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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第167話「戦いの果てに」

 
前書き
召喚された式姫は、上位の者となると一人一人が原作キャラだと無傷で勝つのが不可能に近い実力を有しています。それほどの実力者は一部のみとはいえ、基本的に並み以上の強さを持つ式姫が未だに約70人。そして主人公側は消耗して疲弊もしている状況。危険度はアンラ・マンユの泥の偽物以上です。……絶望度は無限湧きのアンラ・マンユの方が上ですが。

ちなみに、これでも守護者はだいぶ消耗しています。連戦に続く連戦に、無傷ではないため、いくら瘴気で回復したとはいえ、それでも今の憑依と霊魔相乗で底上げしている優輝なら、何とか攻撃を凌げるぐらいに弱体化しています。……優輝が凌げているのは周りの式姫を利用しているのもありますけど。
 

 





       =out side=





「っ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 放たれる霊術の炎が妖を焼き尽くす。
 しかし、今まで放ってきた霊術よりも、力がないように見えた。

「くっ……」

『姉、さん……』

「……葉月、もう少し、耐えれるかい?」

『……はい……!』

 いくらそこらの妖には絶対に負けない実力があるとはいえ、紫陽の体力も無限じゃない。
 何より、葉月の肉体が耐えられないため、激しい霊術行使は難しくなっていた。

「……大丈夫か?」

「……何とか、ね。あたし本来の体ならともかく、現代を生きる葉月の体じゃ、負担が大きすぎる。あんた達の戦力を全て守護者の方に投入したい所だけど、あたしだけじゃもう抑えられそうにない」

「……わかっている」

 紫陽の様子に気絶から回復していたクロノが心配する。

「しかし、貴女が守護者と戦っていれば、戦況はマシになっていたんじゃ……」

「……ふむ、確かにそれも一理ある。けど、万が一あたしがやられたら、その時点で幽世も現世もおしまいさ。二つの世界の均衡が崩れたら、何が起こるかわからないしね。……それに、何も守護者を倒す事だけが解決法じゃない」

「どういう事だ……?」

 ずっと倒す事を目的としていたクロノは、紫陽の言葉に首を傾げる。

「倒す。それは確かに一つの解決方法だ。悩む必要もないし、手っ取り早い。だが、それが出来ない場合をあたしたちは想定していたんだ。犠牲になるものが多いが、倒せなかったとしても解決できるように手段を揃えてきた。……現代の現世に、江戸の時程の実力者がいないからね」

「……」

「あの守護者は、かつて幽世の大門を閉じた陰陽師の姿をしているが、本人ではない。本人は力を削がれ、幽世にいる。人格や思考も存在しているようだが、あれは力が形を成して動いているようなものだ。……そして、本人……とこよが幽世から干渉すれば、それだけで守護者は倒せる」

「犠牲が多い……と言うことは、その干渉が終わるまでかなり時間がかかる、と?」

「理解が早くて助かるよ。まぁ、その通りだな」

 紫陽の言葉から、もう一つの解決法を知るクロノ。

「だから、死なない程度に時間を稼ぐだけでもいいんだ。倒した方が無駄な犠牲もないが、あいつは守護者になるだけあってとんでもなく強いからな」

「それは……まぁ、同感だ」

 一気に全滅させられた際の絶望感を、クロノは覚えている。
 霊力関係に疎いクロノでも、守護者の実力が一線を画しているのはよくわかっていた。

「そら、頭と手を動かせ執務官。正念場はまだまだ続くぞ」

「……ああ」

 紫陽にそう言われ、クロノは改めて気を引き締めて妖の足止めを続行した。









「“チェーンバインド”!!」

「っ、やっぱり初見だから効いただけだった……!」

 ユーノがいくつものバインドを仕掛けるが、式姫は散り散りにそれを避ける。
 追い打ちをかけるようにアリシアが矢を、司達が魔力弾で追撃する。
 しかし、それらはすぐに中断させられてしまう。
 物量は式姫達の方が上なため、生半可な弾幕は簡単に突き破られるからだ。

「くっ……!」

     ギィイイイン!!

