FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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ティオスと天海
前書き
最近体調が悪く夏風邪か熱中症か判断できない状態。
その分家でゴロゴロする時間が増えて作品が進んでいきます。
アクノロギアの大地を揺るがす一撃を片手で・・・しかも笑みを浮かべながら受け止めた天海。その男が何者なのかわからないアクノロギアは、目を見開きキョトンとしていた。
ガンッ
無防備を晒していたアクノロギア。彼の額に目掛けて頭突きを食らわせる天海。
「ぐっ・・・」
あまりの衝撃に額から鮮血が飛び散った。バランスを崩し後方へとよろけるアクノロギア。天海はそんな彼にさらに飛び蹴りをかます。
「こいつ・・・魔力を感じんぞ?」
アクノロギアの困惑の理由。それは天海が魔力を一切所持していないことにあった。この世界において魔力は絶対的な力。それを駆使する魔導士たちは一目置かれる存在なのだが、それはアクノロギアには通じない。
なぜなら彼は全ての魔法を食することができるのだから。しかし・・・
「なんなんだ!?貴様は!!」
絶叫と共に放たれたブレス。避ければ後ろにいるウェンディはもちろん巻き込まれる。味方ではない天海からすれば彼女がどうなろうと関係ないが・・・
「ほう、これはこれは・・・」
彼の選択に回避するの文字はなかった。
片手を前に出しアクノロギアのブレスを受け止めると、そのまま捨て去るかのように横に払い、難なく攻撃を回避した。
「バカな・・・」
数多のドラゴンを滅ぼし、世界の頂点とさえ言われる竜王に登り詰めたアクノロギア。そんな自身に一切の魔力も持たないこの男が互角以上の戦いをしていることに、アクノロギアは目を白黒させるしかできなかった。
「天海、生き返ったんだね」
圧倒的実力を見せつける天海。そんな彼の姿に笑いかけるティオス。だが、天海はそれに答えることなく、呆然と立ち尽くすアクノロギアの方へと向かっていく。
「ティオス、約束は覚えているか?」
「あぁ、もちろんだよ」
すれ違い様に言葉を交わす二人。彼らの次に発した言葉に、人々は驚愕した。
「「お前は俺が殺してやる、必ずな」」
今から何年も前の話・・・とある国ではある噂が立っていた。
「おい、聞いたか?」
「あぁ、青藍家のことだろ?」
誰一人として魔力を持つ人間のいない世界、エドラス。それを一つに統一しようとしているエドラス王国の兵隊たちは、ある一族についての会話で持ちきりだった。
「あそこに子供が生まれたらしいな」
「あぁ、しかも男児だと聞いている」
青藍家・・・エドラスでは名の知れた一族のこと。彼らがなぜ有名なのか、それはある理由があった。
「奴らがいては、エドラスの統一は夢のまた夢だ」
何年もかけて魔力を独り占めするために世界を統一しようとしているエドラス王、ファウスト。そんな彼らが手を焼いているのがその一族なのだ。彼らは戦いを好む。故に、エドラスから統一を避けたい国や街は彼らに頼み、エドラス軍を撃退しているのだ。
「まだ手のかかる子供のうちに始末できれば・・・」
あわよくばチャンスがあるかもしれない。そう思っていた。だが、それを叶えられるほど生易しくはなかった。
ドンドンドン
青藍家に子供が生まれて5年・・・状況は進歩することなどなかった。いや、むしろ悪化の一途を辿っていた。
「あれが天海くんか」
「まだ5歳だろ?なんて力なんだ」
眠たげな目をした少年の名は天海。彼は魔法を駆使して戦う王国兵を丸腰で、さらには片手で難なく殺してしまった。
「さすが我が子だ、天海」
その姿に拍手を送るのは天海の父、海宝。彼は日に日に成長していく息子に喜びを覚えていた。
「天海、お前は将来どうなりたい?」
