FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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完全体
前書き
命を燃やしたオーガスト。だが、ティオスにはそれさえも通じなかった。
そして新たな目的を持ったこの男は、次なる行動に打って出る。
オーガストの一撃を受けながら生き長らえているティオス。彼を見た意識のある魔導士たちは、目を見開いていた。
「バカな・・・」
「あれだけ離れていた俺たちにさえダメージがあるのに・・・」
「なんでこいつは立っていられるんだ」
その理由は彼の背中の漆黒の翼。一度はそれを引っ込めたティオスだったがそれは罠。オーガストがそのわずかな希望にすがり自らの全てを賭けて挑んでくると予測していたのだ。
そしてもう彼の肉体が限界を迎えるタイミングで再び翼を羽ばたかせたティオスは攻撃を相殺。多少のダメージは受けたものの、一命を取り止めることができたのだ。
「オーガスト様の死を無駄には・・・くっ!!」
跡形もなく消え去ったオーガスト。彼のためにも、立ち向かおうとしたアイリーンだったが、予想よりもダメージが大きく膝をつく。
「残念だったな、アイリーン・・・ん?」
彼を倒すための最大の戦力を失った魔導士たち。ティオスはここからある目的のために動こうとしたが、この場から離れようとしていく少女が視界に入った。
(メイビス?仲間を置いて逃げるのか?)
妖精軍師と言われた彼女も自分には勝てないのかと考えたが、彼はオーガストの残した言葉でメイビスのこれからの行動がすぐにわかった。
(黒魔導士を仲間にでもするつもりか?)
息子の死を受けもう一度愛を呼び起こそうとしているのかとティオスは感じた。それがどれだけの意味を持つかも、わからないと言うのに。
「所詮"偽りの呪い"に囚われた人間同士、大した脅威にはならないか」
そう呟いたティオスは、一歩、二歩と後退りしたかと思うと、突如シリルたちに背を向け走り出した。
「なっ!?」
「一体なんだって言うんだ!?」
敵前逃亡とも取れるティオスの行動。だがそれは彼の脅威から一時的に逃れられるものとも取れる。ボロボロの彼らからすればこれ以上ない事態とも取れる。
ゾワッ
今のうちに体力を回復させようと考えたエルザはそう指示しようと思ったが、シリルは背中に嫌な汗が流れ出した。
(なんだ?この感じ)
脅威が一時的にとはいえ離れていくはずなのに、嫌な予感が脳裏を過って仕方がない。どんどん離れていく背中。シリルはそれを追い掛けようと駆け出した。
「シリル!?」
「ちょっと!?どうしたのよ!?」
いきなりのことに訳がわからないウェンディたちが彼を呼び止めようとした。
「あいつを逃がしちゃいけない!!ここで逃がしたら大変なことになる気がする!!」
それだけ言い残してそのまま走り去ってしまうシリル。残されたものたちは顔を見合わせたが、すぐに彼のあとを追いかけたのであった。
カツカツカツ
天界に広がる泉。そこでこの事態を覗き込んでいた天使とドラゴンの元に一人の老人が歩いてきた。
「あなたにしては先走り過ぎたんじゃない?オーガスト」
最前列で見ていたヨザイネは振り向くこともせずにその老人の名前を呼ぶ。彼はそれにその場で答えることはせず、ドラゴンたちの間を縫って、彼女の後ろへとやって来る。
「ここが死の世界か?ヨザイネ」
想像したこともなかった死後の世界。それがこんな世界なのかとオーガストは尋ねたが、ヨザイネは首を横に振る。
「ここは本来天使だけの世界・・・あなたもヴァッサボーネたちもいることはできない。もちろん、追放された私もね」
ではなぜこの彼女たちはここにいるのか。その理由も彼女は淡々と語った。
自らの命を燃やし、人々を蘇らせたヨザイネ。天使として、そして人として生活してきた彼女にわずかながらの慈悲が与えられた。それはこの戦いの結末を見届けること。
本来は死後、すぐに次の肉体へと魂を移される。それまでのわずかな時間を特別にここで過ごすことを許されたのだ。
「この戦いが終わったら、みんな本来の順序に沿って次の生命体として生きることになる。その時にはすべての記憶が消え、もう誰のことも思い出せない」
ごく稀に前世の記憶が残っているケースもあるが、それはたまたま抜けてしまっただけであり、必ずしも起きる事象ではない。むしろ起きてはならない現象なのだ。
