使い魔の玉藻です」
「玉藻?」
「ご主人が玉藻御前にあやかって名付けました」
「なるほど面白い」
魅魔が玉藻の頭を小突く。
「?」
「いいの?貴方のご主人様はカラスに御執心よ?」
「!」
「さぁ、行ってきなさい」
玉藻はこう、据わった目をしていた。
そして…
「御主人のうわきものー!!!」
とザインにドロップキックをかますのだった。
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