衛宮士郎の新たなる道
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第3話 魂の叫び
前書き
Fgoやってると、モロと準が仲良くやっているマジ恋シーンを見ると感慨深くなります。声優さん関係で。
モロの携帯に朝から着信が入る。画面を見れば発信者はガクトだと言う事が解る。
「もしもし、ガクト何?」
『ワリィ、モロ!今日のナンパの付添い無しにしてくれ!』
「そんなのダメだよ、僕か誰か居ないとガクトってば女性暴漢の犯罪者になっちゃうじゃないか!」
『俺がそんなに信用できないのかよ!』
「当たり前でしょ!?今までそのしつこさで、何回警察に職質掛けられて一緒に謝ってあげたと思ってるのさ!こないだなんて厳重注意されたでしょ!?」
『ふぐむっ!?』
次しつこいナンパを見かけたら、前科を付けると警告されているガクトだ。
それ故に、モロの不安は正しいモノだろう。
だが、今日の用件は本当に違う。
『いや、今日はナンパに行かねぇって意味だよ!』
「ガクトがナンパに行かない・・・?まさか、フラれ続けて女よりも男が良いと覚醒したんじゃないだろうね!?」
『行くか!?お前じゃあるまいし!』
「僕が何だって言うのさ!」
『前の囮捜査で女装したお前の姿をこの間公園で1人でいるところを目撃したって、昨日大和から聞いたぞ!?』
「ど、どうしてそのことを・・・!?」
ガクトの指摘に動揺するモロ。
実はあの女装をして以来、自分の中であんな自分もありかなと目覚めかけているモロ。
最初こそは勿論恥ずかしかったので自室のみで行っていたが、何故かその服装のまま外に出たい衝動に駆られたのがついこの間の話。
如何やらその外デビュー時を、運悪く大和に発見されてしまっていた様だ。
「ぼ、ボクは確かに女装してたけど!それはき、気分転換的なモノであって、そっちに目覚めちゃいないよ!」
その苦し紛れの言い訳を追求したいところだが、本日のガクトは忙しい。
『兎に角俺は今日忙しいんだ。だからお前の女装に付きあってやる暇は無ぇんだよ』
「ちょっと!何僕が付きあわせてるみたいに変わってるのさ!」
『じゃあ切るぞ。女装もほどほどにしとけよー?』
「だから!って、切ったな!?ガクトめ~、明日覚えてなよ~!」
とは言うモノの、今日の予定がぽっかり空いたので如何するべきか悩むモロ。
「そうだ!まだ読んでない本があったっけ?」
そこで、積み重ねた本の中から未読本を探していると、目的とは別の本の幾つかが視界に入った。
「あれ?この本、これもあれも、奥に締まってた筈なのに、どうして此処にあるんだ?それも、全く埃が被ってない状態で」
-Interlude-
同行すると言ってきたレオとリザを連れて、士郎は墓に来ていた。先月の騒ぎの加害者でもあり被害者でもあったであろう亡くなった少女と、あとを追うように旅立たれたその父親の眠る墓に。
「此処が昨夜、スカサハ殿から指摘されていた女の子が眠っている地なのですね」
「ああ・・・。正直師匠の言う通りだって分かってるんだ。あの少女が死んだのは俺の責任じゃない。罪悪感を感じる事自体が傲慢なんだって事は」
しゃがんで手を合わせてお参りをしていた士郎は、気が済んでから立ち上がってレオの指摘に答えた。
「それでも士郎さんは納得できないんですね?」
「まあ、な。“アイツ”にもよく言われてるし・・・」
「ん?」
「なんでもない」
聞こえない様に最後の方は声音を低くしたつもりが、僅かにでもレオに聞こえていたらしい。
となれば当然リザには聞こえていただろうが、
「・・・・・・」
周囲を確認すると言う護衛役を真面目にやっていた。
勿論聞こえていなかったフリだろうが。よくできた人だ。俺なんかに好意を向けてくる趣味の悪さは如何ともし難いが。
