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デート・ア・ライブ〜崇宮暁夜の物語〜

作者:瑠璃色
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第2ルート:四糸乃パペット
  日常

元・精霊である十香が来禅高校に転校してから数日が経った。

「今回はクッキー作りか」

「私達の得意分野。 余裕」

猫のイラストが刺繍されたエプロン姿に三角巾を頭に巻いた暁夜と、同じく可愛らしい猫のイラストが刺繍されたエプロン姿に三角巾を頭に巻いた折紙の二人は、調理台を前にそんなことを告げた。

現在の時間は調理実習の授業。 ほかの調理台には同じクラスの人達が暁夜達と同じようにエプロンを身につけ頭に三角巾を巻いた姿で立っていた。

「調理器具は折紙が洗ってるし、材料取ってくるかな」

「暁夜に任せる」

各班に配られたレシピ表を眺める暁夜に、調理器具を洗いながら折紙は答える。他の班も調理に使う器具を洗い始めている。

「さてさて、C班は・・・と」

前に配置されている横長の台に載っている各班の番号が記されたトレイから『C』の紙が張られたのを手に調理台に戻る。既に調理器具を洗い終えたらしい折紙は静かに待機していた。

「お待たせー、材料持ってきたよ〜」

「お疲れ様」

調理台の上に材料の載ったトレイを置き、暁夜と折紙は手を洗う。 そして、軽く手を拭いたあと、二人は腕まくりをして、

「うっし。 やりますか」

「準備は万端。 いつでも行ける」

と、意気込んでトレイに載った材料に触れる瞬間、

「・・・暁夜君! なんで女子の調理実習にいるんですか! 男子は教室で自習でしょう!!」

調理実習の女性教諭が大きな声を上げた。その声に一年生の頃の暁夜を知るクラスメイト達は、「気づかなかった」、「いつもいるから普通だと思ってた」、「女装して来れば良かったのに」等と各々感想を零していた。 それに対し、当の本人は反省や悪びれる素振りもなく屈託のない爽やかな微笑みを浮かべて、

「なんでって・・・調理実習したい気分だったから?ですよ」

「なんで疑問形なんですか!? 自分のことでしょう!」

適当な返答をすると、調理実習の後に配られる感想や気付いたことを書くプリントの束で、頭を(はた)かれた。だが、その間にも暁夜は泡立て器でボウルの中身を掻き混ぜ、調理実習をやめようとしない。その行動に更に怒りを買ってしまい、女性教諭はこめかみを引くつかせて、無理矢理ボウルを奪い、暁夜の首根っこを掴み、調理実習室の扉を開けて放り出した。

「・・・・」

放り出された暁夜はしばしテディベアのような格好で廊下に座っていた。

(あの先生・・・力強かった)

そんな感想を零し、立ち上がる。制服のホコリを払い、エプロンと三角巾を外して、教室へと向かった。



「はぁ、たまには精霊の事なんて忘れて温泉で疲れを癒したいわねぇ」

天宮駐屯地にあるとある一室。そこはASTの隊長である日下部燎子が使用する部屋だ。今は、書類作業の際中。その為、燎子の眼の前の机上には、何十枚もの紙束が散乱していた。その中の一枚を眺めながら、燎子は溜息をつく。昨夜、上から渡された人員補充の紙だ。ただ、補充理由といい、派遣元が気に食わない。

「DEMからねぇ。しかもトップ直々の命令・・・怪しさしかないわね。 それに・・・」


燎子はその補充要員の名前を見て、

「リンレイ・S(セラ)・モーガン。 よりにもよって、暁夜の元上司とはねぇ」

先程よりも深いため息をついた。

リンレイ・S・モーガン。 DEM社のトップであるアイザック・レイ・ペラム・ウェストコットの秘書のエレン・M・メイザースの部下だ。階級は燎子よりも上のはずなのだが、AST隊員として補充する、上の考えがよく分からない。

「オマケに、CRユニットの扱いに長けてて、対人戦で負け無し。でも・・・これが真実なら、暁夜(あのバカ)の上司だってことも頷けるわね」

燎子は用紙を机に置き、

「また面倒事が増えるなんて・・・」

とても疲れたような表情で呟き、その疲れをごまかすように、書類作業に戻った。



女子の調理実習と男子の自習が終わった小休止。 暁夜と士道、殿町の三人は、

「俺はハートの1を取る!」

「はっはっは!暁夜、お前に俺のハート1が取れるかな?」

「・・・ははは」

無駄にテンションの高い暁夜と殿町に若干引きながら、士道が笑う。同じクラスになってからというもの、トランプやらUNOやらオセロやらと暁夜が持参してきたゲームで遊ぶのが日課となっていた。そして毎度のように、最後は暁夜と殿町のドベ争いとなり、士道は審判をしている。現在、暁夜の手持ちが一枚。殿町の手持ちが二枚。ここで暁夜がハートの1を取れば暁夜の勝ち。取れなかったらチャンスは殿町へ。既にこのハート1争奪戦は十回以上繰り返されていた。

