FAIRY TAIL ―Memory Jewel―
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第2章 鬼神の目にも涙編
Story 17 尻尾の掴み合い
前書き
お久しぶりです!紺碧の海です!
今回はマグノリアから忽然と姿を消してしまったイブキを探すためナツ達があちらこちらで大奮闘します!一方そんな中、バンリは一人とある場所へ……。そしてそこで意外な人物とご対面です!
それではStory17……スタートです!
―妖精の尻尾 ギルド内―
イブキがいなくなってから半日が経とうとしていた。
目を覚ましたウェンディから鬼化の呪いのこと、イブキがあと数日で鬼と化してしまうこと、スミレ村での出来事などを聞いた妖精の尻尾の魔導士達は、困惑、恐怖、悲哀などのさまざまな思いを抱えた混沌とした状態のままバーカウンター前に集合していた。
「た、大変なことになっちまったな……。」
「あ…あぁ……。俺達が、あんな新聞さえ持って来なけりゃ、こんなの事には……。」
「2人のせいじゃないよ!ほら、元気出して?」
落ち込むジェットとドロイを励ますようにレビィが明るく声をかける。そんなレビィも姿を消したイブキのことをもちろん心配していた。
「しっかし、まさか接収・鬼の魂がでっちあげだったとはな……。」
「あぁ……。つーことはよぉ、イブキの魔法そのものが呪いってことだよな?」
「そ、そうなる…よな……?」
「イブキ兄は、今までずっと呪いを使って戦ってきた……ってこと?」
「「………。」」
互いに顔を見合わせながらマカオとワカバは鬼の魂について話す。そして割って入って来たロメオの言葉に思わず黙りこくってしまった。
「ねぇパパ、ママ。イブキは?」
「え、えぇ…っとぉ……イブキはな」
「今日はまだイブキは来てないのよ。来るまで、ママ達と一緒にあっちで遊んでよっか。」
「うん!」
イブキと遊ぶのが大好きなアスカにはまだ何も伝えていない。素朴で純粋なアスカの問いにアルザックとビスカは返答するのに苦労したが、それでも娘の前では笑顔を浮かべる。これ以上はここに居られないと悟った2人はアスカの手を引いてギルドの奥へと引っ込んで行った。
「イブキ、ギルドに来てからずっと一人で抱え込んでたのかな……?」
「コテツ……。」
「僕、イブキとは付き合いも長いのに、そんな事にも気づいてあげれなかったんだ……。」
コテツは9年という長い時間、同じ場所で共に過ごしてきた仲間であるイブキがずっと苦しみ続けてきたことに気づいてやれなかったことを酷く後悔する。
「リサーナ達は知らなかったのか?接収・鬼の魂がでっちあげられた魔法だって。」
「う、うん……。」
「こんな事にも気づけなかったなんて、漢として失格だ……。」
アオイの問いにリサーナは俯きがちに小さく頷き、エルフマンは頭を抱え込む。
「………。」
「ミラさん……?」
俯き、椅子に座っているミラの膝の上に置かれている軽く握り締められた両の拳が震えているのに気づいたルーシィが声をかけると、ミラは顔を上げずに震える唇で言葉を紡ぐ。
「私ね……嬉しかったの。6年前、エルフマンとリサーナと一緒に妖精の尻尾に加入して、私だけギルドに馴染めないでいた時、真っ先に声をかけてくれたのがイブキだったの。」
『オイ、待てよ。』
『!』
『弟と妹置いてドコ行く気だよ?』
幼いエルフマンとリサーナをギルドに残し、そのままマグノリアから去ろうとしたミラに生意気に声をかけてきたのは、紫と赤のオッドアイが特徴的なミラより4つも年下の男、イブキだった。
『……何の用だ。』
『ギルドの先輩として、そして同じ魔法を使う先輩として、てめェにちょっとアドバイスしてやろうと思ってよ。』
『同じ、魔法……?』
『よーく見てろよ!よっ、と……!』
『!』
そう言うと、イブキは一瞬にして自身の姿を黒くて硬い皮膚に覆われている緩く弧を描いた2本の角を額から生やした醜い鬼に変えた。
それを見たミラは目を丸くしたまま言葉を失ってしまった。
『驚いただろ?』
『お前…どこで、それを……?』
『あー……ンなことはどーでもいいだろ。俺もてめェと同じ接収を使うんだ。まっ、俺の場合体に宿しているのは鬼の力だけどな。』
『鬼、だと……?』
紫と赤のオッドアイはそのままで、イブキは鋭く尖った牙が生え揃った口角を得意げに上げる。
『悪魔なんかよりも……醜くて恐ろしくて、憎々しくて悍ましい化け物だ。』
どうしてイブキが自嘲気味に言ったのか……。当時のミラにはまだ理解することが出来なかった。
『てめェのその腕なんか、まだかわいいもんだろーが。』
『………。』
