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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第60話

一方その頃、インフィニティの本社ビルに戻ったリィン達はティオから報告を受けていた。



~インフィニティ~



「座標125、73/89.15――――解析されたパターンからはそう出ました。」

「ありがとう、ティオさん。………ここね。」

アリサが端末を操作するとクロスベルの地図が出て、ある場所にマークされていた。

「クロスベルの南西………演習地の更に先になるのか。」

「ん……これって?」

「ええ……間違いなさそうね。」

「エマ君、心当たりが?」

「ええ、このクロスベルには幾つもの霊跡が点在しているんです。北西の寺院や、北東の古戦場、湖の南側にある湿地帯……他にもあって、いずれ回ろうとしていた候補地の一つだったんですが……」

「そんなにもあるのですか………」

「クロスベルの”過去の因縁”はある程度知ってはいましたが……」

「それが1年半前に出現した”碧の大樹”へと繋がったって事ね。」

エマの話を聞いたセシリアが目を丸くしている中真剣な表情で考え込みながら呟いたサフィナの言葉に続くようにレンは静かな表情で答えた。



「ええ―――この座標の場所は”星見の塔”。”偽りの奇蹟”をもたらす儀式に使われた場所の一つでした。先程取ったログによると急激に霊力が上昇しているようです。」

「―――ありがとうございます。そこまでわかれば十分ですわ。」

「いよいよ大詰めだ――――せめて万全の準備を整えよう。」

「ええ、待ち受ける相手は恐るべき実力の執行者2名――――」

「新Ⅶ組の諸君に、第Ⅱのみんなも力になってくれるとは思うが……」

「まずは私達”旧Ⅶ組”と”特務部隊”で突破口を開く必要がありそうね。」

「………………」

リィン達の様子をティオが静かな表情で見守っていたその時突如リュートの音が聞こえてきた。



「―――ならばその先駆け、ボクも付き合わせてもらおうか!」

「え。」

「は?」

リュートの後に聞こえてきた聞き覚えのある声にリィン達と共に驚いたティオとセリーヌはそれぞれ呆けた声を出し、出入り口に視線を向けると白いコートを身に纏ったオリヴァルト皇子がビルに入って来た!

「ま、まま、まさか……」

「ひょっとして―――――」

「うふふ、随分と懐かしい恰好ね♪」

「ふふっ、レンにとっては2年ぶりで、私にとっては4年ぶりに見るお姿ですね。」

「そう言えばサフィナ閣下は”リベールの異変”でエステル卿達や演奏家に変装していたオリヴァルト皇子殿下と共にリベル=アークを攻略したのでしたわね。」

変装したオリヴァルト皇子を見たマキアスは混乱し、アリサが目を丸くしている中からかいの表情を浮かべたレンの言葉に続くように苦笑しながら呟いたサフィナの話を聞いたセシリアはある事を思い出していた。

「オリヴァルトお兄様!?」

驚きの声を上げたアルフィンに対して髪をかき上げて返事をした”演奏家”に変装したオリヴァルト皇子――――オリビエ・レンハイムはリィン達に近づいた後端末に映るティオに話しかけた。



「フッ、ティオ君とは久しぶりにかな?ボクの事は”漂白の詩人”、オリビエとでも呼んでくれたまえ。エレボニアの放蕩皇子とはあくまで別人なのだからね♪」

「いや、無理があるでしょ………」

「変装するなら、せめてギュランドロスみたいに顔を隠すような努力くらいはするべきだと思うのだけど~?」

「アハハ………ギュランドロス陛下も正直バレバレな変装ですが………」

「……まあ、変装する事もせずいつもの姿で城や大使館を抜け出しているリフィアよりはまだマシかとは思いますが………」

「エ、エリゼ………」

オリビエの自己紹介にセリーヌが呆れている中からかいの表情で指摘したエルファティシアの感想にセレーネは苦笑しながら答え、ジト目になってある人物の事を口にしたエリゼの様子を見たリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。

「………4年前のリベール旅行で名乗られた肩書きのようですが………」

「その、交流会関連の行事はどうされるおつもりですか……?」

「フッ、あくまでそちらはリーゼロッテが本命だからね。放蕩皇子はテーマパークを借り切って”みっしぃ”と戯れている事にするさ。」

「うふふ、という事はサフィナ元帥閣下とセシリア将軍閣下もテーマパークで”みっしぃ”と戯れている事にされているのでしょうか♪」

「あの……我々はちゃんとリィン達に助太刀する事をエフラム殿下達にもお伝えしていますし、クロスベル帝国政府にも伝えていますよ?」

エマの質問に対してウインクをして答えたいい加減過ぎるオリビエの答えにリィン達が冷や汗をかいている中からかいの表情を浮かべたシャロンに話を振られたサフィナは疲れた表情で反論した。



