衛宮士郎の新たなる道
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第2話 美女を拾うガクト
前書き
今回は区切りが多い。あと、飛ばすと言っておきながら一旦落ち着きます。
「~~~♪」
外部からの源義経への挑戦者の選別を終えた百代は、今日の朝――――正確には昨夕からの不機嫌さから一転して上機嫌のまま帰るために歩いている。
「李さんとの戦い楽しかったな~。それに結構いい強敵みたいだし」
今日の最後の挑戦者は、強者との戦いを求めて川神の地を訪れただけで、特別義経目当てでは無かったらしい。
挑戦権を与えるに相応しい戦いだったので、百代も推薦したが、本人はその内でいいと言っていた。
さらには暫く川神周辺に滞在するから、また戦おうぞとも言ってくれたことが百代には嬉しかった。
最後に別れ際、李と名乗った事も忘れない。
そこでふと公園が視界に入ると、ワンコが誰かといる事に気付いた。
「一緒に居るのは外国の子供か?」
見かけない子供だった。
青い髪に燕尾服、そして百代の視界からは見えないだろうが、蝶ネクタイをした日本人には似つかわしくない子供だった。
だが正直、この川神においてはそのくらいの子供だろうが大人だろうが大して目立つ事は無い。良くも悪くも変わり者が多く集まるのがこの川神だ。
声を掛けようとも思ったが、やけに楽しそうだったので遠慮して帰途に就こうとその場を去る百代。
だがしかし、百代は気付いておくべきだった。
その少年の――――異質さに。
-Interlude-
魔力の奔流の発生直後、そこにはたまたま九鬼従者部隊の若手が数人来ていた。
「な、なんだこりゃ?」
「一体何が起きている!?そ、それにあれは・・・」
天を衝く様に竜巻の様だった魔力の奔流は、その中心で少しづつ形を成して行き、人型に近づいて行く。
「と、兎に角、本部に連絡だ。星の図書館と言われたミス・マープルなら、恐らく何か知ってる筈・・・!」
「わかった。今す」
携帯を取る前に気絶する若手従者A。
「ど、どうし」
駆け寄ろうとした所で若手従者Bも気絶させられる。
「伝令は能わん」
彼らを刀で気絶させたのは、以前義経達を襲撃した実行部隊のリーダーの虚無僧笠で、修羅のセイバーと呼ばれていた男だった。
この男の目の前では今も魔力の渦の中で人型がより鮮明に形成されつつある。
その人型には徐々に蛇の様な尻尾も形成されて行く。
「そろそろかと」
そこに何時の間にいたのか、オリジンのアサシンが少し距離を取りつつも控えている。
それに応じる様に侍の刀から異様なオーラが発生する。
「――――フッ」
刀にオーラを纏わせたまま目の前の人型の周囲の魔力の渦を根こそぎ刈り取った。
刈り取られた魔力は霧散せずに、オリジンのアサシンの持つ“何か”に全て吸い寄せられて回収された。
残ったのは異様な姿の人型だが、みるみるうちに大きさが一回りも二回りも小さくなり、ついには紫色の長髪に黒いボディコンスーツが特徴的な美女の姿に落ち着き顕現したが、不完全な形での現界か魔力不足かで倒れた。
その彼女をオリジンのアサシンが如何なる方法かで浮かせる。
「ありがとうございました。これで今回の貴方への依頼は完了です。貴方のマスターにもお礼を申し上げておきますね」
「・・・・・・・・・」
「それにしても2人とも峰うちとは、調子でも悪いのですか?助かりはしますが」
「無駄口叩いていて良いのか?魔力に引き寄せられてこの土地に住む強者たちが集まってくるぞ」
修羅の侍の言う通り九鬼財閥極東本部方面に藤村組方面、そしてマスターピース極東支部方面の三方向から此処を目指す様に集まって来ていた。
「私は問題ありませんよ。寧ろ窮地であればあるほど抜け出せますので。ですから問題なのは貴方の方ですよ?」
「儂の方も問題ない」
修羅の侍はある方向に指を指した。
「成程。彼方でしたら問題ありませんね?ですが、例え彼方でも目立つ行動は禁物では?」
「余計な世話だ。貴様なぞに言われずともな」
「これは失礼しました。では次回お会いする日を楽しみにしています」
恭しく礼をして姿が消えたが、修羅の侍からすれば一挙手一投足全てが胡散臭く見えていた。
-Interlude-
オリジンのマスターは、やろうと思えば全世界を見続けることや聞く事が容易にできる。人が息を吸い吐くのと同じように当然の事として。