ミラは自分の異形な右腕に視線を落とす。
何度見ても、その腕は見てるだけで吐き気を覚える。だが、それが自分の腕なのだと気づくと悔しくて悔しくて唇を噛み締めた。
『戸惑うのも不安になるのもわかる。でもよォ、もうてめェはその悪魔の力を自分の体に宿して、接収・悪魔の魂っていう立派な“魔法”として使いこなしていかなきゃならねェんだ。』
接収を解きながらイブキは言う。
『その“魔法”で、大切なものを守る為によ。』
『!』
その言葉にミラはハッとして顔を上げると、イブキは夕日を背にして笑っていた。
瞬きを何度か繰り返し、ミラが口を開こうとしたその時だった。
『ミラ姉ーーーっ!』
『姉ちゃーーーんっ!』
『!』
『やっと来たか……。』
リサーナとエルフマンがこちらに向かって手を振りながら駆けて来て、2人を見たイブキがやれやれといった感じでため息を吐いた。
『ど、どうしたんだ……?』
『ミラ姉、見て見てー!』
『姉ちゃん、きっと驚くよ。』
『『それっ!!』』
理解が追いつかないミラはそっちのけで、リサーナとエルフマンは嬉しそうに顔を見合わせると、
『アニマルソウル、キャット!』
『ビーストソウル、くま!……手だけ。』
『えっ!?』
ポンッ!と音を立ててそれぞれ白い猫と茶色いくま(ただし手だけ)に姿を変えてみせた。突然すぎる思わぬ出来事にミラは短く驚嘆の声を上げた。
『イブキに教えてもらったんだ。ミラ姉と同じ魔法だよ。』
『俺はまだ、手しか出来ないけど。』
『お前が……。』
『コイツ等がしつこくせがってきたから仕方なくな。』
『………。』
イブキは若干恥ずかしそうにミラから目を逸らしながら言う。
薄っすらとミラの両目に涙が浮かぶ。
『私達は3人はいつも一緒だよ!』
『だから、魔法も一緒だ!』
ミラの顔を覗き込みながらリサーナとエルフマンは言うと、
『わっ!あ、あれ?あれ……?まだ上手くいかないよー!』
『わーっ!俺もだーっ!』
『おいおい、あれほど油断するなって言っただろーが。』
ポンッ!と音を立てて猫から子豚、くまの手から馬の手に変わってしまい、まだまだ魔法初心者だということがバレバレだ。2人の様子を見てイブキがまたため息を吐いた。
『ぷっ……。』
そんなやり取りにミラは小さく吹き出すと、
『そんな魔法で、ギルドの仕事熟せるのかよ。』
『姉ちゃんがその力で俺達を守ってくれたように、今度は俺達が姉ちゃんを守るよ。』
涙を拭いながら言うミラの目を真っ直ぐ見つめ、エルフマンが意を決したように言った。
『ほらな、言っただろ?』
一人頭の後ろで腕を組みながら、ギルドに向かって歩き出そうとしたイブキがミラ達に背を向けたまま口を開いた。
『誇りに思えよ。その力を……その“魔法”をな!』
握る拳に力を込める。
「イブキは今まで、自分の力で……“魔法”で、ちゃんと大切なものを守ってきたのよ。だけど、ちょっと守りすぎちゃって、自分の事を疎かにしてたのね……。私、イブキにずっと勇気付けられてきたのに……まだ、何も…返せてないのに……!」
「ミラさん……。」
ルーシィはミラの震える肩に手を置くことしか出来なかった。
「おいじっちゃん!何でイブキの呪いのこと知ってて俺達に何も言ってくれなかったんだよッ!?」
バン!とカウンターを勢いよく叩きつけながらカウンターに腰掛けるマスターにナツは詰め寄る。
「これはイブキの意志じゃ。イブキ自身、「誰にも言うな」とワシに言ってきたのじゃから、ワシがとやかく言うことは出来ん。」
「随分水臭ェじゃねーかよ。」
首を振るマスターの言葉に、グレイを苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。
「約束、じゃからな……。イブキの奴が完全に鬼と化し、人間時の記憶も理性も失って、ワシの大切な家族を傷つけた……その時が来たら、例えそれがイブキであっても、鬼であっても……容赦はせん。」
「そんな……。」
「………。」
マスターの言葉にエメラは息を呑み、再びその言葉の重さを痛感したウェンディは唇を噛み締めた。
他の皆も、すっかり肩を落としてしまっている。
「んで?これからあたし等はどうするんだい?」
カナが腕を組み直しながら口を開いた。
「ウェンディの話からすると、イブキが完全に鬼と化してしまうまで……もう、時間も無いのよね……?」
「当の本人のイブキもいないし、呪いを解く方法も分からない……か。」
レーラとティールがそれぞれ首をひねり、顎に手を添えながら考え込む。
「いや、まだ諦めるのは早い。」
そう言ったのは今までずっと皆の会話に耳を傾けていたエルザだった。