「フッ、不幸中の幸いと言うべきか………今回はお目付け(ミュラー)もいないからね。」

「殿下………」

「で、ですが、皇族の方が……!」

「いや――――今回ばかりは”皇族だから”こそさ。」

オリビエが自分達に同行する事に反対するマキアスの言葉に対して意外な答えを口にしたオリビエの答えにその場にいる全員は驚いた。

「クロスベルのこの状況――――是非を述べられる立場に僕はない。…………だからこそ今回だけは自分の身体を張る必要があるんだ。クロスベルを愛する人々の想いに正面から向き合うためにも。そうリーゼロッテに告げたら溜息まじりだが賛成してくれてね。リーゼアリア君からもリィン君たちに気をつけるよう伝言も預かって来た。」

「そう、ですか……」

「………そこまで言われたら、納得するしかありませんね。」

「フウ………その時のリーゼロッテの気持ちが手に取るようにわかりますわ。」

「………殿下の加勢、クロスベル市民の一人として心より感謝を申し上げます。4年前の”リベールの異変”にて結社の”執行者”達を退けた殿下の加勢は心強く思っております。」

オリビエの決意を知ったリィンとマキアスは静かな表情で呟き、アルフィンは溜息を吐き、アリオスはオリビエに会釈をした。

「いやいや、あのカシウスさんの弟弟子でしかも、カシウスさんと実力も同じくらいだと言われているアリオスさんと比べれば、僕の加勢なんて微々たるものさ。」

「うふふ、まあエステル達もオリビエお兄さんの事を”銃とアーツ”だけがオリビエの唯一の取り柄”って言っていた通り、後方からの援護に関してはちょっとは役に立つと思うわよ♪」

謙遜した様子で答えたオリビエに続くように小悪魔な笑みを浮かべたレンの指摘にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「――――ありがとうございます。オリヴァルト殿下にⅦ組、そして特務部隊の方々も。動けないランディさんやエリィさん、ロイドさんたちの代わりに………どうか迫りくる”災厄”からクロスベルの地を守ってください!」

「おお……っ!」

そしてティオに想いを託されたリィン達がそれぞれ力強く頷いていた頃ユウナはかつての出来事をクルト達に話していた。



~デアフリンガー号~



「……1年半前、”六銃士”や”特務支援課”、そしてロイドさんたちやヴァイスハイト陛下達の協力者達によるクロスベル奪還が始まった後当然、ディーター大統領達は黙っていなかった。………”神機”とクロスベルの霊脈を利用して無限に復活するクロイス家が生み出した”魔導兵”………それをもってクロスベルを奪還しようとする自分達に対する反乱分子を撃退しようとしたの。クロスベルの各街道方面に展開している防衛部隊を突破した”六銃士派”の警備隊や警官達もクロスベル市内で反撃の隙を伺っていたセルゲイ課長達――――クロスベル警察や遊撃士達と合流して、クロスベルの奪還をしようとしたんだけど………さすがに市街に展開している魔導兵達の対処には手が回らなかったみたい。………魔導兵達の登場で市民達に混乱や動揺していく……全てが終わるまで、ほとんどの市民は自分の家に閉じこもっていた。ウチも、家族全員家に閉じこもっていたわ………アルは覚えていないようだけど………あたし達が初めて会った場所は第Ⅱ分校じゃなくて、”六銃士や特務支援課によるクロスベル奪還のあの日”よ。」

