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デート・ア・ライブ〜崇宮暁夜の物語〜

作者:瑠璃色
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デートの誘い


壁やら窓が何かによって破壊された来禅高校の二年四組の教室より上。わかりやすく言えば上空。ワイヤリングスーツを着込み、CRユニットを纏うAST隊員及び燎子は、ガトリング砲やアサルトライフル、サブマシンガンといった銃火器類を握り、引き金を引き続ける。彼女らの目に映るのは、巨大な剣を手に持つ、不思議なドレスを纏うポニーテールの少女だ。その奥には学生が一人。本来、人質がいる状態で銃火器類を扱うのは控えるべきだが、今回は仕方ない。精霊を討滅する部隊《AST》とはいえ、上司の命令には逆らえない。気は引けるが、引き金を引くしかない。被害を抑え、犠牲を少なく。それが《AST》の役目である以上、犠牲の一つは少ないの枠に入る。

「全員、弾が無くなるまで撃ち続けなさい!」

燎子は、他のAST隊員にそう指示をし、自分も弾をリロードし、引き金を引き続ける。部下である暁夜から報告が来て、折紙が向かってから既に五分が経っていた。ふと、不思議なドレスを纏うポニーテールの少女、『プリンセス』がこちらに顔を向ける。 それだけで、燎子とAST隊員達は怖気を感じた。銃火器類のトリガーに添えている指の震えが止まらない。引いた瞬間、あの巨大な剣で殺されるという未来が見える程の怖気さに、トリガーに添えていた指が離れていく。だが、その中で燎子は、すぅ、と息を吸い、

「トリガーを引きなさい!今ここで手を離した奴は、『精霊』に屈したって事よ! 『精霊』に敗北したという事は無関係の人達が次々と死んでいくという事よ! あなた達はその責任を取れるの? 無理なら、嫌でもトリガーを引きなさい!殺せないなら、退かせれば構わないわ! 分かったら、トリガーを引きなさい!アンタ達!!」

「は、はい!」

「りょ、了解です!」

と、燎子の喝に怖気づいていたAST隊員達が、トリガーを引く。ガガガガガガガッ、とけたましい音が鳴り響き続け、いつの間にか、二年四組の教室の壁は無くなっていた。それは必然的に、『プリンセス』を隠す障害物がなくなったことを表している。

(・・・ほんと、この仕事も嫌になるわね)

上からの命令には逆らうことの出来ない隊長の立場の燎子はそう毒づいて、引き金に添えた指を引いた。



「くそっ、どうなってるんだ?」

外から放たれる銃弾から身を隠すように体勢を屈め、壁に背をあずけ尻餅をつく士道は意味の分からない現況に疑問を抱く。

『外からの攻撃みたいね。精霊をいぶり出すためじゃないかしら。 --ああ、それとも校舎ごと潰して、精霊が隠れる場所をなくすつもりかも』

その疑問に答えたのは、『プリンセス』ではなく、士道の妹である琴里だ。

「な・・・ッ、そんな無茶苦茶な・・・!」

『今はウィザードの災害復興部隊がいるからね。 すぐに直せるなら、一回くらい壊しちゃっても大丈夫ってことでしょ。 --にしても予想外ね。 士道(一般人)がいるのは知っているはずなのに、こんな強攻策に出てくるなんて』

と、そこで、士道は顔を上に向けた。

『プリンセス』が、先ほど士道に対していたときとはまるで違う表情をして、ボロボロになった窓の外に視線を放っていた。 無論、彼女には銃弾はおろか、窓ガラスの破片すら触れてはいない。 だけれどその顔は、ひどく痛ましく歪んでいた。

「---十香ッ!」

思わず、士道は名を持たぬ『プリンセス』の為に与えたその名を呼んでいた。

「・・・っ」

ハッとした様子で、十香が視線を、外から士道に移してくる。 未だ凄まじい銃声は響いていたが、二年四組の教室への攻撃は一旦止んでいた。 外に気を張りながらも身を起こす。 と、十香が悲しげに目を伏せた。