「(畜生……!愚直に飛ばすだけの王の財宝じゃ、対処しきれねぇ……!)」

 帝の牽制も、慣れてしまったのか反撃を許すようになってしまう。
 例え王の財宝などを包囲するように展開しても、軌道が一直線だと躱されてしまう。
 その際に繰り出される反撃を防ぐのにリソースを割く事になり、さらに帝に対する反撃が増える悪循環へと陥る。

「(帝君も、地上組もフォローしなければやられるのは時間の問題……。かと言って、フォローばかりしていたら私もやられちゃう……!……ここは、上手く連携を取らなきゃ)」

 司もまた、状況が把握できているからこそ焦りを抱く。
 天巫女の力を使えば、牽制だけでなく奏達と同じように近接戦もこなせる。
 だが、牽制を怠る事は出来ず、その上で他の面子はフォローが必要になっている。
 フォローをすれば、自分の防御が疎かに、しなければ他の面子が危ない。
 そんな板挟みの状況なため、焦りを抱いていた。

「(牽制を止めれば足止めしている後衛の式姫達から一斉攻撃を受ける。多分、それらは生半可な防御や攻撃じゃ簡単に突き破られる。ただでさえ牽制に対して反撃してくるぐらいだからね……)」

 司は思考を巡らせ、手を考える。
 優輝は守護者の相手で手一杯なため、頼る事が出来ないのは理解していた。
 むしろ手助けに行きたいのだが、そうすれば戦線が瓦解するのも分かっていた。

「『帝君!なのはちゃん!牽制を一旦取りやめ!私が皆の防御をするから、その後ろから丸ごと薙ぎ払って!』」

「『えっ……!?』」

「『っ……確かにこのままじゃジリ貧だが……あんたでもあの量は防御しきれないぞ!?』」

「『そこは皆と協力するしかないよ!』」

「『……わかった。タイミングはしくじるなよ』」

「『そっちこそ……!』」

 刹那、牽制の弾幕が止み、三人は奏達が集合している場所に転移する。

「なのは……!?」

「全力で牽制……!出来るだけ攻撃させないで!!」

「其れは遥か遠き理想郷。未来永劫干渉される事のない領域を、今一度ここに……!あらゆる干渉を防げ!」

〈“Avalon(アヴァロン)”〉

 転移に驚くフェイトたちを余所に、なのはが声を張り上げてそう言う。
 その言葉に全員が応じると同時に、司が防御魔法を行使。
 二人の攻撃で薙ぎ払うまでの盾を展開する。

「(防御だけに回していても防ぎきれる訳がない!ここからさらに……!)」

「ッ……!」

「(攻撃する!)」

 司がさらに魔力弾を展開。攻撃する。
 それに合わせるように奏が動く。
 魔力弾と共に駆け抜け、波状攻撃の如く式姫へと斬りかかる。
 奏自身が刃を当てる事も、魔力弾で仕留める事もできないが、吹き飛ばす事は出来る。
 しかし、それらを突破してくる存在もあった。

「行かせないよ!」

 だが、それらはアリシアがそう言うと共に矢を放ち、それに続くように悪路王、鈴、蓮が前に出て足止めした。

「退いて!!」

「「「っ……!!」」」

 司の叫び声が響き、前に出ていた全員が飛び退く。
 そして、入れ替わるように司が展開した魔力弾が式姫へ向けて放たれる。

「合わせなさい」

「了解……!」

   ―――“弓技・火の矢雨-真髄-”
   ―――“氷炎流星矢(ひょうえんりゅうせいや)

 さらに澄姫とアリシアによる矢の雨が繰り出される。
 即席にしては見事な連携で、何とか式姫を近づかせないようにする。

「(式姫の半分ほどが優輝君の方に行っているおかげで、凌ぎきれた!)」

「行けるよ!」

「よし……!」

 そこで、ついになのはと帝の準備が完了する。
 そのまま、タイミングを見て砲撃を放とうとして……。

「っ、後ろです!!」

「なっ……!?」

 いつの間にか、帝の背後に式姫が迫っていた。

「(間に合わない……!)」

「っ、ぁ……!?」

「帝君!?」

「撃、て……!」

 接近に直前で気づいた蓮がフォローに向かうも、間に合わない。
 帝は砲撃を中断して飛び退くが、それでも攻撃を食らい、その場に膝をついてしまう。
 それでも、なのはに砲撃を続行させようと、血を吐きながら言う。

「はぁああっ!!」

     ギィイイイン!!