「………え……………」

ユウナの話を聞いたアルティナは呆けた声を出してユウナを見つめた。

「………ケンとナナがあたし達の目が離れている隙に、外に出て行ったわ。……後から事情を聞いたらイアン先生や遊撃士の人達に魔導兵達がうろつくクロスベルの状況を何とかして欲しい事を頼む為に外に出たそうだったけど…………二人が外に出た事に気づいたあたしは慌てて、二人の後を追って外に出た。そして外に出てあたしが二人に追いついて見た光景は――――魔導兵達の攻撃によって重傷を負って倒れている二人だった。悔しかった……何であたしはこんなにも無力なんだろうって。入ったばかりの警察学校の訓練は何の役にも立たなくて……せめてこの子達の盾にってケンとナナの上に覆いかぶさった……その時だった――――銃声が聞こえた後疾風のような速さで銃撃で怯んだ魔導兵達を撃破した黒髪の青年の剣士だった。仲間の軽そうな雰囲気を纏わせている槍の騎士や深窓のお嬢様のような雰囲気を纏っている黒髪の銃使いの女性騎士、そして漆黒の傀儡を操る不思議な女の子と一緒にあたし達の周りにいた魔導兵達を撃破して………黒髪のメイドと蒼銀の髪の女性は重傷を負ったケンとナナに治癒魔術で治療して、二人が負った重傷をあっという間に傷痕一つなく治してくれて………あたし達の命を掬いあげてくれた。」



もう大丈夫だ。立てるか――――?



かつての出来事を思い返していたユウナは手を差し伸べてくる1年半前のリィンやその様子を見守っているリィンの周りにいる仲間達――――当時のセレーネ、エリゼ、アルティナ、ステラ、フォルデの姿を思い返していた。



「手を差し伸べて来たのは黒髪の青年の剣士で………それが………後の”灰色の騎士”って呼ばれる”あの人”のロイドさん達――――”特務支援課”と合流する直前の出来事だった………」

ユウナが当時の出来事を語り終えたその頃、リィン達はツァイトに見送られてインフィニティの外に出た。



~中央広場~



「それでは殿下―――じゃなくて、オリビエさん。」

「よろしくお願いいたします。」

「フッ、こちらこそヨロシク頼むよ。いや~、しかしこの格好はやっぱり解放感があっていいねぇ。時間があれば歓楽街の劇場あたりでゲリラライブでもしたかったんだが。」

「そ、それはできればまたの機会ということで………」

「わたくしとしてはできれば、永遠にその機会が訪れてほしくありませんわ。」

オリビエがふと呟いた言葉にリィン達と共に脱力したマキアスとアルフィンは疲れた表情で指摘した。

「でも歓楽街の劇場……”アルカンシェル”の事ですよね?」

「ああ、看板女優が怪我して一時的に公演は休止していたそうだが、”二大聖女”による治療で怪我をしていた看板女優が治療されてから、僅か半年で公演を再開したそうだよ。」

「”二大聖女”って言うとメンフィル皇族の”闇の聖女”と”癒しの聖女”の事よね?何でその”アルカンシェル”っていう劇場や女優と(ゆかり)もない聖女達が二人揃ってその看板女優の怪我を治療したのかしら?」

アリサの疑問に答えたオリビエの話が気になったセリーヌはリィン達に訊ねた。



「実はアルカンシェルの関係者がメンフィルの協力者でもあってね。メンフィルはその人の協力のお陰で様々な恩恵を受けたから、そのお礼代わりにその人の頼みに応じて怪我をした看板女優の治療をママとティアお姉様にさせたのよ。」

「……ちなみにその怪我をした看板女優はセシル様の親友でもあるから、多分セシル様からの頼みもあったからだと思う。」

「そ、そうだったのですか………」

「…………………」

レンとリィンの説明を聞いたエマは驚き、アリオスは話に出て来た人物が誰であるか知っていた為僅かに安堵の表情を浮かべていた。

「ふふっ、それにしても”アルカンシェル”というメンフィル帝国とは何の縁もない所に所属しているその協力者すらもメンフィルに内通していた事を考えると、RF(我が社)もメンフィル帝国に内通している社員の有無を調べるべきかもしれませんわね♪」

「シャロン、貴女ねぇ………洒落になっていないわよ。」

苦笑しながら呟いたシャロンの言葉にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサは呆れた表情で指摘した。

「”アルカンシェル”で思い出しましたが……やはりオリヴァルト殿―――いえ、オリビエさんも交流会の期間に他のVIP達と共に”アルカンシェル”を観賞する事になっているのですか?」

「ああ、予定では今夜観賞しに行く事になっている。だから、可能ならば今日の夕方くらいまでにはケリをつけておきたい所だね♪」

「フウ………そんな事を仰るくらいでしたら、最初からわたくし達に加勢しなければよいのに……」

エリゼの質問に対してウインクをして答えたオリビエの答えにリィン達と共に脱力したアルフィンは呆れた表情で溜息を吐き

「フフッ、ですがこのメンバーでしたらオリビエ殿が気になさっている時間までに”星見の塔”にいる”執行者”達を撃退できるでしょうね。」

「そうですね……”劫炎”が要注意ですが、それでも”魔神”と比べれば脅威度は大した事はありませんしね。」

「”魔神”を比較対象にするのは間違っているとは思うけど………ヴァイスハイトがレウィニアから呼び寄せた助っ人達も私達の後を追わせて加勢させるって言っていたから、その助っ人達が私達に合流したら私達の勝利は確実だと思っていいわよ。」