「ほらほら、どうしたんだ? ギャルゲー主人公」

「そういうお前こそビビってんのか? 非モテ(最下位)

「ふっ。 さぁ、早く取ってみろ!」

「あぁ、取ってやるよ! ハートの1を!!」

更に暁夜と殿町のテンションが上がり、空気状態になりつつある士道はというと、携帯をいじっていた。

「これだァァァァああああ!!」

暁夜の叫び声と共に、殿町の手から引き抜かれたトランプのカード。そのカードのマークと数字は--

「はっはっは! 俺の勝ちだな!! 暁夜!!」

「なん・・・だと」

ハラリと暁夜の手持ちから落ちたのは、ハートの1ではなくジョーカー。そして、その片方のカードを殿町が取り、勝敗が決した。

「って事で罰ゲームな」

「・・・また負けた」

暁夜はとてつもないほどに絶望した表情で呟いた。 というのも毎度のように、ゲームを持ちかけてくる暁夜が最下位を取りまくるのだ。わかりやすく言うと、一位が士道、二位が殿町、最下位が暁夜。 因みに、暁夜は全て黒星だ。

「今回の罰ゲームは、『女装』だ」

そう言って殿町が来禅高校の女子制服を自身の鞄から取り出した。しかもご丁寧にブラと下着、ニーソックス、ウィッグにパッドも準備されている。それを平気で鞄から取り出した殿町に、暁夜と士道は思わず後ずさる。片手に携帯を握って。

「し、親友のためにも、通報した方がいいかな!?」

「待っ、待てって。 アイツにもなにか理由があるんだろ! ほら、えーと、女装が趣味とかさ!」

ガタガタと身を震わせながらそんな相談をする暁夜と士道に、殿町は軽く笑った後、

「これは暁夜が1番知っている人から支給された制服さ。 ほら」

と、制服のポケットから手紙を取り出し暁夜に投げる。それを拾い、中身を開いて書かれていることに目を通す。

『あなたにこれを託す。 by 折紙』

たった1行分しかない内容と差出人の名前に、暁夜は涙が出そうだった。

「あいつ・・・マジか」

同居人のイカレぶりに呆れてしまう。

「ほら、早く着替えてこいよ、暁夜」

「あ・・・ああ」

とてつもないほどの悲壮感を漂わせながら、暁夜は女装アイテムを手に男子トイレへと向かった。

それから数分後。

ガララっ、と二年四組の教室の扉の開く音がした。無意識に全員(殿町と士道以外)が音のした方に視線を向けると、笑いをこらえるような表情を浮かべた。というのも、教室に入ってきたのは、クラスメイトの暁夜だったからだ。

薄い少し色素の抜けた長い青髪に、紅闇色の瞳。顔立ちは童顔。 肌は白磁の陶器の如く綺麗で、スラリとした高身長。 白のカッターシャツの上からカーディガンを纏っている。そして、短めに履いたスカートと黒のニーソックスで作り出された肌の露出の黄金比も完璧だ。

そんな完璧高身長スレンダー系美少女(笑)がそこにはいた。

「ぷっ、あははは!に、似合いすぎて、腹痛い!」

「と、殿町。笑うなっ・・・ぷっ、あははは!」

元凶者の殿町と士道が笑い出したのをきっかけに、クラスメイト達が笑い始めた。しかも、

「美少女! 美少女!」

という『美少女コール』まで始まった。 当の本人である暁夜は、こめかみを引くつかせていた。これほどまでの屈辱は初めてだ。ただ、調理実習終わりの女子達がまだ帰ってきていないのが幸いか。

「はい、終わり! もう十分だろ!!」

暁夜は頭につけたウィッグを掴み外そうとすると、ガララっと先程、暁夜が入ってきた扉の開く音がした。その音に殿町達は申し訳なさそうな表情を浮かべて、視線を逸らした。対する暁夜は冷や汗を大量にかきながら、背後を振り返った。

そして--暁夜の最初の黒歴史が刻まれた。



放課後。日が傾き始める住宅街の道を、足腰の弱ったお爺ちゃんのような足取りで進んでいく。顔は疲労の色に染まり、目に掛かるくらいの髪にも、心なしか艶がない。歳はまだ17だったが………実際何歳か老けて見えた。だが、それも無理からぬことだろう。