それをレオは冷静に観察する。
(士郎さん。矢張り貴方は白野さんのサーヴァント、無銘の原点なのですね)
その誰かを救い上げたいと言う願望に、女誑しぶりも含めて。
そんな女誑しの英雄の原点は用事を済ませたと言わんばかりに振り返る。
「さて2人共、付きあわせて悪かったな」
「いえ。それに今衛宮邸は誰もいませんから、士郎さんとかと一緒の方が安全でしょうし」
レオの言う通りで、滅多に外出しないスカサハは九鬼からの依頼で、マープルと共に魔力の奔流の発生地点の調査に向かった。
スカサハ程じゃないが、必要時以外で外出しないエジソンも珍しくお出かけ中。
小雪は準と共に行動――――主に準の監視役で外出していて、一番戦闘力の低い冬馬の護衛をシーマが付いていた。
「合理的な判断とは言え、シーマさんはだいぶ不満そうでしたけどね?」
これに士郎は思い出しながら苦笑する。
いくらまたも、今この地に危機が迫っていると言ってもそれは可能性の話であり、休日に出かけられないと言うのはあんまりでは無いだろうかと言う事で、戦力バランスを考慮して冬馬の護衛にシーマを付けたのだ。
ただ矢張り、マスターの護衛からサーヴァントを離すと言う愚行にシーマは不愉快極まりない態度だった。
それが実のマスターからの提案ともなれば尚更である。
取りあえずその不満が一定以下まで落ち着くまで、士郎はシーマの小言を聞かされ続ける羽目になった事を思い出した。
「仕方ない。シーマにはそこを理解してもらわないといけないし、多分今回の様な別行動はこれから先も増え続ける」
「士郎さんも頑なですね。これではシーマさんも苦労する」
「わるいと思っているが仕方ない。無理にでも慣れて貰うしかない。何しろこう分けた以上、必然的にレオとリザを守るのは俺の役目だろうからな」
レオの護衛はリザの仕事である。更には猟犬部隊は誰であれ、自分の任された任務に相当な自信と誇りを持って対応し続けている。
しかしそんなリザは今の士郎のセリフに怒りなど向けずに、寧ろ心から惚れた男に守られている位置にある幸せに浸っていた。護衛をしたまま。もしかすれば嬉しさのあまりに、押し倒していた可能性すらあっただろうが。
「さて、九鬼に行く前に寄りたい所があるんだが、良いか?」
「構いません」
「俺はレオ様と士郎に付いて行くだけだしな」
「じゃあ、付いて来てくれ」
墓参りを済ませたので、此処を後にする。
正直後悔だらけで士郎だけは後ろ髪に引かれる思いではあったが。
-Interlude-
「ふぅ」
記憶喪失の女性が頭にノイズが走るなどの症状を訴えるモノだから、携帯の電波で悪くならないように念の為としてガクトは外に出てモロに電話をしていたのだ。正直女っ気は無く普段から女性に飢えているが、基本的には情に脆く根の悪い性格でもないので、これくらいの気も普通に払えるのだ。
「ただいま」
取りあえずこれから如何しようかと考えながら、飲み物を求めて台所に行くガクト。
だがそこで女神を見た。
だいぶ昔に着ていた着物を引っ張り出して着せられた美女で、その上から割烹着を羽織って台所に立っていた。
その姿に見惚れるガクト。
棒立ちのまま動けずにいると、美女の方が先に気付いた。
「あの・・・如何かしましたか?」
「え、あ、いや、って!?何でこんな処に居るんすか!安静にしてないと駄目じゃないすか、メリッサさん!」
美女の名をメリッサと呼ぶガクト。
メリッサというのは、彼女がなんとか思い出せた自分の名前の『メ・・・・・・サ』だったからで、ならばとガクトが咄嗟の勢いで思いついたメリッサと言う仮称となったのだ。
実のところ――――ガクトが選んだメリッサと言う名は、彼の特にお気に入りのAVに出て来る女優の呼称だった。故に、ガクトはあの咄嗟の判断を何れ後悔するだろう。
