FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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再会した友の姿に
前書き
お盆休み三日目にして初投稿。なかなか忙しく、展開も複雑で作者が一番苦労している今日この頃。
ヒュンッ
互いの約束を口にした瞬間、天海はアクノロギアの目ですら捉えられない速度で急加速した。次に彼が姿を現したのは、青年の目の前。
「本気で来ないと、死ぬことになるぞ」
拳を突き刺す天海。アクノロギアはそれに反応することもできず、血反吐を吐いた。
「うぬは・・・一体・・・」
人間の力とは思えない圧倒的な実力。それをまざまざと見せつけられているアクノロギアは膝をつきながら男の顔を見上げた。
「俺は天海。他のものは全て捨てた、ただの天海だ」
親を殺したあの日、過去の自分と決別した。名字も名声も全てを捨てて、たった一人の人間として歩んできた。
「我は・・・我は・・・」
それを聞いて黙っていられるはずもない。アクノロギアは沸々と怒りを沸き上がらせ、天海へと襲い掛かった。
「そうだ、それでいい」
全ての力を込めて向かってくるアクノロギア。その一撃を彼は平然と片手で受け止めた。
「バカな・・・」
呆然とすることしかできないアクノロギア。恐怖に体が震え始めている彼に蹴りを放つと、地面を転がる彼を見て一言。
「早くお前と殺りたいよ、ティオス」
「あれがエドラスのお前か、ヴァッサボーネ」
天界では、自分たちでは歯も立たなかった相手を圧倒している男性を見て、ドラゴンたちは口を閉ざしていた。
「あれだけの実力・・・敵に回すと厄介だな」
彼ならアクノロギアを倒せるかもしれない。その希望が見えたことと同時に、一つの不安が芽生える。それは、標的を失った彼の次なる行動についてだ。
「また多くの死者が生まれては、元も子もないが・・・」
天海の手で多くの人間が命を落とした。その事を踏まえると、アクノロギアを彼が倒してしまったら、その後はまたしても世界に絶望を叩きつけるのではないか。そんな不安が脳裏を過る。
「それをなんとかできるのはあの子だけよ」
そう言ってヨザイネがアップしたのは、片腕で多数の魔導士に向き合う水髪の青年。
「ティオス・・・目を覚ますのは今のはずよ」
不安な表情で彼を見つめる天使の姿は、母親のそれと類似していた。
アクノロギアと天海、二人の戦いが繰り広げられている後方では、ここまで形勢を逆転されたと思われていたティオスが、笑っていた。
「天海、お前が来たら俺は・・・」
数回その場で跳び跳ねる。彼はゆっくりと自らの体の調子を確かめると、先頭に立つ緋色の絶望を見据える。
「負けるわけにはいかないじゃないか!!」
気合い満点で地面を蹴った彼はアイリーンの懐に一瞬で飛び込む。そのまま腹部に手のひらを当てると、氷の波動を零距離で叩き込んだ。
「ああああああああああ!!」
「お母さん!!」
吹き飛ばされるアイリーン。エルザは彼女を心配しそちらに視線を向けたが、ティオスは彼女の頭に手をかける。
「よそ見してる余裕なんかないだろ?」
「!!」
魔力が一瞬で溜め込まれた。頭が消し飛ぶ・・・そう思われた状況だったが・・・
「エルザから手を離せ!!」
ジェラールがその手を弾いた。
「スパイラルペイン!!」
渦を巻く魔力がティオスの体にまとわりつく。そんな彼に上から攻撃を仕掛ける深紅の男。
「波動砲・大玉の章!!」
自身よりも巨大な球体を産み出し上から投げつける。スパイラルペインに捕らわれているティオスは避けることはできない。
「まぁ、避けるほどの威力はないけどな」
「「「「「!!」」」」」
自身に向かってくる魔法を見ても全く恐怖を抱いている様子のないティオス。彼はそのままカミューニの攻撃に飲み込まれたが、煙が晴れて現れたのは元気にピンピンしている彼の姿。
「なんなんだ、こいつの防御力」
「魔力が高いから実現できているのか?」
彼が攻撃を受け続けても平然としていることに疑問を隠しきれない。だが、ウェンディはあることに気が付いた。
「レオン・・・だけじゃないよね?その体」
女の勘とでも言うべきだろうか?彼女は気付いた。いや、元々気が付いてはいたが認められなかっただけなのかもしれない。
「俺はシリルの肉体を器に蘇った。そしてRシステムは理論上、死者を完璧に蘇らせるはずだったが、実際はそこまでの精度はなかったのさ」
ゼレフが産み出したRシステムは、人一人の肉体を生け贄に捧げることで死者を蘇らせることができる。だが、それは魔力の問題もあり理屈だけの産物になっていた。