 すぐさま蓮が帝を襲った式姫……天羽々斬と戦う。
 隠密行動と不意打ちに特化させて行動していたため、そのまま天羽々斬は後退する。

「(回復……が出来る織姫は既にやられている……!出来たとしても応急処置……!戦闘に復帰は難しい……!)」

 鈴は一連の流れを見て思考を巡らす。
 貴重な戦力が、これでまた一人削れてしまった。

「ッッ……!レイジングハート!!」

〈“Divine Buster Full Burst(ディバインバスター・フルバースト)”〉

 帝の言葉になのははすぐさま集束させていた魔力を解き放つ。
 なのはの得意魔法の一つである砲撃魔法。それを拡散させるように放つ。
 防御されようと、それすら撃ち抜く威力で、式姫達を薙ぎ払った。

「はぁっ……はぁっ……!」

 しかし、近接戦、集束魔法など、度重なる無茶をこの戦いで何度もしてきた。
 限界を超えた戦闘を経て、なのはの疲弊も深刻になっている。

「ッ……!」

 そして、それを式姫達は逃さない。
 天羽々斬は蓮が相手しているため、襲ってはこなかった。
 しかし、別の式姫が来ていた。

   ―――“斧技・狂化”

     ギィイイイン!!

「っ、ぁ……!?」

 アリシアと澄姫は、その接近に気づいていた。
 そして、矢と術による妨害もしていた。
 それでもなお、その式姫は狂ったように間合いを詰め、なのはに肉薄していたのだ。
 その状態で放たれた一撃は、寸前でアリシアの矢によって逸らされた。
 だが、空ぶった際に霊力が衝撃波として撃ちだされ、なのはは吹き飛ばされてしまう。

「くっ……!」

 一人、また一人と脱落していく。
 そのことに、ユーノは歯噛みする。
 本来なら自分の魔法で守るべき状況だ。
 しかし、魔法では霊術などを防ぐには不向き。
 そのため、こうして足止めしか出来ていない。

「(まだ……!)」

 だが、だからと言って戦力が削られているだけではない。
 戦闘不能者を出しながらも、確かに式姫達の人数は減らしていた。
 そして、死者も出していないというのは大きい。

「(まだ、やれる……!)」

 苦しい戦いになるのは十全に理解している。
 だからこそ、司達は足掻き続けた。









「ッッ……!」

「ふっ……!」

     ギギギギギィイン!!

「“創造(シェプフング)”!!」

 一方、優輝は戦闘に苛烈さを増していた。
 守護者から繰り出される攻撃の数々を、決して重心ごと捉えられないように受け流す。
 その受け流した攻撃で周囲の式姫を巻き込み、式姫を盾にすることで優輝は守護者にやられる事なくギリギリを立ち回っていた。

     パキィイイイン!!

「まだまだぁっ!」

 創造して繰り出される武器群。
 だが、それはあっと言う間に防がれ、そして砕かれる。
 しかし、優輝は当然それを承知だった。
 砕かれた武器群には、魔力が残っている。
 そして、その破片も魔力に還元する事が出来る。

「“創造(シェプフング)”……“再構成(ヴィダアウフバウ)”……!」

 散らばった武器群の破片が魔力に溶け、そして再構成される。
 元々の武器よりサイズは小さいが、その代わりに数が増えている。

「ッ……!」

     ギィイン!!

 その間にも、守護者の攻撃は止まらない。
 足元に放たれた霊術を転移で避け、先読みされて振るわれた刀を受け流す。
 守護者はさすがに数が多すぎるのか召喚した式姫とは連携を取らない。
 その事実が優輝の助けとなり、受け流した攻撃は大体式姫への牽制となる。

「行け……!」

「っ……!」

 再構成した剣の群れを守護者に差し向ける。
 360°全てを囲うように放たれるそれらは、普通であれば上に躱すしかない。
 優輝自身上空に転移しなければならないほどだ。
 しかし、当然ながら守護者は普通の範疇には収まらない。
 跳躍して回避。これはまだいい。
 だが、守護者はその上で優輝の転移先を目視で発見。即座に矢を放ってきた。
 それこそ、寸前で回避した剣の群れなどものともしないと言わんばかりに。

「はぁっ!!」

   ―――“刀奥義・一閃”

     ギィイン!!

