ノーゲーム・ノーライフ・ディファレンシア
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第3話 邂逅
「お邪魔してるぞ、『 』」
────接客室に待っていたのは、奇異な少年だった。
年は15歳ほどだろうか?汚れきった黒い目に傷んだ茶髪の、さながら死人のようなイメージを想起させる少年だった。
「単刀直入に言う。俺とゲームしてくれ」
少年は、『 』の姿を認めるや否やそう言った。
本来ならあまりに急で受けるに値しない申し出、だがそれは『アルテマウェポン』の一言だけで覆されている。自身の実力を示し、かつ『 』がゲーマーである事を熟知しその好奇心をくすぐる一手────それを打つ事が既に完了しているのだから、今は急で裏表のない発言をしても一切問題ないのだ。そう、駆け引きを既に完了させた故に、少年はこんな単刀直入な発言が出来るのだ。
────このままコイツの言葉に答えれば、主導権を握られたままゲームをする事になる。
空はそう判断し、少年の問いには応えずに少年へとこう問うた。
「その前に、まずはお前がどこのどちら様か教えてくんないかな?俺ら自己紹介もされずに相手を理解出来るエスパーじゃねぇんだわ」
その言葉に、少年は少し眉をひそめ不機嫌な様子に変わる。そして、静かに不満を告げた。
「……俺はそんなにも眼中になかったのか?『 』の後釜を務めるくらいには実力者なんだが」
「……『 』の後釜?」
空と白は、少年が何気なく発した言葉にその目を細める。
────『 』の後釜を務める。それはつまり、『 』なき世界で彼らが元いたポスト────あらゆるゲームの頂点に立つという事だ。そして、目の前の少年はそれが出来る実力者だということだ。
テトを下した実績がある以上、噓とも思えない。それに何より、空と白は既にその実力の一端を見せつけられている。空も、彼の言葉から嘘の兆候を見出す事は出来なかった────故に空は、目の前の少年を『 』に単独で迫るゲーマーと定義した。
「なるほどな。じゃあ、どんなゲームをする?」
定義するや、その目から放つ光は鋭くなり、脳はフル回転を始める。白も、兄のその姿に本気で挑むべきだと判断し、一言一句、一挙手一投足を見逃さんとする。
その姿に少年は、画面越しにすら感じた『 』の鬼気を直に感じ────笑う。
「……いいね。それでこそ『 』だ」
「ご満悦してねえで、答えろよ」
「分かってる。────シグを名乗ろう。『鬼ごっこ』なんて、どうだ?」
そしてシグは、ゲームの名を宣言する────
だが。
「えっ…今なんて?」
「聞き、間違い…だよ、ね?」
その瞬間、『 』の鬼気はどこへ行ったのか、嘘のように霧消し、哀れな小鹿の如きオーラが代わりに二人を覆う。余りに酷いそのギャップに、シグも驚きを隠せないのか。
「……お前ら、『 』だよな?」
二重人格や、入れ替わりを疑った。そう思わせるくらいには、落差が酷かった。
一足早く復活した空が、動揺を押し隠し、あくまで飄々と────ゲーム内容の変更にかかる。
「他の何に見えた。純度100%の『 』で合ってるよ」
「あんな涙を誘う弱々しい連中に一度も勝てなかったとか、信じたくないんだが」
頬を掻くシグに、だが空は腕を大仰に広げて言った。
「いいや!!人類の武器は弱さ――――そこからなる知恵だッ!!故に人類最弱たる俺は、俺らは、『 』は!!あらゆるゲームで無敗、無敵だったとは思わんかねン~ン!?」
「頭脳、主義…」
白までもがその言葉に乗っかったのを見て、シグはようやく結論に達したのか。
「……じゃあ、将棋にするか?」
苦笑いで、『 』の要求、即ち。
純粋な体力ゲーは勝ち目ないんス、というゲーム内容の変更要求を呑んだ……
「ジブリール」
「こちらに」
「……!?どっから沸いた……って天使!?」
その場にいない者を平然と呼ぶ空、それに応じ空間転移するジブリール。
シグは、「……流石異世界。何でもありだな」と誰にも聞こえないような声で呟いた。
「……天使?シグ、お前位階序列を知らないのか?」
「大丈、夫…初見、みんな、ビビる」
シグの初々しい反応に、空と白はかつての自分達を重ねて無駄に暖かい笑みを浮かべた。
だが、シグはその際に空が呟いた言葉を聞き漏らさなかった。『位階序列』────この状況から類推されるその単語の意味に、シグは過敏に反応して空にこう尋ねる。
「ちょっと待て空。位階序列ってことは、人間以外の種族がいるってことか?」
「ああ、十六種族っつってな。ジブリールにゲーム作ってもらってる間に、説明しよう」
「じゃあ、ルールを確認しよう」
シグは、必要以上の会話をしないかのように端的にそう告げる。
だが、その端的さ────傲岸不遜な様子が、ジブリールのかなり低い沸点に触れたのか。
「おや、何やら不遜にしておられますが。人様にゲームを作らせて、礼の一つもないのですか♪」
ジブリールは、天地を震え上がらせる笑みを浮かべる────だが、シグは動じない。
ゲームに集中しだした彼には、もはや恐怖などという主観にしかないものは届かない。
理性を縛り、本能を黙らせ。狂気こそが正気だと言わんばかりに、狂い狂って『 』に至らんとする。
「悪い、相手が『 』だ、そんな余裕はない。黙ってろ」
そう言ったシグの圧力は、ジブリールをも黙らせた。
続けるぞ、と言ってシグはルールを確認する。
・勝利条件、駒の移動可能範囲は将棋に同じ
・完全没入型フィールドで、自ら王として動くこと
・手番は無く、味方の駒が敵陣に侵入しなければ相手の棋譜が分からない
・王の遠くにいるコマに対しては、命令が正しく伝達しない可能性がある
また、伝達に時間がかかる
「……とまあ、こんな感じだ」
要するに、戦争シミュゲだ。だが、国王決定戦時のチェスとは、決定的に違う。
なるほどこのゲーム、「王」が足繁く動いた方が有利。だが、『 』は────空と白は体力において一般人にも劣る最弱。故に最適な戦法が取れないヒキニート二人を相手に、シグは有利な条件を刷り込んだという訳だ。
だから何だ。そう、空と白は揃って嗤った。原理的に勝利不可能なゲームで無い限り、『 』に敗北の二文字はない。
その傲慢とも取れる笑みに、だがシグもまた呼応するように笑みを浮かべた。まるで────語らずとも全てが理解出来るかのように。
「確認は済んだか?とっとと始めようぜシグ────」
「そうだな。宣言しようか────」
空とシグは、そう示し合わせて手を掲げた。そして────唯一神に誓う、絶対不可侵の宣誓を告げる。
────【盟約に誓って】。
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