それぞれ苦笑しているセシリアとサフィナの指摘に対して答えたエルファティシアは意外な情報を口にした。



「レウィニアから呼び寄せた助っ人達という事はまさか………」

「フフ、確かにあの方達が加勢して下さったら、例え”劫炎”やあの”紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァ―ミリオン)”が相手であろうと、あっという間に撃破してくださるでしょうね。」

「ええっ!?」

「あ、あの”劫炎”どころか”紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァ―ミリオン)”まであっという間に倒せるって、一体どんな非常識な強さの人達なんだ……?」

「まさかとは思うけど、ベルフェゴールやアイドスみたいな”魔王”や”神”のような”超越者”達なのかしら?」

エルファティシアの話を聞いて心当たりがある人物を思い浮かべたオリビエは目を丸くし、微笑みながら答えたセレーネの推測をエマとマキアスは驚き、セリーヌは疲れた表情でリィン達に訊ねた。

「ああ、正確に言えばレウィニアから来た人達を率いている存在は”神”ではないけど、”神”と同等の存在でアイドスにとっては兄に当たる人物なんだ。」

(フフ、”義理”が付くけどね。)

「女神――――それも”オリンポス”の星女神の一柱であられるアイドスさんの兄という事は……」

「どう考えても、とんでもない存在である事には間違いないわね………でも、おかしいわね……?慈悲の女神(アイドス)は三姉妹神の末妹神だから、兄神はいないはずよ?」

リィンの説明を聞いていたアイドスが苦笑している中エマは表情を引き攣らせ、セリーヌは疲れた表情で溜息を吐いた後眉を顰めた。

(”レウィニア”という国からの助っ人でアイドスのお兄さんって事は、リィン達の話に出た人ってやっぱり昨日特注の導力バイクを渡したセリカさん達のことよね……?)

(間違いないかと。”嵐の剣神”の異名を持つセリカ様は”風の剣聖”の異名を持つアリオス様よりも遥か上の剣士との噂ですから、噂通りの実力なら”劫炎”すらも圧倒できるかもしれませんわ。)

一方リィン達の話に出た人物に心当たりがあるアリサはシャロンに小声で訊ね、訊ねられたシャロンは静かな表情で答えた。



「―――市内で準備を終えたら間道に出て演習地に寄りましょう。そこで状況を整理して……”星見の塔”を目指します。」

「了解だ。」

「それじゃあ行きましょう!」

その後市内で準備を終えたリィン達は南口に停めている導力バイクへと向かったその頃、オルキスタワーではタワーの客室でリーゼロッテ皇女と共に待機していたリーゼアリアは手洗いの為に席を外し、手洗いをすませた後自分達が待機する部屋に戻っている最中にある人物に声をかけられた。



~オルキスタワー・36F~



「――――リーゼアリア先輩、少々よろしいでしょうか?」

「え………ミル―――ミュゼ!?ど、どうして貴女がここに………第Ⅱ分校は確か今は演習地で厳戒態勢に入っているって聞いていたけど………」

ミュゼに背後から声をかけられて一瞬呆けたリーゼアリアは振り向いて困惑の表情を浮かべてミュゼを見つめた。

「フフッ、少々”裏技”を使って抜け出して来ましたわ。――――それよりも、リーゼアリア先輩。昨日14年ぶりのエリゼさんとの再会が芳しくない結果になってしまった事は、小耳に挟みましたわ。私、先輩達に大切にして頂きましたから、先輩がエリゼさんの件で気を落とされていないか、心配でして………」

「ぁ…………エリゼお姉様の件は全て私の自業自得だから、貴女が気にする必要はないわ。」

ミュゼの話を聞いたリーゼアリアは辛そうな表情で呆けた声を出したがすぐに気を取り直して静かな表情で答えた。

「先輩…………フフッ、やはり先輩に声をかけて正解でした。これでようやく女学院で御世話になった恩を少しでも返す事ができますわ。」

「え………」

「先輩、私の方から提案があるのですが――――――」

そしてミュゼはリーゼアリアに自分の提案を耳打ちをした。



「ミュゼ、貴女………本気で言っているの?私なんかがお兄様達の所に向かっても足手纏いだから、お兄様達に迷惑をかけてしまうし、それ以前にクロスベル帝国政府にまで迷惑をかけてしまう事になるわ………」