エルザは自分のその言葉に顔を上げた皆を見回しながら再び口を開く。
「これだけの人数がいるんだ。協力すれば、イブキの呪いを解く方法もきっと見つかるはずだ。……いや、仲間の命がかかっている。必ず見つけなければならん!」
エルザの言葉にナツとグレイはニィッと口角を上げ、コテツが唇を引き結び、ガジルがギヒッと乾いた笑いを零し、アオイとエメラは顔を見合わせ頷き合い、ルーシィが胸の前で拳を握り締める。
「一人じゃ不安なことでも、不可能なことでも……仲間がいれば寄り添って、支え合えるんだ。」
「ふふっ、エルザの言う通りだね。」
皆に言い聞かせるように紡いだエルザの説得力のある言葉に真っ先に賛同したのはリンだった。
リンはコップに残っていたピーチソーダをストローで一気に飲み干すと席から立ち上がる。チリン、と頭の上で鈴が軽やかに鳴り響く。
「いつまでもくよくよしてちゃダメ。仲間のピンチに立ち向かうのが、私達妖精の尻尾の魔導士でしょ?考えて悩むより、まずは行動……ううん、思いっきり暴れないと!」
「リンさんの言うとーり!」
小首を僅かに傾げながら言うリンの胸にサーニャが勢いよく抱き着く。
「確かに、悩んでるなんて俺達らしくねェよな。」
「あぁ、全くだ!」
「見てくれ!新しい舞を思いついたんだ!名付けて……“暴れ回る”!」
「言葉通りただ暴れ回ってるだけじゃねーか!」
「おい止めろって!」
「まぁ、これが私達らしいよね。」
サーニャに続いてウォーレン、マックスが頷き、たった今思いついた舞を披露するビジターをリーダスとナブが止め、ラキとキナナがそれを見て笑い合う。
「で?行動っつっても、具体的にどーしろっていうんだよ?」
「俺はリン姉が行くとこなら、どこでもついてくぜ!」
柱に体重を預けていたラクサスとその隣で頭の後ろで腕を組みながらジーハスが白い歯を見せながら笑う。
「イブキを捜索するグループと、呪いを解く方法を探すグループに分けた方がいいんじゃないか?」
「その方が効率いいしね。」
「俺とベイビー達はもちろん捜索にまわるぜ!」
「まわるぜー、まわるぜー。」
フリードの提案にエバ、ビックスロー、ベイビー達が賛同する。
「いや、まずはイブキを見つけることを最優先にしよう。2人以上で行動し、イブキを見つけ次第すぐにギルドに連れ戻すんだ。あいつのことだ…きっと私達の姿を見たら責任を感じて逃げ出すに違いないからな。」
「アイツ、変なところで俺達に気を遣うよな。」
「見かけによらず、意外と繊細なんですよ。」
エルザがてきぱきと指示を出し、ガジルの言葉にジュビアが苦笑いをしながら返答する。
「おっしゃー!燃えてきたーーーっ!行くぞハッピー!アオイ!イブキの奴、見つけたらぶん殴るぞっ!」
「皆に心配かけたからね。」
「捜索範囲はマグノリアだけじゃないからな。お前等、急ぐぞ。」
「おう!」
「あいさー!」
ナツ、ハッピー、アオイが真っ先にギルドを飛び出して行った。
「リンさん、私達も行こう!」
「そうだね。」
「どこから探しますか?」
「ちょっとエメラさん!何でグレイ様と2人っきりで行こうとしているんですか!?」
「え、えぇ!?そ…そんなつもりは……。」
「おいおい……。いいから行くぞ。」
「ラクサス、俺達も行こう。」
「あぁ。」
ナツ達に続いて、花時の殲滅団、グレイとエメラとジュビア、ラクサスと親衛隊がギルドを出発し、他のメンバーも簡単に荷物をまとめると各々の向かう街へイブキを捜索しに行き始めた。
「姉ちゃんは、ギルドで待ってろよ。」
「え、でも……。」
「もしイブキがギルドに戻って来た時、誰もいなかったら困るでしょ?きっとお腹も空かせているだろうし。だからミラ姉はギルドで待ってて!」
「……わかったわ。2人とも、気をつけてね。」
「おう!」
「行って来まーす!」
ミラはイブキの捜索に向かうエルフマンとリサーナを手を振りながら見送る。
「ウェンディはどうするの?」
シャルルを腕に抱えながら皆がギルドを出て行くのを見届けていたウェンディにルーシィが問いかける。
「私は、行きたいところがあるのでそこに向かいます。」
「行きたいところ?」
「はい。」
ウェンディの言葉にルーシィは首をひねるが、ウェンディはそれ以上何も言わない。
「えっと、私とコテツも一緒に行く?」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。今日はシャルルも一緒なので。」
「今日はちゃーんと、この子について行くわ。」
「……そっか。それなら安心ね。」
ウェンディの腕の中で胸を張るシャルルを見てルーシィは頷く。
(もしかして、責任を感じているのかしら……?)
