FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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母からの贈り物
前書き
なんだかまもなく終わってしまいそうな勢いになってきました当作品。
果たしてこの絶望を止められる者は現れるのか!?
「ジェラーーーーールゥゥゥゥゥゥゥ!!」
響き渡る女性の絶望の叫び。幼い頃に捉えられて自由を奪われてきた。そして二人は運命のイタズラにより引き裂かれ、離れ離れになった。
それでもようやくこうして共に道を歩めるようになったのに、それを目の前で奪われてしまったのだ。
「邪魔をしないでほしかったな。素直に見送っておけば、エルザと一緒にあの世に送ってやったのに」
人の死を見ても感情が何も動かないティオス。いつもの彼女であれば彼に怒りを向けていたであろう。しかし、今回は失った人物があまりにも大きすぎた。
「私が・・・ついていながら・・・」
地面に手を付き顔を伏せる。これ以上の戦闘を続けることなど、不可能なのは目に見えていた。
「こうなったら・・・」
娘の姿を見てアイリーンはあることを決める。すると、フィオーレ全土が光り出した。
「これは・・・」
「あの時と同じ・・・」
アイリーンが発動したユニバースワン。今度はそれを解除しようと彼女は判断した。
「今みんながいる場所は本来なら別々の地だった。元の姿に戻せば、この状況も変えられるかもしれない」
エルザとの戦いで満身創痍の彼女に再びユニバースワンを行う力は残されていない。ならばと下した判断であったが、隣に立つオーガストの表情は険しい。
「無駄だろ、アイリーン」
「なんですって?」
そしてこの判断にティオスもいただけない顔をしていた。
「ここにいるものは全員妖精の尻尾を目指してやって来た。つまりユニバースワンが解けても・・・」
徐々に落ち着いてくる光。そこに広がるのは、マグノリアに近い荒れ地だった。
「大して戦局に変わりはない」
その言葉通りだった。ティオスを引き離せるかもしれないと思っていたが、それは全くの無意味。ティオスを引き離すことは愚か、エルザたちを逃がしてやることもできなかった。
「ならばもう一度――――」
「よせ、アイリーン」
自らの体を犠牲にしてでもユニバースワンを使いエルザたちを助けようとした。だが、オーガストはそれを止める。
「今、流れは奴にある。ここで不確定要素の多いユニバースワンはリスクが大きすぎる」
指定した相手を指定した場所におくことができる魔法。しかし、その副作用として対象者以外はランダムに配置されてしまう。それではあまりにも危険すぎる。
「一人になってしまっては、こやつは倒せぬ」
バラバラになってはティオスを抑えることなど不可能。逆を言えば、ある程度戦力がいる今はまだ何とかできる可能性があるかもしれない。
「それに、ユニバースワンは決して無駄ではなかった」
「え?」
キョトンとしているアイリーン。彼女たちに対峙しているティオスに、一人の青年が飛びかかる。
「ほう、これはまた・・・」
地面を叩き付ける毒の竜。ティオスが交わしたため攻撃は決まらなかったが、その目は死んではいない。
「全部聴こえてたぜ、お前ら」
傷だらけではあるが、決して生気を失っていない六魔将軍のメンバーたち。彼らは強大な魔を持つ青年を見据える。
「俺らの仲間を殺して、ただで帰れると思うなよ?」
ジェラールの死を受け立ち止まったエルザ。それに対し、彼らは前に進むことを決意した。
「時間がないんだがな、全く」
メイビスに視線を向けた後、これから対峙しなければならない多くの魔導士たちを見据える。
「仕方ない、裏の手を使うか」
「「・・・」」
無言の時が流れる親子の間。その場にいた茶色の猫娘は、空気を察してか、離れたところで事態を見守ることにした。
「・・・ねぇ、シリル」
「何?」
沈黙を破ったヨザイネ。彼女は立ち上がり、我が子を見つめる。
「・・・こんなに自分の気持ちがわからなくなるなんて・・・初めてだわ・・・」
子を愛せない親などいない。そう思っていた。実際に自分はそうであると思っていた。それなのに、目の前の我が子を抱き締めようと思っても、体がそれを拒んでしまう。
