戦国異伝供書
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第四話 治世の功その七
「あの様に質素でな」
「孝行を尽くされるとは」
「お母上にな」
「戦の采配だけでなく政も出来まする」
「それじゃ。わしも近頃じゃ」
前田はその大柄でかつ端整な顔で述べた。
「政のお役をな」
「殿に命じられてですな」
「しておる、そちらのことも学びながらな」
「それで叔父上も万石取りになられていますな」
「しかしじゃ、まだまだじゃ」
前田は自分から言った。
「政のことはな」
「わかりませぬか」
「わからぬことが多い」
実にというのだ。
「まだまだ学問が足りぬ」
「左様ですか」
「そちらのことのな。もう武辺ではじゃ」
「駄目ですか」
「槍の又左と言われておったが」
しかしというのだ。
「万石取りともなると最早な」
「槍だけではないですか」
「とてもじゃ」
それこそというのだ。
「やっていけぬ」
「ううむ、そこまでいくと大変ですな」
「しかしやりがいがある」
実にとだ、前田はこのことは笑って述べた。
「政もよいぞ。だからな」
「むっ、それがしもですか」
「そうじゃ、いい加減政にもじゃ」
こちらもというのだ。
「お主は務めよ」
「そう言われますか、しかしです」
「やはり政にはか」
「ははは、興味がありませぬ」
慶次は叔父に笑って述べた。
「そちらは」
「相変わらずじゃな、お主は」
「人は好き嫌いがありますな」
「そしてその好き嫌いにはか」
「どうもそれがしは人一倍強く」
それでというのだ。
「どうしてもです」
「好きでないとか」
「興味もやろうという気もです」
そうしたことは一切というのだ。
「思わぬので」
「だからか」
「これからもです」
「政には関わらずか」
「傾奇者として生きていきまする」
「それでは禄が増えぬぞ」
前田は慶次がこうしたことにも興味がないことも知りながらもあえて言った。
「今は一千石だがそこから思ったよりな」
「槍働きだけではですか」
「それでもよいのか」
「はい、構いませぬ」
一切と言うのだった。
「それがしは」
「そうなのか。殿は戦だけでなく政も観られる、いや」
「むしろ政の方をですな」
「よく観られる方じゃが」
「はい、しかしです」
「そのままでよいか」
「千石とは凄いではないですか」
その口を大きく開いて笑ってだ、慶次は前田に応えた。
「それがしの様な戦と遊びしか出来ぬ大不便者にとっては」
「だからか」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「それがしはこれで」
「千石でか」
「家族も不自由なく暮らせていますし」
それでいいと言うのだった。
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