あの日、余計な気を利かせずに、いつものように自分がウェンディとイブキと一緒に出かけていればこんなことにはならなかったかもしれない……。
シャルルがそんなことを思っているのかはルーシィにはわからないが、ここはウェンディのことは全てシャルルに任せることにする。
「さて……。私達もそろそろイブキを探しに行くぞ、バン---ん?」
ギルドのメンバーのほとんどがイブキを探しに行ったところで、エルザはいつも同じテーブルで本を読んでいるその姿に声をかける。が、振り向くとそこにいるはずの姿---バンリは影も形もない。
「あれ?バンリ?いつの間に!?」
「そういえば、いつも以上に静かだったわね。」
いつの間にか姿を消しているバンリにコテツは目を丸くし、ミラは今までの会話の内容を思い出しながら言う。確かに、ただでさえ数少ないバンリの発言が一切無い。
「バンリなら、ナツとハッピーとアオイが出て行く前にギルドを出てったぞい。」
「えぇ!?」
「ナツとハッピーとアオイって……一番最初じゃない!?」
「バンリさんらしいね……。」
マスターの言葉にルーシィとシャルルが驚嘆の声を上げ、ウェンディが思わず苦笑いをする。
「全くあいつは……。」
「きっと、バンリなりに何か考えがあっての行動よ。」
「あぁ、そうだろうな。……仕方ない。ルーシィ、コテツ、私も同行させてくれないか?」
「もちろんよ。」
「エルザがいると心強いな〜。」
バンリの勝手な行動に肩を竦めながら、エルザは大量の荷物を積んだ荷車と共にルーシィとコテツと共にギルドを出て行く。
「シャルル、私達も行こう。」
「えぇ。でも、どこに行くのよ?」
「……スミレ村に。イブキさんの呪いについて何かわかるかもしれないの。」
「ウェンディ……。」
ウェンディにもう迷いはなかった。
意を決したウェンディの華奢な肩にミラがポンと手を置く。
「ミラさん……。」
「……2人とも、気をつけてね。」
「はい!」
「行ってくるわ。」
シャルルを抱く腕に力を込める。
些細なことでもいい。きっと、何かがあるはず-----。そんな期待を胸にウェンディとシャルルはスミレ村へと向かう。
ウェンディの小さな背中が完全に見えなくなるまで見届けると、食器洗いの続きをしようとバーカウンターの方に向きを変えるのと、マスターがバーカウンターから飛び降りるのが同時だった。
「さてと……。ワシもちょいっと出かけてくるかのぉ。」
「え?マスターも……ですか?」
「うむ。」
手ぶらのままどこかに出かけるマスターを見送るためにミラは再び扉の前まで足を運ぶ。
そして扉から一歩外に出たところでマスターは立ち止まり、ミラに背を向けたまま言葉を紡いだ。
「安心せい、これは悪い夢なんじゃ。ワシ等に出来ることは、この夢が一刻も早く覚めるようにただ祈り、信じることだけじゃ。-----何も、心配することはない。」
-魔導図書館-
とある森の奥深く、そこに天高くそびえ立つとある建物がひっそりと佇んでいる。あまりの高さに、建物の天辺が雲間に隠れてしまっている。
ここは、古今東西のありとあらゆる魔法書が保管されている、魔導図書館。
中に入れば、四方八方をぐるりと囲む棚に部類ごとに魔法書が敷き詰められている。エレベーターなどそんな最先端なものは無いため、移動手段は本棚と本棚に隔てられた細い道を渡るか、本棚に不安定にかけられた梯子のみだ。
古き時代の魔法書も置かれているため、考古や歴史的に残る神聖な場所ではあるものの、訪問者は年に両手で数えられるほどしかいないため、常にどこか埃っぽい空気が漂っているのが難点……のはずが、今日は常より空気が澄んでいる。……換気でもしたのだろうか?
