英雄伝説~西風の絶剣~
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第52話 クローディア姫救出作戦
side:リィン
現在俺達はオリビエさんと共にエルベ離宮を目指して街道を進んでいた。
「何だか騒がしいね、誰かが戦っているのかな?」
「恐らく陽動をしている人達が特務隊と戦っているんだろう、真正面から攻め入るにはそれが一番有効的だからな」
各関所や飛空艇乗り場が特務隊に押さえられている以上、遊撃士協会側に増援を送るのは難しいだろう。
となれば王都に残っている勢力だけで戦わなくてはならないが姉弟子たちを数に入れてもかなり厳しいはずだ。本来なら役割を分けるだけの人材は無いはずだが様子を見るに誰かが陽動を担当しているようだ。
「そういえばここに来る途中で親衛隊の人達を見かけたな、彼らは遊撃士側の協力者なのか?」
「ああ、親衛隊も特務隊と敵対しているからな。きっと利害が一致したから共に戦っているんだろう」
ここに来る最中に何人か見た事のある服装の人物達をチラリと見かけたことが何回かあった、その人物達とは親衛隊の事で彼らも遊撃士に協力して戦っているらしい。
「本当は姉弟子達に加勢したかったけど向こうは大丈夫そうだ、俺たちはエステルさん達の援護に向かおう」
「ん、了解」
姉弟子やグラッツさん達、そして親衛隊の隊長であるユリア・シュバルツさんの姿は見たがエステルさん達の姿はなかった。恐らく彼女たちが人質の救助に向かったと考えた俺は増援を潰すために彼女たちの元に行く事にした。
エルベ離宮に向かっていると前方で誰かが複数の特務隊と戦っているのが見えた、あれはシェラザードさんか?
「どうしてシェラザードがここにいるの?確かロレントにいるんだよね?」
「どうしてここにいるのかは分からないがピンチのようだ、助太刀するぞ!」
「承知した!」
フィーが飛び上がり閃光弾を投げつけた、そしてシェラザードさんに向かって声をかける。
「シェラザード、目を塞いで!」
「えっ?今の声って……」
突然声をかけられしかもそれが聞き覚えのある声だったからか、一瞬戸惑った様子を見せたシェラザードさんだったが直に思考を切り替えて目をつぶった。その瞬間にフィーが投げつけた閃光弾が破裂して強烈な光が放たれた。
「ぐわっ!?」
「これは一体なんだ!?」
特務隊の数人が光に目をやられて視界を奪われる、そこに跳躍した俺とラウラがそれぞれのクラフトを放った。
「業炎撃!」
「鉄砕刃!」
炎を刀に纏い敵に叩きつける、すると爆炎が生まれて他の敵を巻き込み焼き尽くしていく。それを何とかかわした他の特務隊は遅れて放たれたラウラの一撃に成すすべもなく意識を刈り取られていった。
「こいつら、前にルーアンで仲間の邪魔をしたという連中か!?」
「まさかこいつらも遊撃士や親衛隊達の仲間になっていたというのか!」
「ぐっ、増援を……」
「遅いよ、ストーンインパクト!」
オリビエさんが特務隊達の上に巨大な岩石を召喚して落とす、特務隊達は岩石の下敷きになり白目をむいて気を失ってしまった。
「オリビエさん、ちょっとやり過ぎじゃないですか?」
「威力は調整してあるから死んではいないさ」
一応死なれないように回復アーツを特務隊にかけた俺は呆れた視線をオリビエさんに向ける、しかし彼はさわやかな笑みを浮かべて人差し指を立ててチッチッチと横に揺らした。
「まあ死んでなければいいですけどね……フィル、そっちは終わったか?」
「ん、終わったよ」
回復を終えた特務隊達の武器をはぎ取って目が覚めて起き上がられても面倒だから縄で縛っておいた。
「シェラザードさん、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう……どうしてあんた達がここにいるのか気になるけどそっちの男が原因のようね」