しかし、ローグは街を破壊するアクノロギアのブレスから魔力を採取しつつ27億イデアの魔力をため、Rシステムを完成させた。そうして瀕死状態だったシリルの体を捧げレオンを生き返らせた時、あることに気が付いた。
「俺はレオンとシリル、二人が融合した状態になっているんだ」
意識は完全にレオンが乗っ取った。しかし、要所で生け贄とされたシリルの姿が見えているのである。それは完全には死者が復活できないことを物語っていたが、逆にティオスにはいいものとして考えられていた。
「シリルが持っていた滅竜魔法に滅悪魔法を俺は手に入れた。そして・・・」
全身に力を入れるティオス。すると、背中から突如漆黒の翼が生えてきたではないか。
「天使の血を継ぐ奴の能力を、俺は開花させたんだ」
天使には人間の攻撃は効かない・・・ヨザイネはその力を駆使して戦場を掻き回した。その能力はシリルにも引き継がれているはずだったが、人間と天使の混血・・・完全には受け継がれていない。それでもシリルは多少のダメージの緩和はこれまでもできてはいたのであろう、ゆえにティオスはその能力を開花させ、混血の彼ができる最大限のダメージ緩和能力を手に入れた。
「なるほど・・・俺に頭を撃ち抜かれたのに生きてたのはそう言う理屈か」
シリルが天使の子供と言われるといきなり納得するのは難しいが、カミューニは天狼島でのことを思い出し、頷いていた。彼の魔法に頭を撃ち抜かれていたのに生還できたのは運だけではない。それだけのものを彼が持っていたからなのだ。
「納得している場合ではないぞ」
「そうだぜ!!つまり奴にほとんどの攻撃が効かないってことになるのか!?」
オーガストとコブラの焦りの声。ティオスは攻撃のダメージを最小限に抑えることができる。それはつまり、この戦いが相当厳しいことを伝えるのには十分だった。
「いや、そうでもないだろ?」
しかし、そんな中でカミューニだけは別の感触を捉えていた。
「確かにこいつは多少ダメージは軽減できるのかもしれない。だが、こいつは俺に腕を切り落とされている。完全には防げないことの証明だ」
完全な天使だったら・・・ヨザイネだったら先の攻撃も受け流せていたのであろう。しかし、ティオスはそうじゃない。これまでに多少なりともダメージを受けているのだから。
「そうだな。だが、これまでのように行くかな?」
カミューニのもっともな意見を受けてもティオスは余裕な表情を崩さない。それが感に触ったのか、カミューニは思わず突進を仕掛けた。
「その余裕の面、すぐに引き剥がしてやる!!」
自らの魔力を手のひらに宿しティオスに連続で突きを放つ。
「波動乱舞!!」
波動を手に纏っての乱れ突き。一撃一撃も大きな威力があるにも関わらずこの連打・・・普通の魔導士であれば、失神ものだったであろう。そう、普通の魔導士なら。
「だから言ったろ?もうこれまでのようには行かないと」
「!?」
漆黒の翼を生やしたティオスは平然と立っているのだ。傷ひとつ体に付けることなく。
「バカな・・・」
「何もバカなことはない。これが真実であり、俺と君たちとの違いだ」
そう言って放たれた拳はカミューニの肉体へと突き刺さった。
「ガハッ!!」
「カミューニ!!」
悲劇の再来が予想された戦場。しかし、これまでとはひとつだけ、確実に違うものがある。それは・・・
「治癒魔法の使い手がおるのは心強いな」
他者の魔法を一瞬でコピーすることができるこの男がいるからだ。彼は杖から緑色のオーロラのようなものを放つと、貫かれたカミューニの体を治癒させる。
「私の治癒魔法より回復力が高いです!!」
「オーガスト様の魔力には誰も叶いませんわ」
ウェンディの治癒魔法をコピーしたオーガストが自身の最大限の力でカミューニの死を退けた。だが、彼はダメージがあまりにも大きかったのか、動くことができない。
「別に治したいならいくらでも治せ。すぐにトドメを刺してやればいいだけなのだから」
ティオスは目の前で身動きを取れなくなっているカミューニに拳を放とうとした。しかし、彼を間一髪でソーヤが救出、ことなきを得る。
「天使の力・・・翼を広げることでそれを完全に解放したということか」
ダメージを受けている気配のないティオスを冷静に分析するオーガスト。そんな彼にエルザは問いかけた。
「あなたならティオスの魔法をコピーして相殺できるのでは?」
魔導王と呼ばれる彼にしかできない戦法。もちろんそれは彼の頭の中にある。だが、踏み切れない一つの理由が存在した。
「さっき、私は奴の魔法を相殺しきれなかった。奴の魔力に私の魔力が負けている証明だ」
