繰リ返ス世界デ最高ノ結末ヲ
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00.黑猫と白猫
第一章
Phase.03
「って、あ」
急に顔を上げ、腕の力を緩める琴葉。その隙に、紫苑と輝は琴葉の腕の中から脱出する。宙や涙、アリサやユリアも急に静かになり、琴葉を見上げている。その額には青筋が浮かんでいた。
「テメェ等全員ノック無しで入ってきて、しかも騒ぎやがってぇえ!」
怒鳴る琴葉。レンは自分の耳と、黒猫の耳を塞いでいる。宙もアリサとユリアの耳を塞いでいる。この執務室は防音なので、扉がしっかりと閉めてある今ならどれだけ騒いでも大丈夫―――な筈だ。其々が、これは仕事が増えるなぁ、と肩を落とす。
現在、アリサが飛び越えた机の上には、書類の山が三つ出来上がっている。机の高さと合わせて、二メートル位。
まぁ、あの山を崩さなかっただけ良いけど、とアリサに叱る琴葉を横目に、レンは黒猫を床に下ろす。そろそろ腕が疲れて来たと言うのと、琴葉を宥めに行くために。
「あ、あの琴葉さん。そんなに怒らなくても……」
苦笑を顔に張り付けて言うレンだが、琴葉の不機嫌は一向に治らない。関係無いのに怒られそうと判断したレンは、直に「なんでもありません!」と言って引く。流石に余計に怒られるのは御免だ。
恐怖で壁に背中が着くまで身を引くレン。そう言えばかなり失礼だな、と思い壁から背中を離すと、琴葉が目を見開いた。怒られると思って背筋を伸ばすレンだったが、琴葉は首を油の切れた機械の様に動かし、書類の方を見る。其処には―――
書類の山に体当たりをしようと助走をつける、黒猫が居た。
「あああぁぁぁああ!! グレース、駄目だぁぁああ!!」
書類の方に駆け寄って行く琴葉。黒猫・グレースの体を掴もうと腕を伸ばすが、グレースを捕まえる事は出来なかった。
そして、グレースは書類の山に体当たりし、それを崩した。
ヒラヒラと書類が床に落ち、上下や裏表関係なしに重ねられて行く。
それを見て、琴葉はガタガタと震えた後、床に倒れこんだ。そして、その上に書類が積もる。
「嗚呼……私の書類タワーが……折角、出来上がった物と出来上がっていない物を分けて、仕分けまでしたのにぃ……」
琴葉は目尻に涙を溜めながら、絶望していた。既に、怒る気力すら無くなっていて、もう動く気配が無い。アリサが「あ、コトが死んだ」と言ったくらいだ。
しっかりと隅まで清掃されている執務室の床に、大量の書類が散乱する。そして、その上にショックで石像のように動かなくなった琴葉が転がっていた。それを見て、レンや涙達が、呆れたように溜息を溢して、書類を1枚ずつ拾っていった。
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