が、今はそれを川神や七浜、そして冬木にだけ敢えて向けていた。
自分の手駒が自分をどの様に愉しませてくれるのか期待している故だ。
そこでアサシンの近くで、川神百代と縁深い少年の1人の魂の雄たけびを聞いた。
「――――ほお?」
少し興味を持ち、考えを巡らせてから、
『アサシン。新たなガイアの使徒をその辺に置いていけ』
『・・・・・・それではプランが』
『これを聞き入れるだけで成否拘わらず一度分にしてやるが?』
『仰せのままに』
念話を終えてから実に愉しそうに嗤うオリジンのマスター。
万華鏡の如き双眸は、過去・現在・未来と万物を見通す千里眼を備えているが、敢えてオフにして今を愉しむ。
だがそれでも――――アレの性質と魔力量を鑑みれば、この怪物でなくとも、どの様な過程になるかなど容易に想像できる。
「さて、チャンスは与えた」
今だけを愉しむヴィジョンには、川神百代に縁深き少年――――ガクトが紫色の長髪の美女をお姫様抱っこしている姿が見える。
「望み通り恋をしてみろヒトの子よ」
発した言葉は一見まともに聞こえたが、それもここまで。
「ただし、命がけだがな」
込めた感情は恐らく、ド外道の極みだろうが。
-Interlude-
ガクトは見つけた美女を奇跡的に誰にも見つけられずに自宅に帰って来れた。
「母ちゃん、母ちゃん!」
「なんだいなんだい、まだ夕飯の支度なら出来てな」
ガクトの返事に答えながら居間から玄関口に来た島津麗子は停止した。
息子の岳人は未だ靴を履いたままだが焦っているのか必死そうな懇願顔を向けて来る。よく解らないがそれだけならまだ問題ない。
問題なのは自分と我が息子の中間で横たわっているボディコンスーツの美女だ。
如何やら気を失っている様だが、息はある様だとも見ただけで確認できた。
そしてもう一度息子と美女を見てから、
「グァアアァアアアクツォオオオオオオオォオオオオオオオオ!!!」
「ぐぼぉおおおっ!」
「くぅぉおおんのぉおおおおばぁあああっか息子がぁあああああっっ!!!」
「ごへぇええええええっっ!!?」
最初に右頬を勢いよく叩かれ、続いてアッパーカットで顎を殴られるガクト。
しかし息子を殴った本人の麗子は未だに怒り心頭中だ。
「アンタって子はアンタって子は!アタシの息子だから顔は悪くないくせに、無駄に筋肉を増やしてモテると勘違いしたアホで、しょっちゅうナンパを続けてはフラれて帰って来る上に何も学ばない如何しよも無い馬鹿だけど、情に厚い子だと思ってたのに!アンタって奴はアンタって奴はッッ!!」
麗子は如何やら、自分の息子が遂に女性を襲って気を失わせて連れて帰って来たと憤慨している様だ。
だがガクトは当然反論する。
「待ってくれよ母ちゃん!この人橋の下で気絶してたのを連れ帰って来ただけなんだよ!」
「あーーっ!何て子だいっ!この期に及んで無様に言いわけするなんて!何所で育て方間違えたのかねぇ・・・!」
「如何して俺がこの人襲ったなんて決めつけるんだよ!」
「何所にそれを証明する証拠があるんだいっ、せめて根拠位示してみたら如何だい!?」
「俺がそんな事出来る様に見えるのかよっ!」
「えっ、あっ!?確かに無理だ!千兆歩譲って、たとえ彼女が出来ても他に目移りして愛想つかれるか、尻に敷かれるだけしかのヘタレだろうからねアンタは・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
疑った上に殴ってわるかったねぇと笑いながら謝罪してくるが、ガクトは酷く心が寒々しく感じました。
――――容疑が晴れたのはいいけど、一切悩まず即答した上にそこまで言う事は無いんじゃねぇのか?母ちゃん・・・・・・。
そんな息子の心情など知らず、麗子は笑いを止めて神妙そうな顔をする。
「ならこの娘は如何したんだろうねぇ?取りあえず警さ」
こんな処で寝かせるのも何だからと持ち上げようとした時、奇妙な感覚に囚われて一瞬意識が飛んで、そして――――。
「取りあえず客間に寝かせておくかね。ほら、ガクト!力しか自慢するとこが無いんだから、さっさと優しく運びな」
「俺が運んじゃっていいのかよ?」
先程の言葉にと、僅かながらの反撃を試みるガクト。
「構わないよ。さっきは疑ったけど、アンタにそんな度胸がある訳無いしねぇ」
「グッ!」
事実なだけに反論できないガクト。