大切な息子のはずなのにそうなってしまうのは、彼女が彼と別の道を歩むことになる事件がきっかけ。
ドラゴンたちが人間と共存するか、はたまた全てに君臨する存在になるか、その意見を押し通すために行われた竜王祭。それにより多く犠牲が伴った。
アイリーンも人として生きていくことができなくなった。彼女が滅竜魔法を生み出したことにより凶暴化した一人がドラゴンと化し、アクノロギアへと変貌を遂げた。
そして、ヨザイネは夫と息子が殺され、二人の仇を討つために一度は捨てた天使の力を使い戦い、堕天使となることでドラゴンを仕留めた。その際にヴァッサボーネとシリルに付けた指輪が鍵となり、二人は奇跡の蘇生。ヴァッサボーネは人間の肉体がボロボロになっていたため、ドラゴンの慈悲によりその体を譲り受け、シリルを育てることになった。
「シリル・・・私は言わなければならないことがあるの」
「・・・何?」
彼女から何を言われるのか内心ドキドキが止まらないシリル。彼はその言葉を待ち受けていると、衝撃的なことを言われることになった。
「私・・・あなたの仲間たちを殺したのよ・・・何人もね」
「!!」
その瞬間、下ろされていた少年の手が強く握り締められた。
「それ・・・本当なの?」
無言のままうなずくヨザイネ。彼は彼女の告白に震えていた。
「そうだよね・・・これは妖精の尻尾とアルバレス帝国たちの戦争だったんだ・・・そうなることだってあるんだよね・・・」
仕方がなかったことだとはわかっていたが、ことがことだけに笑って許してあげることはできない。それでも、母親への愛情からか、少年は次の行動に移せずにいる。
「ねぇ、母さん」
迷いに迷った末、少年が下した結論は意外なものだった。
「俺と勝負しない?」
「ふぇ?」
実の息子の言っている意味がわからない。彼女は首を傾げていると、シリルがその言葉の真意を話す。
「俺も母さんもお互いのことは大切に思っている。でも、母さんはドラゴンを嫌い、俺は仲間を殺した人を許せない。このまま何のわだかまりもなく抱き合うことなんてもうできないんだ」
アルバレス軍としてフィオーレの多くの魔導士たちを殺めてきたヨザイネ。親子が離れ離れになった理由も知らずにドラゴンとして生きてきたシリル。お互いに不可抗力とはいえ、相手には思わしくないものを持っている。
「だったら、一度全てを清算するために、戦おうよ。本気で」
そこでシリルが提示したのは、愛情を捨て去り憎しみの面だけをぶつけ合うこと。互いの鬱憤が晴らせれば、最後に仲直りすることができるかもしれないと考えた。
「・・・できない」
しかし、そう簡単にそれができるはずもない。
「あなたの正体を知っているのに、牙を向くことは私はできない・・・」
母親だから優しいだけではいけないこともわかっている。それでも、400年も別々に生きてきたのだ。本当は負の感情など持たずに抱き締めてやりたい。それができない自分の心の弱さにヨザイネは呆れることしかできなかった。
「母さん、これは殺し合いじゃない。お互いの真意を知るための戦いなんだ」
「どういうこと?」
ますます困惑していくヨザイネ。その表情は母親のそれとは思えないほど衰弱していた。
「お互いに本当に愛していれば、終わった後にきっと水に流して抱き合えるはずだよ。例えどれだけ憎しみあっていようと」
それが家族だ、と続けるシリル。それを聞いたヨザイネは、ようやく納得した。
「やりましょう、シリル。お互いの真実を知るために」
「うん!!」
端から見れば何を考えているのか全くわからない。それでも、二人は親子の絆を確かめるためにもう一度互いに牙を向けることを決意した。
「ハァ!!」
手から雷を打ち出すヨザイネ。その速度はこれまでの攻撃と見劣りしないものであったが、シリルにそれは当たらなかった。
「ヤァ!!」
目を解放している少年にとって通常の攻撃など取るに足らない。彼は次々に母の手から放たれる魔法を回避し接近していく。
「すごい・・・こんなに強くなったのね」
ずっと見ることができなかった我が子の成長に思わず思わず笑顔になってしまう。その間に、少年は目の前へと現れ、拳を構えていた。
「水中海嵐舞!!」
トドメの滅竜奥義を容赦なく突きつける。母はそれに静かに目を閉じダメージを受けようとしたが、来るべき衝撃が来ない。
違和感を覚えた彼女が目を開けると、すぐ目と鼻の先に少年の拳が止まっていた。