だがしかし、今は――――。
「麗子さんにも止められましたが、動いていないと落ち着かないんです。今は只昔の――――今の自分の事を思い出せないで家で体は元気ですから。それに暫くの間御厄介になるのですから、少しでもお役に立てないといけません」
「そ、それなら仕方ないすけど、母ちゃ――――うちの母親はどこ行きました?」
「麗子さんでしたら少し出かけました。すぐ戻るので心配ないと思いますよ?」
あの母ちゃんの心配なんてしてねぇ、それよりも。
「メリッサさん、何してるんですか?」
「見て分かりませんか?冷蔵庫の中を好きに使ってくれて構わないと言われていますので、昼食を作ってます。勿論麗子さんや岳人君の分も」
「・・・・・・・・・・・・」
「如何かしましたか?」
「っ!い、いえ!如何ぞ、お好きなだけ続けて下さいッ!」
ガクトの態度に怪訝さを感じながらも料理に戻るメリッサ。
そんな彼女を見ているガクトは幸せの絶頂域に居た。
(ヤッベ、俺の為に昼食を作ってくれるなんて幸せ過ぎる!)
一言たりともガクトの為になどとメリッサは宣わっていないのだが、如何やらガクトは聞き間違えたらしい。
あまりに鼻の下を伸ばしながらのにやけ顔故、正直キモイ。
「如何かしました?」
キモイ顔のまま幸福の中に居たからか、何時の間にかに昼食――――炒飯を作り終えたメリッサが、ガクトが何か考え事をして心配そうに覗きこんできた。
「いっ、いえ!なんでもありませんっ!」
「そうですか?ではどうぞ。お口に合えばいいんですが」
眼前に置かれた炒飯からは香ばしい匂いが食欲をそそる。更にその料理が絶世の美女で自分の為にとの手作りともなれば、否が応でも期待も高まると言うモノだ。
「いただきますッ!」
最初の一口を舌にのせてよく咀嚼する。
そして感想は、
「う、うめェ!」
「ありがとうございます」
「うめぇうめぇ、これホント美味いっすよ!」
ガクトの脳内は今、幸福に満たされていて、ある種の理性が蒸発した状態だ。その為、恐らくはメリッサから出された料理がとんでもなく不味くても美味いと感じるだろう。
そんな状態の為、ガクトは完食するまでカッ喰らう様に食べ続けた。
-Interlude-
九鬼による前の用事として、士郎達は飲食店の入り口に来ていた。
「確か日本全国に対してチェーン店として展開されている飲食店、梅屋ですね」
「ああ。ちょっとここに知り合いが働き始めたから様子を見に来たんだ。シフト通りなら今働いてる筈だ」
「?知り合いが働き始めた程度で様子を見に行くなんて、ホント士郎は人が良いなぁ」
「いや、つい最近まで自宅警備員生活を謳歌していたロクデナシなんでな。あと恩着せる気は無いが、食料品関係では俺が支援し続けてる家で、ひもしてた人なんだ」
「「・・・・・・・・・・・・」」
何故かその人物を話す時の士郎から黒さが噴き出る様に見えた2人。
「まあ、丁度いいし。此処で昼食にするかと思うけど、2人は良いか?」
「はい」
「俺も異論はねぇよ」
だが、入る前に士郎の中で激震走る存在がいた。
『なん・・・だ・・・と!?』
彼の存在は常に士郎と視覚聴覚を共有している訳では無い。
彼の存在が自由自在にオンオフを切り替えられ、士郎からは出来ない。
しかし彼の存在は横暴では無いので、その事で士郎の全てを知ろうとは考えずに、その時々でオフにして自重する事も間々ある。
だがそれ故に今回の件について知らずにいた。士郎の説明した人物に心当たりがあり過ぎた。
丘に聳える存在にもし両手両足があれば、両膝を地面に着き両手も地面に着けてはさぞ愕然としたことだろう。
『――――いや・・・まだだ』
