真田十勇士
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巻ノ百五十 本丸の死闘その五
ここでだ、大助が出て来てだった。
幸村にだ、こう言った。
「父上、今度はです」
「お主がか」
「はい」
大助は父に対して冷静な顔で答えた。
「任せて頂きます」
「そうか、しかしな」
「それでもですな」
「わかっておるな」
「死ぬことはですな」
「それはならん」
このことも言うのだった。
「よいな」
「はい、わかっております」
「ならよい、では拙者はな」
「大御所殿の御首を」
「そうさせてもらう」
こう言ってだ、そのうえでだった。
幸村はあえて大助を残して自らは先に進んだ、障子を開けてさらに先の部屋から部屋に進んでいった。
開かれた障子は妖花が一瞥するとそれだけで自然に閉まった、大助は何故そうなったのかすぐにわかった。
「念力か」
「そうだよ、忍術を極めた中でね」
「身に着けられたか」
「それも私の力のうちの一つだよ」
「お見事でござる、しかし」
ここでだ、大助は。
妖花が今閉めた障子を見た、すると正二はまた左右に開きそこからまた閉まった。それで言うのだった。
「それがそれがしもまた」
「出来るんだね」
「この通り」
「そう、貴方も見事なものね」
「それがしも修行の中で身に着けました」
念力、それをというのだ。
「この通り」
「そう、じゃあ私もね」
「手加減は最初から遠慮致します」
「そうさせてもらうね」
こう大助に言うのだった。
「是非ね」
「それじゃあね」
「それでは」
大助は左右それぞれの手に一本ずつ槍を出した、それは父幸村が持っていたものと同じ形の十字槍だった。
その十字槍を手にだ、妖花にあらためて言った。
「この槍の腕もお見せしましょう」
「私もだよ」
妖花は両手に炎を宿らせた、それは燃え盛る紅蓮のものだった。
その紅蓮の炎に己の顔を照らさせつつだ、大助に言うのだった。
「この炎で焼かれなかったものはないよ」
「そしてその炎で」
「闘うね」」
「十二神将筆頭の腕、見せてもらいます」
「それではね」
二人共構えに入った、そのうえで戦に入った。大助もまた戦に入った。
幸村は部屋を進んでいき遂に最後の部屋に着いた、そこに入ると遂にだった。家康が主の座に座っていた。
その家康がだ、自身の前に出た幸村に座したまま悠然として言った。
「よく来たな」
「お久し振りです」
幸村はその家康に礼儀正しく挨拶をした。
「この度は」
「うむ、ここまで来たにはな」
「手合わせして頂けますか」
「そうじゃな、しかしわしはもう七十五」
その歳から答えた家康だった。
「もう幾許もない、だからな」
「それで、ですか」
「わしは代わりに戦ってもらう者を立てたいが」
「その御仁は」
「半蔵」
やはり悠然としたままだ、家康はこの名を呼んだ。
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