ジト目でオリビエさんを睨みつけるがオリビエさんはいつもの調子でシェラザードさんに話しかけた。
「やあシェラ君、久しぶりだね。こうしてまた会えて嬉しく思うよ、再開のハグでもどうだい?」
「あんたは相変わらずのようね、でも何でここにいるのかしら?」
「君と同じ目的さ、その様子だと既に事情は知っているようだね」
オリビエさんの言葉にシェラザードさんは探るような視線を彼に向けた。
「……あんた、一体どこから情報を得たの?」
「僕の正体は薄々感づいているんだろう?情報を得る方法は教えられないんだ、唯僕がここにいるのは帝国の未来を考えたからだと言っておこうか」
「……まあいいわ、ここであんたと口論していても仕方ないしね。でもどうしてリート君とフィルがいるのかしら?」
どうやらシェラザードさんとオリビエさんの間には何らかのやり取りがあったらしいな、シェラザードさんはオリビエさんがどうしてここにいるのか何となく察した様子で納得したようだが今度は俺達に鋭い視線を向けてきた。
「彼らにも協力を仰いだのさ、今回の作戦は人手が多いほうがいいと思ってね」
「何を考えているの!彼らは民間人よ、こんな争いに巻き込んでいいわけがないでしょうが!」
「いやリート君達は既に黒装束達……特務隊に顔を覚えられているんだ、特にフィル君は一度奴らに怪我を負わせている。王都が決戦の場になると言うのなら彼女たちも狙われる可能性があると思ったから敢えて一緒に行動しているんだよ!」
「この子達を王都に連れてきたのはあんたでしょうが!どうせそれも作戦の一部だったんでしょう!?」
「あはっ、バレちゃった?」
いたずらがバレたような笑みを浮かべるオリビエさんにシェラザードさんは呆れたような表情を浮かべて怒っていた。というか最初から俺達を巻き込む気で王都に行くことを誘ったという訳か……
「バレちゃったじゃないわよ、確信犯じゃない!……ったく、アイナがこうなると分かっていれば絶対にこの子達を王都に行かせなかったって後悔していたのよ。帰ったから覚悟していなさいよ?酒を飲みながら説教だからね」
「ちょ、ちょっと待って!?それは流石に……!?」
顔を青ざめるオリビエさんを無視してシェラザードさんは俺達に話しかけてきた。
「あんた達、後は私が引き受けるからこんな危ない所にいないで急いで王都のギルドまで戻りなさい」
「お言葉ですがシェラザードさん、ここに来るまでに俺達はそれなりの特務隊を相手にしてきましたから既に敵対勢力の一部だと思われている可能性が高いと思います」
「それにこの作戦が成功しようとしないと遊撃士協会は特務隊の敵として目を付けられることになるはず、そうなればギルドだって攻撃を受ける可能性もあると考えられる。したがって安全な場所はないと思うよ」
「それは……」
今回の人質救出作戦が成功しようと失敗しようと遊撃士協会は特務隊に手を出したのだから向こうが敵意を向けるのは必然だ、そうなると決着をつけるまではこの国に安全な場所は無いと言える。シェラザードさんはそれを想像したから言いよどんでしまったのだろう。
「シェラザードさん、一流の遊撃士であるあなたが俺達を危険な目に合わせたくないと配慮してくださるその心遣いには本当に感謝しています。ですが俺達は自分の意志でここまで来ました」
「わたしたちもエステルとヨシュアの力になりたいの、だから一緒に戦わせてほしい。もし駄目だって言うなら勝手に付いてくから」
「あんた達ねえ、私を脅すつもり?」
「すみません、こうでもしないと納得していただけないと思って……」
暫く鋭い視線を俺達に向けていたシェラザードさんだったが、遂に諦めたようにため息を吐きながら首を縦に振った。
