魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話
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第百二十九話
前書き
本当ならこの話の後半から行為に入る予定でしたが長くなったのでここまでこっちです。
多分次回…というかこの続きはあっちになるはずです。
本編では円香達のお泊まりになります。
「いや待って姉さん。わけわかんない」
「わからないも何も…。一夏。私を抱け」
「うん。落ち着こう。落ち着こうよ姉さん」
一夏はベッドの上から千冬を見上げながら、姉を宥めようとする。
「一夏。私の処女を貰って欲しい」
「落ち着けってんでしょ!」
一夏が弓を構えるポーズを取る。
虚空から現れた光の弓の弦を、一夏がピンっ…と弾いた。
「梓弓、か」
「落ち着いた?」
「一夏。私は伊達や酔狂で言っているわけではないのだ。
私は本気なんだ」
「吸血鬼の力でブーストされた梓弓食らっても言えるってことは、本気なんだね?」
「ああ。そうだ」
一夏は深いため息をついた。
「するしないはともかくさ、姉さんもこっち来なよ」
一夏が自分の隣をぽん、と叩く。
「ああ、そうさせてもらおう」
ギシ…とベッドが軋み、千冬が一夏の隣に寝転ぶ。
「姉さん。理由を聞かせて?
俺は女心なんてまったく解らない。
だからさ、言葉にしてくれないとわからないんだよ」
「お前なら、読心魔法とて使えるだろう?」
「それは出来ない。読心魔法は相手の全てを見てしまう。
それは、相手に対する冒涜だ」
「そうか…」
千冬がぎゅっと一夏を抱き締める。
「なぁ、一夏」
「なに?」
「私はお前が好きだ。弟としては勿論、一人の男として好きなんだ」
「姉弟なのに?」
「私達はメシアだ。人間の法には縛られない」
「………そう」
一夏の返答は、淡白な物だった。
「驚かないのか?」
「驚いてるよ。俺は姉さんみたいなすごい女に好かれるほど立派な男じゃないからさ」
一夏の卑屈な言葉を、千冬はすぐに否定する。
「お前は十分すごいよ。お前は頭脳明晰で、運動神経よくて、心もつよい」
「俺は強くなんかない。強い自分を演じてるだけ。
前世の記憶でズルしてるだけ。
いつ嘘が露見するかビクビクしてる小物」
「例え前世の記憶だろうと、お前の物だろう。
魔法だって、それで楽をしないで、それを使って鍛えているじゃないか」
「違うんだよ…姉さん。俺は異物なんだよ…
おれは織斑一夏にはなれないんだよ。
偽物なんだよ…」
一夏は、束と箒と関係を持った時にはそんな弱音は吐かなかった。
吐けなかった。
だが、肉親である千冬には、肉親と思える千冬には、そうも行かない。
自分は転生者だ、そう思っていても、弱音を口にしてしまう。
「姉さん。俺は姉さんの事は勿論好きだ。でも姉として、異性としての好きだけじゃないんだよ」
「ならいいではないか」
「姉さんは絶対後悔する。
姉さんはいい男と結婚して幸せになるべきだ」
「お前以上にいい男を私は知らん」
「そう。なら、俺の全てを見せて姉さんを絶望させてあげる。
汚い俺の全てを。織斑一夏じゃない俺を」
一夏が抱擁から抜け出して体を起こす。
それを追って千冬も体を起こした。
「カンヘル」
一夏の腰と胸部、背部に物々しい角ばった装甲とバインダーが現れる。
「トランザムバースト」
背中から伸びたアームで支えられたバインダー内の筒、背中と腰の円錐。
それらが甲高い駆動音を奏で、光を撒き散らす。
『ますたー。千冬に見せるの?』
『うん。そうすれば姉さんも俺を嫌ってくれるから』
一夏の手にフォールドリングが顕れる。