僅かな望み――――心当たりの人物が働いていたとしても、嫌々な反応であればギリギリセーフである。
そうして自動ドアが開き店内に足を進めると、
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・そだ・・・・・・』
「いらっしゃいませ、3名様空いてる御席へどうぞぉっ!?」
「驚かなくても良いでしょう?ちょっと様子を見に来ただけですから」
「お、おう・・・」
そんな彼の背後から上司の声が飛んでくる。
「ちょっと、シャカド君!忙しんダカラ、早く注文取って来るカ戻って来てヨ!」
バイトの先輩の中国人、孫からの叱責だった。
「いや~、すんません。じゃあ、連れの御2人さんと一緒に券売機使ってください」
そこには生き生きと働く釈迦堂刑部の姿があった。
士郎からのプレッシャーによって迫られた無職の焦燥感。
そこから抜け出そうとして紹介してもらった就職斡旋のリスト内にあったお気に入りの梅屋。
そして予想よりも上の梅屋でのまかないの美味さで、働き始めてから数日で此処は自分にとって天職と言える職場なのではないか思い始めている様だ。
券売機にて食券を購入した士郎達から注文を受け取り、直に調理スペースに戻る釈迦堂。
今の釈迦堂には以前までの無職を当然とし、ニートである事に誇りを持ち自宅警備員生活を満喫していた以前までの姿は無く、本当に生き生きとしていた。
『嘘だ――――嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁあああああああああああ!!?』
「・・・・・・・・・」
自身の淵から響き渡る絶叫じみた悲鳴なので、他の誰にも聞こえる事は幸いなことに無いが、士郎だけは五月蠅い思いに耐えねばならない。
だから方指を耳に挿し込んでも無駄なのだが、
「如何したんだ士郎?耳なんか塞いで。耳鳴りでも鳴ってるのか?」
「いや、そうじゃない。個人的に気分の問題でな」
「?」
リザの質問に対して悠長に応える士郎だが、その中の居候は今も困惑と現実逃避の中で叫び続けている。
『――――嘘だ嫌だ嘘だ嫌だ嘘だ嫌だ嘘だ嫌だ嘘だ嫌だ嘘だ嫌だ嘘だ嫌だ嘘だ嫌だぁあああああああああああ!!?』
だが現実に釈迦堂刑部は生き生きと働いていて、自分は居座るばかりの、いや自分こそが“ひ
『NoOOOOOOOOoOOOOOOOOOO!!?!?』
絶叫の末、彼の存在は自らの人格保存の為に自閉モード――――つまり引きこもる事になるのだった。
-Interlude-
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ、嘘だぁあああああああああああ!!」
町中の商店街近くでも絶叫している者がいた。井上準だ。
衆目を集めているのにも拘らず、一切気にせずに膝を地に着けて両手をついて泣き叫んでいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
小雪は一緒の変態扱いされないために、それなりに離れて他人の振りをし続けている。
その友人から見捨てられた準は今も人目を憚らずに泣き続けている。
「グッ、うぅっ、お、俺だって・・・こうなる予感はあったんだよ・・・!」
準が泣いている原因は同い年の1人の少女にあった。
その少女は、準たちの様な幼児体型を好みとする性癖の者達からして、究極の理想形と言っても良い程の憧れの存在だった。
そんな彼女だが以前から男の影がちらついていて、今日遂に確実に付き合っているだろうラブラブな空間を形成しながら手を繋いで並んで歩いている男とのデート中の光景を目の当たりにしてしまったのだ。
これに絶叫せずにいられるわけがない。例えば準とか。
