戦国異伝供書

「そしてじゃ」
「今やだよね」
「万石取りじゃ」
「凄い出世だね」
「全くじゃ、しかしな」
　まだ終わりではな、こう言う羽柴だった。
「まだじゃ」
「城主様になるまでだね」
「わしは頑張るぞ、そしてな」
「私達をだね」
「楽にさせてやるからな」
　こう言うのだった。
「楽しみにしておれ」
「私は別にいいけれどね」
　ねねは意気込む夫に笑って返した。
「今だって十分だし」
「そうなのか」
「おまつさんとも仲良くやってるしね」
「うむ、まつ殿もあれでな」
「苦労したからね」
「一時期又左殿が殿から追放されておったからのう」
　羽柴は女房にこの話をした。
「それでじゃ」
「おまつさんもあの時は苦労したからね」
「そうだったのう、あの時わし等は何かと又左殿のところに行ったのう」
「殿様が怒られたのは当然でもじゃね」
「やはり城の中で。しかも殿が御覧になられていたのにな」
　それでもだ、直情的な前田は下らぬことをする者を切り捨てたのだ。白の中で刀を抜くことは法度であったが。
「それでも切られたのではな」
「追放は仕方ないね」
「むしろ切腹せずに済んだ」
「それだけでも殿様のお慈悲だね」
「殿は怒ると怖いが」
　それでもというのだ。
「筋は弁えた方じゃ」
「だからだね」
「うむ、あの時も又左殿を切腹とされずな」
「追放としたんだね」
「それで戦で功を挙げたからな」
　前田がというのだ。
「許されたがその間な」
「あんたも差し入れとか持っていったね」
「酒とかな。それでわしは又左殿の前で芸も見せたぞ」
　そうしたこともしたというのだ。
「何かとな」
「そうだったね」
「とはいってもわしの芸はな」
　それはとだ、羽柴はねねに笑って話した。
「猿真似じゃが」
「言ったままのね」
「それじゃがな」
「いやいや、それがそっくりなんだよ」
「まさに猿か」
「御前さんは本当に猿そっくりだから」
　顔も身体つきもというのだ、見れば確かに羽柴の顔は猿顔でありその仕草も剽軽でその生きものを思わせる。
「だからね」
「そっくりでか」
「いいんだよ、見ていてね」
「そうなのか」
「おまつさんも明るくなったって喜んでいたよ」
「それは何よりじゃ」
「うん、それでね」
　さらに言ったねねだった。
「私もね」
「おまつ殿のところに行ってか」
「色々相談に乗ったりしてね」
「今もじゃな」
「そうだよ、他の女房の人達とも親しいし」
「お主誰からも好かれるのう」
　羽柴はねねのそうしたところに感心して述べた。
「そこも凄いな」
「それは御前さんじゃないかい？」
「いや、わしは結構平手殿に怒られるぞ」
「あの方は誰にも叱る人じゃないかい」
「権六殿には拳骨も喰らうぞ」
「あの人もそうした人じゃないかい。しかしその権六殿とも何かとお話をしたりしてるって聞いてるよ」
「腹は実に奇麗な方じゃ」
　このことは羽柴は確かに言った。