悔しそうに顔を下に向けると、そこには自分が運んできた美女の顔がある。
「それにしても、この人ホントすげー美人だよな。モモ先輩以上じゃねぇか?」
-Interlude-
魔力の奔流の発生から時間が経った夕食時、士郎はリザと共に夕食を作っていた。
その光景は傍目から見れば、まるで夫婦同士で作っている様に見えなくもない。
実際リザとしては、今この時間を非常に楽しんでいた。
ただし、その愛する男――――衛宮士郎が顔を顰めたままじゃ無ければ。
「それじゃあまた、ゴールデンウィーク前や半月前位な事になりそうなんですか?」
「如何やらその様だな」
答えたのは見に行った士郎では無く、置いてかれて憤慨しているシーマだ。
「そう怒るなよ」
先程までの剣呑さを意識的に隠してから、出来上がった料理を運びながら謝って来た。
だがその程度でシーマの機嫌が回復する事は無い。
「別に怒って等おらぬ。我らのマスターの短慮と迂闊すぎる行動は、憤りを通り越して呆れ――――豪胆ぶりに驚嘆しているだけだ・・・!」
爽やかな美少年的な顔のシーマから、それなりに嫌味含みを持たせた言葉が帰って来た。
これには自分の責任だが、今すぐには許してもらえなさそうだと話を切り替えることにした。
「今はそういう事だから、明日帰る時に冬馬達とも送る」
「事が落ち着くまで3人とも泊まらせればよいではないか」
そこへ遅れて入って来たスカサハが提案した。
「師匠」
「ネガティブで過保護のお前の事だから、それ位は考えていたのだろう?」
「それは、まあ・・・・・・。と言うか、ネガティブと過保護は否定したんですが」
「どの口がそれを言う?一つしか歳が違わない3人を子供の様に扱ってる時点で十分過保護だろう。それにあの件まだ気にしているんだろう?」
「・・・・・・」
「「「「?」」」」
図星を突かれて押し黙る士郎。
士郎の反応に心当たりがないのか、首を傾げる冬馬達にレオ。
それとは反対に、心当たりがあるシーマにエジソン。そして2人のサーヴァント程では無いが、リザも。
「以前にも言ったがあのことはお前のせいでは無い。それでも自責の念に駆られ過ぎるのは思い上がりだと、これも以前言ったな?」
「――――理解はしてるつもりです」
言葉とは裏腹に納得してはいない顔。
それをヤレヤレと溜息をつく。これ以上自分が言葉を重ねても無駄なようだと諦める様に。
だから話題を脱線させた本人でありながら無理矢理戻す。
「どうせ冬馬達の事情の方も有線させるか決めかねていた、と言った所だろう」
「・・・・・・」
またも図星を突かれて押し黙る士郎。
そんな士郎を見て、またも溜息をついてから冬馬達に向き直る。
「と言う事だから、お前達もそれでよいか?」
「はい。私達は別に構いませんが」
「昔に士郎さんの家に一時的に避難してた生活に戻るだけっすから」
「ならばよい」
冬馬達の処遇が決まったが、微妙に重い空気は晴れないまま。
そこへ教師としての仕事を終えて帰ってきた大河が現れた。
「いやーまいったまいった!先生方と話が盛り上がっちゃって、ずいぶん遅くなっちゃったわ――――って、何なのこの空気?」
「あっ、いえ!」
「何でもありませんよ」
「そっ?じゃあ、私もいただこっかな?」
取りあえず大河が帰ってきた事で空気が弛緩した。
矢張り大河は衛宮邸に無くてはならない存在なのかもしれなかった。
-Interlude-
「何だ・・・と!?」
同時刻、こちらは九鬼財閥極東本部の一室。
今この場には九鬼家従者部隊の永久欠番から序列第三位までの4人、それに既に次の仕事で此処を発った九鬼帝の代わりに、姉弟の中で唯一に魔術の事を知らされた英雄がいる。
その英雄が掴み掛らんとばかりに立ち上がったのは、自分の専属護衛のあずみからの説明を聞いてのモノだ。
「気絶していた我が社の従者たちが気絶していた原因。峰うちの痕が義経達が襲撃された時のクラウディオの傷跡に酷似していただと!?」
「はい。ですからあの虚無僧笠の手配人が戻ってきている可能性があるかと」
あずみの説明に一瞬静まり返る場。
しかしその空気を殺戮執事が凶悪な笑みで吹き飛ばす。
「一月どころか、まだ一週間も経っていないのに戻って来るとはな・・・!」
「そうだね。あたしらも舐められたものさ・・・・・・!」
旧友に傷を負わせた怒りからか、マープルまでも嗤っていた。
