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ラジェンドラ戦記~シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす

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第一部 原作以前
第三章 神前決闘編
  第十二話 兄弟相剋

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなよ、兄貴!」

先程から似たような言葉ばかりが口をつくが、ブチ切れているときなどそんなものだろう。

俺は王宮の中を兄の姿を求めて探し回った。執務室、謁見の間、資料室、宝物庫、武器庫、それから…、くそ、いない。何処に居るんだ?あと、心当たりと言えば…親爺の病室!


親爺の病室には、寝台に体を起こした親爺と、傍らの椅子に座り、何やら親爺と話していた様子の兄貴がいた。

「おおラジェンドラよ、よく来―」

「そこにいたかよ、クソ兄貴!」

何だかひどくお花畑な様子で俺に話しかけてきた親爺の言葉を遮り、俺は兄貴に食って掛かった。

「おい、兄貴!ラクシュやカルナは、諜者たちは何処に居る!」

一瞬の間、そして怪訝そうな表情。何でいきなりそんな事を聞かれるのか理解できない。そんな表情にも見えるが、しらばっくれているようでもある。

「何だお前は藪から棒に。お前、勘違いしていないか?諜者たちはこのシンドゥラと言う国に仕えるものであって、お前の私兵ではないのだぞ?それをお前は―」

「そんな事を聞いてるんじゃねえよ!あいつらは何処だって言ってんだよ!訊いたことにちゃんと答えろよ!」

「…諜者たちなら今は出払っている。彼らには重要な仕事を頼んでいてな。少々込み入った事情もあるので、片付くには時間が必要になりそうなんだ」

「嘘を言うなよ。あんた、あいつらを捕まえてるんだろ?いいからあいつらを出せよ!出せっつってんだろ!」

「お前こそ何をバカなことを言ってるんだ。別に捕まえてなどいない。何を根拠にそんな事を―」

「サリーマが俺のところに逃げ込んできたんだ。あんたに暴力振るわれてるって、逃げようとして捕まりそうなところを諜者が庇ったって、そう言って泣いてたんだよ!」

ポカンとした顔を兄貴はした。こいつ何いってんだ?と言う副音声が画面下に字幕で表示されそうな感じだった。そして、わざとらしい程深い溜め息をつき、首を振った。

「お前、それを信じたのか?それは確かにまたサリーマとはケンカはしたがな。しかし、今回はお前にまで泣きついたのか?…あいつには弟まで巻き込むのはよしてやれと何度も言ったんだが…。本当にやりすぎだな、今回ばかりは」

「とぼけんなよ、サリーマには体中あちこちを怪我してた。古傷だってあった。昨日今日に出来た傷じゃあ無いはずだ。あんたがやったんじゃなかったら、誰がやったっていうんだよ!」

「…怪我だと?馬鹿なことを言うな。確かにケンカは度々するが、私はあいつに手を上げたことなど一度もないわ。…多分、あれだな、手のこんだイタズラだ。お前、あいつに担がれているんだ。そうに違いないぞ?」

イタズラ?担がれてる?彼女のあの怪我は偽装だと?そしてあれは嘘泣き?空涙?いや、そうは見えなかった。断じてそうは見えなかった!

「彼女はあんなに泣いて、震えてたんだぞ?それをあんたは嘘だと、イタズラだっていうのか?」

「お前だって王宮にいた頃は何度も巻き込まれて担がれただろう。今回だってそれだ。犬も食わない夫婦喧嘩だ。落ち着いたら帰ると言い出すだろうから、そっとしといてやってくれないか。そしてお前はもう帰れ、いい加減相手にしてられんぞ?」

そうなのか?俺は担がれてるのか?でも、証拠は…、そうだ証拠、いや証人は居る!はずだ!

「だったら、諜者を連れてこいよ。カルナでもラクシュでもあの三人でもいい。話をきかせろよ、そうしたら信じてやるよ」

「…お前は人の話を聞いてたのか?みんな出払ってると言っただろう?パルスで戦争が始まりそうなんだ。情勢の確認のため、みんなパルスのあちこちに散っているし、呼び戻せる状況にもない。それくらいは理解できるだろう?」

「一人ぐらいは呼び戻せるだろ?」

「だから無理だと言っている!それじゃあ何か、お前は一人の女のために、国が一度命じた任務を撤回して帰還させろと言うのか。お前の恣意のために?お前、自分が王族だって自覚あるのか?」