ミュゼの提案を聞いたリーゼアリアは信じられない表情を浮かべた後戸惑いの表情で指摘した。

「教官達の足手纏いは私達――――第Ⅱ分校の生徒達も同じですわ。それに先輩の武装は確かアリサさんと同じ導力弓で、アーツの適性も高かったはずですから後方による支援でしたら、教官達にも迷惑をかけないと思いますわよ?」

「例えお兄様達のお役に立てたとしても、ロッテにも心配をかけてしまう上、ひょっとしたら私がオルキスタワーから抜け出した事でロッテ達――――エレボニア帝国のVIPの方々に迷惑をかけてしまうかもしれないし……」

ミュゼの指摘に対してリーゼアリアは複雑そうな表情でミュゼの提案を断るような答えを口にしたが

「………先輩は本当にそれでよろしいのですか?先輩から勇気を出して行動をしなければ、エリゼさんが先輩を見直すような事はないと思いますわよ?ティータさんの話ですと、確かレン教官もエリゼさんとの仲を修復をする為には先輩自身から行動をしなければならない事を言っていたそうですわね?」

「ぁ…………」

ミュゼの更なる指摘を聞くと昨日の出来事を思い出した。



後はリィンお兄さんとエリゼお姉さんのピンチに駆けつけて助けたりしたら、エリゼお姉さんもリーゼアリアお姉さんの事を見直すでしょうね。



「………………………ミュゼ、お兄様達の所に向かう為に協力してもらってもいいかしら?」

「ふふっ、その言葉を待っていましたわ♪ではまず、タワーから抜け出す為に怪しまれないように非常階段を使って―――――」

決意の表情で自分を見つめるリーゼアリアに対して微笑みながら答えたミュゼは今後の方針を伝えた後リーゼアリアと共に行動を開始した。



~南口~



「フフ、最近RFで量産化されたという導力バイクだね。」

「ええ、春に発売されたばかりです。サイドカーユニットを外せば単体でも動かせますね。」

「ふーむ、エリオット君じゃないが演奏旅行にも向いてそうだねぇ。それに、隣に見目麗しい女性を乗せても絵になりそうじゃないか。フム、色々と片付いたら改めてシェラ君でも誘って……♪」

アリサの説明を聞いた後導力バイクを使っての自分の未来を思い浮かべたオリビエの様子にリィン達が冷や汗をかいて脱力したその時

「やれやれ………お前の加勢まではさすがに俺達も想定していなかったぞ。」

聞き覚えのある声が聞こえ、声を聞いたリィン達が振り向くとヴァイスがリセルと共に空港方面から歩いて、リィン達に近づいてきた。

「ヴァイスハイト陛下………」

「それにリセル皇妃陛下まで……」

「………恐れながら意見をさせて頂きますがクロスベルのトップである皇帝陛下と皇妃陛下が護衛も連れずに、歩き回るのは危険だと思われるのですが。」

二人の登場にリィンとセレーネが目を丸くしている中アリオスは静かな表情で二人に指摘した。



「固い事を言うな。護衛がいれば、息抜きができないだろうが。」

「フフ、そう言えばセンタクスの領主だった頃もよく一人でセンタクスを歩き回っていたわね~?」

「実はあの時はちゃんと陰で護衛する者達もつけていましたが………正直な所、ヴァイス様の立場を考えると一人で歩き回るのは止めて欲しいのですが……」

ヴァイスの答えを聞いてかつての出来事を思い出したエルファティシアはからかいの表情を浮かべ、リセルは呆れた表情で溜息を吐き

「いやいや、あのバカ王やリフィア皇女の型破り過ぎる行動と比べれば自国の領土を一人で歩き回るなんて、些細な事だろう?」

「ハア……リフィア殿下の事を出されると我々は反論できませんね………」

「……そうですね。ちょっとでも目を離せばリフィアは自国の領土どころか、外国の領土にも”ただの旅人”として入国して、様々な騒動を起こす事を比べれば、ヴァイスハイト陛下の行動は”些細な事”ですね。」