 その矢を優輝は刀で弾く。
 リヒトは形態をグローブに変え、身体保護に特化させている。
 そのため、神降しに残しておいた神刀・導標を振るっても無事で済んでいた。
 尤も、導標の本当の力を発揮させれば忽ち優輝の腕はこの場において再起不能になるが。

「ッ……!」

 矢を弾いた瞬間に、投擲された斧が迫る。
 優輝はそれを転移で躱し、地上から矢とレイピアを放つ。
 しかし、それらはあっさりと刀に弾かれ、逆に霊術が込められた御札が繰り出される。

「くっ……!」

 それを飛び退き回避するも、先読みして放たれていた術式に包囲されてしまう。
 霊術が炸裂すると同時に、飛び交っていた剣が魔力に溶ける。

「ッ!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギギギギギギギィイン!!

 その瞬間、その魔力が魔力弾となり、守護者を襲った。

「はぁああああっ!!」

   ―――“巨刺剣”

 障壁に防がれたものの、それはただの目晦まし。
 霊術の包囲を転移で躱した優輝は、守護者の上から巨大なレイピアで刺し貫こうとする。

「(貫けない……!!)」

 しかし、それでは貫けなかった。
 そのため、優輝はすぐさま次の行動を起こす。

「こいつなら、どうだ……!!」

   ―――“創糸地獄”

 創造魔法によって、霧散した魔力弾の魔力から再構築。
 それによって生成した糸を、瞬時に守護者を囲うように展開する。
 糸を霊力でコーティングする事で、守護者の霊術で糸が切れないように加工する。
 僅かな時間といえど、細い糸による全方位からの引力に守護者は襲われる。

     ギィイイイイイッ!!

「(破……った!!)」

 加工したとはいえ、守護者はその糸を断ち切ろうとしてくる。
 そのため、効果はほんの僅かな時間だった。
 しかし、それでも守護者の障壁を破る事に成功する。

「ッ……!」

 いざ転移して懐に飛び込もうとした瞬間に、地上から矢と霊術が飛んでくる。
 守護者の召喚した式姫達による妨害だ。

「邪魔を……」

 それを躱し、魔力結晶を五つ砕く。
 そして生成される大量の大剣。それら全てが地上に向けて放たれる。

「するな!!」

 式姫の何人かはその剣を躱しきれずに貫かれる。
 さらに、突き刺さった大剣が共鳴するように大爆発を起こす。
 これによって躱した式姫も何人か倒す事に成功する。

「くっ!」

 そこへ飛んでくる霊術を転移で躱す。
 ……が、途端に優輝は動けなくなってしまう。

「(拘束の術式……!やられた!)」

 それは、守護者が仕掛けた罠だった。
 大剣を創造し爆発させるまでのほんの僅かな時間に、守護者は術式を仕掛けていたのだ。

「ッッ……!」

     ギィイン!!

 トドメとばかりに眉間に向けて放たれる矢。
 それを、爆発で散らばった魔力から生成した剣でギリギリ逸らす。
 こめかみを掠り、脳が揺さぶられる。
 だが、優輝は血を流しながらも気絶はしなかった。

「ぐっ……!」

 今度は、掠った側へと顔を傾ける。
 守護者は、矢の後ろから追従するように優輝に肉薄していた。
 そして、刀による刺突を繰り出していた。
 
「っ、ぁ……!」

 矢が掠った反対側が、僅かに斬られる。
 これ以上は躱せないと判断した優輝は、即座に転移魔法を発動。
 しかし、転移先は短距離とはいえランダムだった。

「ッ!!」

   ―――“呪黒剣-魔-”

 そのため、優輝は転移直後に周囲に黒い剣を繰り出した。
 葵が得意としていた霊術を、魔力で繰り出し、式姫を牽制する。

「っつ……!」

   ―――“息吹”

