戦国異伝供書

「見事なまでにな」
「それで有名な方だね」
「だからお話していてもな」
「色々お話出来るんだね」
「あれでな、しかし怒られる時はのう」
「拳骨だね」
「それじゃ。前は慶次殿がじゃ」
　前田慶次、彼がというのだ。
「権六殿の馬の鞍の上に馬の糞を置いてじゃ」
「すぐにばれてだね」
「頭に一発じゃ」
　そうなったというのだ。
「あれは痛かったであろうのう」
「そこがあの人だね」
「怒ると怖い方じゃ」
「けれどあっさりした方だね」
「竹を割った様にな、しかしどうもわしはな」
「怒られることがかい」
「多いわ」
　それでというのだ。
「嫌われておるぞ」
「それは御前さんが悪戯好きだからだよ」
「だからか」
「冗談も過ぎるしね」
「それで怒られるか」
「それだけだよ。けれど御前さん娘さん達にも人気があるよ」
「何っ、それはまことか」
　女に人気があると聞いてだ、羽柴は目を輝かせた。
「それはよい」
「いや、そこでね」
「目を輝かせたことはか」
「よくないよ」
　ねねは女房としてこう言った。
「どうもね」
「ううむ、わしはどうもな」
「おなごはだね」
「お主は特別じゃぞ」
　ねねはというのだ。
「これは言っておくぞ」
「それはわかってるよ、だから私もね」
　ねねの方もというのだ。
「多少以上のことは大目に見るよ」
「済まぬのう」
「けれど多少以上だよ」
　釘を刺すことも忘れていなかった。
「あくまでね」
「度が過ぎてもよいがか」
「それでもあんまりにもだとね」
　流石にというのだ。
「私も怒るからね」
「わかっておる、だからわしもじゃ」
「私を第一にしてだね」
「それ以上はいかぬわ」
　流石にというのだ。
「あくまでお主を立てるぞ」
「私よりもだよ」
「母上をか」
「立てなよ、私も孝行させてもらうしね」
「親孝行を忘れてはならんな」
「そうだよ、人間としてね」
　そこはと言うことも忘れないねねだった、彼等は織田家が美濃も飛騨も手中に収めた中でこんなことを話していた。
　そして新たに織田家の本城となった岐阜城においてだった。織田家の家臣達はこぞってこれからのことを話していた。
　まずは滝川がだ、こう言った。今やこの者も万石取りになっていて織田家の重臣の一人となっている。
「殿は上洛を目指されておる」
「うむ、ならばな」
　その滝川に池田が応えた。
「道は一つよ」
「近江の南じゃな」
「あの国に進出か」
「そうなるな」
「近江の北は浅井殿が治めておられる」
　織田家の盟友であるこの家がというのだ、既に浅井家の当主長政のところに信長の妹市が嫁いでいる。