「・・・はぁ」

溜め息をもう一つ。小休止の女装事件以来、クラスメイト達からは『暁子(さとこ)』ちゃんと呼ばれていじられていた。ソレは学校が終わっても続いていき、定着されてしまった。

「どうしたの? 暁子」

「・・・その名前、やめてくれ」

「どうして? 私はあなたが女性になった方が嬉しい。 同性同士なら何をしても許されるから」

「同性同士でも許せないことはあるからな!? てか、そもそも、お前が殿町に制服を渡してなかったら、こんなことには・・・はぁ、もういいや」

どうせ怒っても無駄だと自己解決して、暁夜はどんよりしたまま折紙と一緒に家へと向かう。暫くして、

「・・・冷たっ」

首筋に触れた冷たさに、空を見上げる。

「あぁ、これはやばいな」

呻くように言って、顔を顰める。いつの間にやら、空がどんよりと雲っていたのだ。

「まぁ、念の為に傘持参してたからいいけど」

暁夜は鞄の中から折り畳み傘を取り出して開く。と、そのタイミングで折紙が寄り添うように傘の中へと入ってきた。

「お前、また傘持ってこなかったのか?」

「違う、わざと忘れてきた。あなたと相合傘をしたかったから」

「はぁ。 お前、俺が用事があったり、休んだりしたらどうしてたんだよ?」

「その時は、暁夜の用事が終わるまで待つ。休んだ場合は、私も休む」

「・・・さいですか」

暁夜は、何を言っても無駄だと諦める。と、ズボンのポケットに入れていた携帯が震えた。だれからだ?と疑問に思いながら、携帯を取り出し、液晶画面に映し出されている名前を見る。 そこには、『リンレイ先輩』と記されていた。確認した後、折紙に一言言ってから、軽く操作して、通話ボタンを押す。するとメロディが止まり、

「暁夜です。 お久しぶりですね、リンレイ先輩」

『久しぶりね、暁夜君』

若い女性の声が携帯越しから響く。

「三年ぶりですかね? こうやって電話するの」

『そっかぁ。 君がいなくなってもう三年も経つのね』

「ええ、そうなりますね。ただ、今回電話してきたのは思い出話のためだけじゃないですよね?」

『ふふふ、流石は私の元優秀な部下なだけはあるわね。けど、思い出話もしたいと思ってるわ』

暁夜の先を見越したような質問に、リンレイは驚くことも無く、余裕のあるお姉さんっぽく笑った。

『今回、君に電話したのは伝えておきたい事があったからよ』

と、次に発せられた声音は真剣なものに変わっていた。

「伝えておきたい事?」

『ええ。 これはあなたにとって重要な事よ』

「はぁ。 それで伝えたい事と言うのはなんですか?」

そう尋ねると、

『アイクの命令で、君を監視する為にASTに所属することになったわ。よろしくね、暁夜君』

リンレイはそう返して、通話を切った。切られた後、暫く思考がフリーズした。しかしそれは一瞬、我に返った暁夜は冷や汗を浮かべる。

「・・・マジか」

「誰と電話してたの? 暁夜」

「俺の元上司だった人。飴と鞭の差が激しいのが特徴かな」

「という事はまた女?」

暁夜がそう説明すると、折紙の瞳からハイライトが消えた。オマケに、背後からドス黒いやばげなオーラがダダ漏れしている。あまりの怖さに傘を落としてしまい、冷たい雨が暁夜と折紙を濡らしていく。ただ、そんなことに気を止める暇は2人にはなかった。

「名前は? 年齢は? 暁夜とはどういう関係?」

折紙が暁夜の顔をハイライトのない瞳で見つめ、ズバズバと問い詰めてくる。ズリズリと後退するたびに、詰め寄ってくるため、逃げ場がない。やがて、壁に追い込まれ、ドンと折紙に壁ドンされる。

(・・・壁ドン、怖い!?)

恋愛マンガやドラマのような壁ドンに憧れていた純心青年、暁夜は恐怖の色を顔に表しながら胸中で叫んだ。それに対し、

「答えないと、暁夜の着る服全部を女性物にする」

「・・・はな、します」

流石に罰が重すぎたため、暁夜は白状することにした。ポツポツと冷たい雨が降る中で、暁夜は正座させられ、折紙にハイライトのない瞳で見下ろされる光景は他の人から見たら、異様でしかない。

「--というわけです。黙っていてすみません出した」

「理解した。つぎ隠し事をしたら、本当に女性物の下着に入れ替える」

瞳にハイライトが戻った折紙は、そう答えて地面に落ちている折り畳み傘を拾い、暁夜に手渡す。それを受け取り、暁夜は、

(折紙に逆らうのやめよう)

身の危険を守るために、心に決意した。 
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