 しかし、それでは守護者の矢は防ぎきれない。
 殺気を頼りに矢を回避し、掠った傷に霊術をかけておく。
 悠長に回復する暇はないため、持続的に回復させることを選んだ。

「そこか……!」

   ―――“弓技・瞬矢”
   ―――“弓技・閃矢”
   ―――“弓技・螺旋-真髄-”

 追撃の霊術を転移で躱し、矢の攻撃で反撃する。
 椿の技術と、創造魔法による遠隔操作で同時に三つの技を放つ。
 遠隔操作で疑似的に弓を引き、射た矢は守護者の動きを制限し、本命の優輝自身が放った矢で攻撃した。

     ギィイン!!

「ッ……!」

 だが、その矢はあっさりと瘴気の触手に逸らされる形で防がれてしまう。
 それだけでなく、そのまま触手によって雨のように連打攻撃が繰り出される。

「くっ……!」

   ―――“速鳥”
   ―――“扇技・神速”

 全開の霊魔相乗による強化と、霊術による敏捷強化で触手を躱す。

     ギギィイン!!

「ちぃ……!!」

 しかし、そこへ式姫が襲い掛かってくる。
 さらには、守護者から矢が放たれ……。

「邪魔だ!」

 転移魔法で式姫の背後に転移、蹴り出し、矢にぶつける。
 式姫を一人減らしたが、その程度では意味がない。

「ぐっ……く……!!」

 触手の攻撃を凌ぎながら式姫の攻撃と守護者の矢をどうにかしなければならない。
 その状況に、優輝は即座に転移して避難する。

「……設置、完了」

「ッッ……!!」

 しかし、守護者は、さらにその上を行く。

「(やはり、術式を用意していたか……!!)」

   ―――“偽・焦熱地獄”

 その瞬間、地上にいる式姫ごと、広範囲が焼き尽くされた。





「ッ……!?何、この熱気……!?」

「アリシアちゃん!」

「させない!!」

 幸い、移動しながら戦っていたためか、司たちがいる場所までは届いていない。
 だが、それでも熱気だけで非常に強力なものだと理解できた。

「くっ……!」

 熱気に驚いたアリシアをフォローするようにユーノが助けに入る。

「ごめん……!」

「気にしないで!……今ので、奥の式姫が巻き込まれたみたい。劣勢が、何とかなるかも……!」

 そして、その霊術は、奇しくも司たちの助けになっていた。





「っづ……!!」

 そして、優輝は転移魔法によって上空へと逃げていた。
 だが、それでも届く熱気に冷や汗と汗が止まらない。
 さらには、その状況下でも守護者の攻撃は飛んできていた。

「(陣を足場に肉薄してくるか……!)」

 創造した剣やレイピアをぶつけて矢を逸らし、肉薄する守護者を視認する。

「……準備していたのは、そっちだけじゃない!!」

 優輝もまた、守護者と同様に戦闘しながら切り札の準備をしていた。
 そして、今それを開放した。

「(帝から見せてもらったいくつかの宝具……!それらを今、模倣する!!)」

   ―――“模倣創造(ナーハアームング・シェプフング)

 練られていた術式が起動する。
 傍らには赤い槍。手には金色を基調とした巨大な斧が握られていた。
 刀は適当に創造した鞘に収められ、今は優輝の腰に差されている。

     ギィイン!ギギィイン!!

「ッ……!」

 接近しながら放たれる矢を、その斧で弾く。
 斧の質量と、その斧に込められた“神秘の力”。
 さらには武器と共に創造した武器の担い手の怪力。
 それらにより、守護者の普通の矢程度なら弾くことができた。
 ……そして、お互いに間合いに入る。

「ッッ……!」

「大英雄の絶技、食らうがいい……!」

   ―――“射殺す百頭(ナインライブズ)
   ―――“刀技・五龍咬-真髄-”

     ギギギギギィイイン!!!

