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歌集「冬寂月」

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五十四




 天つ風

  夏の花びら

   散らすまじ

 咲かぬ想ひそ

     偲ぶと思へば



 台風が近付いているためか、やけに風が強い。

 こんなに風が吹いていれば、夏の花が散ってしまう…。

 どうか…花々を散らさないでほしい…。

 叶わぬ私の想いを偲んで…私の心を慰めてくれる花を散らさないでおくれ…。



 何を思ふ

  風に靡くは

   すゝき野の

 陰る月にぞ

     見ゆる面影



 芒を靡かせる風は…何を思うのだろう…。

 ふと見上げれば、雲間から月明かりが漏れて…ざわめく野原を淡く照らしている…。

 その中で…私は何を思う…。


 過ぎ去りし思い出…もう会うことのないあの人の面影を…見え隠れする月に垣間見る…。



 
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