| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

歌集「冬寂月」

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

五十三




 虫ぞ鳴く

  雲に掠れし

   月影に

 想ひそかける

    小夜ぞ更けにし



 田畑や草むらから、虫の鳴く音が響いている…。

 空には雲に掠れた淡い月明かりが洩れ、辺りを幽かに照らしている…。

 そこはかとなく…故郷の風景と重なり、その風景に…あの人の姿を思い出す…。

 もう、あの頃の激しさはないが…胸の奥がチクリと痛んだ…。

 好きなものは仕方あるまい…そう思い、更け行く夜を眺めた…。



 今はまだ

  蛙も虫も

   鳴くなれど

 声音の消えし

      冬そ思へば



 今はこうして、蛙や多々の虫が鳴いているが…また冬になれば、そんな鳴き声も消えて静まり返ってしまうのだ…。

 この煩い程の鳴き声が、寂しさを和らげてくれているのだ…そう考えると、この茹だる様な夏さえ愛しく思えてくるものだな…。



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