 それは、模倣する数を減らし、精度を上げたからこそ出来た絶技だった。
 守護者が瘴気を纏い、瘴気の触手と同時に繰り出された五連撃を上回る。
 その事実にさしもの守護者も目を見開き、刀が大きく弾かれた。

「(隙が出来た!神降しでやられたあのカウンターがあったとしても、ここで確実に仕留める……!)」

 刀を大きく弾き、守護者に大きな隙が生じる。
 同時に、優輝は斧を手放し、槍を構える。

「その心臓、貰い受ける……!」

 それは、ケルト神話にて大英雄クー・フーリンが使う槍。
 Fateシリーズの作品にて、“心臓を貫いた”という結果を作ってから槍を放つという因果逆転の効果を持つ、初見殺しの必殺の槍。

「“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”……!!」

 それが、守護者に向けて放たれる。
 例え神降しの時に使われたカウンター技を使われたとしても、因果逆転の力があれば確実に守護者を仕留める事ができる。
 そのため、優輝は相討ち覚悟でその槍を放った。







「ッ……!?」

 ……結論から言えば、その槍は心臓に命中する事はなかった。

「嘘、だろ?」

     ギィイン!!

「ぐっ……!」

 “当たらなかった理由”に優輝は動揺し、刀の叩きつけに一瞬反応が遅れる。
 槍でその一撃自体は防いだものの、そのまま地面に叩きつけられる。

「っづ、ぁあああ……!?」

 未だに熱気が収まらない地面の熱さに、優輝はすぐさまその場から浮く。
 そして、すぐに思考を落ち着かせ、状況を分析する。

「(失敗した……訳じゃない、あれは……()()()()()()()()()()()()()()()()……!)」

 そう。放った槍は元ネタの作品でもネタにされるように当たらなかった訳じゃない。
 “因果逆転”そのものが、守護者に対して働かなかったのだ。
 それさえなければ、ただの鋭い槍の一突きでしかない。
 それでは瘴気の触手であっさり弾かれてしまうだけだった。

「(槍を放つ瞬間、守護者が仕込んでいた術式が発動する節があった。……まさかとは思うけど、因果操作を無効化する護符でも持っているのか……!?)」

 この時の優輝の推測は、寸分違わず合っていた。
 守護者は因果操作を懸念してそれを無効化する護符を事前に持っていたのだ。
 しかも、それは使い捨てではなく、何度も機能するタイプの。
 当然、これはその場で作れるものではなく、守護者が生前、とこよとして生きていた時に時間をかけて制作したものである。
 そのため、破壊もこの状況下では不可能に近かった。

「っ、ぐぅう……!?」

 そして、動揺して地面に叩きつけられたのがいけなかったのだろうか。
 守護者による霊術で、優輝はその場から動けなくなる。
 重圧による拘束だ。

「(破るまでに時間がかかる……!一体、何を……ッ!?)」

 “仕掛けてくるのか”と、思考は続かなかった。
 なぜなら、守護者の正面に瘴気が集中しているのが見て取れたからだ。

「(結界を維持する瘴気も全て……いや、それだけじゃない!結界外の瘴気も集束させているのか!?なのはのスターライトブレイカーのように……!)」

 結界が解け、結界内のみでの事象だった灼けた地面も消える。
 スターライトブレイカーの瘴気版とも言えるソレに、優輝は戦慄せざるを得なかった。

〈マスター!〉

「……回避は、選択できない……!」

 重圧に使われた霊力も持っていかれたのか、優輝の拘束が解ける。
 だが、“逃げる”という選択肢は既に潰された。

「あれを避けたら、結界のない今の状況だと、京都を中心にいくつもの街が死ぬ……!」

 そう。守護者が放とうとしているのは集束させた瘴気。
 それがそのまま地面にぶつかれば、京都だけでなく周辺の県も瘴気に侵される。
 そうなれば自然は全て死に、人も住めなくなってしまう。

「だから、相殺するしかない……!」

 現状、守護者の放とうとしている攻撃は、防御も相殺も不可能に近い。
 既に結界内にいた司たちは疲弊しており、相殺の手伝いもできそうにない。
 むしろ、優輝が相殺に放つ攻撃の余波を防ぐのに精一杯だ。
 結界外にいた紫陽達も距離が離れすぎて援軍を望めない。
 故に、優輝一人で行うしかない。