「………。」
そんな魔導図書館の少ない訪問割合の約9割にあたる男---バンリ・オルフェイドは、先程から解除魔法に関する魔法書が置かれた棚を行き来し、魔法書を取り出しては読み、取り出しては読みを繰り返していた。
「………。」
バンリは右下にあった、ここに来てから37冊目となる魔法書を手に取ると、器用に梯子に足をかけたままバランスをとり、その状態で風詠みの眼鏡をかけ直し本を開く。
最新版の風詠みの眼鏡なので、通常の120倍の速度で本を読むことが出来るため一冊読み終えるのに5分もかからない。バンリはその魔法書を読み終えるとすぐさまその隣の魔法書に目を通していく。
(……おかしい。俺の記憶が正しければ、確か…この棚にあったはず……。)
そんなバンリに、背後から忍び寄る影が一つ-----。
魔力から発する気配を消し、息を殺し、音一つ立てずにそっと腕を伸ばして……
「っ!」
「わっ……と。」
忍び寄る影があともう少しで肩に触れそうになったところで、バンリは目にも留まらぬ速さで振り返り、いつの間に手にしたのか腰に差していた小刀を振りかざす。
「えっと、す、すみません!驚かせてしまいましたか……?」
白い花の髪飾りがあしらった長い群青色の髪を揺らしながら小首を傾げる少女はバンリの紅玉のように赤い瞳を真っ直ぐ見つめながら問いかける。
その少女はなぜか、翼が生えた青色瞳を持つ白馬に跨っていた。
「……何者だ。」
「そ、そんなに睨まないで下さい。怪しい者じゃないですよ?……って、これ言ったら余計怪しまれちゃいますね。」
少女からの質問には一切答えず、小刀の切っ先を少女に向けたままバンリは淡々と短く問いかける。
少女は肩を竦めると、自分が着ている服がよく見えるように腕を広げながら口を開いた。
「私は評議院第3強行検束部隊専属諜報員兼専属救護係兼隊長副隊長補佐のミヅキ・オルニシアです。」
「第3……。」
やたら多くて長い役職名を名乗る女---ミヅキの言葉に、バンリは内心ドキッとする。
(あのルギアルという奴の部下か……。)
今でもあの時感じたルギアルの意味深な視線と微笑が脳裏を掠め、そのまま離れないでいた。
「あなたは妖精の尻尾のバンリ・オルフェイドさんですよね?お噂は兼ね兼ね承っております。闇ギルド、薔薇の女帝の捕縛の際は大変お世話になりました。まぁ、その時私は別件でその場にいなかったんですけど。」
「………。」
「だ、だから、そんなに睨まないで下さいよ……。」
バンリが警戒心を緩める素振りも気配も一切見せない様子にミヅキはショックを受け肩を落とす。
「あの……出来れば刀を下ろして頂けませんか?この子も驚いてますし……。」
「……星霊。」
「さすがですね。天馬座のペガシスです。」
ミヅキは白馬---天馬座のペガシスの首の辺りを優しく撫でながら答える。バンリは渋々小刀を腰に戻した。
「ちょっと上の方に用があって来たんです。時間を大幅に節約する為に、この子に乗って移動していたんですけど、上に向かっている途中であなたを見つけたんです。何かを探している様子でしたので……って、聞いてます!?」
「………。」
これっぽっちも聞いていないことをベラベラと話し出したミヅキをそっちのけにし、バンリは読みかけだった魔法書に視線を戻す。
「古代魔法の解除方法?」
「!」
「何か解除したい魔法があるんですか?」
バンリの肩越しからペガシスに乗ったミヅキが魔法書を覗き込みながら問いかける。
「……関係無い。」
「あぁ、そういえば……先日、ここにある全ての魔法書を一気に整理されたんです。」
「!」
「いわゆる、季節外れですが大掃除ですね。ほとんどの魔法書は整理される前とは違う場所に移され、恐らくその時にバンリさんが探している魔法書もこの棚とは違う棚に移されたんだと思います。上の方はまだ整理が途中なんですよ。中に入ったのと同時に、空気がいつもより綺麗だと感じませんでしたか?」
「………。」
予想外すぎる展開にバンリはとりあえず今の状況を脳内で素早く整理する。
(大掃除……?そんな予定聞いたことないが、館内の空気の状態と前回来た時にはあった魔法書が無いことから、コイツは嘘はついていない……。こうなったら、仕方ない。)
バンリは読みかけだった魔法書を元あった棚に戻し、気を取り直して一から目的の魔法書を探そうと梯子を下りようとした時だった。
「私が言ってた用って、その大掃除のことなんですよ。」
「!」
「今日は上の方に新たに移された魔法書の整理の続きをしに来たんです。」
梯子の上で、バンリは思わず足を止めてしまった。構わずミヅキは話し続ける。
「どの魔法書がどこに移されたか、ある程度ならわかります。もちろん、バンリさんが探している解除魔法の魔法書の場所がわかり、そしてそれを見つけられるという確信は無いですけど、微力ながら手伝うことは出来ます。……どうしますか?」
「………。」
ペガシスの背に跨ったまま、半ば脅し文句のような言葉を紡ぐミヅキは小首を僅かに傾げたまま、悪戯っ子のような無邪気な金と赤紫のオッドアイでバンリを見つめる。