「け、けど・・・やっぱり期・・・待したくなっちまう・・・もんじゃねかーよぉ・・・・・・」
そこで携帯にメールの受信音が響く。無視しても良かったが敢えて見てみると、自分から距離を離している小雪からだと言う事が解った。
文面の内容は――――。
『準はその子を見守りたいだけと言ってたのに、そう言う反応はおかしいのだ(゚Д゚)ノ』
「がふっ!?」
効果は抜群だった。
小雪は正直興味は無かったが、準の方から今日までに当の少女の事を何度も聞かされ続けていたので、彼女に対する準のスタンスも聞かされてたからこその必殺の一撃だった。
「そう、だよな。あの娘が幸せになるなら、俺のやるべきことは陰ながら見守る事だよな・・・!」
そうして涙を拭きながら立ち上がり、小雪の言葉で決意を新たにした直後、準の視界内でその2人が脇道に入って行き抱きしめ合ってから濃厚なキスをし出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ブチっ)」
さらに男の方が彼女の胸に手を当てようとした所で、までまじまじと見せつけられたと勘違いした瞬間に準は鬼の形相へと変貌した。
「やっぱ、殺ッッッ」
「ディバイン・クルセイド――――キィィィイイイイイイクッッ!!」
「おべはぁっ!!?」
小雪の鋭い蹴りが準の頬にクリンヒットして、その威力で気絶した。
「全く困ったハゲなのだ」
小雪は周囲の通行人などにお騒がせしましたーとお辞儀をして、準の方足を持って引きずりながら離れる。
「今頃シーマ大丈夫かな?」
-Interlude-
そう、小雪から心配されていたシーマは冬馬に押し倒されて――――はいなかった。
冬馬は戦略家だ。冷静沈着でリスクとリターンを瞬時に秤にかけてから最善、或いは次善の策を次々と打ち続ける。
だからリスクだらけなのにスリルに酔いしれる風間翔一の様な蛮勇行為などするはずがない。
まあそれ以前に、冬馬はキッチリと相手の同意を持って行為に勤しんでいるので、そんな強姦紛いな事など起こす筈が無い。
「フフ、シーマ君はあちらのビルについては知りませんよね?」
「ああ、案内頼む」
なのでこの周辺をまだまだ把握しきれていないシーマの為に案内すると言う名目で、デートだけで我慢していた。
そこへ。
「おお、シーマに冬馬では無いか」
そこに居たいの金髪でガタイの良いアメリカン風の巨漢紳士、エジソンの偽装の姿だった。
「おや?トーマスさんでは無いですか。こんな処で珍しい」
「いや、そもそも出かけること自体が珍しい」
エジソンとの遭遇によりデートは一旦中止となる。
「人を引きこもりの様に言うのは感心しないぞ。何、友人との約束があってな。ここが待ち合わせ場所なのだ」
「何時の間に普通の友人なんて作ってたんだ」
「何か含みを感じるの」
「あのぉ・・・」
そこへ申し訳なさそうに会話に入ろうと努めるモノが現れた。
「おお、来たかね?」
「は、はい、遅れてすみません」
「なに、私も今来たところだからね」
「トーマス、彼女が待ち合わせていた友人の?」
「うむ。冬馬君達や士郎達と同じ川神学園の学生さんの」
「ま、黛由紀恵です。宜しくお願いします、シーマ先輩。葵先輩」
なんとか、いっぱいいっぱいと言った感じの自己紹介。
それをシーマは助け船を出す。
「そう緊張する事は無い。ミヤコから話は聞いている。とても美人な一個下の子」
それをエジソンは誇らしげに、うむうむと頷いている。
由紀恵は美人などと言う評価がシーマの口から発せられるなど思いもしていなかったので、恥ずかしげだ。だが、
「でもあまりに友人が少なく、腹話術を覚えて松風と言う擬似友人を作ったとても残念な子だと」
『おふっ!?』
「はうっ!?」
あまりに的確過ぎる言葉に松風と由紀恵が痛恨の一撃に悶えた。
