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戦国異伝供書

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第七話 長可の修行その三

「落ち着きも備えていくことじゃ」
「そうして徐々にですか」
「猛々しさだけでなくな」
「森家の跡取りに相応しくですか」
「落ち着きと政を出来るだけのものを身に着けよ」
「落ち着きだけではなくなりましたな」
「当然じゃ、これでお主がどうしようもない者ならじゃ」
 それこそというのだ。
「最初から言わぬ」
「左様でありますか」
「お主は政も出来るわ」
 そちらもというのだ。
「それだけの頭は備わっておるわ」
「そう言われたことははじめてです」
「皆思っておったがあまりにも暴れるからじゃ」
 何かあればすぐに刀を抜く様な男だからだというのだ。
「それでじゃ」
「誰もですか」
「言わなかったのじゃ、わしのところに来たから言うのじゃ」
 滝川もというのだ。
「さもなければいい加減怒った平手殿か柴田殿が言っておったぞ」
「あのお二人が」
「林殿か佐久間殿だったかも知れぬがな」
 織田家の宿老の残り二人もというのだ、尚近頃その宿老の一人である柴田と丹羽、明智、そしてこの滝川を入れて織田家四天王と呼ばれることもある。滝川の今の家での格は家老となっている。
「しかしな」
「久助殿のところに参上したので」
「言っておる、ではな」
「これよりですか」
「学問に座禅、茶とな」
「二つはわかりますが」
 ここで蘭丸が言ってきた。
「学問と茶は」
「その二つはか」
「はい、しかし座禅もですか」
「当家ではあまりせぬな」
「他の家はともかくとして」
「殿がそうした修行は興味がおありでないからな」
「そのことから」
 家臣達もなのだ。
「座禅に限らず仏門の修行は」
「雪斎殿は別にしてな」
 今川家から加わったこの者はというのだ。
「あの方は元々禅僧であられるしな」
「そちらの寺の住職であられましたし」
「だからあの方は別だが」
 雪斎はというのだ。
「織田家でもな」
「はい、しかしですね」
「織田家の者は大抵な」
「仏門とは然程縁がないですな」
「寺に参る位はするが」
 しかしというのだ。
「別にな」
「修行まではですね」
「しないが。しかしな」
「兄上については」
「こ奴はどうもじゃ」
 その長可を見ての言葉だ。
「そうしたものも必要と思ってな」
「それでなのですか」
「仏門の修行もしてな」
「落ち着き、自重を得られるべきですか」
「あまりにも血の気が多過ぎる」
 それ故にというのだ。
「そちらの修行もしてみるとよいであろう」
「そして座禅を組まれて」
「落ち着きを得るべきじゃ」
「そうですか」
「うむ、そしてじゃ」
「森家の跡継ぎ、そして織田家の家臣として」
「存分に働いてもらう」
 長可を見て言うのだった。
「これからもな」
「わしも働きたいです」
 長可自身滝川に畏まって答えた。 
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