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戦国異伝供書

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第二話 百姓の倅その十

 そうして桶狭間の合戦の後でだ、木下は兵達に言った。
「いや、戦はな」
「はい、見事にですな」
「我等の勝ちでしたな」
「そうなりましたな」
「そうじゃ、それでお主達じゃが」 
 兵達にさらに言うのだった。
「手柄はな」
「取った分だけですな」
「殿に認めてもらえ」
「褒美が頂けますな」
「そうじゃ、よかったのう」
 人懐っこい満面の笑みで言うのだった。
「お主達も」
「いや、そう言ってもらえてです」
「我等も何よりです」
「この度の戦は大変でしたが」
「よく砦が落ちなかったものですが」
「全くじゃ、わしもじゃ」
 佐久間大学もここで木下に言った。
「お主がおらんかったらな」
「それならばですか」
「死んでおったわ」 
 こう彼に言うのだった。
「砦を攻め落とされてな」
「そのうえで」
「そうなっておったが」
「左様ですか」
「松平殿の軍勢によってな」
 そうなっていたというのだ。
「そこをお主に助けられた、このことは殿にお話しておく」
「そうして頂けるのですか」
「お主がいたから助かったのじゃ、当然じゃ」
 大学は木下に笑って話した。
「これもな、しかし今川殿だけでなくご子息も捕らえたというが」
「はい、大きなことですな」
「今川家はもうがらんどうじゃな」
「はい、何しろご当主と跡継ぎ殿が共に捕らえられては」
「それではな」
「まだ駿府に今川家の方々がおられますが」
 木下はさらに言った。
「しかしです」
「それでもな」
「お二方が捕らえられては」
「今川家はなくなったも当然」
「駿河も遠江もな」
「取り放題ですな、武田家と三河に戻られた松平殿の」
「主がおらぬ土地を取っても誰も文句を言わぬ」
 それこそとた、大学は木下に話した。
「武田家にとっても松平家にとっても願ってもないことよ」
「ですな、そして勝った当家も」
「大いに名を挙げたな」
「それがこれからかなり生きますぞ」
 木下は大学に陽気な声で話した。
「何についても」
「では伊勢への調略も」
 大学は木下のその話を聞いて言った。
「かなり進むであろうな」
「ですな、よいことです」
「負けるかも知れぬ戦に勝った、しかも圧勝じゃ」
「これがどれだけ大きいか。伊勢と志摩を手に入れ」
 そしてとだ、木下はぢ亜額に話した。
「その兵を以て美濃を攻めれば」
「美濃も手に入るか」
「それに美濃への調略でも織田家がこの度の戦に勝って名を挙げたことが生きまするので」
「こちらに来る者も増えるか」
「そうかと」
「そうか、凄いことじゃな」
 大学は木下の話を聞いてあらためて頷いた。
 そしてその後でだ、彼はこうも言ったのだった。 
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