「そうか・・・」
ヨザイネの説明を聞いたオーガストは悲しそうな表情を浮かべた。それは母には存在を気付いてもらえたが、父からは認められなかった彼ならではの悲しみなのかもしれない。
「あなたの気持ちもわかるわ。でも、それが運命なの。だからこそ・・・」
泉に落ちる一粒の雫。ヨザイネは流れ出るそれを拭い、自分の息子を見つめていた。
「あなたにはあんなに簡単に命を散らしてほしくなかった・・・」
自分と彼とは立ち位置が違っているとヨザイネは感じていた。長年、息子の存在に気付いてあげられなかったヨザイネと、ずっと父のために尽くしていたオーガスト。
そんな二人が同じように大切な人たちの記憶に残っていいわけがない。だからヨザイネは早々に自らの命を燃やした。だが、オーガストには・・・せめて父にも存在を気付かせなければと思っていた。それなのに・・・
「私のことなどいい。お父さんとお母さんが幸せになってくれるのであれば・・・」
健気とも言える息子の願いに聞いていたものたちは切なくなる。だが、それだけに今後の厳しい展開が辛い。
「ティオスにはまだ次の手がある。それを何とかしないと、勝ち目はないのよ」
どんどんシリルたちから距離を開けていくティオス。片腕がないにも関わらず誰にも追い付かれない速度を維持するティオス。彼が何を目指しているのかヨザイネたちはうっすらと感じ取っていた。それゆえに、このあとに起こると思われる出来事に目を凝らしていた。
漆黒の翼を広げ一人の男を見下ろすドラゴン。その圧倒的な魔力を体から溢れ出させている巨大な生物を見上げている天海はなおも余裕の笑みを浮かべている。
「もうこれまでのようにはいかんぞ」
「来い!!」
口をわずかに開き魔力が蓄えていくアクノロギア。それを見ている天海右足を引き、攻撃に備える。
「ハァァァァァッ!!」
魔力を溜めきったアクノロギアは口を大きく開きそれを巨大な雄叫びと共に打ちおろす。天海はそれに対し引いた右足を前に踏み出し、前に突き出した右腕でそれを受け止めようとする。
「ぐっ・・・」
少しずつ後方に押されていく天海。彼は避けようと思えばこの攻撃も避けれたのかもしれない。しかし、強者との戦いを好み、自らの力に絶対の自信を持っている彼は退くことができなかった。
「バカな・・・」
それゆえに、力の差があるこの技を受け流すことができなかった。
「ぐああああああああ!!」
暗黒のブレスに飲み込まれ吹き飛ばされる天海。ボロボロになった彼は地面を転がりなからも、すぐさま立ち上がりアクノロギアを見上げる。
「それが貴様の本気か」
絶対的な支配者として君臨し続ける竜の王。その本気を間近にした彼はビビる所か、笑っていた。
「そうだ。貴様を葬り去る我の真の実力だ」
押されていたアクノロギアはようやく敵が地に手をついたことで得意気な顔をしていた。しかし、天海は余裕の笑みを浮かべていた。
「そうじゃなければつまらない。俺をもっと楽しませろ!!」
強大となった敵になおも挑んでいく天海。二人の戦いはどうなってしまうのか、彼らにもわからないものとなるほど激しさを増していた。
タッタッタッ
その頃、ティオスから離れていたメイビスは懸命に走っていた。
(オーガストのために・・・私がゼレフを止めないと)
オーガストが自らの身を犠牲にしてティオスを止めようとした。その勇敢な姿を見せられた母としては、暴走する父を止められなければ示しがつかない。そう思い彼女は懸命にゼレフの元へと走っていた。
(見つけた!!ゼレフを倒す方法を)
唯一と思われるゼレフを倒せる策。それを見つけたメイビスは妖精の尻尾へと急いだ。
その頃、ティオスはある目的となるある少女たちを見つけていた。
「見~つけたッ!!」
快足を飛ばし座り込んでいる少女の後ろへとたどり着くティオス。その少女の前にいるのは、横たわり、呼吸もしていない金髪の少年が眠っていた。
「誰ッ!?」
後ろに人の気配がしたことで思わず身構えるシェリア。だが、彼女は後ろにいる青年の姿を見て思わず固まっていた。
「え・・・レオン?」
レオンにそっくりな青年。そんな彼が血まみれで片腕を無くして駆けてきたのだ。彼女の警戒が解けてしまうのも無理はない。
「ここにいたのか」
だが彼にはそんな彼女の様子など関係ない。彼の目に映るのは彼女の後ろにいる横たわる少年だけだ。
