空に星が輝く様に
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347部分:第二十六話 聴かれたことその四
第二十六話 聴かれたことその四
「心がとても温かいから」
「それでなの」
「そう、だから」
心の温かさがそのまま出ているのだというのだ。
「つきぴーの手はとても温かい」
「愛ちゃんもよ」
「私もなの」
「うん、とても温かいから」
そうだというのである。
「やっぱりそれって」
「有り難う」
椎名は月美の手を握ったまま彼女に述べた。
「それじゃあ」
「うん、もうすぐ電話が来るわね」
「それに乗って行こう」
「八条百貨店よね」
「そう、そこ」
行き先はそこだった。既に決めていることだった。
そしてだ。そこに行ってだった。
「そこに行くから」
「何か八条百貨店に行くのって」
「久し振り?」
「うん、考えてみたら」
月美は思い出してだ。そして話すのだった。彼女はこれまで何度かその百貨店に行っていた。だが考えてみれば最近は、なのだった。
それでだ。そのことを思い出して話すのだった。
「そうよね」
「そういえば私も」
「愛ちゃんもなの」
「私もずっと行ってなかった」
「中学校の時以来?」
「うん、その時から」
月美もこのことを思い出していた。
「行ってなかった」
「私も。中学校を卒業する時に行ってから」
「それからはずっと」
「そうよね。本当に久し振りね」
「特に二人で行くのは」
「うん、そうね」
「かなり久し振り」
そうだと話してだ。電車に乗り百貨店に向かうのだった。その百貨店の中はだ。二人をして懐かしさに浸らせるかというとそういうものではなかった。
二人は人が行き交い様々な商品が並んでいる白い中を進んでだ。こう言い合うのだった。
「あまり変わらないね」
「というか全然ね」
「ええ」
その通りだというのだった。
「本当にね」
「うん、本当に同じ」
椎名も周りを見回しながら話す。
「何もかもが」
「百貨店の中ってそんなに変わらないものなのかしら」
「多分」
「多分?」
「色々変えてはいるんだと思う」
「そうなの」
「それも営業努力のうち」
このことはわかっているのだった。そこが椎名だった。
「ただ」
「私達がそれに気付かないのね」
「そう」
こう月美に述べた。
「そういうことなの」
「そうなのね」
「そういうことだから。あっ」
椎名は不意に声をあげた。そうしてだった。
目の前にある小型のヒーターを指差してだ。そして言うのだった。
「ここには前」
「ここには?」
「電化製品じゃなくて家具があった」
「あっ、そういえば確か」
「それで今の家具のコーナーは」
椎名は左手を見る。その端にだった。
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