父のように強くなりたい、そう答えてくれると思っていた。だが、返ってきたのはそれをも上回る答え。
「この世界で、一番強い存在」
無表情のまま淡々と答える彼の姿に思わず息を飲む。その目はいずれ自らも越えていこうとしているのがありありと見えた。
「・・・そうか、頑張れよ」
小さくうなずく少年の姿に微笑ましさを感じることはなかった。ただひたすらに、“恐怖”の二文字が脳裏を過る。そしてそれはほどなくして、現実のものになった。
「天海・・・これはどういうことだ?」
海宝は道場を作り多くの人々に自身の武術を教えていた。その道場でその日、惨劇が怒っていた。
「父上、俺はもうあなたの力も越えてしまった」
海宝の次に道場で強いとされている師範代を片手で突き殺している天海。血まみれの彼の姿に、門下生たちは涙目で震えていた。
「だからもうここはいらない。だから消し去るんだ、今ここで」
「貴様・・・」
その瞬間、父の顔は鬼のそれへと変わった。
「こんなことをして、生きて帰れると思うなよ!!」
その言葉と共に天海へと突進する海宝。彼の拳が実の息子の腹部を捉えるよりも先に・・・
グサッ
天海の蹴りが彼の体を切り裂いた。
「「「「「師匠!!」」」」」
絶対に起きてはいけない惨劇に絶叫する門下生たち。天海は倒れた父の姿を蔑むような目で見ながら、怯える門下生たちを一瞥してその場を後にした。
「飽きたな、この人生にも」
それからさらに数年もすると、天海は一般成人ほどの背丈になっていた。そんな彼はエドラスにおいて無敵を誇っていた。エドラスの兵隊やその幹部たちも歯が立たず瞬く間に殺める彼の力はまさしく最強と言えた。
だが、それゆえに彼はこの人生に魅力を感じられずにいた。
そんな時だった、あの声が聞こえたのは。
『君がこの世界の俺か?』
「!?誰だ!?」
脳内に直接響いてくる声の主を探すがどこにもいない。声は困惑している天海にさらに続ける。
『俺は別の世界の君だ、名をヴァッサボーネという。
君に頼みがあって声をかけた』
「頼みだと?」
話を聞くと、ヴァッサボーネには一人の子供がおり、彼に自身が隠した魔水晶と秘術を教えてほしいこと。それを頼んだヴァッサボーネ。最初は天海は乗り気じゃなかった。断るつもりだった。しかし、ある言葉でその考えは180度変わった。
『俺の息子はそれがあれば強くなれる。君をも倒せるほどに』
自分より強いものがいないこの世界に飽き飽きしていた天海はその言葉に食い付いた。ヴァッサボーネから言われた通りの方法でアースランドへやって来た天海は、早々に魔水晶を見つけ、あとはヴァッサボーネの息子を探すだけになった。
なかなか見つけられずにいた天海。そんな彼の元に現れた一人の少年。
「俺にその魔水晶を譲ってくれないか?」
深紅の髪をした彼の目を見た瞬間、天海は確信を持った。この男にこれを渡せば強くなる。そして返しに来させれば、その時こいつと戦うことができる。
そう考えた天海はその少年に魔水晶を与えたが、約束の日に彼はそこに現れなかった。
「死んだか」
内心ガッカリしていた天海は自分と似たようにエドラスの世界から来たと思われる女性にヴァッサボーネから託された魔法書を手渡し異国へと渡った。彼は様々な国を渡り、名の知れた戦士と戦ってきたがどれも彼の前には歯が立たず。またしても生きる意味を失いつつあった。
そんな時だった・・・
「やぁ、やっと会えたね、天海」
師匠の敵討ちにやって来た師範代たちを数秒で虐殺した直後、上から聞こえてきた声に顔を上げた。そこには巨大な岩に座る足元まである水色の髪をした少年が座っていた。
(なんだ?こいつは・・・)
これまで天海はその感情を感じたことがなかった。自分を見下ろしている少女とも少年とも判断できない謎の存在に彼は生まれて始めてその感情を抱いた。
(まるでこの世のものではないかのような・・・その目はなんだ?)