「……仕方ないわね、今ここで言い争っていても仕方ないし今回は特別よ」
「シェラザードさん……!」
「ただし死んだりしたら私もあの世まで行って鞭打ちにするからね!私に鞭を振るわれたくなかったら生き残るように心掛けなさい!」
「ありがとう、シェラザード」
多少強引だったがシェラザードさんから許可を得ることが出来たのでこれで思う存分に戦えるな。
「そういえばそっちのお嬢ちゃんは誰なの?リート君とフィルの知り合いかしら?」
「お初にお目にかかります、私はラウラ・S・アルゼイドと申します。リート達とは幼少からの付き合いで武術大会に出場するためにリベール王国に来ました」
「あら、ご丁寧にありがとう。私はシェラザード、よろしくね」
ラウラとシェラザードさんの自己紹介も終え、俺達はシェラザードさんも仲間に引き連れてエルベ離宮に改めて向かう事にした。
「そういえばフィル、あんたどこで閃光手榴弾なんか手に入れたのよ」
「特務隊から奪ったものを使った、因みに使い方はオリビエから教わった」
「オリビエ、あんたこんな小さな子に物騒なもんの使い方を教えているんじゃないわよ」
「あはは、ごめんね♪お詫びに一曲でも……」
「ああもういいわ、あんたと話していると疲れるわね……」
シェラザードさんの質問に対してフィーはオリビエさんのせいにする、オリビエさんも察してくれたのかフィーの証言に合わせてくれた。
「皆、もうすぐエルベ離宮に着くよ!」
森の街道を抜けた俺達は立派な庭園と奥に存在する豪華な建物が見える門の前にたどり着いた。
「おや、誰か戦っているぞ?」
「あれは親衛隊の人たちか、特務隊と戦っているようだな」
エルベ離宮の庭園で親衛隊の人達と特務隊達が戦いを繰り広げていた、あれは恐らくエルベ離宮に残った勢力を引き付ける撹乱班だろう。
「死ねぇ!」
「危ない!」
前にいた親衛隊の人が特務隊の一人に攻撃を受けようとしていたので俺が間に入り攻撃を防いだ。
「なに!?」
「破甲拳!!」
相手の胸板に掌底を喰らわせて庭園の池に突き落とした。
「新手か!?」
「遅いよ」
「ぐはぁっ!?」
残っていた特務隊達もフィー達が無力化した、敵がいないことを確認した俺は膝をついて息を荒くしていた親衛隊の人にキュアラをかけた。
「大丈夫ですか?」
「き、君達は……?」
「安心してください、俺達は味方です」
「そうか、増援が来てくれたのか」
俺達が味方だと分かった親衛隊の人達は安堵して様子を見せた。
「すみません、あなた方はもしかすると人質の救助に来た方々ですか?」
「ああそうだ、私たちは撹乱を担当してその後に遊撃士の方々が人質を救出するためにエルベ離宮に突入していった」
「それは何時ぐらい前ですか?」
「まだそんなには時間は立っていないはずだ……頼む、我々の代わりに彼らを援護してやってほしい」
「分かりました、あなたたちは休んでいてください」
俺達は親衛隊の人達から情報を貰うとエルベ離宮の内部に潜入した。
「ぐっ、侵入者だ!これ以上好き勝手にさせるな!」
「邪魔だ!地裂斬!」
「ぐわぁぁぁ!?」
俺達を見つけた特務隊が武器を抜こうとしたが間髪入れずにラウラが攻撃を放ち特務隊を吹き飛ばした。内部に残っていた残りの敵をあらかた無力化した俺達は中庭から長い通路へと向かいその先に会った大きな扉の前で立ち止まった。
「中が騒がしいね、もしかしてここに人質達がいるのかな?」
「取りあえず様子を伺ってみよう」
扉の隙間から中を見てみるとエステルさんとヨシュアさん、そしてジンさんがおりその後ろにドレス姿の綺麗な女性がいてエステルさん達の前方では2人の軍人が子供を人質にしていた。
「子供を人質にしているのか、酷い事をするね」
「オリビエ、私が先に行くからあんたは隣の奴を……」
「フィル、行くぞ」
「了解」