「・・・ごめん・・・自分でいっておいて・・・」
自分から戦いを申し込んだにも関わらず、最後は魔法をぶつけることができなかった。思わず顔を伏せる我が子を、ヨザイネはギュッと抱き締める。
「それが愛情と言うものなのよ、シリル」
「お母さん・・・」
これまでの分とでも言うのだろうか、それほどの強さで抱き締める母を抱き返す息子。それはまさしく美しい親子の絆というに相応しい代物だった。
「お母さん・・・これから一緒に戦おう・・・レオンを・・・いや、ティオスを止めるのを手伝って」
父とは叶えることができなかった親子の共闘。しかし、目の前には母がいる。自分よりも強い彼女の力があれば、きっとティオスを、ゼレフを、アクノロギアを倒すことができる。そう思い彼は提案した。
「ありがとう、シリル」
自身を抱き締める手にさらに力が入る。それを肯定だと少年は思っていた。だが、返ってきたのは意外な答えだった。
「でも、それはできないわ」
「え?」
信じられない回答に思わず母の顔を見る。ヨザイネは悲しそうな表情をしており、そっとシリルの体から手を離した。
「私は今まで多くの罪を犯してきた。友をこの地上に封印し、陛下の国を大きくするため天使の力を悪用し、多くの命を奪ってきた」
「それは・・・」
仕方がないことだったと言いたかった。でも、自分の大切に思っていた仲間たちの死を思えば、それ以上の言葉を発することはできなかった。
「私にはもう、天界にも地上にも居場所はないの」
そう言う母の体が光っている。それと時を同じくして、彼女の足が少しずつ消えているのだ。
「お母さん!?」
何がなんだかわからないシリルは目を点にして母にしがみつこうとした。しかし、彼女と彼の間に見えない壁があり、たどり着くことができない。
「どういうこと!?何が起きてるの!?お母さん!!」
見えない壁を必死に叩くシリル。それを見ていたヨザイネの目から、涙がこぼれ落ちた。
「私は罪を償わなくてはならない。だから、アポトーシスを発動させたのよ」
「アポトーシス?」
アポトーシス・・・多細胞生物がより良い肉体状態を保つために不要な細胞を殺していくことを意味している。その作用をうまく活用すれば、自らの肉体を滅ぼすことも可能なのだ。
「お母さん!!死ぬことが決着じゃないよ!!」
どんどん削れていく母の姿を見て絶叫する。しかし、彼女の体が消えることを止めることはできない。
「本当は、こんなに長く人間界で生きることなんでできないのよ・・・人の世界には“死”が存在する。私がいた天界にはそれがない。だから神は不老不死の存在と思われているけど、この“未完成”の地上に降りれば神も死と隣り合わせなのよ」
本当は地上で400年も生きることなど天使でも不可能なのに、ヨザイネがそれをやることができた理由。それは・・・
「私は自分が死ぬことを認めなかった。あなたたちの仇を討つために、行き続けなければならなかった」
ヴァッサボーネとシリルを思うその心だけでここまで生き延びてきたヨザイネ。でも、目の前に息子が現れたとなれば、もうその必要がなくなってしまったわけで・・・
「お父さんはずるいわね、あなたの成長をずっと見ることができて」
「お母さん!!」
もうほとんど体が消えてしまったヨザイネ。彼女は辛うじて残っていた翼から一枚の羽根を取り、少年に放つ。
「知ってる?天使の羽根は如何なる願いも叶えてくれると言われているの。それを持っていればあなたの願いもきっと叶うわ」
「俺の・・・願い・・・」
そう言い残し完全に消滅してしまった母。それにより見えない壁が取り払われ、少年は母の残した一枚の羽根を拾う。
「帰ってきてよ・・・お母さん・・・」
羽根を強く握り締め母が生き返ることを願った少年。しかし、案の定彼女が蘇ることはなかった。
「俺の願いって・・・何なんだよ・・・」
母が残してくれたたった一つの贈り物。それがこの戦場に希望をもたらすことになることをこの時、少年は知るよしもなかった。
後書き
いかがだったでしょうか。
親子の共闘を期待していた方々、残念なことにヨザイネは旅立ってしまいました。
果たしてここからシリルは立ち直れるのか!?そして希望の光は見えるのか!?
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