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レーヴァティン

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第六十二話 伊勢の巫女その八

「俺達はここで旗揚げをしてだ」
「そうしてじゃな」
「その拮抗している諸勢力をな」
「併呑してじゃな」
「統一していく」
 これが英雄の考えだった。
「そしてやがてはな」
「この伊勢もじゃな」
「勢力圏に収める」
 島を統一していく中でというのだ。
「そうしていく」
「当然そうなるか」
「そうだ、名古屋も岐阜も都もだ」
 これまで通った地域全てというのだ。
「そうなる」
「それは当然じゃな」
「島を統一するならな」
 まさにというのだ。
「そうなっていくな」
「そうじゃな、じゃあここもな」
「また来ることになる、しかし出来ればな」
「戦ではじゃな」
「組み込みたくない、この門前町も社もだ」 
 伊勢のそうしたところをというのだ。
「出来ればな」
「平和にな」
「取り込みたい、街も村も傷付けずな」
 戦禍を及ぼすことなく、というのだ。
「そして寺社もだ」
「傷付けずにじゃな」
「それが正しい在り方だ。神仏の座す場所は傷付けるものではない」
 英雄はこうも言った。
「人がな」
「英雄そうしたところはしっかりしてるのう」
「そうか」
「ああ、神仏のことはな」
「変に冒涜しないだけだ」
 神仏をというのだ。
「敬いもしているしな」
「神は死んだとか言わんか」
「ニーチェの言葉か」
 十九世紀ドイツの哲学者だ、ワーグナーに熱中していたことで知られているがそのワーグナーと決別したことでも有名だ。
「あれはキリスト教の神だな」
「日本の神仏ではないか」
「旧習と一神教の否定だ」
 ニーチェが言ったことはというのだ。
「だからこの島の神仏ではないんじゃな」
「俺はそう考えているがな」
「はい、確かに」
 ここでまた謙二が応えてきた。
「ニーチェの言葉はです」
「実際にだな」
「そうです、欧州を長い間縛っていたキリスト教の否定であり」
「そこから新たなものを目指そうというな」
「そうした考えでした」
 英雄の言う通りにというのだ。
「私もそう考えています」
「むしろドイツ人の深層心理にあったな」
「北欧の神々をあらためて見るものでした」
 北欧の神々はドイツでも信仰されていたのだ、そうした意味でもドイツと北欧は近い関係にあったと言えるのだ。
「ニーチェの考えは」
「あの言葉もだな」
「キリスト教を否定する言葉で」
「神自体はな」
「否定していません」
 そうだったというのだ。
「無論御仏も」
「キリスト教だけでな」
「現にゾロアスターも出しています」
 著書のタイトルにもなっている。
「ツァラトゥストアはこう語ったで」
「ゾロアスターのドイツ語読みだったな」
「そうでした、そして」
 謙二はさらに話した。
「英雄さんのそのお考えもです」
「いいか」
「はい、むしろ唯物史観等に比べて」
 謙二はこの考えについては否定的なものをその目に宿らせて語った。 
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