レーヴァティン
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第六十五話 志摩の海賊その五
「これから会うがな」
「それでも」
「そうだ、若しすぐに仲間にならないのならな」
「その欲しいものにですか」
「応じる」
「交渉でござるか」
「これまでも覚悟していた」
今一緒にいる八人を仲間にすることでもというのだ。
「まずはな」
「交渉になるか」
「勝負をすることもだ」
それもというのだ。
「覚悟していた」
「そうでござったか」
「しかしだ」
「それはなかった」
「そうした状況になることはな」
これまで一度もというのだ。
「なかったが」
「それでもでござるか」
「覚悟はしていた」
「では」
「今から会いに行こう」
「そして交渉をしてでも」
「あいつと話す」
そう話してだ、そのうえでだった。
英雄は仲間達と共に気配がする方に向かった、そしてその気配がする場所は何と川辺だった。そこに来てだった。
耕平は川辺とそこで釣りをしている者達を観て首を傾げさせてこんなことを言った。
「まさかと思うけどな」
「そのまさかだな」
英雄はその耕平に応えて言った。
「ここにだ」
「九人目がおるんか」
「そうだな」
「ほな今そいつは釣りをしているんか」
「太公望でありますか」
峰夫は釣り人達を見てこの名前を出した、古代中国の有名な軍師にして神仙とも言われている人物だ。封神演義の主人公でもある。太公望が周の文王と会った時に釣りをしていたのでこう呼ばれるのだ。
「それでは」
「そうだな、九人目はここでだ」
「釣りをしているでありますか」
「そしてだ」
英雄はさらに言った。
「俺達に気付いている筈だ」
「我々の気を察して」
「釣りをしながらもな」
「そうでありますか、では尚更」
「太公望だな」
「その逸話でありますな」
「そうだな、ではこの島の太公望にだ」
英雄は一歩踏み出して言った。
「会いに行こう」
「そしてでありますな」
「仲間にする」
自分達のとだ、こうしてだった。
英雄は仲間達を連れてその気の方にさらに進んだ、そしてだった。
一人の質素な着物と股引で身を包み編み笠を被ったうえで静かに釣りをしている男の後ろに立った。そのうえで男に声をかけた。
「一つ聞きたい」
「何か」
「あんたは今何をしている」
「見ての通りのこと」
これが男の返事だった、後ろにいる英雄達を振り向くこともしない。
「釣りを」
「しているか」
「左様」
こう答えるのだった。
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