かんざし売りの女
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第三章
「いい具合だね」
「子供用のかんざし売れてるね」
「ああ、あたしの読み通りだよ」
「子供のかんざしも作って売ればね」
「それでいいんだよ、これからはね」
紫蓮は商いの話を続けた。
「あたし達はね」
「子供用のかんざしを主に作ってだね」
「売っていこうね、そうすればね」
「お店の売り上げがだね」
「さらによくなるよ、それでね」
「目指すはだね」
「大店だよ」
そう言われる店になるというのだ。
「そうなっていこうね」
「そうだね、しかしね」
「しかし?何だい?」
「あたし達忍の者なんだけれどね」
相棒は少し苦笑いになって自分達の本来の仕事のことを話した。
「それも里で生まれ育った」
「泰平だからね」
紫蓮は相棒にこのことから話した。
「だったらね」
「それならだね」
「忍の仕事がないから」
それでと言うのだった。
「仕方ないよ」
「そうなるんだね」
「ああ、それでだけれど」
紫蓮は相棒にさらに話した。
「売り上げがよくなってお金も入ったし」
「店はまだ大きく出来ないけれどね」
「その分は貯めてね」
店を大きくする資金は置いておいてというのだ。
「また食べ歩きに行こうかい」
「また道頓堀に行くのかい?」
「今度は船場に行かないかい?」
「あっちにかい」
「それで鯖食って牡蠣とか他の海の幸のもん食わないかい?」
「今度はそちらかい」
「鉄砲でもね」
紫蓮はこうも言った。
「食うかい?」
「えっ、鉄砲かい?」
鉄砲と聞いてだった、相棒はすぐに眉を曇らせた。そしてそのうえで紫蓮に対してこう言った。
「あれはね」
「毒かい」
「あれがあるだろ」
だからだというのだ。
「ちょっとね」
「いや、それがね」
「大丈夫なのかい?」
「いい店らしいんだよ」
「鉄砲がよくわかってるかい」
「そうした店らしくてね」
それでというのだ。
「食ってもね」
「あたって死なないんだね」
「そうらしいんだよ」
「だといいがね」
「それでどうだい?」
紫蓮は相棒にあらためて誘いをかけた。
「鉄砲食うかい?」
「あたしは止めておくよ」
相棒は紫蓮にこう返した。
「やっぱり当たるとね」
「怖いからかい」
「ああ、だから止めておくよ」
「そうかい、じゃああたしもね」
「止めておくのかい」
「二人で一緒に食いに行くんだよ」
それならというのだ。
「だったらね」
「あたしが食わないならだね」
「あたしも食わないよ、じゃあ別のを食おうかい」
「あそこは鯖よく食うね」
「じゃあ鯖食うかい?」
「いいね、じゃあ鯖食おうか」
「そうしようね」
二人で話してだ、そしてだった。
二人で船場まで行って鯖を食べた、その鯖は実に美味かった。
かんざし売りの女 完
2018・7・27
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