繰リ返ス世界デ最高ノ結末ヲ
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06.そうだ、刑務所に逝こう。
第4回
昼。太陽が真上に上り、刑務所のコンクリートをジリジリと照らす。
「嗚呼、有難うね。葉月」部下に対する態度と変えずに、葉月に接する琴葉。「来ないかと思った」
「全く、首領がお前に従えって指示出したんだから、仕方なく来たんだよ」不機嫌な雰囲気を撒き散らしながら、葉月は頭を掻く。琴葉は表情を変えずに、それを横目で見ている。
「さぁて、そろそろ来るよ」
そう琴葉が言った時だった。
近くの海が割れ、其処から十つの影が出て来て、段々と人の形を作っていく。完成したその姿は、吸血鬼の兵器である、"殺人人形"と呼ばれる物だった気がする。
「単に操られているだけだね、予想通りだよ。じゃ、計画通りに頼んだよ」
「分かってるっつーの」
琴葉と葉月は、同時に短剣を構える。それと同時に、十体の人形が二人に剣を向ける。
そして、地面を強く蹴り距離を一瞬で詰める。
「………ッ!!」
最初に琴葉達に突っ込んできた三体の人形は、一斉に剣を引き、それを目にも留まらない速さで突き出す。それを、五回繰り返した後、大きく剣を引いて、一点を目掛けて突き出す。
が、前に出た琴葉は、その剣先に短剣を当て、軌道を逸らす。そして、最後は大きく弾く。人形の体は後ろに大きく仰け反っているため、この三体の攻撃は暫く来ない筈だ。
「【時間操作】」
一度瞬きをした瞬間に、その三体の人形の意識は闇の底に消えている。
いくら吸血鬼の兵器だと言えど、元は人間。簡単では無いが、意識を刈り取る事は不可能では無い。
見事、人形達の意識を刈り取ったのは、能力を遣って、自分以外の時間を止めた葉月だった。
「…………ん?」
次は二体。一体は先程と同じ様な刺突で、もう一体は幻影の剣を生み出し、それを琴葉目掛けて飛ばす。
対して琴葉は、刺突は剣の軌道を逸らして回避して、飛んでくる剣は、後ろに大きく跳んで回避する。そして、剣を生み出した方の人形に急接近し、短剣の鞘を鳩尾に刺す様に押し付ける。勢いによって、人形は大きく吹っ飛び、意識を失う。
もう一体の人形は、葉月が時間を止めて、先程と同じ方法で意識を飛ばした。
「残り五体。絶対に殺さないでね?」
「わぁってる!!」
此処までは琴葉の作戦通り。
「襲い掛かって来た人形は、迷わず意識を飛ばせ。絶対に殺すな。後でノアに運び届ける」それが琴葉からの指示。
「私が人形の攻撃を捌くから、そしたら葉月が入ってきてトドメを刺す」それが琴葉の作戦。
どちらも、簡単過ぎる説明だったが、葉月にはそれが理解出来た。
だが、此処で順調に行っていた作戦は崩れていく。
「ウソ……!! どうして殺人ドールが………」
「はぁッ!?」
扉が開き、奥から聖月が出て来る。その顔は焦りが滲み出ている。友好関係を築いていた吸血鬼の兵器が、また襲撃に来たのだから。
「オイ!! こっち来んな!」葉月が切羽詰まった声で叫ぶ。目の前には剣を構え、今直ぐにでも突っ掛かってきそうな人形が二体。
「どうして! これは私達の問題よ」琴葉達の方に段々と近寄って行く聖月。自身の持つ細剣を鞘から抜き、攻撃が出来る態勢になる。
「危険だ、下がれ!!」葉月はそう言うが、聖月は聞かない。
自分達が巻き起こしたような件に、他人を巻き込みたくないと思う葉月。
自分達が問題だと思い、責任を取ろうと思う聖月。
それを横目で見ながら、琴葉は冷静に人形を観察する。そして、ある異変に気が付いた。
―――――一体足りない。
人形が一体、姿を消したと言う異変に。
「………って、危ねぇ!!」
葉月が叫ぶ。
聖月は咄嗟に振り向く。
消えた一体の人形が剣を振り下ろす。
――――琴葉が聖月と人形の間に割って入る。
「………ッあ"ぁあ!!」
赤い鮮血が飛び散る。それは紅い華の様。
「………え?」
突然の出来事に頭が追い付かず、ただその場で狼狽える聖月。目の前には、剣で肩から胸までを抉られた琴葉が居る。
「オイッ!! もう一擊来るぞ、避けろ!! 横に跳べッ!!」
「ぇ、あ………」
葉月が叫ぶが、既に剣は聖月の目前まで近付いていた。
「………ッあ"」
咄嗟に聖月を突き飛ばし、庇ったのは琴葉だった。斬撃が、右眼の辺りに当たる。
「琴葉ぁぁぁああああああぁああ!!!」
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