「早く逃げろ、シドー。 私と一緒にいては、あいつらに討たれることになるぞ」

「・・・」

士道は、無言で唾液を飲み込んだ。 確かに、逃げなければならないのだろう。

だけれど--

『選択肢は二つよ。 逃げるか、とどまるか』

琴里の声が聞こえてくる。 士道はしばしの逡巡の後、

「・・・逃げられるかよ、こんなところで・・・ッ」

押し殺した声で、そう言った。

『馬鹿ね』

「・・・なんとでも言え」

『褒めてるのよ。--素敵なアドバイスをあげる。 死にたくなかったら、できるだけ精霊の近くにいなさい』

「・・・おう」

士道は唇を真一文字に結ぶと、十香の足元に座り込んだ。

「は--?」

十香が、目を見開く。

「何をしている? 早く--」

「知ったことか・・・っ! 今は俺とのお話しタイムだろ。 あんなもん、気にすんな。 --この世界の情報欲しいんだろ? 俺に答えられることならなんでも答えてやる」

「・・・・・!」

十香は一瞬驚いた顔を作ってから、士道の向かいに座り込んだ。



銃火器類により発せられるけたましい音が未だに鳴り響く来禅高校の廊下。来禅高校の制服に身を包んだ暁夜は、右の手の平を壁につけ、痛む身体を支えながら歩いていた。手元に愛剣の《アロンダイト》は無いため、擬似天神の力で肉体損傷に対する抑制能力も治癒能力も発動できない。特殊な端末『擬似記憶装置(ムネモシュネ)』による随意領域(テリトリー)展開も利用時間を超えた為、使用出来ない。要するにジリ貧丸腰。

「・・・相変わらず、中途半端のモンばっかりだ」

暁夜はそう毒づきながら、二年四組の教室へと向かう。数分前に、燎子とのインカム越しでの会話の内容によれば、折紙が少し前に校舎裏に向かったという知らせを聞いたが、恐らく行き違いになっただろう。

悪いことしたかな。と苦笑いを浮かべた。

『暁夜? いまどこにいるの?』

耳に取り付けた通信機から、折紙の声が聞こえてくる。

「・・・・」

『暁夜?』

「・・・・」

聞こえなかったのか、と折紙がもう一度問いかけてくるが、暁夜は無視を決め込む。 別に、折紙が嫌いという訳ではなく、これからやる事に巻き込むことは出来ない。通信機に取り付けられているスイッチを切ろうと、通信機に触れた瞬間、

『返事をしないと暁夜の下着をまたクンカクンカする』

とんでもない爆弾を投下してきた。それは思わず、反応せざる負えない発言だ。

「--人様の下着に何してんの!? お父さん悲しいよ!」

『ごめんなさい。 あ・な・た』

「娘を叱るお父さん目線の筈なのに、奥さんに叱ってるお父さん目線にされてるぅ!? しかも演じるなら棒読みやめてよ!」

『・・・いまどこ?』

「人の話を聞いてくれませんか!?」

先程までの爆弾発言と夫婦漫才(?)が無かったように話を進める折紙に、痛む身体のことも忘れて、大声を張り上げる。

『いまどこ? 教えないと、下着をクンカクン--』

「校舎の一階です!! もっとわかりやすく言えば、一年二組の教室前の廊下です!ですので、下着のクンカクンカはやめて!」

『そこで待ってて。すぐに向かう』

「下着クンカクンカキャンセルの返事は!? まだ聞いてませ--」

暁夜がそう叫ぶ瞬間、ブツッ、と通信の切れる音が鳴った。しばしの静寂。

「--あいつ、切りやがった」

通信機に添えていた指を離し、ポツリと呟く。少しというよりかなり落ち込むが、頭を振って、思考を切り替える。そして、先ずは《アロンダイト》を探そうと、特殊な端末『擬似記憶装置(ムネモシュネ)』を腰帯から外し、操作する。液晶画面をタップし、いくつもの二桁の数字で形成されているID番号登録の中から、《アロンダイト》の位置座標の画面を開く。するとマップが現れた。 そこには幾つもの黄色のマークと赤色のマーク、そして青色のマークと黒のマーク。

幾つもある黄色のマークは、使用者と仲間で今回は暁夜と《AST》隊員を指す。

赤色のマークは、討滅目標の『精霊』を指す。

青色のマークは、一般人で今回は士道を指す。

黒のマークは、《アロンダイト》等といったID登録された物資を指す。

「《アロンダイト》の場所は、二年一組の教室の廊下付近か」

黒のマークの位置を確認し、『擬似記憶装置(ムネモシュネ)』の画面を消し、腰帯に取り付け直す。その際、どっと痛みと疲れが身体を襲った。 先程まで忘れていたが、そんな事で傷が修復しているわけがなかった。

「あー、痛ってぇ」

ズキズキと痛む身体を休ませるために、自身の背中を壁に預け、腰を下ろす。その体勢で、折紙がここに到着するまで待機することにした。懐から、イヤフォンと携帯を取り出し、画面をつけてみる。 パッと明かりがつき、壊れていないことに安堵し、通信機がハマっていない方にイヤフォンを挿し、音楽を選択し、流す。軽快なポップ系の音楽を口ずさみながら、待つこと数分。