「レオン!?ねぇ!!レオンなの!?」
思わず目の前の青年に駆け寄って行くシェリア。そんな彼女の姿が目に入った青年はそれを払い除けようとしたが・・・
「・・・」
愛していた彼女の元気そうな姿に、その手が止まる。
「なんで!?なんで生きてるの!?どういうことなの!?」
シリルの肉体で蘇ったが、中身は正真正銘のレオン。おまけに魔力はかなりの大きさもあり、彼と勘違いしてしまうのも無理もない。
「シェリア・・・」
その笑顔を初めて見下ろすことになった彼は懸命に奥歯を噛んでいた。ようやく出会えた彼女の姿に、彼は本当は今すぐにでも抱き締めたかった。その衝動を必死に押さえ込んでいた。
「どうして何も言わないの!?レオン!!」
「っ・・・」
これ以上の言葉を発すれば、自分の中の何かが崩れる。それがわかっていた彼は懸命に自らの心を押さえることに集中していた。
「待て!!レオン!!」
だが、後ろから聞こえてきたその声でティオスはその感情を抑えることに成功した。
「シリル!!ウェンディ!!」
先頭で追い掛けてきたシリル。その後ろからも数人の魔導士たちが駆けてくることにシェリアは目を見開いていた。
「シェリア!!その人から離れて!!」
「そいつはお前の知るレオンじゃない!!」
ウェンディとエルザが何を言っているのかわからないシェリア。キョトンとしているそんな彼女の腹部に、重たい一撃が叩き込まれた。
「えっ・・・レ・・・オ・・・ン?」
その衝撃の正体は彼女が抱き着いていた青年から放たれたものだった。彼女はその痛みに意識を失いそうになりながら、彼の顔を見上げている。
「悪いなシェリア。お前は最後に始末してやる」
予期せぬ不意討ちにそのまま地面に崩れ落ちるシェリア。彼女は変わり果ててしまった幼馴染みに絶望しながら意識を失ってしまった。
「シェリア!!」
気を失っている友人に駆け寄るウェンディ。その間にティオスはゆっくりとした足取りで自身のかつての肉体へと向かっていく。
「何する気だ!!レオン!!」
その声に思わず足を止めるティオス。シリルは背を向けたままの彼を睨み付ける。
「シリル、俺はお前の実力は十分認めているつもりだ」
「??」
突然の告白に眉間にシワを寄せる。ティオスは横たわるレオンの前に膝をつくと、彼の胸に手を当てる。
「正直今のままの俺ではお前に勝てるか微妙なところかもしれない。だが・・・」
ティオスの手から光が発せられていく。すると、次第にレオンの体にある変化が起き始めた。
「レオンが・・・消え・・・」
次第に薄れていくレオンの体。それに比例するように、切り落とされたはずのティオスの腕がみるみる修復していく。
「お前!!やめろ!!」
「もう遅い」
それを止めようとしたシリル。少年は懸命にティオスに体当たりしたが、その時にはもう遅かった。
「そんなバカな・・・」
「こんなことって・・・」
完全に肉体すらもこの世界から消え失せてしまったレオン。それに対し、ティオスは元通りの体に戻り・・・傷すらも癒えてしまっていた。
「やはりそうだ。何かおかしいと思っていたんだ」
蘇った腕の感覚を確かめながら、シリルたちへと視線を向ける。その体から感じられる魔力は、これまでのそれを超越していた。
「なぜか未来にいた時ほどの力を出せなかったのは、俺が過去の俺と一体化できていなかったからだ。だからカミューニの攻撃に反応することができなかったのか」
かつて未来からやってきたローグは現在のローグと一体化しようとした。それは自らの肉体を完全とするために必要だったから。
だが彼はナツに阻止され一つになることができなかった。ならば目の前にいる青年は果たしてどうだろう。その力を遥かに凌駕していく力を秘めていた彼が、さらなる力を得てしまったのだ。
「だがまだ完全じゃないな」
そう言うティオスの目に映る水色の髪の少年。
「お前の吸収すれば、俺は完全体になれるわけか」
さらなる力を欲して進化を続けるティオス。進化を遂げたこの男を、果たしてシリルは止められるのだろうか。
後書き
いかがだったでしょうか。
本当にすみません、色々とあって更新が大変遅くなりました。
これからはもう少し早く更新できるように頑張ります、はい。
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