「ちょ、あんた達!?」
人質を見て即座に現在の状況を把握した俺は先に部屋の中に突入した。
「な、なん―――――」
「遅い」
子供に銃を突き付けていた軍人を背後から掴みかかり頭を地面に叩きつけた、そして突然の襲撃に動揺していた隣の軍人に遅れてフィーが飛び掛かり膝蹴りを喰らわせた。
「ぐ……がぁ……!?」
「子供を泣かせた罰」
白目をむいて倒れた軍人を見て俺は辺りを警戒する、どうやらもう敵はいないようだ。
「怪我は無いか?」
「ひぐっ……うう……うわわああああああん!!」
俺が女の子に声をかけると自分が助かったことを知った女の子は涙を流して俺にくっついてきた、余程怖かったんだろうな。
「よしよし、怖かったよな。でももう大丈夫だ、怖い奴らはみんなやっつけたからな」
何じゃ来る女の子の頭を撫でながらあやしていると、背後からエステルさん達が駆け寄ってきて俺に声をかけてきた。
「リート君!?それにフィルやシェラ姉にオリビエまで……」
「来てくれたんですか」
「久しぶりね。エステル、ヨシュア……それにジンさんも」
「ははっ、随分と久しぶりじゃないか、シェラザード。しっかし随分とまあ色っぽくなったなぁ、正直見違えたぞ」
「あ、あら、そうかしら?」
どうやらシェラザードさんとジンさんには面識があったらしい。そういえばシェラザードさんはカシウスさんの弟子だったな、ジンさんもカシウスさんとは知り合いのようだから何らかの接点があってもおかしくはないか。
「むむむ、そこはかとなくジェラシーを感じるね。僕の事を散々弄んでゴミのように捨てるのねっ」
「安心しなさい、あんたの相手はこの件が終わったらゆっくりとしてあげるわ。アイナも交えてね」
「ごめんなさい、僕が悪うございました」
シェラザードさんをからかおうとしたオリビエさんだったがアイナさんの名を聞いて即座に謝った。よっぽどアイナさんの事がトラウマになったんだな……
「まったくもう、皆相変わらずなんだから」
「でもシェラさん、よく王都に来れましたね。関所は封鎖されているはずではないんですか?」
「ええ、だからヴァレリア湖をボートを使って移動したわ」
なるほど、リベール王国の中央にあるヴァレリア湖はロレントから王都グランセルまでつながっているからそこを通れば関所は関係ない。
「でもなんでスチャラカ演奏家やリート君達も一緒にいるの?」
「この子達はオリビエに連れられてきたのよ、ここに向かう途中で偶然出会っちゃって帰れと言っても聞かないのよ。勝手な行動をされるくらいなら連れてきた方がいいって判断したわけ」
ジト目で俺とフィーを見るシェラザードさんに俺は思わず顔をそらしてしまい、フィーは口笛を吹きながら知らん顔をしていた。
「ゴ、ゴホン!それでそちらにいらっしゃるのが……」
「あ、紹介するわね。女王様のお孫さんにあたるクローディア姫殿下よ」
「皆様、初めまして。助けに来て下さって本当にありがとうございます」
ペコリと首を下げるクローディア姫殿下に思わず見とれてしまった、綺麗な人だなぁ……
「いえ、そんな姫殿下にそのようなお言葉を頂けるだけでも光栄な限りです。あ、申し遅れました自分は……」
「なんでそんな恰好をしているの、クローゼ?」
自己紹介しようとした俺の声を遮ってフィーがクローディア姫殿下をクローゼさんの名前で呼び不思議そうな顔をして首を横に傾けていた。
「おいフィル、この方はクローディア姫殿下だぞ?確かに髪の色や目の色はそっくりだけどクローゼさんじゃないよ」
「リートこそ何を言っているの?この人はどう見てもクローゼだよ、そうだよね、クローゼ?」
「ふふっ、フィルさんはすぐに分かってくれたんですね」
「当然じゃん、クローゼは大事な友達だしね」
えっ、姫殿下が肯定したということは本当にクローゼさんなのか!?
