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358部分:第二十七話 護るものその一


第二十七話 護るものその一

                 第二十七話  護るもの
「それでさ」
「はい、阪神のことですね」
「昨日思ったんだよ」
 陽太郎は登校の電車の中で月美に話していた。野球のことをである。
「狭山にそのゲームのコード送ってからな」
「阪神がですか」
「ああして選手を簡単に強くできればな」
「優勝ですよね」
「しかも十連覇とかな」
 これまた途方もない話であった。
「できるのにな」
「そうですよね。そうしたものが現実でも使えたら」
「ゲームだけだと勿体ないよ」
 陽太郎は電車の扉に背をもたれかけさせた姿勢で立ったまま己の前で吊り革に手をやって立っている月美に対して話をしている。
「現実でも使えたらな」
「ううん、確かにそうですけれど」
 月美は陽太郎の話に少し考える顔になった。そのうえで言うのだった。
「私も阪神ファンですし」
「だよな、やっぱり」
「お母さんは中日ファンですけれど」
 少しミソがつきはした。
「それでもお父さんも妹も全員阪神ファンで」
「俺の家は妹が燕だけれどそれ以外はな」
「皆さん虎なんですね」
「子供の頃巨人だけは応援するなって言われたよ」
 実に正しい教育である。子供に悪いものを応援させない、これこそが教育だ。
「いや、本当に」62
「私の家はそこまではなかったですけれど」
「それでも虎だよな」
「はい、自然に」
 そうなったというのである。
「子供の頃から阪神応援していました」
「やっぱり野球は阪神だよ」
 陽太郎は強い言葉で断言した。
「いや、別に中日やヤクルトでもさ」
「悪くないですか」
「巨人以外のどのチーム応援してもいいさ」
 巨人以外のチームには実に寛容なのが阪神ファンだ。言い換えれば巨人だけは許さない、そうしたイデオロギーなのである。
「妹だってさ」
「それにしても妹さんは」
「変わってるよな、やっぱり」
「関西でヤクルトですか」
「少数派だよな。傘だってな」
「緑のビニールですね」
「それ以外使おうとしないんだよ」
 まさにヤクルトだった。ヤクルトファンは応援の時に緑の傘を使う。それが彼等の大きな特徴になっているのである。それは陽太郎の妹もなのだった。
「いや、本当にさ」
「面白い妹さんですね」
「ああ、まあヤクルトだしな」
 妹に対するのと共にヤクルトにも寛容な陽太郎だった。優しい微笑みにそれが出ていた。
「いいかってな」
「そうなんですね」
「ああ、それでだけれど」
「はい、それで」
「そういうの現実でも使いたいよな」
 陽太郎の言葉は冗談であっても切実なものがあった。
「そう思うんだけれどな」
「それはそうですけれど」
 しかしだった。ここで月美は考える顔になって言うのだった。
「確かにあれば凄くいいですけれど」
「だよな、やっぱり」
「ただ」
「ただ?」
「そういうのがあれば」
 その考える顔での月美の言葉だった。
「相手も使いませんか?」
「他のチームもか」
「はい、巨人も」
 とりわけこのチームが問題であった。
 
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