しばらくバンリは梯子の上で微動だにせず押し黙ったままだったが、小さく肩を竦めながらため息をつくと、
「……古代の偉大なる解除魔導士が書き残した、どんな難解な魔法や呪いも解くことが出来る解除魔法や魔法道具が記されたこの世にたった一冊しかない魔法書。」
なかなか見つけられずにいた、たった一冊の解除魔法の魔法書の内容を口にした。
「その解除魔法の魔法書なら、確か……こっちの棚、だったはず!ほら、乗って。」
「わっ……。」
驚いたことに、どうやらミヅキはバンリが探している魔法書の在り処を知っているようだ。まさに奇跡に等しいと言えるだろう。そしてバンリは半ば強引にミヅキに手を引かれ、そのままペガシスの背に乗せられる。
ペガシスはミヅキとバンリを乗せたまま、純白の大きな翼を羽ばたかせ、棚から棚へと移動しながら上へ上へと登っていく。
そして辿り着いたのは、整理がまだまだ手付かずの状態の棚だった。横に5〜6mはある10段の大きな棚は上から2段目までしか埋まっておらず、ほとんどの魔法書は床に山のように積まれている。
「ここに移動された魔法書は、作者が不明の魔法書なんです。作者が不明だからといって、適当に並べていい訳じゃないんですよ?本の中身を見て、どんな魔法について書かれた魔法書なのかを確認してから棚に並べていくんです。お陰で他の棚と比べても一段と整理が大変な棚なんですよ。」
そう言いながらミヅキはペガシスから降り、積まれた魔法書を上から手に取って、ペラペラと中身を確認してから棚に置くと、また同じ山から魔法書を手に取り……それを繰り返していく。
「バンリさんが探しているその魔法書、ここにあるのは確かなので、よろしければ探しながら整理するのを手伝って頂けませんか?」
「………。」
なんだか、いいように使われている気がしなくもないが……バンリは風詠みの眼鏡をかけ直しながらペガシスの背から降りると、仕方なくミヅキと共に本の整理をする。
「現代にまで残されている解除魔法のほとんどは、本来禁忌とされる魔法を解く為に過去に生み出されたものがほとんどなんです。」
互いに背中を向けたまま黙々と本の整理をしていく中で、ミヅキは解除魔法について語り出した。バンリに聞かせるように話しているのか、ただの独り言なのかはバンリにはんからない。ただバンリは手と目を動かし続ける。
「禁忌魔法を解くだなんて、今も昔も絶対にしてはいけない行為。だから、解除魔法に関する魔法書をこの時代にまで残した解除魔導士は皆、名前を伏せて書物に残すことにしたんです。そうして記された解除魔法の魔法書のほとんどは、悪用されぬように、禁忌魔法を解かれぬようにこの魔導図書館に保管されることになったんです。」
手に取っては中身を確認して棚に仕舞い、手に取っては中身を確認して棚に仕舞い、手に取っては……を延々と繰り返す。
「ですが、やはり手違いで解除魔法を悪用しようとする者の手に渡ってしまいます。その者達が、解除魔法を使って禁忌魔法を解く理由、それは-----」
手に取っては中身を確認して仕舞い、手に取っては中身を確認して仕舞い、手に取っては中身を確認して仕舞い、手に取っては……
「-----黒魔導士ゼレフの蘇生。」
ピタリ、とバンリの手が止まった。
「見つかりましたか?」
「あぁ。」
立ち上がったバンリの手には分厚い魔法書が一冊握られている。間違いなく、バンリが探していた魔法書だ。
かなり古いもののようで、本来濃紺だったと思われるベルベットの表紙は色が薄れており、ページも慎重に開かなければ破けてしまいそうだ。
埃は被っていなかったものの、ここ最近の内に開かれた形跡は一切無い。長い間読まれていなかったことが明確だ。バンリも最後にこの魔法書を読んだのはいつだったか覚えていないほどなのだから。
バンリは改めて風詠みの眼鏡をかけ直し、ペラペラと慎重にページを捲っていく。
「!」
そして見つけた。
同時に、バンリの胸中にあった考えが確信に変わった。
(これさえあれば、もう心配いらない。)
ゆっくりと、本を閉じる。
「どんな魔法を解除するんですか?」
「……ギルドの問題だ。」
「あー…これは失礼致しました。」
相手へ評議院の人間だ。無闇矢鱈にギルドの仲間の問題を晒すことは出来ない。
バンリの思惑をその一言で感じ取ったミヅキは大人しくすぐさまその話題から身を引いた。
「解除、出来そうですか?」
「あぁ。……助かった。」
「いえいえ〜。私は魔法書のある場所を教えただけですので。それじゃあ、下まで送りますのでまた乗って下さい。」
「わっ……。」
バンリは魔法書を胸に抱えると、再び半ば強引にミヅキに手を引かれペガシスの背に乗せられる。
2人を乗せたペガシスは翼を羽ばたかせながらそのまま下へ下へと移動し、魔導図書館の入り口のところでバンリを降ろす。
「無事に、解除出来るといいですね。」
「……残るのか?」
「まだ片付けが途中ですから。それじゃあ、くれぐれも気をつけて下さいね。」