「あんたこそ何だよ!てめえの女一人幸せに出来ない最低ヤローが王になろうだって?はん、ちゃんちゃらおかしいってんだよ!」

「…その言い回しはよく判らんが、馬鹿にしているのはだけはよく判った。貴様、覚悟は出来てるんだろうな!」

「はん、何だよ?たかが口喧嘩で人を罪に問えるとでも?いや、違うな、罪があるのはあんたの方だ。あんたなんぞ、王になんて相応しくない。神前決闘で、神々の前でそれを証明してやる!」

「ほう?弟よ、吐いた唾は飲めないと判っていような?」

「飲むつもりなんざねえよ!もう一度言ってやる!俺はあんたに神前決闘を申し込む!あんたが王にふさわしくないことを神々の前で、公衆の面前で証明してやるさ!」

◇◇

儂、カリカーラ王は寝台から身を起こし、傍らに佇むガーデーヴィと政に関しての話をしていた。もうそれほど長くは無いであろう儂じゃが、今日は実に体調が良い。この機会を逃さぬようにとガーデーヴィめを呼び出し、経済、外交、治水、開発、様々な施策につき、現状と見通しを聞き取っているが、どれについても打てば響くように即座に答えが返ってくる。そしてその内容は実に申し分なく、此奴の統治者としての資質には舌を巻く思いじゃ。此奴はきっと儂なんぞよりも、よほど優れた君主となるじゃろうなあ。

ただ唯一食い足りぬ部分は、パルスに対しての外交方針が、避戦一辺倒だと言うことかのう。『王室など旗印として仰ぐ存在がある限り、パルスの武勇の根が失われることはまずありませぬ。徒に対立して兵力を損耗することは避けるべきでございます』という事じゃが、戦象部隊をうまく使えば、我らにも十分勝機はあるはず。そこまで恐れる必要もないと思うのじゃがな。まあ、そう思いつつ幾度もパルスに戦いを挑んでは、再三に渡って巧みに戦象部隊を封じられて痛い目に遭わされた儂が言えた義理ではないか。

あれはもう二十年以上前のことになるのかのう。側室が懐妊したという知らせを受けた直後に、表向きは女奴隷として儂の側近く仕えていた諜者の娘も儂の子を孕んでいると知らされたときには、「やべえ、やっちまった!」と思ったものじゃった。これでは二人の子供が相次いで誕生することになる。王位継承争いの元となりかねないと懸念したものじゃった。しかし、この生まれ月がたった一月しか違わぬ兄弟は少年時代までは大層仲が悪かったものの、成長するにつれて実に兄弟仲が良くなり、近頃では確固とした協力体制も築いていると聞く。儂の懸念はどうやら杞憂だったようじゃ。これなら安心して死出の旅に旅立てるのう。

む、ラジェンドラめがやってきおったな。丁度いい、また此奴に異世界の話を聞かせてもらおうかのう。辛気臭い坊主共に死後の世界とか来世について説かれても楽しくも何ともないが、此奴が話してくれる、剣と魔法とケモノ耳とハーレム(ここ大事!)に満ちた幻想世界や、科学技術とやらが発達し実に便利で快適だという未来文明社会、どちらも実に刺激的で興味深い。儂ももうすぐその様な、今のこことは全く違った世界に生まれ変われるのだとするならば、死というのもそう悪くはないとすら思える。いや、むしろオラ、ワクワクすっぞ~!…いかんいかん、またラジェンドラに教わった妙な言葉がダダ漏れになってしもうた。この間もガーデーヴィと話している時に思わず口走ってしまい、ゴミを見るような目で見られたばかりじゃった。自重じゃ、自重しないとのう。

うん、何じゃ?ラジェンドラのやつ、ものすごい剣幕でガーデーヴィに詰め寄りよって。ガーデーヴィは割と冷静に受け流しているが…、いかんな、その様子が尚更ラジェンドラを苛立たせているようじゃ。余計に語気が荒く…、ああ、馬鹿なお主何てことを口走るのじゃ、これではどちらも引くに引けなくなるではないか…。

おいおい、仲の良い兄弟ではなかったのか?弟はよく兄を立て、兄はそんな弟の事を尊重する。そういう安心してみていられる理想の兄弟だと思っていたのに、それはただの幻想だったと言うのか?嘘じゃろ、誰か嘘じゃと言ってくれ!

うう…いかん、動悸と息切れ、そしてめまいが!

儂は思わず胸を抑え寝具に突っ伏したが、言い争う二人にはどうやらそれも目に入らぬようじゃ…。

おいやめろ、やめてください、死んでしまいます…

儂はこの後ムチャクチャ失神した…

◇◇
 
 

 
後書き
妙な言葉を覚えてしまった人がここにも。他にもいるかも知れませんね…。 
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