「見つけた。 暁夜」

「折紙ちゃーん」

フリフリと片手を振って、暁夜は微笑みを口元に刻んだ。視界に映るのは、ワイヤリングスーツに身を包んだ銀髪の少女、折紙。 片手にはレイザーブレイド《ノーペイン》が握られていた。

「ちょ、ちょいと悪いんだけど、随意領域(テリトリー)の展開お願いしていいか?」

「分かった。 所であなたの武器は?」

「ちょいと、落としちまってな。 場所は分かるんだけど、身体が痛くて動けなかったら、折紙が来てくれて助かったよ。 マジで本当に」

随意領域(テリトリー)を展開した折紙の肩を借りながら、二年四組の教室であったことを説明しながら、二年一組教室の廊下付近に辿り着く。 そして、再度、『擬似記憶装置(ムネモシュネ)』を起動すると、右側から反応音が鳴る。右方向に視線を向けると、白塗りの片手剣が二年一組教室の扉に突き刺さっていた。

「うんしょっ、と」

折紙に身体を支えてもらいながら、《アロンダイト》の柄を握り引き抜く。すると、すぐさま、暁夜の全身を淡い青の光が包み込んだ。 それにより、徐々に焼け爛れていた左手が治癒していく。先ほどまで痛々しいほどにグロテスクなグジュグジュな肉が皮膚に包まれていき、綺麗な皮膚となり、焼け爛れる前の腕に戻った。 二度三度手の平を開いたり閉じたりした後、《アロンダイト》を折り畳んで腰帯にしまう。

(しっかし、相変わらずこの修復の力がなんなのか分かんねえなぁ)

擬似天神の力で抑制するとはいえ、修復は別の力だ。《アロンダイト》と暁夜が揃った時しか発動しないという不便な力。推測では、半精霊としての力と《アロンダイト》が共鳴やら何やらしているのだろう。

とりあえず、と調子を取り戻した暁夜は、折紙の肩から手を離し、自身の二の足で歩き始める。

「所で人質というのは本当に五河士道?」

「あぁ、そうだ。それと俺はやる事があるから先に日下部隊長の所に戻ってくれるか?」

「分かった。 でも、暁夜を置いてはいけない」

暁夜の提案に折紙は首を横に振った。 いつもは暁夜が言ったことには文句を言わずに従ってくれる折紙だが、久しぶりに反抗された。彼女は暁夜が危険な場面では必ず手伝ってくれるたり助けてくれる。 ただ、今回は折紙に手伝わせられない。

「はぁ。 なら明日、デートしよう。 それで今回は従ってくれないか? 折紙」

仕方ない。と暁夜は溜息をつき、折紙にそう提案を持ちかける。それに対し、折紙は一瞬、頬をぴくりと動かし、ずいっと顔を寄せてきた。

「嘘ではない?」

「あ、あぁ。 俺がお前との約束を破った事があるか?」

「・・・ある。去年の冬は私とクリスマスを過ごすって言ったのに、どこぞの女と食事をしていた」

「--確かに破ったことありましたねっ!? でもあれはノーカンでしょ!? アイクの指示やら今後の方針やらをエレンと話してただけで、プライベートな食事ではないって、説明したじゃん!!」

暁夜は悲痛にも似た大声をあげた。折紙のいう去年のクリスマス。 その日は、朝からクリスマスを折紙と過ごすの最高と喜んで一日を過ごし、いざクリスマスプレゼントを買いに行こうと家を出た所で、エレン・M・メイザースから電話が来て、近場の個室ありの料理店に来るよう言われ、アイクからの言伝や方針の件だと聞いて、向かった為、結局、折紙とクリスマスを過ごすことが出来ず、一週間ほど話しかけてくれなかった。

「じゃ、また後でな」

「気をつけて」

「あぁ、気をつける」

暁夜は折紙の言葉を背に受け、歩き始めた。その背を見送って、折紙は随意領域(テリトリー)を展開したままで、校舎を飛び出し、燎子達の元へと合流しに向かった。



銃弾が吹き荒れる二年四組の教室。十香の展開する不可思議な障壁(バリア)に守られながら、士道はお話しタイムに耽っていた。視界をチラッと十香の後ろに向けると、ASTの人間達が銃口を未だにコチラに向けているのが分かる。怖くないといえば嘘になる。それでも士道は十香を助けたい。救いたい。既に会話を始めてから数分ほど経っている。内容は至って普通の日常会話のようなものだ。この世界には美味しい食べ物があるやら、学校のことや自分の事。他にも、十香が誰にも質問できなかった疑問に士道が答える等だ。気づけば、十香にも微かだが口元に微笑が浮かんでいるのが目に見てとれた。そして、どれくらいか話した頃、耳に嵌めたインカムから、琴里の声が聞こえてきた。