これに友人として断固たる憤りをぶつけるエジソン。
「シーマ!貴様なんて事を・・・!たとえ事実だッたとしても指摘していいとは限らない事を知らんのかっ!?最初は松風君で、次には年上の先輩ばかり。漸くできた同い年の友人も、用事があれば再びボッチに巻き戻る。そんな由紀恵君に対して気遣いもしないとは言語道断!確かに最初は私にも初対面だと言うのに腹話じゅ――――松風君にばかり喋らせると言うのを前面に押し出す事にドン引きしたが、それも一つの個性だと一億歩譲って断腸の思いで割り切れば――――」
由紀恵と庇うと見せかけて?次々と彼女へのカミングアウトをするエジソン。
その度に由紀恵の瞳と松風の声音からは感情と言う色が失われて行く。
「――――で、あるからして」
途中で背後に居るであろう由紀恵に背中を触られた事に気付き振り返る。
そこで見たのは若干目頭に涙をため込んでいる由紀恵の姿だった。
「大丈夫ですトーマスさん。私、私・・・慣れてますから!」
そのまま来た道を逆走するように駆けていく由紀恵。
「あっ、待ちたまえ由紀恵君!っ、今回の事は帰ったら存分に解らせてやるぞ、シーマ!覚悟しておき給え!――――待ちたまえ由紀恵君って、早!?もうあんなに小さくしか見えんだと!?」
人の身で英霊の身体能力に近づくまでに上り詰めた由紀恵に、英霊になってから初めて人外の体を手に入れたエジソンでは追いつける筈もない。主に歩法や体の使い方、体力面など差で。
エジソンもいなくなってからシーマは困り顔を浮かべながら冬馬に聞く。
「これは余が悪いのか?」
「きっかけを作ったと言う意味ではシーマさんにも非はあるのでしょうが、そこから先の追撃から止めを刺したのはトーマスさんですから、最低でも9割以上トーマスさんが原因でしょうね」
冬馬が語る様に、由紀恵を悲しませた論争は現時点ではシーマが有利のようだった。
-Interlude-
梅屋を後にした士郎一行は九鬼財閥極東本部に来ていた。
「呼び出してすまない、士郎。よく来てくれた」
歓迎したのは英雄と専属兼序列一位のあずみだ。
いつもの3人の内1人のマープルはスカサハとともに現地の調査に赴いていて、他2人も忙しい様だ。基本業務と捜索とで。
「いや、昨日の今日だしな。これからの為にも情報共有は必要だろ」
「助かる・・・・・・が、ところで、如何してレオナルド殿が?」
「フフ、僕も知りませんでした。まさか英雄さんが“魔術”関連の事を既に認知していたとは」
「!」
レオの言葉に驚く英雄だが、それでも話を続ける。
「ですがそこまで不思議でもありませんでしたね。何せ、クラウディオ・ネエロ殿やミス・マープルが九鬼財閥には居るのですから」
2人の家系は元々魔術師であると言う事を把握している事も含めての英雄への言葉。
「2人の家の事情を把握しているとは・・・・・・まさかハーウェイ家も魔術師の家系とは知らなかったよ」
「フフ・・・」
英雄の確認じみた言葉に、敢えて漏らしたかの様な笑みを浮かべるだけで肯定も否定もしないレオ。
この現代で自身の家系が魔術師の家柄だと認めるのは相応のリスクとなる。ましてやそれが西欧財閥の盟主ハーウェイ家となれば、そのリスクも増し増しだ。
故にまだまだ誤魔化す。それが業務提携などもしていないライバル企業の重鎮兼跡継ぎ候補の1人からの質問ともなれば尚更だった。
「ささ、ボクの事よりも士郎さんとの話があるのでしょう?」
「む、ではお言葉に甘えて。――――まず最初に捜索の協力及び現場検証の人材派遣の依頼痛み入る」
「他人事じゃないしな。あまり気負うなよ?」
「そう言ってもらえると助かる」