オーガストはティオスの魔法の勢いに押し込まれてしまったことが気になっているらしい。二人の魔力が高すぎて、他のものたちからすればどちらが大きいかの判断は行いづらい。しかし、オーガストは確実にその差を感じ取ってしまっていた。
「それでも、私以外に奴に対抗できるものはいないか」
それでもオーガストは先陣で戦うことを決意した。彼には意地でも守らなければならないものが出来てしまった。それを守るためには、自らの犠牲を考えてはならない。
「・・・」
その様子を見てティオスは押し黙っていた。彼の額から流れ落ちる汗。それが一体何を意味しているのか、誰にもわからない。
「これで終わりだ!!ゼレフ!!」
その頃戦況に大きな変化がある場所があった。グレイとゼレフが対峙している妖精の尻尾だ。
「自分の命を・・・存在を消したところで・・・この魔法は氷で対象者を閉じ込めるだけの魔法」
グレイが選択した魔法、それは絶対氷結。それもただの絶対氷結《アイスドシェル》ではない。自らの存在をこの世界からなかったことにし、全てのエネルギーを魔法に注ぎ込む消失絶対氷結《ロスト・アイスドシェル》。
「僕は殺せない」
「お前を殺したらナツも死んじまう!!だから閉じ込めるんだ!!永遠に!!」
ENDであるナツはゼレフが死んだ時、運命を共にすることになる。グレイはそれを防ぐために、あえてこの魔法を使用することを決意した。自らの命を賭けるこの魔法に。
「永遠などない!!やがて氷は溶け、僕は復活する!!」
「その時までの平和は手に入るんだろ?妖精の尻尾の勝ちだ!!」
ゼレフの肉体が氷に包まれていく。それと共にグレイの体も、輝きを失いつつあった。
『グレイ、お前という奴は・・・』
「ウル・・・」
その時、彼の脳内には一人の女性の声が響いてきた。それは彼が尊敬して止まない師匠の声。
『生きることを諦めてはダメよ』
「悪ぃ・・・もう決めたんだ」
『やめなさい』
「これしか方法はなかった・・・」
『やめて』
「最後までありがとう、ウル・・・」
グレイの命が尽きるかと思われた。その時だった。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
間一髪で、ナツが彼の最期の瞬間を食い止めた。
「来たか」
グレイは魔法を阻止されたことで絶対氷結は解除され、ゼレフも元通りの姿へと戻る。彼はようやく揃った役者に笑みを浮かべている。
「お前・・・忘れちまったのかよ。その魔法・・・前にも一回止めたはずだぞ」
「俺は・・・俺は・・・一時の感情に流され・・・仲間を殺そうとした。もう誰にも顔向けできねぇ!!だから・・・」
「そんなことはねぇよ!!」
フロッシュを殺し、リオンを殺したグレイはその罪悪感に苛まれていた。しかし、ナツはそれでも彼を失うことはできなかった。
「なぁ、グレイ・・・俺たち、友達・・・だろ?」
「・・・」
「死ぬなよ・・・死のうとか思うなよ!!生きろよ!!」
涙を堪えきれず袖口でそれを拭うナツ。そんな彼を見て、グレイはようやく言葉を絞り出した。
「けど・・・お前、ゼレフを倒したら・・・」
「死ぬ・・・勝っても負けても死ぬんだ、残酷な運命だ」
「死なねぇよ!!」
立ち上がりゼレフを見据えるナツ。彼の肉体は炎に包まれていた。
「運命だと!?そんなもん俺が燃やしてやる!!」
「うん、大丈夫だよ、きった!!だってナツだもん!!」
ハッピーは最後の勇姿になるかもしれない友の頼もしさに涙を溢す。一方のゼレフはいまだに余裕そのものだった。
「運命を燃やす・・・か。面白い表現だ。僕はね・・・この呪われた運命を受け入れてきた人間だ。なぜかわかるかい?そうするしかなかったからだ。それが運命というものだ」
上着を捨て去り本気モードに突入したゼレフ。二人の兄弟の死闘が繰り広げられようとしていた。
「「ハァ・・・ハァ・・・」」
息を乱して巨大な魔力の元へとやって来た男たち。それを感じ取ったティオスは、ある少年の方へと向き直った。
「やっと来たか、シリル」
「レオン・・・」
ついに素顔を露にしたティオスを見たシリル。彼は大切な友の変わり果てたその姿に、目付きを鋭くさせていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
ついにシリルとティオスが向き合いましたよ。
ここからさらにシリルには仲間たちが合流してくることになります。さて、果たしてティオスはどう出るのか!?
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