「クローゼさん……なんですか?」
「はい、お久しぶりですね。リートさん」
マ、マジか……まさかクローゼさんがクローディア姫殿下だったなんて……
「で、でもどうして姫殿下が正体隠して普通の学校なんかにいたんですか?」
「私が姫殿下であることをあまり表沙汰にしたくなかったからです。でもエステルさんも気が付かなかったし意外と分からない物なのですね」
「リートはもっと観察眼をつけることだね」
フンスと胸を張って可愛いドヤ顔をするフィーだが普通姫殿下が正体隠して学園生活を送っているなんて思わないだろう、そんなのは小説の中だけの話だと思っていたよ。
「殿下、ご無事でしたか!?」
「ピューイ!」
俺がそんなことを考えているとそこに親衛隊の体調であるユリア・シュバルツさんと一羽のシロハヤブサがこちらにやってきた。
「シロハヤブサ?どうしてこんなところに……」
「あっ、ジークだ。おーい、ジーク」
フィーはあのシロハヤブサを知っているらしくジークと呼ばれたシロハヤブサはフィーが呼ぶと嬉しそうに鳴いて彼女の腕に止まった。
「フィー、そのシロハヤブサは?」
「この子はジークっていうの、クローゼの友達だよ」
「ピューイ!」
クローゼさんの友達?よく分からないがかなり人に慣れたシロハヤブサなんだな、フィーの腕に大人しく止まっているし触っても逃げようとしない。
「殿下、ご無事で何よりです……本当に……本当に良かった……」
「ユリアさん……あなたも元気そうで何よりです」
「本当に申し訳ございませんでした。私が不甲斐ないばかりにこのような苦労をおかけして……出来ることなら至らぬ我が身をこの手で引き裂いてやりたかった……」
「そんなことを言わないでください。お互いこうして無事に再会できただけでも嬉しいです。助けに来てくれて本当にありがとうございました」
「殿下……」
ユリアさんはクローディア姫殿下……いやクローゼさんの前に膝まづいて無事だった事を知って安堵したのか泣いていた。そんな彼女を見てクローゼさんはお互いの無事を喜んでいた。
「えっと、感動の再会の最中に悪いんだけど、どうしてジークがここにいるの?」
「ふふっ、それはジークが殿下の護衛だからさ。ジーク!」
「ピュイ!」
エステルさんはジークの事を知っているらしくどうしてここにいるのかユリアさんに質問する、ユリアさんがジークの名前を呼ぶとジークはフィーの腕から離れて彼女の腕に止まった。
「ジークがクローゼの護衛?」
「ああ、ジークは殿下の護衛であり同時に親衛隊の伝令係でもあるんだ、君たちのホテルにも手紙を届けさせただろう?」
「あ、あれはジークだったのね」
前にエステルさん達が夜に出歩いていたのをフィーが見つけたが話を聞く限りユリアさんに呼ばれた二人はこっそり彼女と接触していたのだろう。
「そういえばリートさんとフィルさんにはご紹介が遅れてしまいましたね。ユリアさん、こちらの二人が例の件でお世話になった方達です」
「君たちが例の……はじめまして、私はユリア・シュバルツ、王国軍親衛隊の隊長を務めさせて頂いている者だ。君たちが殿下の力になってくださったと聞いていたので是非一度会ってお礼を言いたいと思っていた、本当にありがとう」
「いえ、俺はそんなに大したことはしていませんよ。どちらかと言えばフィルの方が力になっていたと思います」
「クローゼは友達だからね、力を貸すのは当然の事。だから気にしなくていいよ」
ユリアさんにお礼を言われたが俺はそこまで大した事はしていないんだよな、フィーの方がクローゼさんの力になっていたはずだ。
「そう言えばもう特務隊の奴らはいないのかしら?」
「離宮内に残っていた奴らは粗方無力化しました、後は姉弟子達の援護に……」
「ただいまー!無事に終わらせてきた……って、えぇ――――ッ!?なんで弟弟子君がいるの―――――ッ!?」
「……どうやらその必要はなさそうだね」
戻ってきた姉弟子達に事情を話すために姉弟子たちの元に向かった。
―――――――――
――――――
―――
姉弟子たちに事情を話した後、俺達は離宮内の一室に集まって状況確認をしていた。
「さて、クローゼさんを助けることは出来ましたが問題はここからですよね」
「ああ、グランセル城内にはまだ相当の数の敵が残っているうえに各地の王国軍も未だ特務隊のコントロール下にある」
「下手をしたら反乱軍としてここを制圧されかねないわね」
俺の言葉にユリアさんが頷きシェラザードさんが補足する。彼女の言う通り特務隊の要であるリシャール大佐は健在で敵の数も多い上に王国軍は掌握されているというマズイ状況だ、時間が立てば立つほどこちら側不利になっていくためここからどうするかが重要になるだろう。
「取りあえずこれからどうしようか?」
「そうだね、出来ればクローゼはここから逃がした方がいいと思います」
エステルさんの言葉にヨシュアさんがクローゼさんを逃がした方がいいと言った。確かにそれがいいだろう、このままここに残っているのは危険だしまた捕らえられてしまったら意味がない。
「ならば帝国か共和国の大使館に保護を求めてはどうかな?大使館内は治外法権……特務隊といえ簡単には手を出せない場所だ」
「さっきの作戦で鹵獲した飛行艇で亡命する手もあるな、根本的な解決にはならないが時間稼ぎには丁度いいだろう」
「そうだな、どうやって殿下をお逃がしするべきか……」
オリビエさんとジンさんの意見にユリアさんが頷くがクローゼさんは俯いたまま何も言わずにいた。どうかしたのだろうか?