生きているのか死んでいるのか、天海に何を求めているのかも読み取らせないその異様な佇まい。余裕さえ感じさせるその姿に、天海は恐怖を感じていた。
「・・・貴様は俺を知っているのか?」
その問いがやっとだった。彼が何者かよりも、なぜ自分のことを知っているのか、その方が彼には知りたい事象だった。
「もちろん。まぁ、俺たちが出会うのは今よりも先の未来だけど」
そう言って岩から降りた彼の目を見た瞬間、体が震えたのを感じた。彼の目は悪き相手を睨み付けるそれそのままだったからだ。
「俺に恨みでもあるのか?」
その問いに彼は笑顔で答えた。
「昔はあった。だけど、今はない。むしろ君には感謝している」
「感謝?」
「そう。君のおかげで俺は、神になる決意を持てた」
その言葉の真相がわからない天海は首を傾げる。少年はそんな彼に手を差し出した。
「俺が神になるには、君の力が必要だ」
「俺の力だと?」
大きくうなずく少年。彼はさらに続ける。
「君は近い将来、かつての俺を殺す。俺はかなりの実力者だったのにだ。そんな君が俺の仲間になってくれれば、俺は意のままにこの世界を支配できる」
その言葉に嘘は感じない。本当に彼はそう思っていることを天海は感じ取った。
「どうだい?俺の仲間になれば、君には強い相手をいっぱい見繕ってあげるよ」
「・・・あぁ、面白そうだな」
そう言って天海は彼の手を取るかと思われた。しかし、少年は天海が戦いの構えを取ったことに目を見開く。
「お前にその実力があればな」
そう言ってこれまで何人もの人間を落としてきた拳を放った天海。ティオスはそれを間一髪で回避する。
「強者との戦いに駆られるその姿、俺の知る君そのままだ」
天海に力を見せつけるようにティオスは魔法で応戦する。実力伯仲の両者の戦いは凄まじく、数日後にはいくつもの山がなくなってしまっていた。
「いやぁ・・・やっぱ強いな、天海は」
気に押さえ付けられているティオスは感心したような口ぶりで天海の実力を褒め称えていた。天海はそんな彼の姿にイライラしていた。
「貴様、なぜ本気を出していない?」
「あれ?それは君もでしょ?」
実力を探り合うだけだった彼らは本気などぶつけ合っていなかった。それが気にくわなかった天海だったが、自らのことも指摘され言葉を失う。
「で?どうする?俺に付いてくる?」
もちろん解答は決まっていた。だが、このまま乗っかるので面白くないと天海は感じた。
「いいだろ」
「本当!?やった!!」
「そのうっとうしい髪を切ったらな」
それから彼らは多くの国を滅ぼした。その国では敵なしの人間だろうが世界が怖れる戦闘国だろうがお構い無し、二人の前になす統べなく彼らは滅んでいった。
「さぁ、いよいよ次がメインだ、天海」
そう言ってティオスが広げたのは西の大陸の地図。
「ここで何をするんだ?」
「この国の一員になる」
その案に天海は驚愕した。神を目指しているティオスがなぜこんな一国に仲間入りしなければならないのか、皆目検討がつかなかったからだ。
「この国に入ると、どうなるんだ」
その問いを聞いたティオスは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「君を殺せるんだ、かつての僕がね」
その話を聞いた途端、天海は眉間にシワを寄せた。
「俺の力が必要じゃなかったのか?」
「必要だよ。でも、君は俺が神になる上では邪魔な存在だ」
実力伯仲・・・彼らがぶつかり合えば、どちらが死んでもおかしくない。ゆえにティオスは彼のことを警戒し、仲間にしておいたのだ。
「だから君に殺されるかつての俺を強化しておかなければならない。そのための兵隊を得るためにアルバレスに行く」
「ほう・・・」
自分を殺そうとしている相手、そんなのが目の前にいたらその脅威を取り払うのが先のはず。しかし、天海は彼の言葉を聞いて笑っていた。
「面白そうだ。だが先に言っておく」
ティオスの前に立ち塞がり目を合わせる。ティオスも彼から目を逸らさない。
「お前を殺すのは俺だ。それが俺の生き甲斐だから」
天海はティオスの実力を認めていた。だからこそ、自らの手で彼を葬りたい。そして、彼が自分の命を狙うなら、その予測を越えてやりたいと思っていた。
「そうだね。かつての俺を君が殺したら、戦わなくてはいけなくなる。でも残念だ」
ティオスは天海を押し退け前へと進む。彼は不意に立ち止まると、真剣な表情で彼を見据えた。
「その時君は僕に殺されるしか道はないのだから」
はたから見れば物騒な話をしている。それなのに、当人たちは笑っていた。
「さぁ、行こう。次の目的地へ」
「あぁ、いいだろ」
「こいつは俺が仕留めてやる。だからお前は」
「あぁ、わかっているよ」
アクノロギアを見据えて不敵に微笑む天海。一方のティオスは、自分を見据える魔導士たちに真剣な眼差しを向けていた。
「俺はこいつらを始末しよう。そしてその次は・・・」
目を合わせ、ニヤリと口角を上げる。互いの命を狙うもの同士、彼らは自らの目的のために前へと進んでいくのであった。
後書き
いかがだったでしょうか。
今回はティオスと天海の出会いのお話ですね。
彼らは仲間であり敵でもある、歪んだ信頼関係を確立させております。
さぁ次はどんな展開になっていくか、お楽しみに。
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