「ふふっ、ですがエリゼがリフィア殿下のお目付け役になってからはそう言った型破りな行動を起こす頻度が納まりつつあるとの事ですから、良い傾向だと思いますよ?」

ヴァイスの反論にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中サフィナは呆れた表情で溜息を吐き、エリゼがジト目で呟いている中セシリアは苦笑しながら答えた。



「―――それよりも、リィン。幾らリウイとシルヴァン皇帝の要請だからってそこの助っ人はマズイんじゃないか?そこの助っ人はエルファティシアやセシリア将軍達と違って、エレボニア帝国政府の許可は取っていないんだろう?」

「……でしょうね。ですが、あくまで自分も協力して頂きたいと思っています。」

「リィン……」

「フッ、僕よりも型破りなキミにそもそも言われたく無いんだが。放蕩皇子オリヴァルトはあくまでMWLを借り切って一日豪遊……キミ達も現地に行って二人きりのデートをしてきたらどうだい?」

「フフ、相変わらずですね。」

「………ま、いいだろう。くれぐれも気をつけてくれ。――――それとリィン、レン皇女。紫の神機の”翼”には気をつけておけ。前のタイプと同じなら無数の追尾レーザーを撃ってくる。灰の騎神とパテル=マテルが協力すれば、何とかできると思うが……用心しておけ。」

オリビエの指摘にリセルが苦笑している中溜息を吐いたヴァイスは表情を引き締めてリィンとレンの忠告をし

「……はい。」

「忠告、感謝するわ。」

忠告された二人はそれぞれ静かに頷いた。そしてヴァイスとリセルはリィン達に背を向けて去ろうとしたが

「――――二人とも、待ってくれ。」

オリビエが二人を呼び止め、呼び止められた二人はそれぞれ不思議そうな表情を浮かべて立ち止まってオリビエを見つめた。



「折角の機会だ、君達にも知っておいて欲しいし、できればリウイ陛下達にも伝えて欲しい。翼をもがれ、剣も喪ったが心の銃と薔薇は失くしていない。”彼ら”が道を外れ、国家の命運を誤らせようとするならば――――今度こそ”覚悟”を決めて、”彼らの生死を問わず”祖国(エレボニア)から”彼ら”を排除するつもりだ、と。そしてその時がくれば、どうかボク達に力を貸して欲しい。―――三帝国間―――いや、西ゼムリア大陸に”真の平和”を取り戻す為に。」

「………!」

「殿下……」

「お兄様……」

「…………フッ、ようやく”本気”になったようだな。ま、リウイにもお前の決意は伝えておく。”メンフィル・クロスベル連合(俺達)”がお前にとっての”敵”になるか、”味方”になるかは………今は”女神のみぞ、知る”とだけ言っておく。………まあ、本人(エイドス)が今の俺の言葉を聞けば、反論してくるかもしれんがな………」

「――――それでは我々はこれで失礼します。」

オリビエの決意を知ったアリサとマキアスが驚いている中ヴァイスは静かな笑みを浮かべて答えた後リィン達に会釈をしたリセルと共にその場から去って行った。

「フフ、それじゃあ第Ⅱの演習地に向かうとしよう。」

「ええ……!」

「はい……!」

そしてリィン達は導力バイクに乗って演習地に向かい始め

「……よろしかったのですか、オルキスタワーから抜け出したリーゼアリア嬢の件を伝えなくて。」

「ああ……リーゼアリア嬢の件に気が取られて、要請(オーダー)に集中できないという事態には陥って欲しくないし、そもそもリーゼアリア嬢は”彼女”と共にいるのだから、そんなに心配する必要はないしな。」

クロスベルから去って行くリィン達を見ていたリセルはヴァイスに訊ね、訊ねられたヴァイスは静かな表情で答えた。

「”彼女”……ミューズ―――いえ、”並行世界の公女ミルディーヌ”ですか……一体彼女は何が目的で、リーゼアリア嬢をオルキスタワーから連れ出した挙句、ユーディット様達との会談の手筈を整えたのでしょう……?」

「さてな……公女の真意については公女の事を良く知るユーディ達に任せているが…………ひょっとしたら、リーゼアリア嬢をオルキスタワーから連れ出し、ユーディ達との会談に挑もうとする公女は”俺達の世界の公女”かもしれないぞ?」

リセルの疑問に対してヴァイスは真剣な表情で自身の推測を口にして、演習地がある間道に視線を向けていた―――――








 
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