「……あの、皆さん。この状況で私が遊撃士の皆さんに依頼をすることは可能でしょうか?」
「えっ?」
すると突然クローゼさんが遊撃士に依頼をしたいと言い出した。
「人質救出のミッションは完了したから大丈夫だと思うよ、勿論依頼内容にもよるけどね」
「でしたら……無理を承知でお願いします。王城の解放と陛下の救出を手伝って頂けないでしょうか?」
「で、殿下……」
クローゼさんが依頼してきた事、それは今も捕らわれの身となっているアリシア女王陛下の救出だった。
「そっか、そうよね。今度は女王様を助けないと!」
エステルさんはやる気を見せるが他の全員は難しいといった表情を浮かべていた。
「あれ、皆どうしたのよ。クローゼの力になってあげないの?」
「エステル、そうしたいのは山々だけど現状じゃ難しいんだよ」
「鉄壁と言われるグランセル城をこの面子だけで正面から攻め落とすのは不可能だわ」
「奪った飛行艇を使えば可能性はあると思うが敵さんも対空対策はしているだろうしそれだけではな……」
今ここにいるメンバーだけでグランセル城を正面から攻めるのは無謀でしかない。空から奇襲を仕掛けようとジンさんの言う通り対空はされているだろうし、せめてあの城門をどうにかしないと侵入など出来ないだろう。
「皆さん、私に考えがあります。これを見て頂けますか?」
クローゼさんが古い地図を取り出して俺達に見せてきた、これは何処かの全体図のようだな。
「これは王都の地下水路の内部構造を記した古文書です。これに王城地下に通じる隠し水路の存在が記されています」
「隠し水路……?」
「はい、私が考えた作戦ですがまず―――――――――――」
―――――――――
――――――
―――
「ふう……」
作戦会議を終えた俺達は明日の朝作戦を決行する事になったので各自休息を取ることになった。何人かが交代で警戒をして休息を取っているが俺は談話室でノンアルコールカクテルを飲んで物思いに浸っていた。
ここを管理している人には許可を貰っているので問題はない、どうして休まないのかというと少し一人で考えたいことがあったからだ。
「明日の朝に作戦が決行される、恐らく危険な任務になるだろう……リシャール大佐にロランス少尉、厳しい戦いになりそうだな」
特務隊の面々にカネーノ大尉、そしてリシャール大佐とロランス少尉といった実力者が待ち受けるグランセル城を解放するのは相当厳しいだろう。最悪の場合俺の中にあるあの『力』を使わなくてはならないかもしれない。
「リィン」
考え事をしていた俺の背後から誰かの声が聞こえてきたので振り返る、するとそこにはフィーが立っていた。
「フィーか、もしかして見回りの交代を伝えに来てくれたのか?」
「ううん、まだ時間にはなってないよ。唯リィンが部屋にいなかったから何をしているのかなって思ったの。でもお酒を飲んでいるとは思っていなかった、まるでサラみたい」
「これはノンアルコールカクテルだ、サラ姉みたいな事はしないよ」
割りと失礼な事を言っているが、このサラという人物は酒癖が悪く仕事前に飲酒するのも結構あるくらいだ。仕事柄対立したこともありまともに戦えば相当苦戦させられる強者だが、それが原因で俺達に負けた事もあるからな。
「そっか。じゃあ私にも何か作ってほしいんだけどいいかな?」
「ならそこに座っていなよ、適当に作ってみるからさ」
「ん、楽しみ」
チョコンとイスに座ったフィーを見てほっこりしながら俺はお酒などが入った棚からオレンジジュース、パイナップルジュース、グレープフルーツジュースをそれぞれ60mlずつ、グレマデン・シロップを小さじ3杯をカクテルシェーカーに入れてシェイクする。
「こんなものかな」
そしてゴブレットというグラスにキューブ・アイスを入れてシェイクしたものを注ぎ最後にスライスしたオレンジをグラスに付けてフィーの前に置いた。
「リィン、これは?」
「こいつは『ブシーキャット』といってな、『可愛い猫』という意味があるんだ。フィーにピッタリだと思ってこれにしたんだ」