その傷を負わされた本人の方が何故か一番冷静なくらいだ。
「ですが如何しましょう?彼の者を指名手配したくとも、武士道プランの為に襲撃された件は極秘扱い。動かせる人間は限られていますが」
実際、極東本部内に居る九鬼従者部隊の中でも襲撃事件の事を把握しているのは1割にも満たない。
さらにはしかも、今回の事で気づけたある事実でさらに人員は減る。
「しかも奴は魔力の奔流の発生地点に居ました。この事で奴がただの裏に関わりが深い傭兵紛いの犯罪者から、魔術と言う概念も知っている危険人物に格上げされた事にもなります」
九鬼従者部隊の中でも魔術を知っているのは永久欠番から序列第十一位、それに九鬼に入る前から知っていた何人かの数人程度。つまり、20人いるかも怪しい程度なのだった。
その程度の人数で捜索など、たかが知れている。
この問題を父親の代わりに英雄が決めなければならない。
目を閉じ黙ったまま考えていた英雄は決心する。
「藤村組と川神院に協力を依頼しよう。何方も魔術を知っている人員は数が限られているだろうが、今はそうするしかあるまい」
「分かりました。直に連絡を取ります」
クラウディオが部屋を後にする。
それを見送ってから今度はマープルが提案する。
「現地の調査は明日にでも私が行います。魔術について一番深く知っているのは私ですから」
「任せよう。もし藤村組に応援を頼めれば、スカサハ殿にも調査を頼めるよう手配しておく」
「ありがとうございます」
「ヒュームは引き続き紋と義経達の護衛を頼むぞ。戻ってきていると言う事は再襲撃の可能性も十分にあるだろうからな」
「了解です」
英雄の決定を受けて退室していくマープルとヒューム。
それを見送ってから深い溜息をつく。
「矢張りお疲れなのでは?そろそろ休まれた方が宜しいのではないでしょうか?英雄様・・・」
「すまぬ、あずみよ。だが我が悩んでいるのはそれだけでは無いのだ」
「如何しました?」
「何、詳細の事実を知らなかったとはいえ、今迄とそして今回も士郎とシーマに重要な部分を結局頼む事になりそうだなと」
責任ある立場故の気苦労。
英雄は自分の疲労した姿を他者に滅多に見せない。
それはあずみにも同じであり、だからこそ彼女は英雄を本気で心配するのだった。
-Interlude-
日が開けた朝。
島津家の客間で寝かされていた女性が、少しづつ動き出して起き上がった。
「・・・・・・此処は?私、っ!?」
何かを思い出そうとした瞬間に、電気が走ったような痛みを覚える。
「っ、っ・・・」
何とか思い出そうとするが、結果は最初と同じ。
如何すればいいかと考えている所に、ドアが開いて2人の男女が入って来た。
「だからアンタは来なくていいって言ってんだろう?」
「いや、だって、俺が保護して来たんだから、やっぱり気になるじゃねぇか?――――って!!?」
「んん?っと、あらま、気がついたのね?」
「えっ、あ、は、はい」
何やら勢いが強そうな女性のインパクトに押されてしまう。
もしかしたら自分はそう言った性質の人間に弱かったのかもかと思い出そうとするが、
「クッ!」
「ちょっ、大丈夫かい?」
「は、はい」
頭を押さえて呼吸を整える自分に、ふくよかな気の強そうな女性が本当に心配な顔で覗き込んで来る。その事に意外感を覚えつつも、感謝を忘れない。
「あ、ありがとう御座います」
「良いって事さ。それより本当に大丈夫かい?アンタを此処まで運んできたのはうちの馬鹿息子でそこに居る岳人でね、女の扱いなんて慣れてないもんだから乱暴に扱ってたらどうしようかと思ったんだよ」
「そうだったんですか。ありがとうございます岳人さん」
「っ!!?」
まるで男は絶対に逆らえなくなりそうな美貌を持った笑顔からの感謝に、女の扱いには慣れて無くとも接するだけなら慣れはしている岳人でも、思わず緊張して上手く返事を返せずにいた。
「?」
「あー、気にしなくていいわよ。それより始めに」
「聞きたい事があるんですが?」
「む、アンタの方から先に聞きたいって?まあ、別に構わないけど」
だからこそ彼女からの質問は予想外だった。
「私が一体どこの誰か、御存じありませんか?」
後書き
メデューサと百代の声優さん、今思わなくても同じ人ですよね~?
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