ドリトル先生と奇麗な薔薇園
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第五幕その五
「こんないいことはないよ、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「満足していないの?」
「ひょっとして」
「いや、僕は本当にね」
実際にというのです。
「これ以上はないまでに幸せだって思ってるけれど」
「ええ、私達の意見は違うわ」
「もっと求めていいと思うよ」
「これで満足しないで」
「もっともっと幸せを求める」
「そうしてもいいと思うのよ」
「人は足りるってことを知らないとね」
先生はこの美徳を皆に言いました。
「僕はそう思うけれど」
「いやいや、幾ら何でも途方もない野望とかは駄目でも」
「先生は無欲過ぎるから」
「もっと求めてもいいんだよ」
「欲を持ってね」
「そうすればいいんだよ」
「そう思うけれどね」
それでもというのです。
「先生は違うから」
「本当に欲がないから」
「それが駄目なんだよ」
「ちょっとだけでもいいから」
「欲を出せばいいんだ」
「そうしたら?」
「本当にね」
「うん、そうしたらね」
いいというのです、ですがそれでも先生は欲を出しません。それでまたこうしたことを言ったのでした。
「具体的にはどんな欲かわからないんだけれどね」
「だからね、あれだよ」
「先生が縁がないって思ってる方だよ」
「そに欲を出せば」
「それでいいんだ」
「そっちの欲をね」
皆は先生にすぐに一斉に言いました、ですが。
そうしたことを言ってもそれでもでした、先生はこの日も先生でした。そしてお家に帰ってからはです。
ベルサイユの薔薇を読んでこう言うのでした。
「黄金の精神だね」
「主人公のオスカルはだね」
「その心の持ち主だね」
「うん、気高くて誇らしげでね」
そしてというのです。
「高貴な心の持ち主だよ」
「うん、そのことはね」
「本当にそうだよね」
「オスカルさんは素晴らしいよ」
「黄金の精神の持ち主だよ」
「貴族とか軍人とかじゃなくて」
「高貴そのものの方だよ」
動物の皆もその主人公についてはこう言います。
「薔薇に相応しいね」
「薔薇の心を持つ人だよ」
「そうした人だから今も人気があるのね」
「作品も生きていて」
「そう、終わったけれど」
それでもというのです。
「オスカルも死んだけれど」
「その素晴らしさはずっと生きているね」
「気高い薔薇の心は」
「そうだよ、アニメの主題歌もね」
こちらのお話もした先生でした。
「素晴らしいけれど」
「オスカルさんはそのままに生きたよね」
「そして死んだね」
「そして先生は今それを読んでるね」
「オスカルさんの生き様を」
「そうしているよ、しかし何処から何処までも」
それこそというのです。
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