『―――数値が安定してきたわ。もし可能だったら、士道からも質問をしてみてちょうだい。精霊の情報が欲しいわ』

その言葉に、少し考え込んで、士道は口を開いた。

「なぁ、---十香」

「なんだ?」

微かに口元に浮かんでいた微笑が消え、十香は少し警戒した表情で首を傾げる。

「おまえって・・・結局どういう存在なんだ?」
 
「む?」

士道の質問に十香は眉を顰める。

「知らん」

「知らん、て………」
 
「事実なのだ。仕方ないだろう。―――どれくらい前だったか。 私は急にそこに芽生えた。それだけだ。記憶は歪で曖昧。自分がどういう存在なのかなど、知りはしない」

「そ、そういうものか………?」

士道が頬を掻きながら言うと、十香は「そうだ」と言わんばかりに息を吐いて腕組みした。

「そういうものだ。突然この世に生まれ、その瞬間にはもう空にメカメカ団が舞っていた」

「め、メカメカ団・・・?」

「あのびゅんびゅん煩い人間達のことだ」

どうやらASTのことらしい。士道は思わず苦笑した。

次いでインカムから、クイズに正解した時のような、軽快な電子音が鳴った。
 
『!チャンスよ、士道』
 
「は・・・?何がだ?」

士道は訳分からない声を出す。
 
『精霊の機嫌メーターが70を超えたわ。一歩踏み込むなら今よ』
 
「踏み込むって・・・何すりゃいいんだ?」
 
『んー、そうね。取り敢えず・・・デートにでも誘ってみれば?』

「はぁ………!?」

予想していなかった琴里の言葉に、士道は思わず大声を上げた。

「ん、どうしたシドー」
 
 士道の声に反応して、十香が目を向けてくる。
 
「ッ―――!や、気にしないでくれ」
 
「……………」
 
 慌てて取り繕うも、十香はジトッとした訝しげな目で士道を見つめてきた。

『誘っちゃいなさいよ。やっぱ親密上げるためには一気にこう、さ』

「・・・んな事言われても、出てきたとしてもASTが--」

『そんなの何処か大きな建造物に隠れてもらえばいいんじゃない。水族館でも映画館でもなんでもいいわ。 ASTだってそんな所に入ることは叶わないわ。ただ、暁夜は別だけど』

「なら、結局ダメじゃねえか」

「さっきから何をブツブツ言っている。・・・!やはり私を殺す算段を!?」

「ち、違う違う!誤解だ!」

視線を鋭くし、指先に光球を出現させた十香を、士道は慌てて制止する。 まじで警戒モードの十香。 ここで機嫌を損ねれば、振り出しに戻る。それだけはできない。 折角、お話しタイムの邪魔をする人がいないのだ。それに早くしなければ、暁夜が戻ってきてしまう。彼が帰ってきたら、十香が一気に不機嫌になるのは確実だ。

「なら言え。今何と言っていた」
 
「ぐぬ・・・」

士道が頬に汗を滲ませながら呻くと、囃し立てるかのような声がインカムに響いてきた。

『暁夜の事はこちらで何とかるするから、観念しなさいよ。 デートっ! デートっ!』

そこで艦橋内のクルーを煽動でもしたのだろう、インカムの向こうから、遠雷のようなデートコールが聞こえてくる。 ある意味、拷問だ。士道にとってデートというのは縁遠いものだ。これまで付き合ってきた異性はおらず、惚れた異性もいない。いつの間にか、殿町とラブなのでは?という根も葉もない噂が広がるほどに異性に縁のない生活を士道は送ってきた。そんな彼に『デートに誘え』などというのは酷である。 これは虐めと見なしても許される気がする。だが、そんな士道の気持ちを知ってか知らずか、琴里を含めた《フラクシナス》クルー達が『デ・ェ・ト』コールを叫び続ける。 これ程、嫌なことはないだろうと、士道は溜息をつく。 ただ、嫌だと言っても、十香は可愛い部類に入る。では何が嫌なのか? それは--

断られることだ!!

男も女も心は繊細で、ましてや好きな人にデートを断られたら、それは誰だって落ち込むに決まっている。寧ろ、落ち込まない人はどうかしている。それでも、ここで十香を救うにはこれしかないのだろう。 士道は、「あー、もう分かったよっ!」と呟き、観念したように口を開いた。

「あのだな、十香」
 
「ん、何だ」
 
「そ、その………こ、今度俺と」

士道は頬を掻き、照れくさそうにしながら、
 
「ん」
 
「で、デート………しないか?」

人生初のデートのお誘いを口にした。
 
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