ペガシスに跨ったまま手を振り、ミヅキは再び魔導図書館の奥へと入って行った。
バンリは扉が閉まるのと同時に、風詠みの眼鏡を外して懐に仕舞い、魔法書を胸に抱え直すと次の目的地に向かうため駅へと一気に駆け出す。
(まさか、この短期間で評議院の人間に2回も遭遇するとは想定外だ……。感づかれていないといいが……。)
日はまだ高い。
(くれぐれも気をつけないとな。)
脳裏にルギアルの微笑が浮かび、バンリは無意識に左目を押さえた。
(奴等のことも気になるが、まずはイブキの呪いだ。……近道するか。)
バンリは魔法書を左手に持ち替えると、木の幹を伝って駆け上がり、そのまま跳ねるように木から木へと飛び移りながら駅へと足を進める。
バンリを見送ったミヅキは鼻を鳴らすペガシスの顔を左手で優しく撫でながら、空いている右手で腰に身につけていた花柄のポーチから小型通信魔水晶を取り出し、すすす…と慣れた手つきで操作すると、それを耳に当てる。
《えっとぉ……ねぇケイト、これどうやって使うんだっけ?》
《この前教え直したばかりなのに、もう忘れたのかアンタは……。ちょっと貸し…ん?おいルギアル、もうミヅキと繋がっているぞ。》
《あれ、ホント?適当に弄ってただけなんだけど。》
《頼むからしっかりしてくれ……。》
魔水晶越しに聞こえてきたのは、能天気な隊長であるルギアルと、やれやれといった感じで肩を竦めているであろうケイトの声だった。ミヅキも苦笑するしかない。
《えっと、ごめんミヅキ、俺の声聞こえてる?》
「ちゃんと聞こえてるよ。もぉ、しっかりしてよルギアル。」
《ゴメンゴメン。……それで、どうだった?》
然程気にしていない様子のルギアルに対して、盛大なため息をついてからミヅキは先程のバンリとのやり取りを口にする。
「特に訝しい言動は見られなかったです。強いて報告する事といえば、あの男は古代の偉大な解除魔導士が残したこの世に一冊しかない魔法書を探しに来たみたいですよ。」
《あぁ……あの紺のベルベットの表紙の魔法書か。》
ミヅキの言葉にルギアルはうんうんと頷く。
《何を解除しようとしているんだ?》
「さぁ?「ギルドの問題だ」とは言ってたけど、さすがに詳しいことは話してくれなかったよ。」
ケイトの問いにミヅキは答える。
《まぁ、彼が「ギルドの問題」って言った時点で、古代の解除魔法が悪用されることはまず無いし、あちらとも関係無さそうだね。》
《そのようだな。》
「だね。あーぁ、せっかくあの男の尻尾を掴む絶好の機会だと思ったのに。」
ルギアルの言葉にケイトとミヅキは揃って同意し、ミヅキは続けて唇を尖らせながら不満を零す。
《また機会が巡ってくるはずさ。それにしても、まさか魔導図書館の魔法書を全て移動させるなんてね……。》
《もう少しマシな方法はなかったのか?》
魔水晶越しに聞こえる二人の言葉にミヅキは再び唇を尖らせた。
「だって、あのバンリ・オルフェイドのことだから一度でも目を通したことのある魔法書の置き場所を的確に覚えているだろうから、あっという間に探していた魔法書を見つけて去っちゃうに決まってるでしょ?せっかくの機会が台無しにする訳にはいかないから、魔法書を全て移動させるしかなかったんだよ。」
………そう。
大掃除によって全ての魔法書が移動された魔導図書館は、ミヅキがバンリと接触するためだけに予め整えていた大胆すぎる“設定”だったのだ。
《だからって、「大掃除」はどうかと思う。俺だったら、そんな面倒なことをするより真っ先に聞きに》
「仕方ないでしょ。もぉ、そんなに言うなら最初からケイトが来ればよかったじゃない!」
《ルギアルがミヅキに頼んだことだからな、俺がとやかく言う資格は無い。》
「もうすでにいろいろ言ってる気がするんだけど?」
《まぁまぁ二人とも。》
珍しく言い争いを始めた二人のやり取りを肩を震わせて側から微笑ましげに見つめながらルギアルが宥める。
《とりあえずミヅキ、お疲れ様。俺のワガママを聞いてくれてありがとうね。更に詳しいことは帰って来てから聞くことにするよ。》
《魔法書は全てきちんと元あった場所に戻しておけ。お茶を淹れて待ってるから気をつけて帰るんだぞ。》
「はーい。」
そう言うと魔水晶を切り、再びポーチに仕舞う。代わりにポーチから銀色の鍵を一本取り出すと、
「開け、望遠鏡座の扉……テレスコープ!」
床に銀色の魔法陣が浮かび上がり、鐘の音と共に姿を現したのは、ミヅキの膝丈ほどの背丈の、人間の胴体に頭が望遠鏡の星霊---テレスコープだ。
「やぁミヅキ☆久しぶりだね☆」
「って言っても、ほんの数時間前だけどね?」
星が飛びそうな勢いでウィンクを決めながら、テレスコープはその場で妙なポーズを決める。
鼻と口はないが喋ることは出来るし、頭の望遠鏡のレンズの部分にはくりんとした2つの目がちゃんとある。
「さてミヅキ、この僕に今度は何用だい?」
「実は、この図書館の景色を最初の時に戻して欲しいの。」
「んー?でも、さっき変えたばかりじゃないかい?」