一夏が千冬の手を取る。
「さ、姉さん。俺を嫌ってくれ」
触れられた瞬間、千冬の中に記憶が流れ込む。
織斑一夏の生きた記憶と、その前世の記憶が。
前世の『彼』の好きだった食べ物、嫌いだった食べ物、お気に入りの曲、初恋の人、学校生活の不満、友人との思い出、趣味、特技。
そして、一番お気に入りの小説。
「ね? 俺はズルい人間なんだ。全部答えを知ってるんだ。
織斑一夏が高校生になって、理不尽とか恋とかに悩まされて。
そんな世界に憧れて、そんな世界に来て。
自分を偽って、自分を演じて」
千冬が目を開けた。
「なぁ、一夏」
「なに?姉さん?」
「お前は私を『姉』と呼んでいる。
それが答えではダメなのか?」
「…………………」
単純明快な答えを千冬が提示する。
お前が姉と呼ぶから私は姉なのだと。
「知った。全てを知った。私という存在を、束という存在を。
その『あり得たかもしれない』世界の事を」
「だがこの世界はこの世界だ。
もうお前の知る世界じゃない」
「例えこの世界が神によって創られたか、誰かが書いている小説だとしても、私達は生きている。それでいいじゃないか。
お前はいったい何を悩んでいる?」
「だって、俺は…卑怯だ」
「何がだ?束を惚れさせてしまった事がか?箒と付き合っている事がか?」
「全てを知って動いているから…」
一夏は歯切れの悪い返答しか返せない。
「お前は全てを知った上で、手を差しのべていたじゃないか。
全てを放って生きたって、お前に損は無いと言うのに」
「だって…! だって見てられないじゃん!」
一夏が千冬の襟首を掴む。
「俺は…! 俺は姉さんが悲しんでる顔を知ってるんだ!
家族と離ればなれになる人の泣き顔をさぁ!
だったら!そんな顔になりそうな人がいたら助けない訳にはいかないじゃないか!
ズルしたって! それですくえるなら…!」
一夏の目には涙が浮かび、語気も強い。
紛れもなく心の底からの言葉だった。
「それが答えだろう。何を悩む」
「だって…傲慢だろ…」
ズルズルと、一夏が崩れ落ちる。
「かってに人の人生ねじ曲げて、助けた気になって」
「救われた者が幸せならそれが最適だったということだ。
お前は傲慢だから手を差しのべたわけじゃない。
お前は優しいから、手を差しのべたんだ」
千冬は一夏を全肯定する。
全てを知ってなお。
否、全てを…全ての葛藤と後悔と自己嫌悪を知ったからこそ。
「んで…なんで姉さんは俺を嫌いにならないんだよ…俺は…偽物なんだよ…」
「私にとってはお前が織斑一夏だ。私がこの13年間共に過ごしてきたのはお前だ。
私はお前以外の織斑一夏なんぞ認めん。
私の…この世界の私の弟はお前だよ」
千冬は一夏の背中を撫でようとしたが、装甲に阻まれた。
仕方なく頭を撫でる。
おのずと一夏の頭にある猫耳にも触れる。
「にゃふぅぅ…」
「なぁ、一夏。もう一度聞いて欲しい」
千冬が崩れ落ちた一夏を立ち直らせる。
ガシャ…と装甲が音を発て、フッと消え去った。
「私はお前が好きだ」
「うん…おれも、姉さんが好き。愛してる」
一夏はくしゃりと笑った。
憑き物が落ちたような、そんな笑顔だった。
「一夏。キスしてくれ」
「キス?」
「唇に。大人のキスをして欲しい」
「ん。わかったよ。姉さん」
千冬が身をかがめ、一夏と唇を重ねる。
舌が絡み合い、水音が響く。
十数秒そうして、二人が唇を離す。
銀の橋が途切れた瞬間、千冬が一夏を押し倒した。
「一夏。私は嬉しいよ。愛する男が、生まれるまえから自分を好いていてくれたことが」
「ありがとう。姉さん」
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