九鬼の依頼を受けると決めたのは、勿論士郎では無く雷画だ。だが今この場に居るのは士郎であり、それはつまり今この場において限定で雷画の代役も任されているので、一々自分が決めた事では無いとは言わない。
「それにしても事前に話には聞いていたが襲撃者が例の人切りだと言うのは本当なのか?」
「気絶させられていた従者の傷跡からの推察だがな。クラウディオの切られ方と酷似しているらしい。我はその当たりは専門外故、ヒューム達の判断を信じる他あるまいとも。――――だが同時に模倣犯の可能性も視野に入れて捜索させている」
「その可能性もあるんだろうが、俺はそれ以上に犯人が誰であれ、何故あの時点であの場に居たのかが気になる。まるであの場所で何かが起きる事を予想出来ていたかのように」
「む。確かに。言われて見ればその通りだな。あずみよ。矢張りこれは魔術師の仕業なのか?」
あくまでも控えていただけの専属従者に話しかける英雄。
「可能性としてはあるかもしれませんが、ただただ疑問しか湧きません」
「疑問とは?」
「そこで何かをしていたのが魔術師だとして、神秘の秘匿は彼らの中で基本中の基本、常識です。それを怠り認識阻害の魔術・結界を施していなかった事に疑問を感じます。しかも偶然その近くに居た我が九鬼の従者2人の目撃者に対して、口封じのために殺害若しくは記憶操作をしていなかった事も気になります」
「成程。不可解な点が多すぎると言う事か」
「だがその発生地点が襲撃者が意図的に起こしたものでは無いと言うなら、それはそれで問題だ。どの様な手段かは分からないが、襲撃者はそれを事前に知り得ることが出来ると言う事だ。この事実は今後も後手に回りかねない不安要素に成りうるだろうからな」
英雄と士郎は2人揃って唸る。
その2人を結果的に見守っているあずみは居心地悪そうにしていた。
原因は分かっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
(なんなんだ?)
猟犬の部下で、今はレオナルド様の護衛役のリザ・ブリンカー軍曹があたいの事をさっきからずっと奇異の目(客観的かつ具体的に言うなら目の前に念願のおもちゃを手に入れた子供がキラキラした目)で見てくる事だ。
面倒そうだったので無視しし続けていたが、流石に此処まで長いとうざったらしくなってくる。
そう、あずみがリザからの視線に不機嫌さを隠していても話は進む。
「せめて襲撃者が単独か複数か、それさえ分かれば」
「少なくとも2人くらいはいる様だぞ?」
この場に集まっていた誰の声では無く、如何やら調査から戻って来たミス・マープルに連れられて寄って来たスカサハからのものだった。
「師匠」
「スカサハ殿、もう調査結果が出たのですか?」
「全容解明には至ってはおらぬがな。少なくともその魔力の影響によって召喚されたであろう英霊か若しくは別の何かを差し引いても、少なくとも高位の霊器体(英霊か、それに匹敵する幻想種)が二体いたことが判明した」
「つまり最悪、最低でも三体の高位霊器体が敵と言う事ですか。マープルよ。捜索隊の指揮を執っているヒュームに連絡は」
「既に終えております。これからはより慎重に動く様にと」
「流石だな」
マープルの何時も通りの手際の良さに感心する英雄。
それを横目に士郎はスカサハに確認する。
「藤村組の捜索隊には連絡済みですか?」
「あっ、川神鉄心に連絡した次にしようと思った所で此処に到着したから忘れてた」
「ちょっ!?」
身内への連絡を忘れるとは如何いう事ですかと問い詰める士郎。
そんな彼らは自分達の生活や町を守る為、襲撃者達を必死に捜索するが見つからず、現地調査でもそれ以上の事は判明しないまま三日過ぎるのだった。
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