「それは、とある人を騙す為だったの。もうその人を騙し終えちゃったから、公共の場であるここをきちんと元に戻しておかないといけないの。」
「ふむふむ、なるほど☆そんなこと、ミヅキの為ならお安い御用さ☆」
そう言うと、テレスコープは図書館全体を見回すように視線をぐるりと一周させる。そして、
「スコープ・チェンジ☆☆☆」
テレスコープの頭であるレンズが金色に光る。
それと同時に大量の魔法書と本棚で埋め尽くされた魔導図書館の館内全体も金色に光り出す。あまりの眩しさにミヅキは思わずギュッと目を瞑り腕で顔を覆う。
「ミヅキ☆スコープ・チェンジ、完了だ☆」
テレスコープの声が聞こえ、ミヅキは目を開ける。
目の前の景色は変わっていないように見えるが、よく見ると魔法書の位置は全て移動させる前のものになっている。空気が澄んでいたはずの図書館が埃っぽくなっていることと、先程までミヅキとバンリがいた、図書館の上の方にあったはずの魔法書が下の方の棚に移動しているのが証拠だ。
望遠鏡座の星霊テレスコープは、レンズに捉えたものの時を瞬時に変えることが出来る能力を持っている。今回は図書館の館内の時を少しだけ未来に動かし、魔法書が移動した時の中でバンリを騙していたのだ。さすがのバンリでさえ「図書館の中の時が進んでいる」だなんて気づくことは出来なかった。
「これでいいのかい?」
「うん、バッチリ!ありがとう。」
「ハッハッハー☆僕にかかれば朝飯前さ☆」
「本当にありがとうね。」
テレスコープとペガシスにお礼を言うと、ミヅキは改めて館内をぐるりと見回す。
「ミヅキ、どうしたんだい?」
黙り込んだミヅキを見て、テレスコープが派手な動きを交えながら尋ねる。ペガシスもその隣でミヅキの顔を覗き込む。
「あ、大したことじゃないんだけど……。」
ミヅキは言葉を慎重に選びながらゆっくりと口を開く。
「もし、妖精に尻尾が無かったとしたら……尻尾がある妖精は、いったい何なのかな、って。」
ミヅキの問いにテレスコープとペガシスは顔を見合わせ目をパチクリさせると、
「尻尾が無いのが“妖精”と呼ぶなら、尻尾があるのはきっと妖精に化けた“悪魔”だと僕は思うよ☆」
テレスコープが大袈裟に身振り手振りをつけながら言う。テレスコープの意見に同意するように鼻を鳴らしながらペガシスも頷く。
「もちろん、その反対も有り得るだろうね☆」
「反対?」
「尻尾があるのを“妖精”と呼ぶなら、尻尾が無いのを妖精に化けた“悪魔”と呼ぶということさ☆」
テレスコープの言葉に今度はミヅキが目をパチクリさせる。だが、それはほんの一瞬のことで、ミヅキは手で口元を押さえながら小さく笑う。
「ん?ミヅキ、何でそんなに笑うんだい?僕は、何か可笑しな事を言ったかい?」
「ううん、違うの。……あはは、なんか…テレスコープの言う通りだなーって、妙に納得しちゃって。」
「うーん?よくわからないが、ミヅキが笑ってくれたのなら、それに勝るものはないよ☆ペガシス、君もそう思うだろ?」
意味はわからないが、未だ笑っているミヅキを見て嬉しそうにテレスコープはその場でターンを決める。その隣でペガシスも大きく頷いた。
「はぁ〜……笑った笑った。さてと、そろそろお暇しようか。ルギアルにも詳しいこと話さないといけないし、ケイトがお茶淹れて待ってくれてるしね。」
「あぁ、そうだな☆ミヅキ、とうやらペガシスが乗せてってくれるみだいだ☆」
「ホント?…じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな?ありがとう、ペガシス。」
ミヅキが優しく顔を撫でながら改めてお礼を言うと、ペガシスは心底嬉しそうに透き通った美しい青い瞳を細める。
ミヅキは器用にペガシスの背中に跨ると、腕を伸ばしてテレスコープを自分の前に座らせる。
「それじゃあ、帰ろうか。」
「あぁ☆ペガシス、出発だ☆」
テレスコープの言葉に鼻を鳴らして応えると、ペガシスは二人を乗せて歩き出す。
ミヅキはペガシスの背に乗って揺られながら、改めてルギアルとケイトから教えられたバンリに関する情報と、先日ケイトと共にラナンキュラスの街の海で出会った花時の殲滅団の面々とその時に感じた違和感を思い出す。
「妖精に尻尾があるのかないのか、なんて……そんなの誰にも分からない永遠の謎だけど……上手に尻尾を隠しながら妖精の群れに紛れている“悪魔”はたっくさんいるんだね。」
不敵に微笑み、金色の瞳を妖しく煌めかせながら、ミヅキは魔導図書館を後にする。そして図書館の外に出ると、ペガシスは純白の翼を広げ二人を乗せたまま青空へと飛び立った。
後書き
Story17、終了です!
……バンリとミヅキのシーンに力を入れすぎたせいか、あまり本編に添えることが出来ませんでした。すみません。お陰様でバンリの謎が深まる今日この頃です。
次回はスミレ村へと向かったウェンディとシャルル!二人は何かを発見出来たのでしょうか?
それではまた次回、お会いしましょう!
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