「ッ………!」

 時間はない。
 優輝は魔力結晶を15個取り出す。
 内5個は砲台とし、後は全て増幅装置とする。

Verstärkung(増幅)Komprimierung(圧縮)Fokussierung(集束)Multiplikation(相乗)Stabilität(安定)……!!」

 増幅装置である二つの五芒星の頂点に設置された魔力結晶が輝く。
 さらに砲台の魔力結晶の魔力も集束していく。

「束ねるは人々の想い、輝ける導きの光……闇を祓え!!」

〈“勝利へ導きし王の剣(エクスカリバー・ケーニヒ)”〉

 優輝のデバイスであるリヒトが剣に姿を変え、極光が放たれた。

「呑み込め……!!」

   ―――“禍式・空亡(そらなき)

 そして、同時に守護者から底なしの闇ともいえる巨大な玉が放たれた。

「ッ――――――!!」

 光と闇がぶつかり合う。
 守護者から放たれたのは、瘴気を集束させた巨大な玉。
 それを受け止めるように、光の極光がぶつかる。
 しかし、砲台と増幅装置を使ってなお、極光が押される。
 ……それほどまでに、守護者の放った術は強力だった。

「っ、ぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 だが、優輝もタダでは終わらない。
 この魔法は、今や一つの宝具となっている。
 諦めない意志に、勝利へと導かんとする想いに共鳴し、威力が増す。
 それにより、徐々に守護者の攻撃を押し返していく。





   ―――ピキッ……





「ああああああああああああああああああああああ!!!!」

 優輝の叫びと共に、ついに相殺に成功する。
 ……同時に、ナニカが罅割れたような……そんな気がした。







「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 息を切らし、その場に膝を付く優輝。
 既に満身創痍だった。
 極光を放ったリヒトは負荷に耐えきれなかったのか、罅割れている。
 核となる部分は無事だが、これ以上の戦闘行為には使えなかった。

「っ……」

 そして、まだ守護者は健在だった。
 守護者の切り札を防いだのはいいものの、その先がどうにもならなかった。

「く、っ……!」

 視界がぼやけ、四肢に力が入らない。
 魔力行使、霊力行使も上手くいかず、ただ漠然と自身に向けて振るわれる刀を認識していた。















 
 

 
後書き
氷炎流星矢…アリシアがアリサとすずかの力を受け取った状態で放てる、炎と氷を纏った矢の雨を降らす技。三人の霊力を合わせたようなものなので、当然威力も高い。

再構成(ヴィダアウフバウ)…文字通りの意味。創造魔法によって創られたものを魔力に還元し、その魔力を以て別のものを新たに創造する。

-魔-…霊術を霊力の代わりに魔力で放つ際につく。今のところ、優輝以外は時間をかけないと使えない。

息吹…所謂リジェネ。持続的に回復する。新陳代謝も上がっている模様。

偽・焦熱地獄…焦熱地獄を再現したかのように、広範囲を焼き尽くす。その威力は非常に高く、地面の一部が溶岩化するほど。その分、発動までに時間がかかる。

模倣創造(ナーハアームング・シェプフング)…創造魔法による、模倣の切り札。Fateの投影による宝具使用を一気に複数行うようなもの。展開数を減らせばその分精度も上がる。当然負担も大きく、発動まで時間がかかるが、その分強力。

“神秘の力”…神秘に関してはFate参照。神話時代の武器であるほどその力は強い。

禍式・空亡…言い表すならばSLBの瘴気版。大門の守護者の切り札。その威力は集束させた瘴気にもよるが、相殺しなければ複数の都道府県を一気に死に至らしめるほど。ちなみに、北海道の中心に放たれた場合なら、北海道の端は無事で済んだりする。


かくりよの門をやっている人ならわかると思いますが、優輝がいる場所は裏手で司たちは正門近く(逢魔時退魔学園MAP)で戦っているため、場所が離れています。正門と裏門近くなので、偽・焦熱地獄も範囲外だったということです。

そして登場したFate名物(?)当たらない必中の槍。一応、ランサーのために弁解させてもらうと、相手の対策が万全過ぎただけで、何の落ち度もありません。 
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