「あ、美味しい。フルーティーで飲みやすいし名前も可愛いね」
嬉しそうにブシーキャットを飲むフィーを見て俺は自分の選んだチョイスが良かったことを喜んだ。
「ご馳走様、凄く美味しかったよ」
「満足してもらえたならよかったよ」
「でもリィンってこういうのに詳しかったんだ。わたし全然知らなかったな」
「ああゼノに教えてもらったんだ、こういうのは女の子受けがいいらしいからお前も知っておいた方がいいって」
「……」
俺がゼノに教わったと言うとフィーは若干不機嫌そうな表情を浮かべた。
「フィー、どうかしたのか?」
「……リィンってさ、ゼノ達とそういうお店とかに行ったことがあるの?」
「そういう店?」
「だから綺麗な女の人がいっぱいいるお店……」
ああ、フィーが言いたいのは俺がキャバクラみたいなところに行っているのかって事か。
「まあ前に社会見学みたいな名目で団長達に連れて行ってもらったことはあるけど変な事はしていないよ、そもそも年を隠して行ったんだから迂闊な事は出来ないって」
「……でもキャバクラとかに行った後ってもっとエッチなお店に行くんじゃないの?」
「ふ、風俗の事を言っているのか!?そんな所には行かないよ、前にゼノに誘われた時も断ったしできれば最初は好きな女の子としたいし……」
ゴニョゴニョと言いよどむ俺を見てフィーは若干分かりにくいがホッとした表情を浮かべていた、それに何だか嬉しそうだ。
「そっか、リィンは童貞なんだね」
「あまりそういう事は口に出さないでほしいな……」
別に童貞であることを気にしている訳じゃないが、フィーの口からそういう言葉は聞きたくない。
「クスクス、ごめんね。バカにしている訳じゃないから怒らないで」
「まあ別に気にしてないからいいさ」
フィーにフォローを入れられるなんて情けないな。
「……良かった」
「うん?何が良かったんだ?」
「リィン、なにか思い悩んでいるみたいだったから心配していたんだけどその様子なら大丈夫そうだね」
フィーは俺が思い悩んでいることを察して態々様子を見に来てくれたのか。
「心配をかけてしまったようだな、悪い」
「謝ることないよ、明日は西風の旅団で受ける大規模作戦並みにヤバそうだからね。わたしもリィンみたいに緊張してる」
フィーも表情には若干の不安が映し出されていた。フィーは冷静な性格をしているが怖くない訳じゃない、寧ろ冷静だからこそ明日の作戦の難易度が分かってしまったのだろう。
「リィンも怖い?」
「ああ、怖いよ。こういう時はいつも死んでしまったらどうしようかって思ってしまうんだ」
猟兵を続けて数年がたつが戦場に出るときはいつも怖くなってしまう。戦場とは少しの油断で死が待ち受けるような場所だ、こればかりは慣れることが出来ない。
「……大丈夫、リィンは死なせないよ」
「フィー?」
「わたしがリィンを守るから。リィンや他の皆もわたしが死なせない」
俺達を死なせないというフィーの目はいつになく真剣なものだった。
「……頼もしくなったな、フィー」
「うん、わたしはこの時の為に強さを求めた。今がそれを発揮する時だと思うの」
「そうか、でも皆を意識しすぎて君が死んでしまったら意味が無いからな。それは意識しておいてくれよ」
「了解。でもそれはリィンにも言えることだからね」
「ああ、承知しているよ」
フィーの問いに俺は頷いたが実際はそれを守れるか分からない、あの力を使えば俺は力に飲み込まれてしまうかもしれない。
「じゃあそろそろ交代の時間になりそうだし俺は行くよ、フィーもしっかり休んでいてくれよ」
「ん、了解」
俺はフィーに手を振って談話室を後にしたがその時にはもう俺の中には不安などはなかった。
(ありがとう、フィー)
俺は心の中でフィーにお礼を言って明日の作戦で必ず生き残ろうと強く決心した。
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